
私たちの顧問であり、株式会社メディカル・インサイトの代表取締役社長を務める鈴木英介氏と弊社の社員による勉強会のレポートです。
テーマは、前回に続いて「HBOCと難病の診断ラグ問題から考える医療倫理」。今回は難病の診断ラグとは何か、また、遺伝子解析が難病診断に役立てられるかもしれないことや、個人の医療データを扱う際の倫理観について解説していきます。ぜひ、ご覧ください。
前編はこちら

【勉強会:前編】HBOCと難病の診断ラグ問題から考える医療倫理
2025.02.05
私たちの顧問であり、株式会社メディカル・インサイトの代表取締役社長を務める鈴木英介氏と弊社の社員による勉強会のレポートです。テーマは、「HBOCと難病の診断ラグ問題から考える医療倫理」。遺伝性の乳がんや卵巣がんの説明とと […]
勉強会の参加者

2018年中途入社
営業
佐塚さん

2017年中途入社
Webディレクター
平嶌さん

2023年新卒入社
Webディレクター
相馬さん

2023年中途入社
プロデューサー
内海さん
診断まで平均5年!難病に診断ラグが発生する理由とは?
みなさん、よろしくお願いします。
『HBOCと難病の診断ラグ問題から考える医療倫理』のお話の続きで、前半ではHBOCという遺伝性腫瘍の説明とともに医療機関で行う遺伝子検査について説明しました。
さらに、保険適用が可能な場合はどんなケースか。それとともに検査結果を知りたい・知りたくないという場面についてそれぞれ考えながら “医療倫理”にも触れました。
後半では、もう1つのテーマである“難病の診断ラグ”について解説していこうと思います
佐塚さん、相馬さん、内海さん、平嶌さん「よろしくお願いします!」
実は、難病の世界にも似たような話が出てきているんですね。
まず、みなさんは難病についてご存知ですか?どんな病気があるとか。どうでしょう?
膠原病とか……?
治療法が確立していない病気でしょうか。あとは、何万人とか、何千人とか、人数の基準があったような気がします
そうですね。人数にも条件があります
完治しないというイメージです
うん、そうですね。みなさんに言ってもらったことをすべて組み合わせて難病と考えてもらって良いかと思います。
難病というのは、治すのも難しいのですが、そもそも診断をするのが難しいんです。というのは、内海さんがおっしゃったように難病の方って少ないんですよね。医師にとっても、自身がする診療の中で一生に1度出会うかどうか……という感じです。
特に町の開業医の先生からすると、一般の患者さんの中から難病の患者さんを見つけるというのは、よほど特徴的な症状がある難病であれば別ですが、そうではないケースが普通なので難しいんです。難病の初期は、疲れやすい、動悸がする、手足がしびれる、腰が痛い……なんて、普通の疾患でもありそうな症状が出る事が結構あって。
そうすると全然違う診断をされて、患者さんが治らないな?おかしいな?ということで病院を変えていくつも医療機関を渡り歩いて、そのうちにたまたま診断ができる先生に出会って診断されるとか、あとは症状が重くなって別の症状が出たタイミングで診断されるとか。
そうして難病だと診断されるまでの期間を業界では“診断ラグ”というのですが、難病が発症してからきちんと診断ができるまでの期間は平均で5年程度かかると言われています
遺伝子解析が難病診断の光に

