【独自視点】2025年下半期 医療・製薬業界AIニュースまとめ

製薬

公開日:2025.12.10
更新日:2025.12.09

2025年 下半期 MM独自の視点で医療・製薬業界のAIに関するニュースをご紹介! AI活用は単発の施策から領域横断的な活用へ

2025年下半期の医療・製薬業界の「AIに関するニュース」を独自視点でご紹介します。診断・治療支援など医療機関の業務効率化や創薬で製薬市場を支えるAIが、下半期に業界にもたらした変化や動きをまとめました。注目記事をピックアップしましたので、業界のAI活用の動向リサーチにお役立てください。

AIは医療のバリューチェーン全体への実装へ

2025年下半期の医療・製薬業界のAI活用に関するニュースを独自視点で紹介していきます。 
業界のAI関連の話題はさまざまな領域へ展開され、政策面ではデジタル庁による病院情報システム刷新プロジェクトが前進し、医療機関でAIを使うための土台づくりも加速しています。さらに、病院経営改善のためのAIコマンドセンター、自治体の保健師業務を支える生成AI基盤、AIエージェントを取り入れた創薬プラットフォーム、AIによる服薬指導提案機能の実装などのニュースがありました。AI 活用が単発の施策から領域横断的な活用へ広がり、医療のバリューチェーン全体でAIが実装され始めていることが感じ取れた半年でした。 
政策から現場での導入事例も含め、AI活用の下半期の動きを振り返っていきます。 

2025年下半期注目のニューストピック!

注目のトピック

全体動向

医療・製薬ともにAI活用が期待されています。マーケット調査会社の富士経済が2035年には医療および製薬DX市場が1.3兆円規模に成長すると予測していますが、これをけん引するのがAI創薬とされています。 
創薬支援システムの分野では、2024年比57.1倍の2000億円と急伸の予測が出ており、AIを使うことで研究費や施設規模に依存せず創薬できる点が支持され、企業規模を問わず製薬企業の導入が広がっているとのこと。 

昨年、厚生労働省が発表した「医療DXの更なる推進について」にて、生成AI等の医療分野への活用促進が明記されていましたが、デジタル庁は9月に病院情報システム刷新の一環として、生成AIなど先進技術の利活用を議論する「分科会C」の設置に向け、構成員の追加募集を開始しました。この分科会に参加することで、企業は自社サービスを行政が示す標準仕様と整合させやすくなり、結果として医療機関への導入障壁を下げられることが期待されます。つまり、医療機関向けAIサービスを提供する企業にとって分科会は、医療DX市場のルールメイキングに関わりながら、市場を形成する側に回れる貴重なタイミングになります。 

また、健康寿命の延伸が社会課題となっていますが、自治体の予防医療への取り組みも活発化しています。そんな中、地域住民の健康増進や疾病予防を目的として保健指導を行う保健師も人手不足のため、デジタル活用も含めた業務効率化が急務になっていました。そこで、日立システムズ、神奈川県、医療機器プログラムを開発するメドミライ、東京大学の産学公で連携し、生成AIを活用したヘルスケア分析基盤を構築。人手不足や属人化に悩む保健師に対して生成AIを用いた分析基盤でサポートし、約100万件のRWD(リアルワールドデータ)を基に、一人ひとりに合わせた保健指導で健康寿命延伸や医療費の抑制に貢献しています。

こうしたAIによる分析などでデータ利活用が広がっていますが、セキュリティ対策も重要な取り組みです。特に、医療・ヘルスケア分野はセンシティブな情報を扱うため、対策の強化は不可欠なテーマとなっています。11月には、一般社団法人Health ISAC Japanと医療AIプラットフォーム技術研究組合が協業を開始しました。これは、医療・ヘルスケア分野のサイバーセキュリティ対策として、情報資産に対するリスクを特定・分析・評価するセキュリティアセスメントや医療機関に向けた教育や啓発活動で安全安心な医療AIの普及、発展を目指していくという取り組みです。業界全体がAIの恩恵を享受するには、技術革新と同時に安全性を高める施策も並行して行う必要があります。 

※参考:MONOist「医療および製薬DX市場は2035年に1.3兆円規模へ、AI創薬が急成長のけん引役に」 
※参考:厚生労働省「医療DXの更なる推進について」 
※参考:デジタル庁「病院情報システム等の刷新に向けて、協議会の構成員の追加募集を開始しました」 
※参考:Health ISAC Japan「Health ISAC Japanと医療AIプラットフォーム技術研究組合が医療・ヘルスケア分野のサイバーセキュリティ対策の推進で協業を開始」 

