
メンバーズメディカルマーケティングカンパニー(以下、MM)による、生成AIの活用事例をご紹介します。今回は、「UXインタビュー」を、生成AIアプリを使って実施した事例です。どのようにして生成AIでユーザーの行動や思考、ニーズを理解するペルソナを作成するのか、実際の作業の手順も含めて解説していきます。ぜひ、みなさまの業務にもお役立てください。
時間もコストも掛かるUXインタビューを気軽に行いたい

製品やサービスの改善に欠かせない手法として、近年注目されているのが「UXインタビュー」です。 医療・製薬業界においては、患者が受診に至るまでのプロセスだけでなく、医師が治療方針を検討し、最終的な意思決定に至るまでの思考や判断の流れを理解することが、ますます重要になっています。 実際、患者は症状への不安を抱えながら行動し、医師(医療従事者)も限られた情報と時間の中で判断を行っています。このような患者や医療従事者の思考・感情・行動の変化を時系列で捉える「ペイシェントジャーニー」や「ドクタージャーニー」重要性はすでに広く認識されています。
しかし、患者や医療従事者が、どのタイミングで迷い、立ち止まり、離脱してしまうのかを明らかにするインタビューは、リクルーティングや実施にかかるコストの面から容易ではなく、「重要だと分かっていても、頻繁に実施できない」という課題を抱えているケースも少なくありません。
本記事では、UXインタビューに課題を感じていたクライアントさまに向けて、患者・医療従事者のペルソナに気軽にインタビューできる「ペルソナAIアプリ」を作成した事例をご紹介します。実際の作業プロセスや使用したプロンプト、そのポイントについても詳しく解説します。みなさまの業務改善のヒントとして、ぜひご活用ください。
【課題】
・事前準備やインタビュイー決定、実施後の分析で3ケ月ほど時間がかかる
・コストが300万ほどかかる
・UX専門家が実施しないと成果が出ない
・スケジュール調整が難しい
・上記のような理由から、積極的にインタビューの実施が困難な状態にある
【取り組み内容】
こちらの課題の解決には、Google開発の生成AI「Gemini」やOpenAI開発の「ChatGPT」を使用しました。
1つの質問に設定した複数のペルソナがその場で一気に回答できるというアプリで、画像など添付ファイルへの回答も可能なアプリとして作成しました。
<作業手順>
全体の作業手順やプロンプトの一部をご紹介します。設定項目やプロンプトはサンプルですので、作成時の参考として、自社の要件に合わせて変更してください。

■STEP1:ペルソナ作成
最初に収集する情報を決め、その後にペルソナを作成します。ペルソナがあるならば、そちらを使用いただけますが、特にペルソナがない場合は以下の2つ方法で作成できます。
【AIアプリ化に必要なペルソナの情報例】
ペルソナが回答する情報を以下のような項目で構成しました。
・基本情報:名前/年齢/性別
・背景情報:職業 / 家族構成 / 居住地など
・内面情報:ペインポイント/ゴール/価値観/情報源とタッチポイント/行動パターン
【ペルソナ作成のアプローチ2パターン】
パターン1は、全てAIで作成する方法です。
パターン2は、ユーザーに関する既存のデータを活用する方法です。
どちらの方法を選択するかは、プロジェクトの予算や掛けられる時間に合わせて決めましょう。
・アプローチ1:AIリサーチ機能でライトに作成
生成AIのリサーチ機能を駆使してライトにペルソナパターンを作成します。なるべく細かく指示を書いた方が正確な結果が出るため、解像度を上げてプロンプトを作成するのがポイントです。
<プロンプト例>
#役割
あなたは優秀なUXリサーチャーです。
以下のタスクを実行してください。
#背景
日本の○○○業界のユーザーペルソナを作成します。
#タスク
-日本の○○○業界のユーザーについて調査してください。
-○○○業界のユーザーペルソナに最適な設定項目を調査してペルソナ情報フォーマットに追加してください。
-調査結果の設定項目を元に○○○業界のユーザーペルソナを3名生成してください。
-ペルソナの名前はユニークになるように命名してください。
-男性と女性を偏りなく生成してください。
##作成するペルソナ情報フォーマット
###ペルソナの基本情報
-名前
-年齢
-性別
-職業
-家族構成
-居住地
###ペルソナの内面情報
-ペインポイント
-ゴール
-価値観
-情報源とタッチポイント
-行動パターン
・アプローチ2:ユーザーデータを分析して作成
