
私たちの顧問であり、株式会社メディカル・インサイトの代表取締役社長を務める鈴木英介氏と弊社の社員による勉強会のレポートです。テーマは、「ドラッグラグ&ロス問題と治験効率化」について解説します。前半では、ドラッグラグ&ロスの話とともに、治験のボトルネックについて触れていきます。ぜひ、ご覧ください。
勉強会の参加者

2018年中途入社
営業
佐塚さん

2023年中途入社
プロデューサー
内海さん

2017年中途入社
Webディレクター
嶋田さん

2023年新卒入社
Webディレクター
相馬さん

2023年新卒入社
Webディレクター
加藤さん

2016年中途入社
プロデューサー
田原さん

2024年新卒入社
Webディレクター
森田さん
改めて振り返る「ドラッグラグ」と「ドラッグロス」とは?
「それでは、よろしくお願いします。出席者は、内海さん、嶋田さん、相馬さん、加藤さん、田原さん、森田さん、鈴木さん、僕です」
よろしくお願いします。
今回は『ドラッグラグ&ロス問題と治験効率化』をテーマにお話をしていきます。
実は、以前にも『ドラッグラグとドラッグロス (※)』は取り上げたことがあります。内海さんはこの回にも出席されていましたが、これってどういうことでしたっけ?
※過去の記事はこちら

【勉強会:前編】ドラッグラグの再来と解決のための処方箋
2024.09.03
今回は、私たちの顧問であり、株式会社メディカル・インサイトの代表取締役社長を務める鈴木氏による勉強会レポートの前編です。 テーマは「ドラッグラグの再来と解決のための処方箋」。日本で新しい医療用医薬品が販売されるまでの流れ […]

【勉強会:後編】ドラッグラグの再来と解決のための処方箋
2024.09.03
今回は、私たちの顧問で株式会社メディカル・インサイトの代表取締役社長を務める鈴木氏による勉強会「ドラッグラグの再来と解決のための処方箋」のレポート後編をお届けします。 ドラッグラグやドラッグロスがなぜ起きたかを踏まえ、そ […]
えーっと、シンプルな言い方をするとドラッグラグは、国内で医薬品の承認が遅かったり煩雑だったりでタイムラグが発生すること。ドラッグロスは、海外で製造、承認されて流通するお薬があっても、そもそもそれが日本では作られない、承認されず海外と差分が発生すること……こんな感じだったと思います
そうですね!毎回出席されているだけあって、概ね正解です。
今ご説明していただいたように、ドラッグラグというのは、医療用医薬品が承認されるタイミングが海外と日本でラグ(差分)がある、遅れが生じるということですね。アメリカやヨーロッパでは承認されているものが日本では承認されていない、というようなケースです。これはあくまで“遅れ”なのでまだ良いのですが、ドラッグロスになるとロス(無)ということになってしまうので、海外では承認されたお薬が日本では無いことになってしまう。で、このドラッグラグに関しては古くて新しい問題みたいなところがあって。
以前、1990~2000年代にかけてドラッグラグの話が出てきていました。これは内海さんが説明されていましたが、当時の日本の新薬の承認プロセスには時間が掛かっていたんですね。お薬を開発する時には治験をやって、その結果を製薬会社が厚生労働省に提出して、それをPMDA(医薬品医療機器総合機構)という国の審査機関が『国としてこの薬を承認できるか?』という審査をする。当時はこの承認審査が下りるまでに余裕で2年ぐらいかかるケースがあって、そこだけで承認が遅れてしまっていました。ただ、そこに関しては政府も手を打っていて、PMDAに人を置くようになって、今は1年かかることが無くなり、審査は半年~1年くらいまでスピードアップされました
「ドラッグラグ&ロス」を深刻にする海外バイオテックの変化とは?

