【勉強会:後編】ドラッグラグ&ドラッグロス問題と治験効率化の現在

製薬

公開日:2025.06.11
更新日:2025.06.10

治験被験者のリクルーティングが大変!?非効率な治験をどう効率化するか

私たちの顧問であり、株式会社メディカル・インサイトの代表取締役社長を務める鈴木英介氏と弊社の社員による勉強会のレポートです。テーマは、前半に続いて「ドラッグラグ&ロス問題と治験効率化」について解説します。後半は、非効率な治験をどう効率化するかについて考えていきます。ぜひ、ご覧ください。


勉強会の参加者

2018年中途入社
営業
佐塚さん

2023年中途入社
プロデューサー
内海さん

2017年中途入社
Webディレクター
嶋田さん

2023年新卒入社
Webディレクター
相馬さん

2023年新卒入社
Webディレクター
加藤さん

2016年中途入社
プロデューサー
田原さん

2024年新卒入社
Webディレクター
森田さん


治験への患者の期待と医師の実態には大きな差がある!

それでは後半もよろしくお願いします!

内海さん、嶋田さん、相馬さん、加藤さん、田原さん、森田さん「よろしくお願いします」 

はい、お願いします。前半のお話では(※)治験に患者さんが集まらない理由のなぜ? という部分がハッキリしたかと思うので、続きの解説をしていきましょう。

治験の被験者のリクルーティングが大変という話をしましたけれど、これは患者さんが多い病気だったら問題はないんです。患者さんも簡単に集まるわけですから。
ただ、最近のお薬ってターゲットが異様に狭いんですよね。『この遺伝子変異を持っていて、なおかつ、この治療の2番目に入るところ……』みたいな話になると、そんな人はなかなかいないというケースも多く、患者さんが集まるまで時間もコストもかかると、製薬会社は治験を全部自社の力で出来るわけではないので、通常はアウトソースするんです。CRO(Contract Research Organization)と呼ばれる開発業務受託機関に。

※前半の記事はコチラ 

で、開発に必要な期間がどんどん伸びていけば、それだけコストが嵩んで莫大な費用が掛かるという感じですね。
とはいえ、実際こういった治験について患者さんはどの位やりたいと思っているのか、お医者さんから見た時に治験についてどのくらいの情報が入ってきているのか、どの程度やる気があるのか? ということについても調べる必要があるよね
……ということで、僕が運用しているウェブコンテンツの『イシュラン』と医師のパネル(回答者)を持っている『ケアネット』さんで共同調査をしたんです(※)

株式会社ケアネット ニュースリリース:ケアネットとイシュラン、乳がんの患者さんと専門医を対象とした「治験に関する意識調査」の結果を発表

その調査結果がこちらです(調査結果の画面をシェアしながら)、対象は、私たちイシュランでパネルを持っている乳がんの患者さんで、お医者さんの方は乳腺外科に関わる方をケアネットさんが集めてくれました。それぞれに似たような質問をぶつけて治験の意識調査をしています。

で、4ページを見ていただくと面白い部分があって。“(3)「日本で行われている乳がんの治験に関する情報」に関して、患者さんの 63%が「主治医はよく知っていると思う」と回答しました(「ほぼすべての治験を知っている」「4 分の 3 くらいは知っている」)。”とあります。

で、それに対して“医師で「よく知っている」と回答したのは 5%にとどまり(「ほぼすべて知っている」「4 分の3くらいは知っている」)、74%の医師が「ほぼ知らない」「4 分の 1 くらいは知っている」と回答しました。”とあって、ここに患者さんの期待値とお医者さん側の実態にすごく差があるよね、と。

なので、お医者さん側に治験の情報があまり回っていないことが分かったんです。

治験情報が医師に届いていない理由とは?

医師は治験情報を知っていたら提案したい、患者さんも提案されたら検討してみたい しかし、治験情報は製薬会社から医師に提供されない!

次は、“(4) 医師側に「患者さんの病状に合いそうな治験について知った場合、患者さんに提案するか?」をたずねたところ、84%が「提案する」と回答”とあるので、圧倒的多数の結果が出ている。

で、“同様に患者さん側に「治験情報を主治医経由で知った場合の治験への参加意向」をたずねた質問では、78%が「検討する」と回答しました。”とあります。だから、医師は情報を知っていたら提案するし、患者さんも提案されたら検討してみたい、という答えが出ていると。

そして、5ページでは、“(5) 患者さんの 81%が「日本で行われている治験情報を欲しい」と回答しました。” で、左下の質問では“先生が診察しているがんに関する治験が日本で行われている場合、その情報をどの程度知りたいと思いますか?”とありますが、こちらも“全国の治験情報を知りたい62.9%”、“自分の都道府県の治験情報を知りたい 22.6%”、”自分が所属している施設の治験情報のみを知りたい 4.8%”なので、殆どの先生が全国の治験情報を知りたいと思っていると。

あとは、ここがポイントなんですけれど、“患者さんから先生に治験への参加について相談があった場合、どのように対応されますか?治験実施施設が、患者さんとしては通院可能だが別施設であることを前提にお答えください。”とあって、この回答は“必ず前向きに対応する 43.5%”と“まあ前向きに対応する 46.8%”と。なので、さっきの治験の非効率問題のお話で、協力してくれる先生があまりいないとお話したんですけど、これを見ると忙しいからとか、意地悪で協力していないということではなくて、情報がないから協力することができなかった
……という状況にありそうだということが分かりました。

どうでしょう? これを見て、みなさんから何か質問はありますか?

