
2025年下半期の医療・製薬のニュースを独自視点でご紹介します。下半期も制度改革や薬価引き下げなど、製薬企業・医療機関の双方に影響を与える出来事が目立ちましたが、私たち独自の視点で医療・製薬関連のトピックから、いくつかのカテゴリーに分けて注目記事をピックアップしました。業界の動向リサーチにお役立てください。
政策・制度の構造変化の影響が感じられた下半期!
2025年下半期の医療・製薬業界に関連するニュースを独自視点で紹介していきます。
下半期も医療・製薬業界には多くの変化が生じ、制度改革や政策の不確実性が高まる中、医療機関や製薬企業にはこれまで以上に戦略的な対応が求められています。
特に、薬価制度の見直しについては、長期収載品を対象とする選定療養における患者負担(価格差)の扱いや、患者自己負担の引き上げなどが議論となっており、支払い側(保険者)と診療側(医療提供者)との緊張がより鮮明になっています。また、グローバルな話題では米国の関税政策が日本国内の製薬ビジネスにも波及しつつある点にも注目が集まっています。
一方、国内の医療DXの動きは、“単なるデジタル化”から前進し、現場での実用的な取り組みが加速しています。さらに、製薬業界は、創薬+先端医療戦略への投資が追い風となっており、次世代医療基盤法を活用する企業や、AIプラットフォームとの協業など、新しい価値を生み出す産業横断型の取り組みを推進する企業も増加しています。
今回は、このような医療・製薬に関するニュースをテーマ別にご紹介しつつ、重要なポイントを解説します。
※上半期のニュースを合わせてチェックしたい方はこちらから!
【独自視点】2025年上半期 医療・製薬業界ニューストピックまとめ
2025.08.05
2025年上半期の医療・製薬のニュースを独自視点でご紹介します。業界のDXはどのように発展し、医療現場ではどのような新テクノロジーが導入され始めているのでしょうか。電子カルテやAI活用といった話題を始め、制度整備の動きも […]
2025年下半期の注目のニューストピック!

【医薬品政策・制度の構造変化】
下半期は、2026年度薬価制度改革に向けた最終調整時期に入ったことと、2024年10月から導入された「長期収載品を対象とする選定療養」における患者負担(価格差)の扱いが焦点となり、薬価制度改革に関連する議論が一段とヒートアップしました。
11月に行われた中医協総会では、価格差の取り扱いを巡り、保険者側は「後発医薬品との差額全額を患者負担に」と強く主張。一方で診療側は、「薬価制度全体の改革を踏まえた慎重な検討が必要」との立場を崩していません。選定療養における価格差負担の拡大が現実味を帯びており、国民皆保険の中でどこまで価格差を許容するのか、医療を受ける可能性がある国民全員に影響が出てくる制度改革です。これは、長期収載品やジェネリック主体の国内製薬メーカーや医療供給体制、企業経営に広く影響する可能性があります。
また、医薬品の追加関税の話題では、アメリカのトランプ大統領が医薬品の大半に追加関税をかけるべきか数か月にわたり議論してきましたが、「10月1日からアメリカで工場を建設している企業を除き、ブランド品または特許品に対して100%の関税を課す」と発表しました。その後、特許切れの成分を使ったジェネリック医薬品は追加関税の対象外とする方針を示していますが、日本の製薬企業にも影響を及ぼす可能性があり、関係者はとまどいを隠せない状況です。さらにこの大きな政策転換の中で、ファイザーは米国内製造拠点の拡大や価格引き下げを条件に、100%輸入関税の適用対象から少なくとも3年間の猶予を得る形で米政府と合意したと報じられました。大手企業が個別交渉によって回避策を得る一方で、その他の企業にはリスクが残されている状況になっています。
こうした状況を背景に、ドラッグラグ・ドラッグロス問題の再燃が懸念されています。アメリカでの医薬品販売が追加関税によって利益面で不利になると、製薬企業は販売を見送る可能性があり、これが世界的な供給遅延や日本での承認遅れにつながるため、ドラッグロス・ドラッグラグのリスクが高まる構造となっています。加えて、長期収載品の薬価や選定療養の影響によって国内での供給や企業の製品戦略にも影響が及ぶ可能性があり、国際的な政策と国内制度の改定が医薬品アクセスに影響する構造が明らかになってきています。11月に来日した、米国研究製薬工業協会のアルバート・ブーラ会長は、トランプ大統領について「大胆なビジョンを持ち成し遂げる力がある」と評価しつつ、日本の状況には「ドラッグ・ロスと投資の縮小を招いてきた政策を転換し、将来を見据えた方向性のもとで進めるべきだ」と主張しました。
これらの動きは、世界規模での需要と供給のバランス、長期収載品の扱い、患者負担の見直しなど、制度改革の実質的な転換点になり始めていることが感じ取れるニュースです。
※参考:ミクスOnline「中医協総会 長期収載品の選定療養、患者負担引上げで支払側「価格差の全額を」 診療側は薬価改革踏まえ検討を」
※参考:薬読「【米トランプ大統領】10月から医薬品に関税100%~米国で工場建設の企業除外」