では、今またなぜドラッグラグが起きてしまうのか、その原因の1つを説明していきますね。
まず、海外のお薬を日本で承認するためには、日本人向けの治験をするというのが前提なんですね。なので、海外で治験が行われていても日本が含まれていない場合は新たに治験を組まないといけなくなるので、そこで遅れてしまうというお話があります。こちらに関しては、外資系の大きな製薬会社はマルチナショナル(色々な国)でいっぺんに治験をしてしまえば良いじゃないかということで、そういう手法に変えていったということがありました。それによってタイムラグが生じることが無くなったということがあって。
なので、“承認自体のスピードが上がったこと”と“治験を各国同時に行える体制ができた”という2つの取り組みによって一時期ドラッグラグの問題というのはあまり騒がれなくなったんですよね。だから、2010年代前半ぐらいはこの話は自然消滅気味だったんですが、2010年代の終わりぐらいから2020年代に入ってから再びドラッグラグと今度はドラッグロスの話も出て来るようになったんです。
……なぜだと思いますか? おっ、相馬さんが挙手されていますね
コロナの時期にこの問題は良く耳にしたような気がします。ワクチンの承認がされるまで時間がかかるので、患者さんの治療が遅れて……とか
そうですね、コロナワクチンが流通した時期とも若干、関連するかもしれないのですが、薬の開発に大きな変化があったんです。どういうことかというと、海外のバイオテックといわれるような小さな新興企業は、薬の種を作って、せいぜいフェーズ1……ということは、『少人数の健康な成人に対してこの薬は安全です』という確認をするぐらいの段階ですね。
場合によってはフェーズ2、数十人ぐらいの人に投与して効果や安全性を確認する……ぐらいまで実施して、その先の開発権や承認された後の販売権をメガファーマに売り渡すんです。これがアメリカや欧州のバイオテックのビジネスモデルだったんですね。ところが、これが変わってきたんです。その先のフェーズ3までやって、承認を取って、自前で売る……というように。
なぜかというと、バイオテックには何十億、場合によっては何百億という開発にかけられる資本力は無かったんだけれど、ここに資本が付くようになったんです。だからもう自前で出来るぞ、と
この辺りの話は、以前の勉強会でもちょっと触れていましたね
自分たちが発見した薬についての開発や販売ができるなら、自分たちで上市するところまでやりたいですよね。これは大きな変化です。
じゃあ、何でこれが日本のドラッグラグやドラッグロスと関係するんですか? と。なぜだと思いますか? 先ほど、メガファーマがマルチナショナルで治験をする話をしましたが、それだけ大規模だとお金もかかるわけじゃないですか。それに、失敗した時のリスクも高い。だから、バイオテックはまず自分たちの国の市場だけを見るんです。ヨーロッパだったらEU市場だし、アメリカならアメリカを見ますよね。アメリカは市場が大きいし、バイオテックも多いので、例えばアメリカのバイオテックなら自国で開発して承認して上市すればOKです、と。
だから、日本のように勝手が分からない国には手は出さないわけです。彼らは日本に組織は持っていないですから。メガファーマなら日本やマルチナショナルな開発組織もあるし実績もあるけれど、バイオテックはそういったノウハウはないし、お金もかけたくないから、自国でやりましょう。となるわけです。そうなると、アメリカやヨーロッパだけで承認を受けている良い薬が日本には入ってこない。……というケースがどんどん増えているんです。
……どうですか? これ、困っちゃいますよね。なので、国も問題意識を持っていて、色々解決しようと動いています
良い薬が日本へ入らない「ドラッグロス」をどう解決する?
このドラッグロスを解決する1つの方策として、海外のバイオテックの方々に向けて『日本という市場もあります』とか『日本で開発するのはそんなに大変ではないですよ』という売り込みをしないといけない。それを踏まえて、去年11月にPMDAがワシントンDCにオフィスを構えるというニュースがあったんですね。
そこで相談を受けたり情報を出したりすれば、バイオテックの人たちとも人的な交流が生まれるし、これをきっかけにして日本を治験に組み込んでもらえるようなトライをちょうどし始めたところです。まだ、始めたばかりなので成果はこれからですが、そういう取り組みがあります。
もう1つ、最大の問題は日本で治験をやるということは時間もお金も掛かるよね、ということ。そこは根本的な問題として残っています。今日はその話をしたいと思いますが、ここまででみなさんから聞きたいことはないですか?
この問題に関する懸念と将来の希望みたいなものを想像してみたのですが……。この数年の生成AIブームで製薬業界も伸びています。その影響で多分、これまで以上にバイオテックが乱立していきそうな気がするなと。なので、先ほど鈴木さんがおっしゃったことが行われていけば、ますますラグは発生するのかなと。
もう1点は、日本でもバイオテックが設立される土壌を厚労省が作って行かなくちゃいけないんじゃないかなと
素晴らしい視点ですね!
嶋田さんのお話に絡めて言うと、当たり前のことですが、日本の製薬会社は自国の市場がちゃんとあるので、日本の製薬会社が開発して、日本市場で世界で最初に出てきた薬もあるんですよ。典型的なものは、第一三共株式会社が発売した『エンハーツ』という、HER2陽性タイプの乳がんや胃がんに使われるお薬で、第一三共の株価がグワーッと上がった要因になっているのが、これを始めとした分子標的薬が上手く行っているからなんですけどね。
でも、こういった日本発のものを増やさないといけない、頑張ってほしいな……という気持ちがありますよね。じゃあ、ここからは治験の効率化という話に入っていきたいと思います
治験のボトルネックは被験者のリクルート!