あの、単純な疑問なんですけど、製薬会社から治験の情報が先生に提供されるのはどのような方法でされるんでしょうか……?

素晴らしい質問です! 答えは……提供されません!

えっ。されない……?

されません。
……なぜかというと、治験ということは、まだ承認されていない医薬品です。なので、未承認の医薬品については宣伝活動をしてはいけない。これは薬機法で決められたルールとしてあります。なので、製薬会社がすべての先生に『ウチの会社、こんな薬の治験をやっていますよ!』と伝えるのはアウトなので、そこは提供されていないというのがあります。

まぁ、これが本当にアウトにすべき話なのか? というと分からない所もあるんですけど、そういう認識ですね。

ということは、こういう情報を先生たちが拾いに行かないといけないんですね。

おっしゃる通りです。
ただ、情報を拾おうとしてうまく拾えるか? という問題もあって。治験情報は、拾おうと思えばある程度拾うことはできるんです。そういう情報を掲載しているサイトもあるので。そこを見に行くと分かるのですが、結構面倒くさいし、そこまでやらないよね
……っていう状況かなと。

プラス、どこの施設で治験をやっているのかというのは情報として出てこないんですよね。それもどうなのかなと思うんですが、一般向けに出すとその病院の宣伝になっちゃうのかな、というのもあるし、あとは製薬会社にとっては戦略的な機密情報でもあるので、軽々しくオープンにしたくないという事情もあると思います。

ありがとうございます。ということは、やはりお医者さん側が治験の情報を知らないというのも納得できるなと思いました。

そうなんです。そうなっちゃいますよね(笑)

被験者リクルーティングを促進する手段は?

治験情報を発信することができなかったとしても、例えばリクルーティングをするための被験者がいっぱい登録されていて、そこから治験をする側が探しに行くというプラットフォームを作っておくとか……

あぁ、とても良い視点ですね! 
実はあるんですよ、そういったマッチングをするプラットフォーマーというか、ペイシェントリクルーティングを専門にしている会社というのがあって。

で、そこがパネルの数をある程度持っていて、その人達へバナー広告やテキスト広告とかで『こういう治験がありますよ』と宣伝して、そこを経由して入ってくる……みたいな。そういうリクルーティングにトライしているところもありますね。まさに田原さんのおっしゃったような発想でやっています。

ただ、残念ながらそんなに大きなプラットフォームを作ることができないので、そこでリクルーティングをしようとしてもなかなか拾えない
……というのが実態としてはあるようです。

ユーザー調査のような形でリクルーティングのところに私たちが関わるビジネスとか何かないかなぁ
……ってちょっと思っちゃいました。

例えば、メンバーズのグループ企業のポップインサイトのように、パネルを持っている会社でアンケート調査をして、その中から選別して繋いでいくとか……

そうですね。
ただ、ターゲットが狭い疾患になると、そこに近い患者さんをパネルとして持っていないと、というところもあります。治験の条件って厳しいので、その疾患、状態、年齢、その他にもこういう薬は飲んでいないか? 既往歴は? などで絞っていくと結局なかなか見つからないっていう風になってしまいがちなんですね。

ちょっと違う話ですが、バイトかなんかで、ある薬を投与されて〇日間ベッドに居たらいくらもらえる
……というのもありますが、あれは闇バイト……?

あぁ、あれはもっと前のフェーズですね。フェーズ1とか。
健康な成人に薬を投与して大丈夫かどうかを見る。なので、逆に病気の方にはやらないんです。ということは、フェーズ1でやるようなものは、いわゆる“治験アルバイト”ですね。闇バイトではないです(笑)。 

で、話を戻しますけれど、じゃあどうすれば良いのかというと、医師側に情報が伝わるようにして行かなければいけないということですね。これは、製薬会社が自分たちではやらないとなった場合は、ケアネットやエムスリーのように医師のパネルをたくさん持っている企業は協力できる体制はあるかなと思うので、そういうビジネスも多分あるんだろうなと。 

あとは先ほど内海さんがコメントしてくれましたが、患者さんが家族にいる人まで情報をプッシュできないの? というお話。
ケアネットさんとの共同調査の話をしましたが、そもそもどうしてこういう話になったかというと、イシュランでは僕が書いたメルマガの配信も毎月しているんですけど、会員は9.4万人ぐらい。その内6割が患者さん、2割が患者さんのご家族なんですね。さらに、内容もちゃんと読まれている媒体なので、僕らとしてはこういう調査のサポートができるという仮説があって。
なので、“濃い”媒体を持っているところが頑張って治験の情報を伝えるというのは、やり方としてあるんじゃないかなと思いますね。とはいえ、薬の宣伝になってはいけないというのはあるので、工夫は必要だと思いますが。

でも、もう少し効率的にやれる余地はありそうだよな
……と思っています。

新たな治験スタイルでドラッグラグやドラッグロスを防ぐ!