5年というのは平均ですから、10年も診断が付かずに苦しまれるような患者さんもいます。また、難病の種類は国が難病だと定めている『指定難病』というものがありますが、それ以外も含めると10,000種類はあると言われていて、実はかなりたくさんあるんですけれど、その多くは診断が付かないんです。
で、こういった難病に“診断付かない問題”にいま光が当たりつつあります。それはなぜかと言うと、HBOCの原因はBRCA遺伝子変異ですよという話をしましたが、遺伝子情報については現在どんどん解析が進んでいまして、難病についても、『この病気はこの遺伝子がおかしい』というのが段々と分かってきている。特に親から受け継いでいる遺伝性の遺伝子変異が原因であるケースはかなり多そうだと。こういった遺伝子変異がどんどん見つかってきていて、それに対応する治療薬の開発も進んでいます。
そうだとしたら、難病をもっと早く診断するにはどうしたら良いと思いますか?
難しいことは色々ありますが、適切な初診を受けるのが重要な気がします。なので、患者側のリテラシーもあるのかなと
そうですね。確かに診断力の高い先生の所に行く、というのも一つの解ですね。診断のプロである総合診療専門医みたいなところになるべく早くかかるというものあります。
他のみなさんはどうです?
私も佐塚さんと近いですが、セカンドオピニオンがもう少ししやすくなったら良いのかなと。医療費も掛かってしまいますし、そういう時に国からサポートがあれば患者さんの負担も減って他の医療機関にも行きやすくなりそうだなと
そうですね。ただし、お二人の話で共通しているのは、どういった医療機関に行けば良さそうなのかがハッキリ分からないと結局、医療機関をぐるぐる回ることになってしまうので、誰が見立てのプロなのかというのをきちんと見える化をして、そこに患者さんが行けるようにするという流れを作るのが現実的な解の1つとしてありますね。
他の方法はありますか?
患者さんが医療機関を回るのではなくて、逆に患者さんのデータだけをお医者さんへ回して見られるようにして、勝手に診断して欲しいです(笑)
「究極の個人情報」を提供することへの抵抗感も
おぉ~!良いですね。まったく違う発想の意見が出ました(笑)。
実は、今のお話にかなり近いことが解の一つになり得ると考えられます。
患者さんの一人ひとりがそれぞれ遺伝子情報というのを生まれながらにして持っています。もちろん、環境的な要因で遺伝子変異が起きることもあるんですが、先ほど言ったBRCAの遺伝子変異とか、遺伝性の遺伝子変異があるかないかは生まれた時から分かっているわけですよね。
ということは、極論すると生まれた時に全面的にバーっと遺伝子解析をしてしまえば、『この人はこの病気の発症リスクが高そうだ』とか、『将来こういう症状があったら、こういう病気の可能性が高い』とか、そういう情報がいっぺんに分かる。
単に病気を早く発見するということを目的化するのであれば、そういう方法が考えられると思いませんか?……と言っても、どこか気持ち悪さを感じている方もいらっしゃるかもしれませんが……佐塚さん、どうですか?
いやぁ……カニバるん(顧客を奪い合う状態)じゃないでしょうか?
例えば、色々な医療機関の間で僕の遺伝子情報が共有された場合、病気を治す側もビジネスですから、こちら側に治療法の決定権が無いまま、偉い人の権力で『この人はこう治療しよう』、『いや、あぁしましょう』と政治的に色々なものが関与するのではないかなと……
ということは、佐塚さんの“極限の個人情報”を誰かが勝手に扱っているわけですよね。確かにそれが気持ち悪いというのはすごくよく分かります。その情報を医療機関などで扱うことになった場合、誰がどう取り扱うのか?というルールをまずきちんと定めないといけないですよね。例えば保険会社に勝手に扱われてしまっては困るわけです。
他の方はどうでしょう?
マイナ保険証が広がって、電子カルテ情報の共有化がされる2030年頃に期待かな……と。そうすれば、データの間にAIを挟んで診断されるようになるかなぁと
そうそう。もし、マイナ保険証に遺伝子情報が紐づいていたら……あとはAIが勝手に診断して『こういう治療をしましょう』みたいな。少し違う話に入っていきますが、ある意味、診断に人が関わる必要が無くなる世界がやってくることも十二分に考えられます。
相馬さんはどうでしょう?
何か怖いですね。人生が決まってしまいそうな……(笑)
そうですよね。前半の、知らない権利があっても良いんじゃないかという話に繋がってきますよね。他にはどうでしょう?
今はマイナ保険証を出せば処方された薬の情報が紐づけられて、この人はこういう病気なんだろうな……というのは大体分かるのかなと。なので、現在はそういう情報のやり取りは進んでいそうだな、と
確かに、現在は医療機関の間で処方情報がシェアされ始めていますよね。これにはもちろん、プラスの面というのも当然あって。例えば、この薬の処方が別の医療機関でされているということは『この薬を出したらマズイよね』とか、薬の飲み合わせの悪さを未然に防ぐような良い面もあります。
一方で『なぜ、いつも行っている歯医者さんは私の皮膚疾患の情報を知っているの?』とか、全部の履歴が見られてしまうという問題もあって。医療の情報というのは究極の個人情報という部分もあるので、当然、誰がどこまで見て良いものか?というのを考えなければというのはあります。
……というわけで、みなさん、今日の話は繋がりました?前半のHBOCの遺伝性腫瘍の話と難病の診断ラグの話の流れ、何となく見えてきたでしょうか?
全員「(頷く)」
データ活用と倫理観のバランスをどう保つかがキーポイント!

