製薬会社のMRがどのようなデジタルツールを活用しているのかを調査してみました。
コロナ禍の中でリアルマーケティングから離れざるを得なくなった多くのMRは、現在も在宅勤務を続けながら活動を続けています。そして、医療機関への訪問が制限されているMRにとって、デジタルツールは欠かせないものとなりつつあります。いくつかの製薬会社では昨年春以降、実際にデジタルツールを導入し、活用が始まっている企業もありました。
今回は、MRのマーケティング活動や情報提供の手段として使用されているツールの事例を調べてみたので、ぜひチェックしてみてください。
変革期を迎えたMRの働き方。コロナ禍でMRの訪問は激減、デジタル対応の時代へ
2020年から始まった新型コロナウイルスの流行によって、現在も医療機関へMRが直接訪問する機会は減ってしまっています。昨年の春の緊急事態宣言で活動量が大きく減り、リアルマーケティングを中心としていたMRの働き方は大きく変わり始めています。
MRの直接訪問が春の緊急事態宣言の段階で一度停滞し、それ以降は製薬業界でも急速なデジタルシフトが行われ、リモート面談やWeb講演会が取り入れられ始めました。今では、MRの直接訪問の代わりにリモート面談やWeb講演会が定着する傾向にあるようです。
今回は、製薬業界のマーケティングがデジタルへ推移していく流れや、個々の企業で実施されているデジタルのツールを調査。MRを支援するために、製薬企業がどんな対策をとっているのかをまとめてみました。
他業界に後れを取っていた医療業界のデジタルシフトは、コロナ禍でスピードアップ!
そもそも、MRの数自体が2013年より減少傾向にあるということは、医療業界の方ならばご存知ではないかと思います。
減り続けているMRが医療現場でいかに効率よく営業活動をして行くかを考えれば、この段階でデジタルを活用しない手はありません。いよいよリアルマーケティングのみに頼る時代から、デジタル活用へとシフトチェンジが必要な時代になったのです。
このように、リアルマーケティングが重宝される業界にコロナ禍が重なったことで、デジタルシフトは急務となりました。しかし、初めて緊急事態宣言が発出された昨年の4~5月頃には、製薬会社はMRを在宅で勤務させるためのインフラ周りの整備やメンタルのケアなども大きな課題となっていたと思います。
その結果、多くの製薬会社がデジタルシフトをしたことで、昨年の春はMRと医師とのリモートディテーリング件数が昨年1月に比べて1,941%増となり、MRから医師へのメール送信数も366%増になったという調査結果もありました。驚異的なパーセンテージですが、裏を返せば、いかにMRがリアルでのコミュニケーションに時間を割いていたかが分かる数値でもあります。
ウイルスの感染拡大を防ぐ目的でデジタルシフトせざるを得ない状況となったことで、多くの医師がリモートディテーリングを経験することができました。ある意味では強制的なデジタルシフトではありましたが、今では医師側でもデジタルへの抵抗がなくなりつつあるようです。現在、製薬会社はそれぞれにツールを導入し始めており、これまでのMRの働き方の見直しや新たなマーケティング手段へと踏み出しています。
直接訪問に代わり、AIやVRもフル活用!製薬企業に見る、デジタルツール導入事例
現在も多くの製薬会社で在宅勤務などを継続しながらウイルスの感染拡大防止を実施しているようです。
春の緊急事態宣言の前後で、企業のWebサイトのリリースにはウイルス感染拡大防止対策についてのお知らせが上がっており、それぞれの企業で独自に対策を行っています。さらに、今年の1月には再び緊急事態宣言の発出もあり、企業では在宅勤務を継続する流れになっています。
ここからは、新型コロナウイルスの感染拡大対策に限らず、製薬会社で取り入れているMRの活動をサポートするデジタルツールの事例をチェックしていきます。
【アムジェン】
・アムジェン、医療関係者向けの製品情報検索システムとしてAIチャットボット「AskAm(アスクアン)」の運用を開始
3月にアムジェン株式会社は、医療関係者向けのチャットボット「AskAm(アスクアン)」の運用を開始したこと発表。これによって、全製品の添付文書を中心とした製品基本情報が24時間365日、オンラインで検索できるようになった。
「AskAm」は、木村情報技術株式会社が開発したIBM Watson日本語版を活用したAIシステムを搭載し、利用者の医療関係者が製品を選択して質問事項を入力すると、登録されたデータベースの中から質問に最も近い回答をするとともに、その質問に関連する情報も併せて提示される。
問い合わせ窓口「メディカルインフォメーションセンター」や医療関係者向けサイトに加え、添付文書等に記載されている範囲の基本的な質問であれば、PCやスマートフォンを通じて、医療関係者への情報提供がさらに迅速にアクセスすることが可能になる。
【アステラス製薬】
・アステラス製薬、リモートディテーリングサービス「my MR君」によるMRからの情報提供を開始 ~デジタルトランスフォーメーションの加速を支援~
昨年6月より、アステラス製薬株式会社ではエムスリーのリモートディテーリングサービス「my MR君」を全MR(1700人)に導入した。これによってm3.com上のターゲット医師に対し、担当のMRが自身の顔や名前を出しながら直接コミュニケーションを図ることができるようになった。
この取り組みは、アステラス製薬のMRを約100%カバーするものであり、昨今の新型コロナウイルス感染拡大によるMRの医療機関への訪問一部自粛が長期化する中、医療提供体制の変化やMRの感染リスクを最小化しながら適切かつタイムリーな情報提供を推進していく。また、「my MR君」は既に20社以上が導入済み、および導入準備中である。(利用MR数:前年比約4倍[2020年6月時点])
