
病院の人材確保戦略について調査しました。今、病院が直面している人件費の高騰・人材不足の背景にある構造的課題は何なのか。その要因に迫りつつ、病院側が取り組むべき具体的な施策について考えてみました。スタッフ採用に悩みを持つ病院経営者の方、医療機関の採用について興味がある方にも参考にしていただける内容となっています。ぜひ、ご覧ください。
採用活動にも影響を及ぼしている2025年問題!
医療業界では深刻な人手不足が続いており、採用活動にも大きな影響を及ぼしています。
背景には、かねてより「2025年問題」として指摘されてきた高齢者増加による医療需要の拡大があり、まさに今、それが現実となって病院経営に影響を与え始めています。
高齢化の進行によって団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、医療・介護の需要はピークを迎えています。一方で、それを支える生産年齢人口は急速に減少しており、需給のバランスが大きく崩れている状況です。
実際に病院がどの程度人手不足を感じているのかについては、福祉医療機構 経営サポートセンター リサーチグループが昨年実施した調査があります。この調査では、「職員が不足している」と回答した病院が74.7%にのぼり、多くの医療機関が人材不足を課題として抱えていることが判明しています(※1)。
本記事では、こちらの調査レポートなどを元に医療機関が人手不足に陥る背景を要因ごとに整理し、そのうえで考えられる対策について解説していきます。
(※1)参考:独立行政法人福祉医療機構 経営サポートセンター リサーチグループ「2025 年度 病院の人材確保に関する調査について」
病院スタッフ採用・定着のハードルとなる構造的課題とは?

不足している人材は、職種によっても状況が異なっています。そのほか、採用システムなどにも、スタッフ採用・定着のハードルとなる構造的課題が潜んでいます。
【看護師・看護補助者の不足】
不足している職種について、福祉医療機構 経営サポートセンター リサーチグループの調査では、1位が「看護師」で79.6%、2位が「看護補助者」で71.0%と、上位2位を看護系の人材が占めています。3位は「医師」で38.9%にとどまり、医師と看護系では大きな差があることがわかります(※1)。
看護師不足が特に深刻な理由は、看護師が十分に確保できなければ病床をフル稼働させられないためです。これは診療報酬制度上の施設基準に基づくもので、看護師が不足すると病床削減や収益減につながります。その結果、病院経営だけでなく採用や現場の負担も同時に増す、負の連鎖が生まれる構造になっています。
また、看護補助者の数も看護師に次いで不足していますが、看護補助者が離職する背景には、その職種としての位置づけの曖昧さや給与の問題も絡んでいます。専門職でも無資格でもない中間的な立場であり、そのうえ医療現場の責任と緊張感に比べ、給与水準が低めです。そのため、給与が他産業と同程度、場合によってはそれ以上の仕事が増えれば、看護補助者として医療現場で働く必然性を感じなくなることも想像できます。
【離職・定着の問題】
多くの医療機関では、採用に投じたコストが人材の定着につながらないまま失われ、現場の疲弊だけが蓄積していく構造に陥っています。日本看護協会の「2024年病院看護実態調査」によると(※2)、既卒採用者(中途入職者)の看護職員(保健師・助産師・看護師・准看護師)の離職率は16.1%と高く、一定の経験を持つ人材ほど職場を短期間で離れている実態が浮かび上がります。
また、上記で看護補助者の人材不足を取り上げましたが、看護補助者の離職は深刻であり、正規雇用でも離職率は13.7%、非正規雇用では26.1%と、4人に1人以上が毎年職場を離れていることが分かります。さらに、採用された年度内に退職する「年度内離職率」においては、看護補助者の場合は、正規雇用で24.0%、非正規雇用では34.7%と急増しています。つまり、採用しても3人に1人が1年以内に辞めていく「ザル状態」の採用構造です。人材が定着する前に離職するということは、残された職員の負担が増え、さらなる離職リスクを生むという悪循環にもつながります。
(※2)参考:公益社団法人 日本看護協会「2024 年 病院看護実態調査」 結果 新卒看護職員の離職率は2 年ぶりに 10%台から 8%台へ改善
【人材紹介会社への過度な依存】
多くの病院で、採用活動は人材紹介会社なしでは回らない状態となっています。
福祉医療機構 経営サポートセンター リサーチグループの調査によると、常勤医師採用では78.4%、医師以外の正規職員でも82.9%の病院が人材紹介会社を利用しています。人材紹介会社への依存が常態化していることが、この数字からもうかがえます(※1)。さらに、紹介会社に支払う年間手数料の平均は1,469万円に達し、大規模病院では数億円規模になることも珍しくありません。病院経営にとって無視できない負担となっています。
こうした高額な手数料を支払ってでも病院側が自前採用を進めない理由には、採用の専門人材がいないこと、採用担当者の人件費や広告費、面接の工数がかかることがあります。そのため、コストはかかっても確実に人材を確保できる人材紹介会社に頼らざるを得ないのが現状です。
求職者のニーズはキャリアアップからワークライフバランスへ
では、医療専門職の求職者側は、転職時に何を求めているのでしょうか。
かつては、「キャリアアップのため」「より高度な医療技術の経験を積む」などが主な目的となっていましたが、ライフスタイルの変化、医療現場の業務内容に合わせて求職者が重視する内容にも変化が見られるようになりました。現在、求職者のニーズは「ワークライフバランス」や「割に合う条件」といった内容にシフトしています。
【やりがいよりも、働き続けられるかどうか】
現在、多くの医療従事者が重視しているのは、無理なく働き続けられるかどうか、そして生活に見合った収入が得られるかという、より現実的な条件です。
