みなさん、こんにちは。広報担当です。
今回のコラムでは、薬ができるまでのプロセスを前後編にわたってご紹介していきます。薬は身近なものでありながらも、処方される以前にはどんな経過があるのかを知らない方は多いのではないでしょうか。
専門的な知識を持つ人たちだけの世界というイメージがあるかもしれませんが、薬について興味を持っている一般の方にも読んでいただけるようにまとめています。ぜひ、ご覧になってください。
安価で安全な医療用医薬品。しかし、開発に掛かる費用と期間は膨大!
新薬の開発というと、現在は海外の製薬企業が開発した新型コロナウイルスのワクチンを思い浮かべる方も多いかもしれません。ワクチンの有効性が90%超と伝えられるなど、待望のワクチン完成へ世界中の関心が高まっています。
新型コロナウイルスに対するワクチン開発については、世界規模の蔓延を防ぐため、異例のスピードでの開発~承認への道を進んでいます。しかし、基本的には新薬が開発されるまでには短くても10年程度、費用は数100億円単位でかかっていることをみなさんはご存知でしょうか。
私たちが普段、医師から処方される医療用医薬品は効果が高く、安全なものです。そして、それらが国民皆保険制度によって安価に手に入るのは世界的に見ても素晴らしい事です。しかし、その薬が私たちの手元に届くまでの、開発への道のりを知る機会は殆ど無いのです。
その理由は、薬は身近な存在でありながらも専門性が高く、難しいというイメージのせいかもしれません。それでも、ワクチン開発のニュースを耳にする機会が多くなっている今、薬の事を知りたい、興味がある!と思っている方も多いはずです。今回は一般の方にも理解していただけるよう、創薬のプロセスの概要と、その工程の一つひとつを「前後編」に分けて説明していきます。
新薬の開発期間は9~17年!その期間に行われている研究や試験内容をチェック!
新薬を開発するまでの流れは、上記の図の通りです。
4つのプロセスを経て薬が販売されるまでの期間は全体で9~17年とされています。その間の基礎研究や試験の内容、それらが上手く行くかどうかによって、完成するまでの期間に幅が出てきます。特に非臨床試験・臨床試験の期間がどれくらい掛かるかによって、全体の開発期間の差が開くようです。
以下にそれぞれのプロセスで行われている内容を簡単にまとめてみました。
【基礎研究】
病気を引き起こす原因を抑える可能性がある物質を探す。天然素材(植物・動物・鉱物など)からの抽出や、化学合成・バイオテクノロジーなどさまざまな科学技術を活用して、薬の候補となる化合物を作り、薬としての可能性を調べる。候補となる新規物質の化学構造を調べ、スクリーニング試験(新規医薬品として有効な化合物を選択する作業)を繰り返し行い、取捨選択をして化合物を絞り込んでいく。
【非臨床試験】
基礎研究で見つけた新規物質の有効性と安全性を、動物や人工的に育てた細胞を用いて確認。また、物質が体の中でどのように吸収され体内に分布していくのか、どのような影響を与えて排泄されていくのか、作用や毒性、物質の品質や安定性に関する試験を行う。
【臨床試験】
非臨床試験を通過した薬の候補が人体に有効で安全なものかどうかを調べる。治験とも呼ばれる。臨床試験は3段階に分かれており、多くの時間と費用が掛かる。病院などの医療機関であらかじめ同意を得た健康な人や患者さんを対象に、安全な投与量や投与方法などを確認する試験を行い、データを収集し、薬としての使用方法を決めていく。
【承認・販売】
上記の試験を経て薬として有効性・安全性・品質が証明された後、厚生労働省への承認申請が行われる。厚生労働省が医薬品医療機器総合機構に審査を依頼し、審査の通過後に、専門家などで構成する薬事・食品衛生審議会の審議を経て、厚生労働大臣の許可が下りると、医薬品として製造・販売することができる。
次は、プロセスの最初の2つ、「基礎研究」と「非臨床試験」をさらに詳しく見ていきましょう。
プロセス1「基礎研究」(期間:2~3年)
ここでは、薬の元となる物質「リード化合物」を発見することを目的にしています。それを科学的に作り出すまで、各製薬会社が持っている膨大な種類の化合物(化合物ライブラリー)から化合物を探索していく期間です。この研究の大変さを表現することを、「宝探し」や「海の中から探しものを見つけるようだ」とも例えられます。
新規物質の創製
病気の発症に重要な役割を果している機能分子を見極める。新薬候補化合物を絞り込む過程では、有効性や安全性の評価に加えて、薬物動態評価(薬物がどのように吸収されて組織に分布し、小腸や肝臓中の酵素により代謝されて排泄されるのか) や物性評価(水や脂に溶けるか、吸収されるか、薬として安定した状態を長く保てるか)を行い、医薬品として必要な要件を満たした化合物を探索する。
候補物質の選択(スクリーニング)
候補となる新規物質の化学構造を調べ、取捨選択をする。過去にはこの作業を手作業で行っていたが、膨大な数の候補物質を絞るための新たなスクリーニング方法も開発されている。「ハイスループットスクリーニング」は、コンピューターによる高速スクリーニングを可能にしている。
物理化学的性状の研究
創出された候補化合物の物理的、化学的な性質を把握する。
「アカデミア創薬」とは?