【大日本住友製薬】
・デジタル技術を介した医療関係者向けの新たな情報提供 iMR および vMR 開始のお知らせ
・⼤⽇本住友製薬と KDDI、XR を活⽤した MR と医療関係者の新たなコミュニケーション基盤構築に向けた取り組みを開始
大日本住友製薬株式会社では、昨年6月より医療関係者向けの新たな情報提供として、「iMR®」(リモートの MR)による予約面談および新規オリジナルキャラクター「vMR™」(バーチャルの MR)による動画コンテンツ配信を開始した。
「iMR®」…特長は、好きな時間に場所を選ばず面談が可能。
リモート専任 MR によるオンライン会議システムを用いた情報提供で、双方向の対話型コミュニケーションが可能。医療関係者向けサイト上に新規導入したチャットボット(PC、タブレット端末に対応済、スマートフォンでも対応予定)にて事前に予約した日時に、リモート専任 MR が非定型抗精神病薬「ラツーダ」を中心とした精神科領域の製品に関する情報を提供する。
「vMR™」…特長は、親近感を感じながら情報入手ができる。
3 人のオリジナルキャラクターが、医療関係者向けサイトや外部提携サイトのコンテンツに登場した。vMR は、バーチャルの MR として、製品、対象疾患または医療行政について説明。今後、様々な製品、疾患領域において順次コンテンツの拡充を予定している。
さらに、昨年9月にはXR(Extended Reality:仮想空間技術の総称)を活⽤した MR と医療関係者の新たなコミュニケーション基盤構築に向け、KDDI 株式会社と取り組みを開始。スマートグラスを含めた XRで活⽤可能な医薬品情報の 3D 映像コンテンツなどの制作や、バーチャルコミュニケーションスペースの構築を⽬指している。
【中外製薬】
・中外製薬、MRを中心とする約2,400名にワークスモバイルジャパンの「LINE WORKS」を導入
昨年9月、中外製薬株式会社はワークスモバイルジャパンが提供するビジネス版LINE「LINE WORKS」を導入。医薬情報担当者(以下、MR)をはじめとした約2,400名の社員が医療関係者との双方向コミュニケーションを行うための新たなツールとしての利用を開始した。
中外製薬MRの「LINE WORKS」アカウントと医療関係者のLINEがつながることで、医療関係者は普段使い慣れたLINEを活用しながらMRとコミュニケーションを図ることができる。さらに、中外製薬とワークスモバイルジャパンは、中外製薬の従来の業務ツールとLINE WORKSのチャットを連携する機能の開発に着手しており、中外製薬はLINE WORKSをフロントエンドアプリとして利用する予定。
【キッセイ薬品】
・医療関係者向け情報サイトにおけるオートメーションディテールシステム「AI-Detail」の運用開始について
昨年6月キッセイ薬品工業株式会社は、木村情報技術株式会社と共同開発を行った「AI-Detail(アイ-ディテール)」を、キッセイ薬品ウェブサイトの医療関係者向け情報サイトにて運用を開始した。これは、多忙な医療関係者に情報提供手段を多様化させていくことに対応したもの。
「AI-Detail」は、AI(人工知能)を用いた新たなオートメーションディテールシステム。医療関係者が製品に関して必要とする情報を、ウェブサイト上でキーワード検索することで該当する情報や関連する情報のスライドが自動抽出される。さらに、利用者の必要度や関心度に応じてスライドを選択すると、スライドが表示されるとともに説明音声が流れる。
このシステムの活用により、医療関係者の皆様が時間や場所に限定されることなく、必要とする情報が得られるようになる。情報提供は、高リン血症治療薬「ピートルⓇ」から順次対象製品を拡大していく予定。
【ファイザー製薬】
・ファイザー 7月以降のMR活動 アポイント取得を徹底し「リモート優先」で MRの在宅勤務は解除
ファイザー株式会社は、昨年6月に新しい働き方に向かって進んでいくための活動方針『ニューノーマル・ロードマップ』を独自に策定した。MR等の外勤社員は7月から在宅勤務を解除しているが、医療者との面会は「リモートを優先」。
面談にはビデオ会議、オンラインミーティング、画面共有、およびウェビナーを提供する「Cisco Webex」を使用。MRは事前のアポイントを得たうえでリモート面談を行う。GVP(Good Vigilance Practice:医薬品の製造販売後における安全管理の基準) 等の製品情報伝達や医療機関からの要請、アポイント取得時には訪問も可能としている。本社/事業所の内勤社員については、原則在宅勤務。業務の必要性が高い場合に限り、最大20%までの出社を各部門で許可している。
コロナ禍以降もデジタル活⽤がMRの在り⽅や働き⽅を変え続けていく!
このような新しいツールを取り入れた営業活動が続くことを考えると、今後のMRの活動もコロナ禍以前の状態に戻るとは考えられにくいというのが製薬業界全体の認識のようです。
デジタルが浸透していくことでMRの人手不足を補うことができれば、デジタル活用は製薬会社のマーケットを広げ、時間や場所を選ばない営業活動ができるようになります。デジタルを取り入れる事はコロナ対応だけではなく、チャンスにもなりうる手段と言えるでしょう。
製薬企業のデジタル担当者の方は、これらの活用例をチェックし、MRのデジタルマーケティングや社内コミュニケーションの参考にしてみてください。また、こちらのブログでは、デジタルトランスフォーメーション(DX)の事例まとめた記事を2ヶ月に1回出しています。製薬企業のMRの動向やデジタルを使った新サービスをまとめてご覧になれます。ぜひ、チェックしてみてください。