
私たちの顧問であり、株式会社メディカル・インサイトの代表取締役社長を務める鈴木英介氏と弊社の社員による勉強会のレポートです。今回のテーマは「社会保障改革と医療の質・アクセスの不都合な関係」です。前半は海外の医療制度や、米国の「最恵国待遇」政策が医療システムにどんな影響を及ぼすかなどについて解説していきます。
勉強会の参加者

2018年中途入社
営業
佐塚さん

2023年中途入社
プロデューサー
内海さん

2018年新卒入社
エンジニア
浅川さん

2017年中途入社
Webディレクター
平嶌さん

2024年新卒入社
Webディレクター
鈴木さん
医療のコスト・質・アクセスのバランスを保つのは難しい?
それでは、よろしくお願いします。
出席者は、佐塚さん、内海さん、浅川さん、平嶌さん、私です。
よろしくお願いします。
今日のテーマは『社会保障改革と医療の質・アクセスの不都合な関係』です。医療の仕組み全体を考えた時に、この構造を知っておいた方が良いと思ったので、こちらのテーマを選びました。というのは、去年から診療報酬や高額療養費制度とか、医療関係のお話がトップニュースに出てくることが増えたので、それをどう捉えるか、全体感を分かっておいた方が良いと思いましたので。
では、みなさんに最初に頭に入れておいてもらいたい構造があります。
ちょうど、三角形の構造をイメージしていただければと思いますが、1つは、コスト。もう1つは、質。最後は、アクセス。
で、よく言われているのが、この3つ全てを良くしようと思っても無理があるということですね。例えば、コストと質を上げると、アクセスを諦めなくちゃいけない。コストとアクセスを良くしたら、質は下げなくちゃいけない。質とアクセスを良くしたら、コストは厳しくなる……という構造になるんです。この話、聞いたことある方はいますか?
うーん、ちょっと分からないです……。
では、この辺りから説明していこうと思いますが、この構造を考える上で、他の国はどうなの? という話をしておくと分かりやすくなります。
みなさんは、アメリカといえば、医療のコスト・質・アクセスについて、どんなイメージを持たれていますか?アメリカでの生活や、病気・怪我の経験のある方はいらっしゃいますか?
旅行でラスベガスに……。
ただし、いたって健康です。医療にはかかっていません(笑)
それは良かったです(笑)。みなさんは、アメリカで怪我をしたり、盲腸になったらこうなる、という話を聞いたことはないですか?
医療にかかるお金が高いイメージがあります。
そうそう。そういうイメージがありますね。アメリカって医療費がすごく高いんですけど、なぜだと思いますか?
国民皆保険制度が整っていないからでしょうか?
保険制度が行き渡っていないというのは確かにありますが、前提としてアメリカは手術代金や診察料を自由に決められるんです。でも、日本はその単価が診療報酬で決められていますよね。アメリカのそのやり方が良いかどうかは別として、医療サービスを自由価格にしたら供給者の立場が強いので高くなります。なぜなら、医療サービスを受ける側からすれば、チョイスがあまり無いわけです。病気やケガをした時というのは、受診をしなければ治らないわけですから
ブラックジャックみたいな感じですね。
そうそう、良い例えですね。ブラックジャックは、いわゆる自由診療ばかりをやっている先生ですよね。だから、アメリカ全体がブラックジャックだらけなんです。腕の良し悪しは別として(笑)。なので、先ほどのコスト・質・アクセスでいうと、コストは基本的にめちゃくちゃ高い。その分、質はある程度コストが高い所は良さそうだ、という感じかと思います。アクセスは、コストが高いという意味ではアクセスはあまり良くないですね。ただ、お金さえ払えば診てもらえるので、何をもってアクセスというのかが難しいんですけどね。
トランプ大統領の「最恵国待遇」が及ぼす深刻な影響

