
急速な少子高齢化に伴う調剤需要の拡大と、物価高騰下での食品部門の躍進を背景に成長を続けるドラッグストア・薬局業界。本記事では、各社の戦略分析や生き残りの鍵となる「医療DX」の具体策、次世代が暮らす地域のヘルスケア拠点へと進化を遂げるための経営戦略のヒントをお届けします。
薬局・ドラッグストア市場、2026年の現在地は?
私たちの生活になくてはならない存在の薬局やドラッグストア。近年は、調剤薬局の併設、化粧品・食品販売などを行う店舗が増え、機能にも変化が見られるようになってきました。
そして、2026年現在、薬局・ドラッグストア市場は大きな転換期を迎えています。日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)の「2025 年の締めくくりと2026 年 年頭所感等について」にて、ドラッグストア実態調査で2025年の売上高が前年よりも大きな伸びを記録し、念願の10兆円を突破したことに触れ、2030 年までに業界売上高 13 兆円、店舗数 35,000店へ到達することを新たな目標に掲げています。
この急成長の背景には、少子高齢化に伴う調剤需要の拡大と、物価高騰を背景とした食品部門の飛躍的な成長があるとみられています。特に、コンビニエンスストアやスーパーのように食品を置く店舗は標準的になりつつあり、この数年のインフレ率も考慮すると成長の鍵を握る店舗形態といえます。
今回は、さらなる集約化が進み、機能拡大のフェーズへと突入した薬局・ドラッグストア業界に焦点を当て、差別化戦略から新興勢力の最新サービス、DXトレンドを追っていきます。
(※)参考:一般社団法人日本チェーンドラッグストア協会「2025 年の締めくくりと2026 年 年頭所感等について」
主要各社のサービスや戦略と経営統合の動向
ドラッグストアグループの経営統合は、ニュースでも耳にすることが多いトピックです。統合後の各社のサービス・戦略の方向性なども含めて調査しましたので、業界動向とともに、企業の立ち位置、関係性を把握していきましょう。
【イオングループによる「ドラッグストア連合体」の創成】
昨年、イオン株式会社を中心としたウエルシアホールディングスとツルハホールディングス、ウエルシアホールディングスの統合は注目を集めたニュースでした。
改めて統合プロセスを振り返ると、2025年4月11日にイオン株式会社がツルハHDに対する公開買付け(TOB)の開始予定を公表し、ツルハHDを連結子会社化し、並行してウエルシアHDとツルハHDの間で株式交換が行われ、同一の経営理念のもとに統合されました。これによって3社は「日本最大のドラッグストア連合体」としての地位を確立。物流、調達、デジタルプラットフォームの共通化が進められています。
■戦略的特徴
ウエルシアHDは、調剤併設型の「ウエルシアモデル」を全国展開し、深夜営業や調剤サービスを通じた地域インフラとしての機能を強化してきました。一方、ツルハHDは強力なドミナント戦略と店舗運営能力を持ち、北日本や東日本で高いシェアを維持しています。そして、昨年の統合によって日本最大のドラッグストアチェーンとして圧倒的に市場を占有し、それぞれのサービスモデルを取り入れたグループ全体での「トータルヘルスケア」の実現を目指しています。
■統合によるシナジー
統合によって仕入れ力の強化や物流網の一本化が可能になり、輸送コストや在庫ロスを削減できるだけでなく、自社ブランド(PB)の低コスト・大量生産も実現しやすくなりました。現在のようなインフレ環境下においては、こうした効率化が値上げ幅の抑制につながり、価格競争力の維持・強化に直結します。
さらに重要なのは、イオンのポイント経済圏を通じて蓄積される購買データと、ドラッグストアの調剤データを統合・活用することで、ヘルスケアサービスそのものを進化させられるという点です。
※参考:イオン株式会社「イオン株式会社、株式会社ツルハホールディングス及びウエルシアホールディングス株式会社による資本業務提携に係る最終契約締結に関するお知らせ」
【マツキヨココカラ&カンパニーの収益性重視とプラットフォーム戦略】
2021年、旧マツモトキヨシホールディングスとココカラファインの経営統合を機に、マツキヨココカラ&カンパニーは、業界でも際立った高収益体質へと進化しました。2025年3月期には営業利益率7.7%、ROE10.6%を達成して中期経営目標を1年前倒しでクリアし、統合による効果を実績で証明しています。
■2031年へ向けた新中期経営目標