※参考:ダイヤモンド・オンライン「トランプ氏、医薬品関税からジェネリックを除外」
※参考:JETRO「トランプ米大統領、ファイザーと薬価引き下げで合意、232条関税の3年間免除も約束」
※参考:ミクスOnline「PhRMA・ブーラ会長「革新的医薬品に対する不均衡の是正を」 特許期間中の薬価維持など日本政府に要請」
【医療・製薬DX】
電子処方箋の成果が明らかになり、DX関連の医療機関のデジタル設備も実効性が見え始めています。
2024年12月18日に社会保障審議会医療部会が了承した、2040年以降の医療提供体制のあり方に関する提言で、新たな地域医療構想や医師偏在対策、医療DXの推進などに触れています。これらに伴った医療DXの実装フェーズの成果として、電子処方箋の導入による重複投薬アラートがあります。
7月に発表された、厚生労働省「医療DXの進捗状況について」によると、電子処方箋の重複投薬アラートが3600万件超に達したという報告が出ています。電子処方箋は、患者の服薬情報が全国で共有され、医師・薬剤師がリアルタイムで確認できるというシステムです。アラートが出たことで薬剤の処方が止まったため、ヒューマンエラー低減という医療DXの本来の目的が果たされ、医療費の削減にも繋がります。これは、DXの有効性を評価される事例であり、このデータは今後の医療DXの政策を後押しする根拠にもなります。
さらに、京都医療センターとGEヘルスケア・ジャパンが発表した病院コマンドセンター導入の成果も11月に発表されていました。4月に導入したコマンドセンターは、病院内のさまざまなデータをリアルタイムで可視化し、院内の多種多様なデータを包括的に解析・分析することで、患者フローに関わる全体のオペレーションを最適化するソリューションです。成果としては、医業収支46%改善、看護部門の残業時間40%削減、救急搬送からの入院患者数13%増加など、飛躍的な効果を上げていました。
また、今後の医療および製薬DX市場予測について、マーケット調査会社の富士経済が2035年には1.3兆円規模に成長するとしました。これは「医療DX令和ビジョン2030」の、2030年までにほぼすべての医療機関で電子カルテを導入するという目標達成に向けた駆け込み需要の影響も含まれています。それ以外にも、クラウド型電子カルテやAIを活用した創薬支援システムでの需要増加がけん引するとしています。これらは医療機関や製薬企業の運営モデルそのものが、デジタル前提で再設計される時代の到来を示唆するものといえます。
※参考:日医online 「「2040年頃に向けた医療提供体制の総合的な改革に関する意見案」を了承」
※参考:厚生労働省「医療DXの進捗状況について」
※参考:映像情報Medical「京都医療センター、GEヘルスケア・ジャパン、国立病院機構初となるコマンドセンターの導入成果を発表~「病院経営のデジタル司令塔」の活用で医療DXを促進~」
※参考:MONOist「医療および製薬DX市場は2035年に1.3兆円規模へ、AI創薬が急成長のけん引役に」
【高齢者支援】
日本の認知症患者の数は、2040年には約580万人にのぼると予測されており、高齢化社会の深刻な課題としてあらためて注目されています。こうした中、高齢者の健康寿命延伸や介護・医療の地域包括的な提供体制にもさまざまなテクノロジーを駆使したサービスが登場しています。
7月には、医療統計データサービスを扱うJMDC グループおよび エーザイ株式会社 は、軽度認知障害(MCI)の早期発見を目的とした WEB問診を活用した実証実験を始めました。MCI の段階で介入できれば認知症への進展を抑制・遅延させる可能性があり、早期診断による専門医紹介のしくみも含め、高齢化時代の医療支援を根本から変える期待が寄せられています。
さらに、8月には 介護関連テクノロジーの研究開発を手掛けるRehab for JAPAN と エーザイ、日清医療食品 の3社が、デイサービスを利用する高齢者を対象にした 「栄養アセスメント加算サービス」の実証実験を開始しています。この取り組みでは ICT を活用して、管理栄養士と介護職が栄養リスクのある高齢者に対するきめ細かいケアを提供。適切な栄養アセスメントを通じて、認知機能低下やフレイル(加齢による心身機能の低下)を未然に防ぐ狙いもあり、介護現場の業務効率化と高齢者の QOL 向上を目指すモデルとなっています。
他には、愛知県が主導し、デジタル技術を活用して県民の健康寿命の延伸と生活の質の維持・向上を目指す取り組み「あいちデジタルヘルスプロジェクト」でも、高齢者支援を見据えた実証が進んでいます。2025年度の共創促進事業では、PHR(パーソナル・ヘルス・レコード:個人健康情報)を活用した循環器疾患予防プログラムや、オンラインとAI を活用したハイブリッド型フレイル予防教室など、民間と学術機関、地方自治体が連携した先進的な実証が採択されています。 このプロジェクトは、デジタル技術と地域医療・介護が融合する新たな医療支援のエコシステムを構築しようとするものであり、医療・介護人材の担い手不足という課題に対して、データ駆動型のソリューションを実装するトライアルになっています。
