個別化医療の進展と現場の情報格差を縮めるデジタル支援の在り方

DX事例

公開日:2026.01.28
更新日:2026.01.27

"その人に合った治療を選ぶ医療"として関心が高まる中、個別化医療を取り巻く環境や課題、解決法とは

医療全体へと広がりつつある「個別化医療」。その進化が治療の可能性を大きく広げる一方、医師や地方の医療現場に新たな課題ももたらしています。本コラムでは、そうした現場の声に触れつつ、私たちのようなデジタルマーケティング支援企業がどのような役割を果たせるのかを考えていきます。

その人に合った治療を選ぶ「個別化医療」の現在

「オーダーメイド医療」や「パーソナライズド医療」とも呼ばれる個別化医療。 “その人に合った治療を選ぶ医療”として、関心が高まっています。今回は、個別化医療を取り巻く環境やその課題に触れ、私たちが考える解決法を提案していきます。

はじめに、個別化医療の定義について触れておきましょう。厚生労働省では「患者一人ひとりの体質や病態にあった有効かつ副作用の少ない治療法(オーダーメード医療)や予防法(個別化予防)のこと」として定義づけしています(※)。そして、従来の医療と個別化医療の相違点は治療のアプローチにあります。従来の医療は、多くの人の平均的なデータをもとに、同じ病気の人には同じ治療を行うのが基本でした。しかし、近年、遺伝子を調べる技術が進化し、その技術を以前よりコストを抑えて使えるようになったことで、病気をより細かく見分けられるようになりました。その結果、個別化医療では、特定の特徴を持つ人にだけ、よく効く薬を選んで使う治療が可能となりました。

また、個別化医療の主なメリットは、治療の効果が出やすくなり、無駄な治療を避けられることなどです。その一方、医師は患者の症状だけでなく、遺伝子の違いがあるかどうか、どの検査結果をもとに薬を選ぶか、検査によって偶然見つかる別の異常にどう対応するかなど、多くの情報を総合的に考えながら治療を決める必要があります。そのため、誰でもすぐ受けられる医療になるには、まだ発展途上な面もあるといえます。

そして、私たちのようなデジタルマーケティングで医療・製薬・ヘルスケア業界を支援する企業も、医師にどのように情報を届けるべきか、アプローチ方法について時代に合わせた変革が必要とされています。

※以前、勉強会で「がん治療の進化」をテーマにした時にも個別化医療に触れています。治療の進化の歴史について知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。

※参考:厚生労働省「個別化医療の推進」

臨床現場が直面している個別化医療の課題とは?

個別化医療の課題 治療体系の複雑化に伴う情報量の急増 カウンセリングや病理診断の負荷 医師の偏在と情報格差 在宅医療の見えないリスク

「病気」を見る医療から、「人」を見る医療へ変わった個別化医療はメリットも多く、個別化医療そのものには非常に期待が持てます。しかし、こういった個別化医療にまつわる情報をすべての患者にスムーズに届けられるかというと、そこには医療従事者ならではの課題も見えてきます。

個別化医療の代表的な領域である「がん医療」を例に、その現状を見てみましょう。がんゲノム医療中核拠点病院の整備や保険適用となる遺伝子パネル検査の拡大によって臨床現場への実装は急速に進んでいますが、その一方で、現場では最先端技術の導入が進むほど、人手や時間のリソース不足が深刻化しており、技術の進化と現場の体制との間に大きなギャップが生じています。

そして現在、医療現場で直面している課題には以下のようなものがあります。

【治療体系の複雑化に伴う情報量の急増】

個別化医療によって医療の選択肢は大きく広がりましたが、新しい遺伝子の特徴(バイオマーカー)や、それに対応する治療薬が次々と登場したことによって、一つの病気の中にも多くの治療パターンが選択できるようになりました。例えば、肺がんでは、遺伝子の違いによって使える薬が細かく分かれ、それぞれで適応条件や副作用への対応も異なります。そして、このような状況に伴い、医師が把握すべき情報量も急激に増えています。専門領域以外の遺伝子変異や希少な疾患の最新情報まで常に追い続けることは、忙しい医師にとって非常に困難です。

【カウンセリングや病理診断の負荷】

個人の遺伝情報(ゲノム)を詳しく解析し、その結果に基づいて病気の診断、予防、治療を個別最適化するゲノム医療では、結果を患者に説明し、理解を得るプロセスは、医師にとって時間的・精神的に大きな負荷がかかるものです。また、がん遺伝子パネル検査について、日本病理学会のアンケートでは、手術で摘出された臓器や組織の病理診断を行う病理検査室の業務量が増大しているという結果も出ていました(※)。治療が進化する一方で、その土台を支える医療従事者の負担が増しているという、見えにくい課題が医療現場に蓄積されていることが判明しています。