新たな中期経営計画において、売上高1兆3,000億円という目標を掲げました。この数字にはM&Aなどの外部成長を含めず、自力でどこまで伸びるか(オーガニックグロース)として設定しています。これまでのドラッグストア業界は、統合や買収による規模の拡大競争が中心でしたが、あえて本業そのものの成長力を可視化する方針へと舵を切ったことを示しています。
■KPIの高度化
新中期経営目標では、KPI(重要業績評価指標)も10%以上から12%以上へ、さらに、本業でどれだけ効率的にキャッシュを生み出しているかを測るEBITDAマージンも13%以上という高水準が掲げられました。これは、資本を使ってどれだけ効率よく利益を生み出せるか、全力で取り組む企業姿勢の表れといえます。さらに、配当性向50%、DOE(純資産配当率)6%という、株主還元方針も明確にし、投資対象としての企業の魅力を具体的に打ち出しています。
■プラットフォームビジネスの深化
競争力の中核にあるのが、1.5億人規模の顧客接点を基盤としたプラットフォーム戦略です。ドラッグストア、調剤薬局、ECを横断的に連携させ、顧客の購買や健康データをつなぎ、単なる物販にとどまらない価値を生み出すべく取り組んでいます。これは、LTV(顧客生涯価値)を最大化することを目的とし、一度の買い物で終わらせず「美容・健康」を横断し、長く関係を持つことで収益性と顧客体験の両方を高めていく戦略です。
※参考:株式会社マツキヨココカラ&カンパニー「中期経営計画(2026 年3月期~2031 年3月期)策定に関するお知らせ」
【スギホールディングスのトータルヘルスケア戦略と海外展開】
スギホールディングスは、大規模な経営統合による規模拡大には踏み込まず、調剤や医療DXの対応を軸に独自の「トータルヘルスケア戦略」を推進している薬局・ドラッグストアチェーンです。単なる小売業から、地域住民の予防、治療、介護を一貫して支えるライフパートナーへの進化を図っています。
■地域ネットワークの拡大
調剤薬局の枠を超え、企業、行政、医療機関との連携を強化し、地域内でのヘルスケアネットワークを構築し、「地域の健康拠点」としての役割を担う拠点を増やしています。処方箋対応にとどまらない、生活習慣の改善提案や未病対策まで担う体制を整え、“病気になる前から関わる場所”へと機能を拡張しているのが特徴です。
■アジア市場への進出
スギ薬局グループの「トータルヘルスケア戦略」の考え方は、日本国内にとどまらず、アジア市場においても現地企業と提携し、店舗運営やサービスのノウハウを展開しています。高齢化や生活習慣病の増加といった課題はアジア諸国でも共通しており、日本で培ったモデルがそのまま応用可能な領域であることを利用し、「健康を支える仕組み」そのものを輸出しています。
■DXによる業務支援
薬剤師が患者と向き合う時間を最大化できる体制を構築するために、バックヤード業務をデジタル化することで、業務の効率化を徹底しています。DXは単なる効率化ではなく、服薬指導の質の向上、継続的な健康サポート、信頼関係の構築といった“医療の質”に直結する取り組みとして、薬剤師の価値を対人業務に集中させています。
※参考:スギホールディングス株式会社「マネジメントメッセージ」
【コスモス薬品の独自路線と食品特化戦略】
コスモス薬局は、他のドラッグストアとは異なる競争軸を形成しています。徹底した低価格と食品比率の引き上げによる集客モデルを利用し、一貫して「自前で成長する」戦略を貫いています。あえて“医療”ではなく、“日常の買い物”を入り口とした、来店頻度そのものを高めるビジネスモデルが強みです。
■小商圏ドミナント
都市部ではなく郊外・地方でも成立する、生活圏密着型の出店がコスモス薬局の特徴です。人口密度の低いエリアでも成立する小商圏型の店舗を一定エリアに集中して出店し、近くに必ずある店(地域インフラ)としてのポジションを確立しています。
■食品による集客
あえて利益率の低い食品を前面に出し、顧客に「安いから行ってみよう」と思わせる導線設計で集客しています。そして、来店した顧客が食品以外の医薬品、化粧品、日用品などを一緒に購入することによって、利益を確保できる構造です。食品は頻繁に購入されるため、顧客を呼び込む装置として機能させる戦略を取り入れています。
■効率的な運営
この低価格を支えているのが、徹底した効率化による運営です。特売やポイントカードの廃止、作業の単純化・省力化、無駄を削ぎ落としたオペレーションによって販管費を極限まで抑制しています。利益を削って安くするスタイルではなく、コストを下げて安くするという、持続可能な価格競争力を実現しています。
※参考:株式会社コスモス薬品「企業戦略」
新興薬局チェーンのサービスと戦略を分析