ありがとうございます。
ちなみになぜ、今回このテーマをピックアップしたのかというと、11月8日が『遺伝性乳がん卵巣がん (HBOC) を考える日』と制定されたので、その記念イベントに行って来たんですけど、そこでHBOCの現状などを聞きつつ、色々な事を考えさせられたんですね。その時に個人的に感じたモヤモヤも含め、ちょっと皆さんには難しいかなと思いつつも今回お話しをさせていただきました
ありがとうございました。僕も難病の疾患啓発サイトを制作させていただいた経験があるのですが、製薬会社側というのはものすごく考えるんですよね『このイラストで理解してもらえるだろうか?』とか『患者さんの家族に悪い影響を与えないだろうか?』とか。
15ページしかないサイトを作るのに、結果として1年半掛かったんですね。なので、難病について考える時にこういった倫理観を知っておくのは大事かなと思いました
僕は……倫理観が無いわけではないですが、自分の健康に関する情報などは早くデータとして共有化された方が得だと思っていて。そういう世界が早く来て欲しいなぁと切に願っていますけどね。今は進みつつありますけど、現状ではまだレセプトで追いきれない時もありますし、小児科の研究などもしていましたが、データが断絶されて追いきれへんなぁと思ったこともあります。
でも、病気の発見や治療には役立ちますから、データ活用ができる状況に早くなって欲しいですね
そうですね。データがオープンにされていけば、そういった部分は拓けてくるでしょうね
私は、自分の医療情報をあまり隠したいと思っていなくて。今回、そういった情報を知られたくない方の感覚を知ることができて良かったです。業務にも活かしていきたいと思いました。
私は逆に最近マイナ保険証が怖いと感じ始めています。情報がオープンになってどう使われるか良く分からないなと。
とは言っても、もちろんメリットはあると思うので、それを自分がいかに理解するかに掛かっているのかなと思いましたし、遺伝子情報からリスクを知ることができるのは良い事だと捉えているので、機会があればこの話を思い出して何か行動に移せればと思いました。ありがとうございました
今日もここでしか得ることのできない情報を知ることができたかと思います。参加されたみなさんもHBOCの話や難病の診断ラグの話を自身の知識としてストックしていきましょう。
それでは鈴木さん、本日もありがとうございました!
全員「ありがとうございました!」
―― 遺伝子検査でさまざまな病気のリスクが早期に発見できるようになれば、私たちも病気に備えることができる一方、患者の医療データを活用していく中で遺伝子や疾患の情報は“究極の個人情報”としてどう扱っていくかは、私たち一人ひとりが考えなくてはならない大きなテーマです。
勉強会を通じた知識を活かしつつ、これからも患者さん、医療関係者、それぞれの立場で最善の方法を考えながら業務を通じたご支援をしていきます。
この記事の担当者

佐塚 亮/Satsuka Ryo
職種:sales
入社年:2020年
経歴:大手スポーツメーカにて店舗sales,エリアマネージメント業務を担当。のちWEB制作会社にてWEBサイトの提案からディレクションをこなし、コンサルタントとしてサイト立ち上げ後の売上向上まで支援。その後2020年にメンバーズへ入社。主にクライアントからのヒアリング及び検証データを基に要件定義を行い、サイトの構築運用を実施。定常的に支援サポートを行う。クライアントはもちろんエンドユーザーの立場・視点に立ち、問題抽出から改善案の立案までを手がける