(※)参考:日本病理学会「ゲノム医療の普及と課題についてのアンケート結果」

【医師の偏在と情報格差】

厚生労働省も医師少数地域に配慮した定員設定をするなどの医師偏在対策に乗り出していますが(※)、高度な個別化医療を提供できる施設は、大学病院やがんセンターなど都市部の中核拠点病院に集中しています。そのため、患者が適切なタイミングで専門病院に紹介されず、地域によって受けられる医療の質に差が生じるという状況に陥っています。特に、東北地方は医師不足が深刻であり、医療提供体制の整備が喫緊の課題です。

さらに、このような医師の偏在や情報格差によって、一般の医師が希少疾患や難治性のがんについて専門的な判断を下す機会が限られてしまい、専門医への相談が遅れがちになります。ひいては、患者側が早期に適切な診断や治療にたどり着く機会を奪う要因にもなっていると考えられます。

(※)参考:厚生労働省「医師偏在対策について」

【在宅治療の見えないリスク】

個別化医療で使われる治療薬には、飲み薬が数多くあります。点滴のように院内で行う治療ではないため、患者は病院に通わず、自宅で治療を続けることができます。これは、患者にも医療現場にもメリットの大きい治療方法に見えますが、自宅に居る期間の治療は、患者の状態が医師から見えなくなります。がんの治療で使われる分子標的薬や抗がん剤では、発熱や皮疹、下痢などの副作用が起こることがありますが、これらが自宅で発生した時に、患者自身が病院で受診すべき症状なのかを判断する必要があります。しかし、副作用によるものと判断できない場合や我慢してしまった場合、次の外来受診まで病院に連絡しないケースも少なくありません。治療が個別化・在宅化するほど、患者と医療者の間には情報の空白が生まれやすくなり、その期間のモニタリングの負担をどう埋めるかが、新たな課題となっています。

医師の負担を省き、情報が届く環境を構築!

上記のような課題がありますが、これらは情報伝達の障害とコミュニケーションの非効率さに起因しているものとも言えます。そのため、私たちが支援すべき領域は、医師が情報を検索し、判断する手間を省き、必要な情報が届く環境を構築することです。
私たちが考える課題の解決策とともに、すでに取り組まれている事例も含めて紹介していきます。

【医師に最適化された情報提供】

医師一人ひとりに最適化された情報提供は、忙しい医師の認知的負荷を解消する手助けになります。
現在も何らかのMAツールを導入し、デジタルマーケティングに活用している製薬企業も多くなっていますが、その医師の診療科、専門領域だけでなく、Webサイト上の行動履歴(どの薬剤のページを見たか、どのWeb講演会に参加したかなど)をスコアリングし、その興味関心の度合いに応じて情報を出し分けるだけでも、医師自身が情報をまとめたり、比較したりする手間を省くことができます。

その他、医師からの問い合わせに対し、生成AIを活用して回答を提供するチャットボットシステムを構築する方法も有効です。これまではMRの回答を待つ時間が発生していた部分をAIが担うことによって24時間365日いつでも対応でき、医師の疑問解決スピードが劇的に向上します。

また、ツールを使って実行するだけでなく、そこから得られるデータ(閲覧データ、アプリの利用データ、質問ログなど)も有効活用しましょう。マーケティング戦略を見直し、PDCAを回すための参考データとなります。特に希少疾患領域では、データの一つひとつが貴重な「ユーザーの声」であり、戦略を導き出す為の貴重な情報源です。

【情報格差を縮めるバーチャル・エコシステム】

持続可能な医療を支えるためのエコシステムとして、データを活用したものやテクノロジーを活用したものが注目されていますが、エコシステムの構成には人材交流も含まれます。医師の偏在が顕著となった現在、情報格差を縮め、医療の効率化や生産性向上を目指すには医師や医療スタッフを含めた人材交流も必要とされています。コロナウイルスの流行時からウェビナーの導入が広まっていますが、講演のみだと一方的な配信で終わってしまいがちです。その状況を有効活用し、チャットなどで参加者同士の交流の場を設けることで専門性の高い情報交換ができ、総合的な診断能力を養う機会を増やすことにもつながります。

また、エムスリーデジタルコミュニケーションズでは、物理的な距離を超え、専門知を広く還流させるコミュニケーションの機会としてウェビナーを利用した取り組みを実施していました。Web講演会後にバーチャル懇親会を実施し、医師同士の交流を図った講演会(※1)や、東北地方にターゲットを絞り、集客付きのWeb講演会行う、エリア特化型のデジタルマーケティングを実施(※2)しています。

(※1)参考:エムスリーデジタルコミュニケーションズ株式会社「【事例紹介】Web講演会後にバーチャル懇親会を実施 医師同士のコミュニケーション機会を創出」
(※2)参考:エムスリーデジタルコミュニケーションズ株式会社「【事例紹介】東北エリアでの集客付きWeb講演会を起点に 希少疾患における病診連携を強化」

【患者支援アプリの活用】

「デジタルツール」をセットで提供するという方法で、モニタリングの負担を軽くすることも可能です。例えば、患者支援アプリの活用によって、在宅治療時の“見えないリスク”を拾い上げることができます。
このようなアプリは、すでにいくつかの製薬企業からリリースされており、患者が自宅での体調や服薬状況を記録し、スマートフォンを通じて医療機関と共有しながら「見えない期間」を可視化しています。