医療系

診断や経営支援、プラットフォーム活用、さまざまな領域でのAI活用が目立ちましたが、これらはDX施策の一環で導入されたAI搭載のシステムの効果が表れ始めているといえます。また、これまでにない新たな領域で展開され始めるものもあり、多くの事例が発表されています。

■診断 
受付や接客などAIが代替する業務は他の業界でも拡大していますが、医療機関が患者対応そのものをAIで高度化する事例も登場しています。 

医療AI開発などを手掛ける株式会社fcuroの、全身検索型画像診断AI「ERATS」の臨床効果検証が9月に大阪急性期・総合医療センターでスタートしています。救急救命の現場では現状、患者の出血などの状態を知るために撮影されるCT画像を医師が1枚ずつ目視で読影しなければなりませんが、「ERATS」は、全身CT画像を瞬時に解析し、10秒以内に病変個所を抽出することで医師のCT診断を支援できるとのこと。世界初の人と AI のハイブリッドな外傷救命の効果検証ということで注目を集めています。 

また、医薬基盤・健康・栄養研究所と大阪国際がんセンターと日本アイ・ビー・エムは、10月に「生成AIを活用した患者還元型・臨床指向型の循環システム(AI創薬プラットフォーム事業)」の研究成果として、「問診生成AI」及び「看護音声入力生成AI」の開発が完了し、本年9月から実運用を開始したことを発表しました。この背景には、がんの医療の高度化に伴って看護師の看護業務が激増していることもあり、特に業務の中で記録に費やす時間は、看護師一人あたり1日平均94分(勤務時間の約20%)と報告されており、こういった看護業務の課題を受けて実運用が開始されています。 

これらは、AIが医療従事者の判断や診断、記録をサポートすることで業務効率が上がり、患者へ提供する医療の質を引き上げている事例です。 

※参考:株式会社fcuro「世界初の”人とAIのHybrid”による外傷救命の効果検証!〜大阪急性期・総合医療センターにて全身検索型画像診断AI『ERATS』の臨床効果検証がスタートしました」 
※参考:地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪国際がんセンター「「AI創薬プラットフォーム事業」の共同研究において、患者に寄り添う医療のための問診生成AIおよび看護音声入力生成AIの実運用を開始」 

■経営・稼働最適化 
病院の経営・運用もAIで最適化する事例が出ていました。 
富士通は、電子カルテシステム開発などを通じて培った業務ノウハウを生かし、「Fujitsu Data Intelligence PaaS」を活用した病院経営ソリューションを開発しました。持続可能な病院経営に向け、長崎県壱岐市の社会医療法人 玄州会の病院にて、AIを活用し収益性改善と経営高度化を推進するための実証プロジェクトを7月から9月まで実施。AIとデジタル技術を活用し、収益性を維持するための経営資源の効率的な配置を支援し、施設基準を遵守しつつ診療報酬の返戻による損失を削減することで年間約10%の収入増が見込め、安定した医療を提供できる基盤を整備しました。 

また、GEヘルスケアが開発した「コマンドセンター」を導入した京都医療センターは、11月にその効果を発表しています。「コマンドセンター」は、病院内の多種多様なデータを包括的に解析、分析することで患者フローに関わるオペレーション全体を把握し、最適化するソリューションであり、病院全体の可視化・リアルタイム最適化を実現します。医業収支が46%改善、看護部門の残業時間を40%削減、救急搬送からの入院患者数が13%増加など、主要な指標において前年を上回る成果を上げることが実証されています。 

病院経営ソリューション、指令塔システムなどでAI活用による稼働率向上、経営改善へ大きなインパクトが出ていることが判明しています。 

※参考:富士通株式会社「長崎県壱岐市の地域医療を担う玄州会様において、持続可能な病院経営をAIにより支援する実証プロジェクトを実施」 
※参考:GEヘルスケア・ジャパン株式会社「京都医療センター、GEヘルスケア・ジャパン 国立病院機構初となるコマンドセンターの導入成果を発表」 

■プラットフォーム 
医療機関や介護施設、関連企業などが連携し、データや資源を共有することで医療の質の向上を目指す「医療エコシステム」の効率化、共通基盤化を狙う事例も出ていました。 

9月は、メドレーから、医療プラットフォーム事業で展開しているプロダクト群をブランドリニューアルし、次世代医療プラットフォーム「MEDLEY AI CLOUD」として提供を開始しています。各プロダクト間のさらなる連携や患者体験の向上を目的としたもので、各領域の医療機関が患者・生活者とひとつにつながるAI機能を搭載したプラットフォームです。 