基礎研究から医薬候補化合物を創出するまでの一連の作業を大学等の研究者が行う手法。新薬開発が年々難しくなり、一つの製薬会社のみで基礎研究から新薬を作り出していくのが難しくなっているという状況がある。その一方で、薬を必要とする人は大勢いるという状況は変わらないため、基礎研究を得意とする大学などの研究者たちが、製薬会社と協力して開発を行う開発スタイル。
プロセス2「非臨床試験」(期間:3~5年)
上記で発見した候補物質の有効性と安全性を培養細胞や実験動物で確認し、次のフェーズの臨床試験の安全性を担保するのが、このプロセスの目的です。(臨床試験=ヒト、非臨床試験=動物。)
非臨床試験では、試験管内での試験、細胞や動物を使った試験で生体内での作用を調べ、この段階での試験結果を通じて人体での候補物質の作用を予測していきます。
一般毒性研究
- ・単回投与毒性試験(急性毒性):動物に大量の薬物を投与した際に生じる毒性について検討する。
- ・反復投与毒性試験(亜急性、慢性毒性):臨床試験の投与期間を考慮した期間に動物へ薬物を反復投与し、中毒症状を示す薬物量、および示さない薬物量(無毒性量)を推定する。
薬物動態研究
薬物がどのように吸収されて組織に分布し、小腸や肝臓中の酵素により代謝されて排泄されるのかを解析する。
一般薬理研究
生体の各部位に対する薬物の作用を調べる。薬効薬理作用以外の安全性に関する作用を調べる。
薬効薬理研究
実験動物を用いて、対象疾患の治療に関する薬物の有効性を検討する。実験動物には、マウス、ラット、モルモットなどが用いられる他、ウサギ、イヌ、ネコ、サルが用いられることもある。
特殊毒性研究
生殖・発生毒性試験、変異原生試験、がん原生試験、皮膚感作性試験、皮膚光感作性試験を通じて、発がん性や胎児への影響がないかなど、特別な毒性を調べる。
動物を使わない実験方法もある!
現在、日本でも動物愛護の考え方が広がっており、「動物の愛護及び管理に関する法律」にも、動物実験の基準についての理念を掲げた「3Rの原則」が制定されている。動物実験には、これらに配慮した実験計画が求められている。
【3Rとは?】
Replacement (代替) …動物を使用しない実験方法への代替
Reduction (削減)…実験動物数の削減
Refinement (改善)…実験方法の改良により実験動物の苦痛の軽減
代替法としては、ヒトの培養細胞、手術や死亡した人体の組織や臓器、コンピューターによるシミュレーション、MRI(磁気共鳴画像診断[Magnetite Resonance Imaging])やMEG(脳磁図[Magneto Encephalo Graphy])を用いた画像診断などもある。
1錠の薬は研究者たちの熱意の結晶!まだまだ続く新薬開発への道のり
1つの薬ができるまでには、さらに後に続く工程の「臨床試験」と厚生労働大臣の「承認」が残っています。
上記で説明した「基礎研究」の段階で数万の候補物質から薬の種になる物質を選択して見つけていくというだけでも、開発への道のりが地道な作業であることが感じ取れたのではないでしょうか。新しい薬を生み出していくということは、知識や技術を常に磨き続けるという研究者の努力や、製薬会社各社の創薬への情熱がないとできない事なのかもしれません。
当ブログでは薬の種類やライフサイクル、医療用医薬品の特許期間についても触れてきたように、これからも医療の情報を分かりやすくお伝えしていきます。
次回は、後編「臨床試験~承認・発売」をお届けします。