みなさん、こんにちは。広報担当です。
今回のインタビューでは、実際に医療に携わる医療者がこれからの医療DXやデジタル化についてどのような想いを持っているか、現場でどの程度デジタルが普及しているかなどを東北の病院で緊急医療に携わる麻酔科医・白石太一医師にリアルな意見を語ってもらいました。普段はあまり知ることのできない、デジタル世代の若手医師がこれからの医療や医療現場のデジタル化をどう考えているのか。前後編に分けてインタビューをお届けしますので、ぜひ、ご覧ください。
デジタルによる安全性や効率性は上昇! しかし、現場は「リアル」がメイン
―― 本日は、よろしくお願いいたします。こちらのインタビューでは、若いお医者さまが医療現場のDXについて何を感じているか「リアルな声」をお聞かせいただければと思っています。
こちらこそ、よろしくお願いいたします。この度インタビューを受けさせて頂く、医師4年目の白石太一と申します。まだまだ未熟な自身の経験からで申し訳ありませんが、少しでも質問にお応えできるようにします。
―― ここ数年はDXが注目され、医療・製薬業界でもデジタル化を推し進めていますが、白石医師の周囲ではデジタル化を感じていますか? 偏りがある、または、全く進んでいないと感じる部分などについて教えていただけますでしょうか?
我々の業界は皆さまご存知の通り、人間の身体を治す手助けをしていますが、その特性から古来より直接患者さんとの対面でのやり取りを重視しています。こういった背景から要所要所で直接対面でのやり取り、いわゆる「アナログ」を重要視している箇所が多いのが現状です。
とはいえ、すべてをアナログで行っているかというわけではなく、ここ十数年での電子カルテの普及や手術用ロボットや麻酔器を始めとする各種医療機器の普及など「デジタル」な変化と共に飛躍的に安全性や効率性を上昇させている箇所が増えつつあります。昨今では新型コロナウイルス感染症の診療としてスマートフォン等のテレビ電話を用いたリモート診療は記憶に新しいと思います。
このように問診や情報共有などのデジタル化が進んでいる一方で、身体診察を始めとする患者さんの診察や手術、麻酔などの一部の治療は未だにアナログである事が良くも悪くもそうせざるを得ない部分があります。
―― 白石医師が救命救急医療に携わっていることもあり、患者さんに直に触れるというお仕事の性質上、デジタルが業務に直接関わることは少なさそうですね。
これは私のような若手の視点からですが、御社のような理念は、旧態依然とした現状を好み変革に二の足を踏んでいる上層部が経営方針や治療方針のイニシアチブを担っている事、そもそも閉鎖的な地方だと概念自体が入ってこない事などから浸透しにくいように思われます。
デジタルな仕組みに対応は可能。それでも導入は一部に留まる
―― コロナ禍なども含めこの数年で担当MRの活動が変わった、デジタルでのやり取りを勧められるようになったなど、MRを取り巻く環境の変化はありましたか?
それほど変わらないかと思います。私が学生の頃から、MRさん達が偉い先生方の部屋の前でお待ちになっていました。コロナ禍に入り院内の入室制限がかかるようになり、その光景は幾分減ったように感じましたが、それでも私がこれまで勤務してきた病院では薬品や機器の情報提供はその都度直接MRさんがいらして下さる事が殆どでした。ビデオ会議システムを用いたオンライン形式の情報提供もありましたが、業務の都合上参加できない事もあり、あまり多くは催されませんでした。
―― これに関しては、携わる医師個人の業務によっても変わるのでしょうね。しかし、実際MRの数は減り続け、活動量も低下しているというデータが出ています。この数年はデジタル専任MRやハイブリッドMRも誕生しているので、もしもMRがオンライン面談を中心とするやり取りになっても、デジタル世代である白石医師の年代の医師には抵抗はなさそうですが、いかがでしょう?
抵抗は無いと思います。MRさんへ求める本質は「紹介する医療機器についての説明」「こちらの質問への返答」「不具合が起こった際の迅速な対応」という点は私含め、概ね医師全体で感じている事でしょう。一昔前はMRさんとの食事会やゴルフ会などの恩恵に預かれたという昔話がありますが、我々若手がそういった事を求める世代で無くなりつつあり、本質以外の付き合いが必要と思う状況は少ないと思います。ただ、直接顔を見て話して雑談したりすること自体はその後のコミュニケーションを円滑にするようには個人的には思います。
―― ちなみに、患者さんと医師の間でデジタルの活用は進んでいますか? 診療予約のデジタル化やオンライン診療などの現状が分かれば教えていただけますでしょうか。
一部は導入され、一部は未だアナログといったところでしょうか。例えば新型コロナウイルス感染症診療に於ける行動歴やこれまでの病気、薬の内容(接触歴や既往歴、内服歴など)は、直接対面することなくテレビ電話形式を導入する事で受診困難な患者さんへの診察や接触回避による感染拡大防止に大きな貢献をした事は周知の事実です。予約システムもオンラインで可能な施設が増えており、施設間での情報提供もオンラインで可能な地域もあると耳に挟みます。また電子カルテは言うに及ばず、バイタルサイン(心拍数や血圧など患者さんの生体情報)の多数患者同時モニタリング、手術ロボット導入による術野視野確保困難な症例への対応、麻酔や集中治療領域ですと、人工呼吸器や麻酔器、エコー、モニタリング機器等のデジタル化でより安全で精密な管理が可能になってきました。
―― 手術ロボットなどのお話は、いかにも未来の医療という感じですね。
その一方で直接、患者さんの身体を診る身体診察を行う事は病気の原因や診察に必要な大きな情報を得るため血液検査や画像検査に引けをとらない非常に重要な方法で、決して失くす事はできません。手術もそれ自体がAI等で代替出来ず、必ず人の手が入らないとできない領域です。麻酔も維持はAIを導入できうる領域ですが、導入や抜管など患者さん一人ひとりの状態を鑑みて行わなければ安全性を担保できず、やはりアナログの部分は残るでしょう。このように患者さんと医療スタッフ間、スタッフとスタッフ間でのデジタルの活用は発展していますが、科の特色や地域性、年齢、職場のデジタルリテラシーの格差などで全国どこでもデジタル化が活発に行われているとは言い難いです。
オンライン診療による「コンビニ受診」に危機感?!