11月には、医薬品卸大手スズケンの連結子会社であるコラボスクエアと、医療 AI プラットフォーム技術研究組合HAIP、医療AIプラットフォームサービス事業基盤の運営を手掛けるAIHOBSは、医療・介護分野における生成 AI の安全かつ効果的な利活用促進に向けた基本合意書を締結しました。これまで3社は、医療現場で課題となってきたAI利用時のセキュリティ対策や運用負荷の高さなどへ個別に対応してきましたが、今回の協業により、より安全で実装しやすい共通プラットフォームの整備を目指します。医療・介護領域で安心して使えるDX基盤を業界横断でつくろうとする取り組みであり、今後のAI実装に関連する動きとして注目されています。 

医療提供体制の維持などをはじめとしたさまざまな医療の課題に絡み、医療機関単体ではなく、産業全体の横断連携やプラットフォーム戦略が増加している様子が感じられました。 

※参考:株式会社メドレー「メドレー、医療プラットフォーム事業のプロダクト群を束ね 「MEDLEY AI CLOUD」としてブランドリニューアル」 
※参考:株式会社スズケン「スズケングループと医療AIプラットフォーム技術研究組合、AIHOBS 医療・介護向け生成AIの利活用促進に向けた基本合意書を締結」 

製薬系

製薬業界でもAI活用が単なる施策から、業務プロセス全体へと広がっていました。製薬バリューチェーン全体でAIが組み込まれ始めている様子が伝わるニュースをピックアップします。

AI活用が製薬業界における次世代イノベーションの鍵として注目を集めているのが、10月に発表された第一三共がAmazon Web Servicesと協働し、「AIエージェント統合型創薬基盤」構築プロジェクトを開始したニュースです。第一三共は現在、AI・クラウド技術を実験自動化技術と融合した次世代の創薬研究プロセスを段階的に構築しており、2026年の運用開始を目指しているとのこと。近年、AI創薬は政策的にも支援が厚い領域のため、こうした大手企業の参入が市場全体の加速に繋がると見られます。 

また、医薬品供給の不確実性が高まる中、武田薬品が製造・供給部門で「AI需要予測」を本格運用し始めたというニュースもありました。日本の製造・供給部門において、AIを活用した高精度な予測に基づく在庫の最適化は、安定供給の強化とともに、有効期限切れによる製造済み医薬品廃棄の削減やキャッシュフローの改善といった、環境・財務面での効果も期待できます。 

そして、患者に最も近い領域のAI活用では、PHCホールディングス傘下のウィーメックスの「生成AIによる服薬指導提案機能」の開発がありました。薬剤師が服薬指導を行う際に患者さんに伝えるべき内容や注意点を自動で提案することで、服薬指導のクオリティ向上と薬局業務の効率化に貢献するというものです。 

2025年下半期の製薬業界は、創薬~ 製造・供給~服薬指導まで、薬が患者へ届くプロセス全体へのAI活用が実感できた半年だったといえます。 

※参考:Amazon Web Services「第一三共、AWSと連携しAIエージェント統合型創薬基盤の構築を開始 ー AI・クラウド・実験自動化技術の融合で次世代創薬研究プロセスを実現」 
※参考:武田薬品工業株式会社「医薬品の安定供給の強化を見据えた製造・供給部門におけるAI需要予測の開始について」 
※参考:PR TIMES「薬局業務支援の新機能「生成AIによる服薬指導提案機能」を今秋より一部の提携薬局向けにモニター提供開始」 

実装フェーズへ進む医療・製薬のAI!

2025年下半期の製薬業界は、薬が患者へ届くプロセス全体へのAI活用が実感できた半年 医療・製薬のAIは実装フェーズへ進む!

下半期は、業界での生成AIの使用が点から面へと広がり、活用の幅を広げていることが感じられました。 
医療・製薬企業とAI系企業での協働や行政の関与も含め、これまで別々に存在していた取り組みが連携することで、より大きな価値を生む可能性があります。生成AIが医療や創薬のプロセスをどこまで最適化できるのか、私たちも引き続き注視していきます。みなさまも自社のどのような領域でAI活用ができるのか、今回のまとめを参考に検討してみてはいかがでしょうか。 

メンバーズメディカルマーケティングカンパニーでは、医療・製薬・ヘルスケア業界に特化した生成AIの導入・運用支援を行っております。生成AIに関するお悩みをお持ちの企業さまはお気軽にお問い合わせください。 

この記事の担当者

この記事の担当者 内海 篤人

内海 篤人/Uchiumi Atsuto
職種:プロデューサー
入社年:2023年
経歴:Web業界(企画・ディレクター)→ゲーム業界(プランナー・カスタマサポート)→ヘルステック企業(カスタマーサクセス・事業責任者)に従事

カテゴリー