大手ドラッグストアが店舗網や規模で競争する一方で、新興プレイヤーはまったく異なるアプローチを取っています。
以下の事例では、薬局を「行く場所」としてではなく、処方から受け取りまでの「一連の体験(サービスプロセス)」として再設計し、デジタル技術と物流を組み合わせることで、薬局の機能は物理的な制約から解放されつつあります。
【おかぴファーマシーシステム:「とどくすり」による物流改革】
■サービスの仕組み
おかぴファーマシーシステムが展開する「とどくすり」は、薬局体験そのものを再設計したサービスです。
患者が医療機関を受診後、処方箋をスマートフォンで撮影・送信し、その後は、オンラインで服薬指導、自宅や指定場所で薬を受け取れるため、来店不要の“フルオンライン調剤体験”が可能です。
■駅ナカ受取サービス
1月に、駅ロッカーでの受け取りサービスがリリースされました。JR東日本と連携し、山手線を中心とした駅に設置されたロッカーで薬を受け取れるため、ビジネスパーソンなどが「通勤のついでに受け取る」ことを可能にしたものです。忙しくて薬局に行けず、薬の受け取りを後回しにしてしまうという課題を解消し、服薬の継続率(アドヒアランス)向上にもつながる取り組みです。
■利用料金と利便性
「とどくすり」の特徴は、利用するためのハードルを徹底的に下げる設計をしている点にあります。患者側の利用料金は基本的に通常の調剤代金のみで、配送料やシステム利用料は無料(全国一律)です。支払方法もクレジットカード、コンビニ払いなど複数の選択肢から選べるため、幅広い層の患者が利用可能なサービスになっています。
※参考:TOPPANホールディングス株式会社「JR東日本スマートロジスティクス・おかぴファーマシー、JR山手線29駅のロッカーで処方せん薬の受け取りサービスを開始」
薬局DXの最新動向と先進事例

上記の事例などからも感じ取れるように、現在の薬局DXは単なるペーパーレス化を超え、AI、ロボティクス、クラウドネットワークが統合された「スマート薬局」へと進化し始めています。これは、薬剤師の調剤・入力・在庫管理などの業務を自動化し、対人業務(指導・フォロー・健康相談)の価値を最大化することへシフトしているということです。
以下から薬局DXの事例と、主な機能の特徴を紹介します。
【Medicalyours:調剤ロボティクスによる現場革新】
株式会社メディカルユアーズは、物理的な調剤業務を自動化する革新的なソリューションを提供しています。物理作業の自動化に特化し、デジタルだけでなくロボティクスを組み合わせることで、現場そのものを変革しています。
■調剤ロボット「RIEDL Phasys(リードル・ファシス)」
「RIEDL Phasys」は、世界唯一の完全モジュール型調剤ロボットです。主要パーツをモジュール化しているため、故障時は修理ではなく、ユニット交換で即復旧ができます。薬局運営におけるBCP(事業継続性)を担保し、医療現場で重要とされる、止めない仕組みをハード設計で実現しています。
■フィジカルAIによる全自動化
AIが画像認識・形状解析で薬剤を識別し、入庫・在庫・出庫を完全自動化。1箱あたり約5秒という、世界最速クラスのピッキング性能で待ち時間と人為ミスを同時に削減しています。
■電子処方箋との連動で来局前調剤を可能に
医師が発行した処方データをクラウド経由でロボットに直接送り、来局前に調剤を開始するシステムを開発しています。特許(第7262108号)を取得し、薬局を「待つ場所」から「すぐ受け取れる場所」へと転換しています。
【9Lione:クラウド医薬品管理のスタンダード】
9Lione株式会社が提供する「9Lione」は、アナログに依存してきた薬局の在庫管理をクラウド化し、経験と勘から、データドリブンへと転換するための基盤となるサービスです。
■OCR読取による在庫自動更新
スマートフォンで処方箋を撮影するだけで、薬剤名や数量を自動で読み取り、在庫に反映できます。手書き処方箋にも対応したOCR(光学文字認識技術)により、入力作業を大幅に削減しつつ、ヒューマンエラーの防止、リアルタイムの在庫把握ができます。
■AIによる需要予測と発注最適化
過去の処方データや医師ごとの傾向、来局タイミングなどを分析し、AIが最適な発注量を提示します。過剰在庫を抑えながら欠品リスクも低減し、在庫ロスと機会損失の両方を同時にコントロールできる仕組みを構築しています。
■店舗間・地域連携による在庫流通の円滑化
自社店舗間にとどまらず、近隣薬局との在庫融通をデータ上で可視化・管理できます。必要な医薬品を地域内で融通し合うことで個別最適ではなく、地域全体での在庫最適化を実現し、医薬品ロスの削減にも貢献する仕組みです。