※参考:厚生労働省:「令和7年度認知症セミナー(行政説明資料)」
※参考:株式会社 JMDC:JMDCグループ、エーザイとWEB問診を活用した軽度認知障害(MCI)の早期発見治療を目指した実証実験を開始
※参考:株式会社Rehab for JAPAN「Rehab、エーザイ、日清医療食品が高齢者の低栄養と認知機能低下リスクの軽減を目指して連携を開始」
※参考:あいちデジタルヘルスプロジェクト「社会実装先行事業で2025年度に実証中のプロジェクト」
【医療・製薬イノベーション】
厚生労働省の第2回創薬力向上のための官民協議会ワーキンググループの資料「令和8年度概算要求事項について」に、「創薬力強化に向けたイノベーションの推進」を成長戦略の柱に据えることが明記されています。これは、新薬を生み出す創薬基盤・インフラの強化を目指す動きであり、国内製薬企業にとって大きな追い風になる施策として、ステークホルダーの投資判断にもプラスとして作用するものと考えられます。
6月に行われた「NIKKEI 創薬エコシステムサミット」では、国内の研究開発の課題を可視化し、産官学が共創モデルを前提とする方向性を共有しました。それに加え、下半期は、企業単独の枠を超えた共創型創薬に取り組みやすい土台が整いつつあることを示す構造変化が見え始めています。それが、経済産業省による再生医療・遺伝子治療の製造基盤支援です。7月には、細胞医薬高齢者支援や遺伝子治療の国内 CDMO(受託製造拠点)整備を後押しする補助金 13件が採択され、単独企業では難しい高度な製造インフラを国と産業が連携して構築する動きが加速しています。
共創の基盤整備が進む中、データ利活用の領域でも象徴的な動きが見られます。
アストラゼネカが次世代医療基盤法に基づく日本初の“認定仮名加工医療情報利用事業者” の認定を取得したことも2025年の大きなニュースです。次世代医療基盤法は、医療・健康データの利活用を推進する法律であり、申請・審査のハードルが極めて高く、アストラゼネカは国内の製薬企業で初めてこの高度基準をクリアしたということであり、国内でのデータ利活用のレベルが一段階上がったことを示しています。認定によって単に“データが使える”という意味ではなく、厳格な匿名化・管理基準をクリアした高度なデータ活用権を公式に得ということです。メリットとしては、認定があることでRWD(リアルワールドデータ)を使った創薬・臨床研究が効率化され、医療研究・創薬における意思決定の迅速化ができる点や、公的データを活用した先端医療研究の推進にも直接関与できるため、製薬業界としても画期的な成果です。
その他、創薬ではありませんが、医薬品卸大手のスズケングループは「デジタルとリアルの融合で社会課題を解決する新たな価値創造を目指す」という考え方のもと、さまざまな企業と連携し、それぞれの機能を組み合わせる「機能総体」の発想で新たな付加価値の創出に取り組んでいます。今後は、医療・介護従事者による DX サービスの利用における負荷を軽減しながら、生成 AI をはじめとする AI サービスおよび SaaS 事業者が提供するサービスを、安全な環境下で安心して活用できる基盤の整備を進めていくとのことです。
※参考:厚生労働省「令和8年度概算要求事項について(創薬力向上に向けた関連施策)」
※参考:NIKKEI BizGate「世界につなぐ日本の新薬 官民連携で育む成長産業」
※参考:経済産業省「令和6年度補正予算「再生・細胞医療・遺伝子治療製造設備投資支援事業費補助金」に係る間接補助事業者の採択結果について」
※参考:アストラゼネカ株式会社「アストラゼネカ、次世代医療基盤法に基づく 日本初となる「認定仮名加工医療情報利用事業者」認定を取得」
※参考:株式会社スズケン「スズケングループと医療AIプラットフォーム技術研究組合、AIHOBS 医療・介護向け生成AIの利活用促進に向けた基本合意書を締結」
グローバル市場や制度改革が影響する構造がより明確に!

下半期は、制度改革だけでなく、海外の政策が日本の医療・製薬業界にまで影響を及ぼす様子が見られました。さらに、企業間の連携や協働によって新しい価値創造に取り組む動きも広がっています。
こうした目まぐるしい政策や制度の変化の中で、市場対応に出遅れないためには、薬価制度や患者負担の見直しなど、全体の動きをしっかり把握することが重要です。医療機関や製薬企業、そして私たちのような関連事業者も含め、制度の変化や価格リスクをモニタリングしながら、しっかりと備えていきましょう。
メンバーズメディカルマーケティングカンパニーでは、医療・製薬・ヘルスケア業界に特化したデジタルマーケティングの運用支援を行っております。デジタルに関するお悩みをお持ちの企業さまはお気軽にお問い合わせください。
この記事の担当者

内海 篤人/Uchiumi Atsuto
職種:プロデューサー
入社年:2023年
経歴:Web業界(企画・ディレクター)→ゲーム業界(プランナー・カスタマサポート)→ヘルステック企業(カスタマーサクセス・事業責任者)に従事