医療用ソフトウェア事業を手掛ける株式会社MICINと武田薬品が2023年にリリースしている、婦人科がんおよび乳がんの患者を対象にしたアプリケーション(※1)も患者支援アプリです。卵巣がん・乳がん患者向けに、日々の体調を記録するもので、医師は外来時に患者の過去数週間の体調変化をグラフで把握でき、問診時間を短縮しつつ、副作用の兆候を早期に発見できるようにしています。
同様に、2020年にリリースされたアストラゼネカの「T-ダイアリー」も(※2)、肺がん治療薬であるタグリッソの服用日記として記録し、医療従事者に治療経過を伝えるサポートをするアプリとして活用されています。

(※1)参考:PR TIMES「MICINと武田薬品、国立がん研究センターと、がん患者のQOL向上とより良い治療アウトカムを目指し、治療生活を支援するアプリ開発に向けた共同研究契約を締結」
(※2)参考:アストラゼネカ株式会社「アストラゼネカ、タグリッソを服用する患者の治療管理をサポートするアプリ「T-ダイアリー」の提供を開始」

【AI診断技術の導入支援】

がんや遺伝性疾患の分野では、遺伝子情報を解析するゲノム解析が早期発見や適切な治療選択において重要な役割を果たしていることにも触れましたが、さらに近年では、AI技術の活用によって解析の精度やスピードが大きく向上し、これまで見逃されがちだった変化や特徴を捉えられるようになってきました。

すでに病理診断においては、膨大なスライド画像から微細な変異の特徴を検出するためにAI解析が導入され始めています。2025年に中外製薬が病理AIソフトウェアの開発企業「biomy」との共創の開始を発表していますが、こちらで共同開発されるのは、AIを活用したがん病理診断支援プログラム(※)です。がんの診断や治療方針の決定の役割を担う医師の人材不足や負担増加に対応したもので、AIによる効率化と治療決定の質の向上を目指しています。こういった事例からも、診断プロセスそのものをAIで支援しようとする動きが感じられます。

しかし、こうしたAI診断技術は医療の可能性を広げる一方、現場にとっては新たなハードルになっている部分もあります。解析結果の意味をどう読み取るのか、どこまで臨床判断に反映できるのかといった点は、必ずしも直感的に理解できるものではないようです。DX推進時からの課題でもありますが、新技術を臨床現場に定着させるための導入支援(オンボーディング)も非常に重要です。徐々にAI診断技術への信頼性も高まっているため、AIは医師の仕事を奪うものではなく、医師の強力なパートナーとして認識されつつあります。しかし、導入するまでには、技術を提供する側が導入によって具体的にどれだけの時間が削減できるか、精度がどう向上するかといったことを分かりやすく伝え、使い方を浸透させていく必要があります。これらについては、デジタルコンテンツを通じて分かりやすく啓発する方法も考えられますし、無料トライアルやデモ版の配布を通じて、導入のハードルを下げる施策も考えられます。

(※)参考:中外製薬株式会社「中外製薬とbiomy、AIを活用したがん病理診断支援プログラムの共同開発に向けた基本合意を締結」

これらの取り組みに共通しているのは、個別化医療によって膨大に増え、分散した情報をいかに現場で扱える形に再構築するかということです。個別化医療は、治療の精度を高める一方で、医師、医療スタッフ、患者それぞれに新たな負担を生み出している部分もあります。そのギャップを埋める役割を果たすのが、デジタル技術を活用した情報整理や可視化、人材をつなぐ仕組みです。
個別化医療を「現場で使い続けられる医療」へと進化させるためには、こうした土台づくりも併せて取り組む姿勢が不可欠です。

「線と面」から医療従事者を支えるために

「線と面」から医療従事者を支えるデジタルマーケティングのお悩みは、お気軽にメンバーズへ!

AIなどの新しい技術が医療の進歩を後押ししていますが、それらの情報を適切なタイミングで必要な情報だけを厳選し、届けるのが私たちに課された使命です。
そして、現状から分かるように、個別化医療の拡大には単発のウェビナーやメール配信といった“点”のフォローだけでは情報が一方通行になりがちです。医師が情報を認知・理解して実際に薬を処方し、さらに経過観察を行う「ペイシェント・ジャーニー」や「ドクター・ジャーニー」全体をカバーする “線と面の支援”によって、医療現場から最終的な患者まで届く支援になります。今現在、医療従事者への情報提供についてお困りの企業さまは、私たちまでご相談ください。

メンバーズメディカルマーケティングカンパニーは、医療・製薬・ヘルスケア業界に特化したデジタルマーケティングの運用支援を行っております。生成AIの導入・運用支援、その他、デジタルによって解決したい課題をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。

この記事の担当者

鈴木まりあ

鈴木 まりあ / Suzuki Maria
職種: Webディレクター
入社年:2024年
経歴:2024年新卒入社後、コーダーとしてWebサイトの運用・リニューアル業務に従事。現在はWebディレクターとしてWebサイトの運用案件を担当。

カテゴリー