※参考:株式会社9lioneクラウド医薬品管理システム「9lione ( クリオネ )」
【株式会社イヤクル:不動在庫の有効活用と経営改善】
医薬品ロスは薬局経営において死活問題ですが、株式会社イヤクルは、その問題を解決する「薬局専用マッチングアプリ」を提供しています。
■在庫をつなぐプラットフォーム
「余っている薬」と「足りない薬」をマッチングし、在庫を循環資産に変える発想で薬局間において不要になった不動在庫(デッドストック)を簡便に売買できるシステムです。薬局情報の審査や開設許可証の管理により、法的安全性も担保し、全国の薬局間で在庫を融通し合うマーケットが形成できます。
■デッドストックをキャッシュに変える
廃棄予定だったデッドストックを売却すれば、小規模薬局でも資金繰りの改善が可能です。また、医薬品ロスの削減は、社会的な医療費抑制にも貢献する取り組みです。
※参考:株式会社イヤクル
【株式会社シルバコンパス:ピッキング支援による“対物業務の標準化”】
医療・介護分野の業務支援サービス事業などを手掛けるシルバコンパスは、薬剤師が本来業務に集中できる環境を作ることを目的に、ピッキング支援システムを開発しました。
■ピッキング支援(PickingCompass)
PickingCompassは、薬剤名とともに該当する医薬品の写真や棚の位置を画面に表示し、最短ルートでのピッキングをナビゲートするシステムです。経験の浅いスタッフでも指示通りに動くだけで正確な作業が可能となり、ヒューマンエラーの削減と教育コストの低減を実現します。調剤補助員の活用を前提とした設計で、薬剤師の対物業務負担を軽減し、服薬指導などの付加価値業務へのシフトを促進します。
※参考:株式会社シルバコンパス
※参考:メディカルサポネット「驚きのコストパフォーマンスで薬局のピッキング作業を支援 調剤業務の効率を上げる「シルバコンパス」とは?
【株式会社MG-DX:患者接点のDXによる“薬局体験の再設計”】
医療AIカンパニーのMG-DXは、処方箋の事前送信やオンライン服薬指導など、薬局での体験をより便利にするための多様な機能を提供するサービス「薬急便」を提供しています。
■AI自動受付
調剤薬局を展開する日本調剤株式会社にて、薬局特化型の接客AIエージェント「薬急便 遠隔接客AIアシスタント」の提供が開始されました。これによって来局時の受付業務をAIが代替し、患者はタブレットやスマートフォンを通じて問診・受付を完結できます。受付作業を自動化することで待ち時間が短縮され、入力内容の標準化・データ化が実現されるため、薬剤師は事務作業から解放され、服薬指導や相談対応に集中できる環境が整います。取得したデータはそのまま薬歴やCRM(顧客管理システム)に連携し、継続的な患者フォローに活用することができます。
※参考:株式会社MG-DX「薬急便」
※参考:株式会社MG-DX「薬局特化型の接客AIエージェント「薬急便 遠隔接客AIアシスタント」、 日本調剤へ提供開始」
薬局・ドラスト業界は「サービスの再設計」と「DX」が同時に進む競争時代!

多くの薬局・ドラッグストアが、従来の「薬を売る場所」から、デジタルの力を活用した「地域のヘルスケアインフラ」へと進化しつつあります。
ご紹介したように、業界では規模拡大だけでなく機能の高度化やサービスの再設計が進んでいます。調剤業務の自動化、在庫管理の最適化、オンライン服薬指導といった薬局DXの取り組みは、今後需要が高まる在宅医療や予防医療といった領域への対応力を左右する重要な要素となっています。
この競争を勝ち抜くためには、先進事例をヒントに、自社の強みとデジタル技術を掛け合わせ、「どの領域で価値を提供するのか」を明確にすることが不可欠です。特に、対人業務の高度化や地域連携の強化は、今後の成長の鍵となるでしょう。
一方で、薬局DXの推進においては、デジタル人材の不足、ツール導入後の現場定着といった課題も少なくありません。メンバーズメディカルマーケティングカンパニーでは、医療・製薬・ヘルスケア業界に特化した専門人材が、DX戦略の立案から現場への定着支援までを一貫してサポートしています。
DX推進や生成AI活用に関するお悩みがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
この記事の担当者

丹羽 絢咲 / Niwa Ayana
職種: Webディレクター
入社年:2024年
経歴:2024年新卒入社後、Webinar運用案件→ イベント事務局運用案件に従事。