すでにあるユーザーデータ(インタビューやアンケート)をご支給いただき、生成AIで分析してペルソナパターンを作成します。データ内に「思い描いているユーザー」が存在してなければそのデータは生成されないため、求めるユーザー像がない場合には手動で作ります。
<プロンプト例>
#役割
あなたは優秀なUXリサーチャーです。
以下のタスクを実行してください。
#背景
セットされたソースは○○○○○のユーザー情報です。
#タスク
-セットされたソースを分析して「ユーザーセグメント」に合致するペルソナを3名生成してください。
-ペルソナの名前はユニークになるように命名してください。
-男性と女性を偏りなく生成してください。
-フォーマットにある項目は必ず項目に含んでください。特にペルソナの内面情報となる「ペインポイント、ゴール、価値観、情報源とタッチポイント、行動パターン」は網羅して生成してください。
##生成するペルソナのユーザーセグメント
###セグメント名
MR:学術情報・即応力重視層
###ライフスタイルや興味・趣味
膨大な論文やガイドラインの確認に追われる日々。説明会の合間などの隙間時間を活用し、タブレットで情報収集や資材作成を効率的にこなす。
###価値観
「情報の鮮度と即応性=医師からの信頼」と捉える。デジタルツールを駆使し、知識のアップデートと事務作業 の最小化を追求する。
###主な特徴・行動・動機(志向)
医師の専門性やニーズに合わせた学術回答を最速で行うことを重視。生成AI等での文献要約や資料構成の自動 化により、医師と対話する「質の高い時間」の最大化を志向する。
##生成するペルソナ情報フォーマット
###ペルソナの基本情報
-名前
-年齢
-性別
-職業
-家族構成
-居住地
###ペルソナの内面情報
-ペインポイント
-ゴール
-価値観
-情報源とタッチポイント
-行動パターン
■STEP2:インタビューAIアプリ構築
ここでは、GPTの機能「GPTs」、Geminiの「GEM」という、作成者のニーズに合わせて“自分専用のAIアプリ”を作れる機能を使用します。
プロンプトには以下のように「振る舞いの指示」とSTEP1で作成した「ペルソナ情報の入力」を行い、GPTsやGEMに回答させます。
【1. 振る舞いの指示】
インタビュイーとしての行動をプロンプトで指示します。
【2. ペルソナ情報の入力】
ペルソナ情報を(複数名いる場合は人数分を)プロンプトに記載します。
指示には文字数制限(1,500〜2,000文字程度)があるので、ペルソナの情報を細かくしすぎたり、人数を多くしすぎたりしないように注意してください。
<プロンプト例>
#役割と目標
-あなたは○○○○○○のユーザーです。
-インタビュアーからの質問に対し、○○○○○○のペルソナのユーザーとして、率直かつフレンドリーにそれぞれ回答してください。
-回答は、あたかも実際にこれらのセキュリティアプリを使用している個人の経験に基づいているようにしてください。
#情報元
-下記の各URLから事前に情報を取得して回答に利用してください。
https://www.xxxxxx.com
https://www.xxxxxx.com
#行動規範
1) インタビューへの対応:
a) インタビュアーの質問を注意深く聞き、理解してください。
b) 質問に対して、あなたの個人的な意見や経験に基づいた回答をしてください。
c) 回答は簡潔かつ分かりやすく、専門用語は避けてください。
d) 必要に応じて、使用感や評価、改善点などを具体的に述べてください。
e) 列挙された主な製品の中から、あたかも実際に使用したことがあるかのように言及しても構いません。
f) 会話の流れに応じて、適切な回答をしてください。
###ペルソナの基本情報
-名前:佐藤 翔太(さとう しょうた)
-年齢:34歳
-性別:男性
-職業:製薬会社MR(内科・循環器領域担当)
-家族構成:妻と子ども1人(3歳)、両親は別居
-居住地:東京都内(通勤は電車で30分)
###ペルソナの内面情報
-ペインポイント:医師からの問い合わせに迅速かつ正確に答えるプレッシャー、膨大な論文やガイドラインの把握に追われる日々、手作業の資料作成や事務作業に時間を取られること
-ゴール:医師からの信頼を維持・向上すること、最新情報を即座に整理・提供し、対話の質を最大化する、事務作業を最小化し、医師対応の時間を増やす
-価値観:「情報の鮮度と即応性=信頼」、デジタルツールやAIの活用による効率化重視、医師との対話の“質”を最優先
-情報源とタッチポイント:学会発表、論文データベース(PubMed、J-Stageなど)、社内学術資料・社内研修・社内共有チャット、タブレット・スマホ・ノートPCなどデジタル端末、医師向けWebセミナーやオンライン学術説明会