先ほどお伝えしたように、治験には時間とお金がものすごくかかるという構造があるので、ドラッグラグやドラッグロスに繋がりかねない。なので、根本的なところをどうにかできないかなというお話があります。で、治験というのはとても非効率的なんですね。何に一番時間が掛かるのかというと、基本的にはペイシェントリクルーティング。被験者になってくれる患者さんをリクルートするところが、最大のボトルネックです。
例えば、治験でAというお薬に300人、プラセボを入れる300人、合計600人をどう集めて来るか? ……っていうところに時間とコストが掛かる。なぜそうなるのかというと、これは構造的な問題があって。みなさんは治験がどこでやっているかという情報って、見たことがありますか?
全員「……(首を傾げる)?」
みなさん『?』っていう状態ですよね(笑)。
でも、これはみんな同じ。患者さんもそうです。治験がどこでどう動いているかっていうのはよく分からないんですよね。治験の被験者の方たちがどうリクルーティングされるかというと、今までの典型的なパターンは、治験を実施する施設をいくつか、製薬会社が選定するわけです。
例えば、がんだったら、がんセンターとか、大学病院や比較的大きい病院とか。でもやたらに増やしてしまうとお金がかかってしまうので、イメージ的には全国で十数か所くらい。そこを治験の実施施設として契約を結ぶんです。で、契約を結んだ施設の先生は条件が合う患者さんに治験に興味はあるかをお聞きして、興味があるということであれば、治験のコーディネーターと先生が内容を説明して、患者さんが同意をしてくれたら治験に入っていく……という流れ。
なので、リクルーティングって“人づて”なんですよね。治験に深く絡んでいる先生だったら頑張ってリクルーティングするけれど、そうでもない先生はどのくらい頑張れば良いの? というのもあるし、その施設だけで患者さんが集めきれるの? というのもあって。集まらない場合は治験の実施施設の周辺に協力施設というのを配置して、治験に適合しそうな患者さんをそこから紹介してもらうということをやるんです。
でも、協力施設の先生がどれくらい協力するのかというと、正直に言えば手間が掛かって面倒くさかったり、自分の患者さんを治験に送ってしまったらその後の治療もそちらの施設で……となったりもするので、協力する先生も限られてくる。なので、そもそも治験の情報は広く出回らないし、協力する先生も限られてくるとなると……患者さんを集めるのが大変という話になるんですね
―― 前半は、ドラッグラグ&ロス問題に絡めつつ、治験の被験者のリクルーティングの難しさについて解説しました。後半はテーマとなっている治験の効率化ついて詳しく解説していきます。続きも楽しみにお待ちください。
この記事の担当者

佐塚 亮/Satsuka Ryo
職種:sales
入社年:2020年
経歴:大手スポーツメーカにて店舗sales,エリアマネージメント業務を担当。のちWEB制作会社にてWEBサイトの提案からディレクションをこなし、コンサルタントとしてサイト立ち上げ後の売上向上まで支援。その後2020年にメンバーズへ入社。主にクライアントからのヒアリング及び検証データを基に要件定義を行い、サイトの構築運用を実施。定常的に支援サポートを行う。クライアントはもちろんエンドユーザーの立場・視点に立ち、問題抽出から改善案の立案までを手がける