質問をよろしいでしょうか?
それって、アメリカの製薬会社のファイザーとかドイツのバイエルとか、製薬会社の業績に少なからず影響がある……という認識で良いのでしょうか?
先ほど僕が話していたのは、お医者さんの診療のコストという部分なんですけれど、良い点をあげていただきました。
お薬についてはこれから話そうとしていたので、ちょうど良い導入です(笑)。薬の値段というのは、製薬会社が保険者との交渉はあるものの原則として自由に決めていて、少なくとも国によって決められるということにはならないので、そういう意味でアメリカでは他の国と比べてすごく高い薬価を付けています。なので、日本の薬価の2倍、3倍……、場合によっては絶対に必要な薬で、もっとべらぼうに高いものもあります。そして、ここに目を付けた人がいます。
誰でしょう?みなさんも、そんなニュースを最近見たことはなかったですか?
トランプさんが関税をかけたという話じゃなかったでしたっけ?
そう、トランプさんです!
1つは関税をかけるというものですね。これはアメリカ国内での薬剤生産を促すという意味で関税を高くしました。それに応じて大手の製薬会社がアメリカ国内に生産拠点を作る、移す、という動きがありました。ただ、関税は少し前、秋ぐらいの話ですね。
では、最近あった大事な動きは分かりますか?
みなさんは、“最恵国待遇(MFN:Most Favored Nation)”という単語を聞いたことはないでしょうか?
あっ。薬価の引き下げですかね。
ネットで調べちゃいました(笑)。最恵国待遇は、12月末の話ですね。
そうそう、先ほど言ったように、アメリカの医療費がべらぼうに高いのはけしからん。ということで、ガツッと下げるぞと。
例えば、日本の薬価と欧州の薬価とアメリカの薬価は、同じ薬でも違うわけです。しかも、それが1割2割じゃなくて、アメリカはさらに数倍違う。トランプさんが言い出したのは、それを、主要国の中で一番安い薬価にするぞ、と。最恵国というのは、“最も恵まれた国”と書くわけですけど、アメリカを一番の待遇にする……つまり、アメリカよりも安い薬価が他にあるのは許さないというような。これは製薬業界の中で極めて大きいニュースです。
というのは、アメリカは市場も大きいですし、人口も多い。それに医療システムもある程度普及していて、薬価が高い。製薬会社にしてみれば主戦場(金城湯池)の市場の薬価を下げられるとなったら、かなり大変な話になる。最恵国待遇で他の国の現在の薬価をそのまま当てはめてしまうと、米国での薬価だけドカッと引き下げることになってしまって非常によろしくない。そこで製薬会社が何を考えるかというと……他の国の薬価を上げたいと。なので、日本でもこれからそういう話が出てくると思います。
アメリカの最恵国待遇を真似する国も出てきそうですね。
そうですね。良い視点です。方向性としては、同じ薬剤でも国際間で価格にばらつきがあったものを修正しよう、アメリカの価格はもっと下げて、他の国はもっと上げる……といった話に収れんさせていこうという力学が働くようになっています。今年はそういう年なので、これはすごく大事なニュースです。
で、日本の薬価は厚労省と製薬会社との間で一定のルールの下に決められていたのですが、それではやっていけないということで、多国籍企業の製薬会社側から薬価を上げさせてくれというプレッシャーがかかると思いますね。それが実現するかどうかは別として。まぁ、ただでさえ今は円安ですからね。ドル換算すると薬価はどんどん下がっているわけですよ。なので、コストという所に関してはプッシュアップ要因がこれからありそうだな、という懸念があります。
イギリスの医療制度「かかりつけ医」のデメリットは?
あとは、ヨーロッパ。特にイギリスの医療のコスト・質・アクセスについて、みなさんはどのような制度かご存知ですか?
主治医制の予約制とか?そんな感じじゃなかったですか?
そうそう、いわゆる“かかりつけ医”を持ちなさい、という制度なんです。そういう意味ではアクセスも良さそうな気がする制度なんですけどね。イギリスの制度の特徴は、どんな病気になっても、怪我をしても、一旦はかかりつけ医を受診するというものです。そこからさらに高度な治療や手術が必要となったら、専門的な病院へ送られる。
一方でイギリスの保険制度では、患者からすると基本的にコストはかからないから、医療費は極めて低い。そうすると、かかりつけ医から先に進んだ時に何が起きるでしょう? 先ほど、コスト・質・アクセスという話があったと思います。質はそれなりに保たれているかもしれませんが、いざ、がんの手術をする、骨折の手術をするとなった時、イギリスで何が起きているかというと……順番待ちです。手術をするために半年待ち、下手したら一年近く待たなければいけないということになっています。そういう意味ではイギリスの医療のアクセスは非常に悪いんです。
えっ!骨折していたら、骨が固まってしまいませんか?
そうなんですよ。どうしているのでしょうね……。本当にそういう話もあって、例えば、がんの手術だったら、2-3ヶ月程度であればともかく、もっと長い期間となると、遅れれば遅れるほど、話が変わってきてしまいそうですよね。だから、一部お金を持っている人は、コストを諦めて自由診療の病院にお願いするような話になっています。
自由診療なら質もアクセスも良い一方で、コストは当然高くなります。なので、ヨーロッパの医療制度は比較的コストはかからないけれど、アクセスが良くないというイメージですね。
海外に比べ、恵まれている日本の医療も限界に近い!?

では、最後は日本ですね。みなさんの実体験からして、コスト・質・アクセスはどう思いますか?
全部良さそうに思えますけどね。どうなんでしょう?
全部いいですよね。
はい、そうですね。冒頭では、コスト・質・アクセスのどれかを諦めなくてはならないというお話もしましたが、日本というのは、比較的どれも頑張ってきていたんですよ。コストはみなさんもイメージができると思いますけれど、もちろん、保険が適応されているからリーズナブルな価格に収まっていると思いますし、質も結構良いですし、アクセスも良いですよね。
今、若干手術待ちなども増えていますが、そうは言っても専門医に受診しようと思った時に半年待つというようなことは起きない。ただ、それが限界に達してきている、というのが今の状況です。
―― 前半は、海外の医療制度やトランプ大統領の「最恵国待遇」政策が医療システムにどんな影響を及ぼすかなどについて解説しました。後半は、日本の医療の現状の解説とともに、今後起きるであろう医療アクセスの変化などについてディスカッションを深めていきます。続きも楽しみにお待ちください。
この記事の担当者

佐塚 亮/Satsuka Ryo
職種:sales
入社年:2020年
経歴:大手スポーツメーカにて店舗sales,エリアマネージメント業務を担当。のちWEB制作会社にてWEBサイトの提案からディレクションをこなし、コンサルタントとしてサイト立ち上げ後の売上向上まで支援。その後2020年にメンバーズへ入社。主にクライアントからのヒアリング及び検証データを基に要件定義を行い、サイトの構築運用を実施。定常的に支援サポートを行う。クライアントはもちろんエンドユーザーの立場・視点に立ち、問題抽出から改善案の立案までを手がける