-行動パターン:朝の通勤時間に論文やガイドラインを確認、説明会や訪問の合間にタブレットで資料作成、 医師からの質問には、AIによる文献要約や資料構成支援ツールを駆使して即応、午後は医師訪問やオンライン相談に集中し、効率的に対応
【作成ポイント】
作業の前に初期設計で気をつけることや、クライアントに前提として説明しておいた方が良い情報もあります。以下の2点を把握しておくとペルソナ作成がスムーズに実施できます。
■紐づける「知識」について
正確なペルソナを作成するため、ユーザーコメントを収集した未加工のスプレッドシートを「知識」として紐づけたものの、以下のような課題が発生しました。
・データが多すぎるため、反応が遅くなってしまった。
・古い情報を拾ってしてしまい、回答が陳腐化してしまった。
そこで、GPTsの「知識」機能をあえて使わず、スプレッドシートの内容(ユーザーコメント)を整理・要約し、直接プロンプトの中に指示として書き込んで対策しました。これによって情報の鮮度が保たれ、動作も軽快になり、より的確な回答を得ることができました。
項目にあるからと無理して「知識」などの設定を紐づけて使う必要はなく、本質的に目指すゴールからやるべきことを逆算して進めた方が良い結果になります。
■回答精度について
クライアントから必ず質問が出る「回答精度はどの程度なのか?」という点については、前提として先方にもインプットしておくべきポイントがあります。
例えば、以下のような点です。
・導入事例が少ないためデータ的にも発展途上であること
・回答生成AIによる「回答精度」が何なのかを定義しないと比較が難しい
・精度を出すために実調査との比較が必要で調査研究コストがかかる
また、回答精度の目安になるAIペルソナの実験が海外で行われていました。
これは、スタンフォード大学とGoogle DeepMindが、人間にインタビューした回答とデータセットを取り込んだAIペルソナの回答の比較実験で、この実験では多様な背景を持つ1,052人を対象にAIインタビュアーによる2時間の音声対話を実施し、約85%の精度で個性を模倣できることが示されたという結果が出ています(※)。
<人間自身が2週間後に同じ質問に再回答した際の一致度を100%と定義した場合>
グループ1:リッチな質的データ/2時間のインタビュー記録を基盤としたAIペルソナ(85%)
グループ2:人口統計情報のみ/年齢や性別などのデモグラフィック情報のみを基盤としたAIペルソナ(70%)
グループ3:短い自己記述/本人が書いた短い自己紹介文のみを基盤としたAIペルソナ(70%)
この実験結果を踏まえると、今回、AIのみで生成したペルソナの回答精度は、現状では50〜70%程度と予測するのが現実的と思われます。つまり、「回答精度85%」を目指してコストをかける価値があるのか、「60%前後」で十分かは、インタビューの目的やデータへの影響度に応じて検討する必要があります。
(※)参考:Ledge.ai「AIが2時間の対話で人格を再現:スタンフォード大学とGoogle DeepMindの挑戦」
生成AIで患者行動や受療プロセスの理解に新しいアプローチを!

製品やサービス開発において患者や医師(医療従事者)の理解は重要です。しかし、UXインタビューを実施するたびに毎回ゼロから設計し直すのは時間とコストの負担が重く、製薬企業の方にとって大きな課題になります。
さらに、医療・製薬業界ではさまざまな制約があり、回答精度と投入コストのバランスを見極めつつ、効率的にインタビュー運用をすることが求められます。そのため、ご紹介したような生成AIを取り入れる方法も有効な手段です。ペイシェントジャーニー・ドクタージャーニー上の感情の変化などの思考プロセスを、“再現可能な形で残せる”生成AIで支援してみてはいかがでしょうか。
また、生成AIの導入や活用に興味はあるものの、技術を効果的に活用できる人材が確保できない企業さま、AIの結果の検証や信頼性、セキュリティに対する不安があるという企業さまもいらっしゃるかもしれません。MMは医療・製薬・ヘルスケア業界に特化した生成AIの導入・運用支援を行っておりますので、自社業務で生成AIを活用したいご担当者さまはお気軽にお問い合わせください。
※生成AIに関する業務改善事例・インタビュー記事はこちらでもご紹介しています。
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この記事の担当者

加藤 美羽 / Kato Miu
職種: Webディレクター
入社年:2023年
経歴:2023年新卒入社後、Webinar運用案件→ イベント事務局運用案件に従事。