―― 白石医師の専門ではないので恐縮ですが、この数年で浸透し始めたオンライン診療についてのご意見を伺いたいです。生活習慣病などの定期通院や緊急性がない症状であれば、個人的にはオンライン診療は医師と患者さんにとって効率の良い診療スタイルだと感じますが、医師側からすると、メリットデメリットをどう捉えていますでしょうか?
医師の立場から見たオンライン診療のメリットデメリットは、もしかすると患者さんやMRさんのような医療機器メーカーから見たそれとは異なるかもしれません。
メリットは、感染症患者さんと接する事無く病歴聴取(具合悪くなるまでの時系列や、これまでかかった事のある病気歴、周囲の環境など)をすることができます。病気の診断において、病歴聴取は非常に大切なポイントです。また、性感染症や不測の避妊失敗に対する緊急避妊薬処方など周囲に悟られたくないような疾患・状況に対して、場所や時間を問わず迅速なアクセス・秘匿性が担保され得るオンラインは非常に便利で、普及を強く願っています。
一方で、仰る通り、病気の状態や治療が安定している高血圧や糖尿病を始めとする生活習慣病は、来院せずオンラインで診察する事はできますが、きちんと治療しないと死に至る病気にもなり得ます。ただ、正直これに関してはオンライン・オフラインどちらでも構わないと思います。
―― それは意外です。生活習慣病などの疾病はオンライン診療の方が良いと感じましたが、どちらでも良いのですね。
往々にしてそういった方々はオンラインを利用する事に慣れていない事が多かったり、回線状況が安定しないことで逆に診察が手間取ったりする事は医療現場で働いている人間として想像に難くありません。もちろん、患者さんの家族やケアマネージャーさんが協力・対応してくださることで、システムは普及してゆくと思いますが。離島や超僻地でのオンライン診療が今一つ普及しないのは、こういった事も原因の一つでしょう。また、オンラインが故に24時間365日いつでも対応できると認識され、いわゆる「コンビニ受診」のような不必要な受診が増えると、より労働せざるを得ない状況になる事もあるかもしれません。
―― 「コンビニ受診」化されてしまったら、医療者側はたまったものではないですね…。
そして、デメリットは何と言っても患者さんの身体を実際に診ることが出来ない事ですね。身体診察といいますが、真っ当な医師なら身体診察無しに患者さんの診療や治療は出来ないと強く思います。特に既往の無い方への性感染症などの診察は、おおむね病歴聴取と自覚症状で診断可能ですが、膠原病や主訴が曖昧な病態の診察は身体診察無しに診断は非常に難しいです。
他はインフラ整理に時間がかかることや利用する医師が対応しきれないことが想定されますが、これは時間と経験が解決する事ですし、むしろこれに対応できない医師・医療機関は淘汰されて然るべしと個人的には感じています。
地方医療の現実を知っているからこそ、考えなければならない課題とは
―― では今後、オンライン診療が治療の選択肢として当たり前になる時代が来るならば、いつ頃になると予想しますか?
これは想像しにくいですね。私自身が勤務している地域で言えば、ですが。都内や主要都市では比較的オンラインでのサービス展開やインフラ整理、利用者のデジタル化への抵抗の低さなどから普及しやすいと思いますが。一方、地方ではまだまだそういった流れにはなる見込みはなさそうです。医師・患者両方でデジタルへの抵抗がない世代が増えてきて、かつオンラインでの医療行為への抵抗が無くなる風潮になってからでしょうか。
―― これからの日本全体の人口減少に伴い、僻地や過疎地域への医療提供にはどのような想いがありますか? また、より良い医療のためにデジタルを取り入れる必要性・緊急性をどれくらいに感じていますか?
私は地方で医師として働いていますが、安定した病気の経過観察の為だけの病院受診で自宅から数時間かかる患者さんは決して珍しくありません。そういった方々は超高齢者と言われるような年代が多く、もちろん定期的な身体診察は必要ですが、それ以外はできるだけ物理的な負担(移動や待ち時間、それに伴う家族の方の負担)は減らしていかなければ患者さんとその家族・医師それぞれが疲弊し続け、持続可能な医療提供は難しいと思われます。さらに、緊急時に物理的なアクセスできる医療機関が無いという観点からもデジタルを取り入れる必要性は国全体でかなり早急な課題であると受け止めるべきです。とは言え、都会に住んでいる方には実感は伴わないと思いますし、そういった方々が制度作りをされている現状からも実現は夢のまた夢、と感じます。医療機関集約化は必要ですが、マクロなインフラ作りをしつつ、僻地や過疎地域へのデジタルアクセス手段やそれを利用する教育・認知度の普及といったミクロな点も充実させるべきだと感じます。
―― お忙しい中、ありがとうございました! 医療者の立場から見たデジタルの「いま」、そして、これからの医療環境についてどのように感じているかが伝わったのではないでしょうか。
後半は、医師たちの情報取得について質問しています。情報の信頼性をどう考えているか、注目のPHRの利活用などについて意見をお聞きしましたので、後編も楽しみにお待ちください。