ドラッグラグ&ロスを起こさせないよう治験の仕組みにも変化が起きている

あともう1つ。
治験を実施する施設が限られているので、治験の情報は広まりにくいという所に関しては、DCT(Decentralized Clinical Trial)、日本語で分散化臨床試験というものがあります。これは、治験の時に患者さんが実施施設にわざわざ来なくても良いというもの。患者さんはこれまで自分が通っている病院で治験も受けられます。

なので、通っている病院と治験を進めている病院との間はオンラインで情報を繋いで、患者さんの状況を共有する。薬も患者さんが通っている病院で投与して、効果とか安全性の評価だとかは担当の先生が入力はするけれど、データは治験のセンターへ送るような感じです。

そんな座組みで治験を進めていくことが始まっています。会社でいうと、株式会社MICINがDCTの仕組みを作っていて、名古屋にある愛知がんセンターと組んで実際にDCTの治験をやった事例がちょこちょこと出てきています。先日(4/24)もニュースで出てきていましたね。これは、注射剤でもDCTができるようになりましたというような内容(※)でした。

後ほどみなさんもチェックしてみてくださいね。

※参考:株式会社MICIN「愛知県がんセンター、聖マリアンナ医科大学病院、MICIN、がん領域で注射治験薬における本邦初 完全リモートのオンライン治験を実装」 

いずれにしても、治験の効率化をするということが、結果としてドラッグラグ、ドラッグロスの問題を防ぐ方向になるかとは思うので、業界を挙げてやっていくべきところなんじゃないかなと。
そして、みなさんにもやれることがあるんじゃないかと思いますので、今日の議論をきっかけに何ができるのかを考えていただければ嬉しいかなと思います! 

あと、みなさんから何か質問などあればどうぞ。

あの、僕は単純に治験にあまり良いイメージが無くて。怖い、とか副作用が
……とか(笑)

そう考えられるのは当然のことです。
でも、治験の機会があるということはみなさん平等に知っておいて良いと思うんです。治療の選択肢にもなるかと思うので。だけど、承認された薬ではないですし、プラセボに当たる確率もある。そういう情報を得たうえで、それでもやりたい方は、ということですけどね。

そうですよね。
僕も自分の身体は大切なので(笑)。とはいえ、このペイシェントリクルーティングに関しては、治験患者のマッチング……みたいな、親しみやすいワーディングにするとかも1つの手だなと考えて聞いていました。

例えば、花粉症のようなお薬はフェーズ1などでの治験のハードルは低いのでしょうか?

あぁ、花粉症ぐらいでしたら患者さんは幾らでもいらっしゃるので(笑)。フェーズ1、フェーズ2、フェーズ3でもハードルは低いですね。被験者は集めやすいです。

やはり、患者さんの母数によるんですね。ありがとうございます。

はい。母数の問題は大きいです。

DCTで在宅治験ができるようになりましたが、2022年とか2021年あたりが境目になってデータの扱いが変わったんでしょうか? 治験の記録って結構ガチガチじゃないですか。データの手戻りがどうとか、記録がどうとか、法的なこととか情報の扱いをちゃんとしないといけないので、DCTや在宅治験ではデータの扱いのハードルを緩くしないとできないんじゃないかなと。

そこの評価に関しては医師がするので、評価の仕方を徹底させるとか、教育するとか、評価がきちんと集まるようにするとか、そういう仕組みがちゃんと作れたということじゃないかと思います。

なるほど。ありがとうございます。

やはり、業界の専門的な知識や新しい情報について感度を上げていくことはとても大事ですね!
治験の効率化のお話もとても興味深いものでしたが、出席者のみなさんもこの内容を今後どう活かすかについて考えることができたかと思います。鈴木さん、今回もありがとうございました!

内海さん、嶋田さん、相馬さん、加藤さん、田原さん、森田さん「ありがとうございました!」 

―― 今回は、「ドラッグラグ&ロス問題と治験効率化」の勉強会レポートをお届けしました。ドラッグラグ&ロスを起こさせないよう、治験の仕組みにも変化が起きていることが感じ取れたのではないでしょうか。今後も勉強会の模様をお届けしつつ、業界の知識を共有していきますので、ぜひご期待ください。 

この記事の担当者

佐塚 亮

佐塚 亮/Satsuka Ryo
職種:sales
入社年:2020年
経歴:大手スポーツメーカにて店舗sales,エリアマネージメント業務を担当。のちWEB制作会社にてWEBサイトの提案からディレクションをこなし、コンサルタントとしてサイト立ち上げ後の売上向上まで支援。その後2020年にメンバーズへ入社。主にクライアントからのヒアリング及び検証データを基に要件定義を行い、サイトの構築運用を実施。定常的に支援サポートを行う。クライアントはもちろんエンドユーザーの立場・視点に立ち、問題抽出から改善案の立案までを手がける

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