2024年の春闘(賃上げや労働時間の短縮など労働条件の改善を求めて交渉を行う労働運動)以来、多くの業界で賃金が大きく引き上げられました。一方、病院の収入は診療報酬という国が定めた仕組みによって決まっており、一般企業のように簡単に賃金を上げることができません。福祉医療機構 経営サポートセンター リサーチグループの調査にも、職員確保が難しい要因として、「他産業より低い賃金水準」が一番多く回答されていました(※1)。その結果、求職者は病院同士を比べるだけでなく、「同じくらいの忙しさなら、もっと給料の高い仕事があるのでは?」という視点で、他の業界とも比較するようになり始めています。特に、看護補助者や事務職、若手の医療スタッフでは、責任や緊張感の高い医療現場をあえて選ぶ理由が見えにくくなっています。
【人間関係・多様な働き方を重視】
職場での人間関係の良さや休みやすさ、短時間勤務など、働き方の柔軟性は、長く働き続けられるかどうかに大きく影響します。
実際、福祉医療機構 経営サポートセンター リサーチグループの調査によると、病院職員の退職理由の約3割が「職場の人間関係」と答えています(※1)。忙しさや夜勤そのものよりも、相談しにくい雰囲気や厳しい上下関係などが心身の負担となり、退職につながるケースが少なくありません。また、日本看護協会「2024 年 病院看護実態調査」にも多様な勤務形態の導入が離職防止に直結することが示されていました(※2)。短時間勤務や多様なシフトのように、勤務形態の選択肢がある職場ほど離職を防ぎやすく、個人の事情に合わせた働き方ができることも職場選びの条件になっています。
良いチームワークが築ける人間関係の中で、無理をしすぎず、生活と仕事のバランスを保ちながら働けることが、今の医療現場で長く働き続けられる職場として選ばれるための前提条件です。
【現場のDX推進状況を加味】
若い世代の医師や医療従事者は、その医療機関のDXの推進状況が職場選びの中でも重要視する要素となっています。デジタルネイティブ世代にとっては、紙ベースで管理する資料、アナログな伝達手段は、それだけで「古い組織」とみなされ、敬遠されがちです。
医療プラットフォームの開発・運営を手掛けるUbie株式会社の「医療現場の働き方に関する意識調査」によると、医師の67.5%、看護師の57.7%が、DXが職場選択の重要基準と回答しています(※3)。さらに、医師の働き方改革から約1年が経過したにもかかわらず、労働時間が短縮された・多少短縮されたと実感している医師の割合は39.7%であり、6割超が労働時間の短縮を実感できていない状況です。
医療現場の疲弊を防ぎ、より良い採用につなぐにはITツールの導入に留まらず、AI等を活用した実効性のあるDX推進が必須であることが感じ取れます。
(※3)参考:PR TIMES「「医師の働き方改革」施行から1年、依然医師の6割が労働時間短縮を実感できず」
病院側が取り組むべき4つの施策とは?

これらの課題と求職者のニーズを併せ、今後人材を採用する際に病院側が取り組むべき施策を4つご紹介します。
【賃金競争力の回復に向けた“戦略的ベア”】
ベースアップ(ベア)を行い、賃金競争力の回復に向けて基本給そのものの引き上げを実施することも戦略の一つです。
2026年度の診療報酬改定は、過去30年で最大規模のプラス改定となる方針であり(※4)、この増収分を「誰に、どう配分するか」が、今後の人材確保と組織の持続性を左右する重要な分岐点となります。そこで、他産業への流出が最も激しい看護補助者への重点的なベースアップを行えば、人材流出を食い止め、結果として看護師の業務負担を軽減し、看護師の離職防止や採用コスト削減にもつながる投資になり得ます。また、診療報酬の「ベースアップ評価料」を活用する際は、配分基準を明確にし、努力や役割が正当に給与へ反映される透明性の高い評価制度を整えることも不可欠です。
加えて、賃金そのものの引き上げだけでなく、奨学金返済支援や院内保育所の充実、食事補助などの福利厚生を組み合わせることで、「ここで働き続けても生活が成り立つ」という安心感を高めることができます。
(※4)参考:厚生労働省「診療報酬改定について」
【採用チャネルの活用とブランディング強化】
医療機関の採用は、人材紹介会社へ依存状態にあることは上記でもお伝えしました。人材紹介会社への手数料も高額なため、これを採用インフラとして投資し直し、オウンドメディア・リクルーティングの強化に切り替えましょう。具体的には、公式ホームページを求人情報の単なる掲示板としてではなく、「ここで働く姿が想像できるメディア」へと刷新し、実際に働くスタッフの1日の業務の流れ、多様な働き方をしている職員の声、院長が語る病院の将来像などを継続的に発信し、求職者との接点を構築します。併せて、職員による紹介(リファラル採用)を取り入れ、紹介会社に支払っていた費用を紹介者と入職者双方へのインセンティブとして還元することでミスマッチの少ない採用が可能となります。
また、求職者が病院を調べる時の行動にはすでにSNSを使用することが前提になっていますが、InstagramやTikTokなどのSNS上での過度な演出をしたり、医療情報を軽く扱う必要はありません。職場の雰囲気や人間関係が伝わる“顔の見える情報”を発信する程度に使うことが効果的です。
【DX導入に合わせた業務の再定義】
単に人を増やすのではなく、デジタルテクノロジーを活用して医療現場の「事務作業」から解放し、本来の高度な医療業務に集中させる環境を作ることも重要です。
医師や看護師が多くの時間を取られている書類作成やデータ入力といった事務作業は、生成AIやICTを活用して効率化することで、本来担うべき医療やケアに集中できる環境を整えることができますし、病院によっては導入が進み、効率化を実現している医療現場も増えています。スマートフォン対応のナースコールや音声入力、搬送ロボットなどのICT・AIへの投資は、現場の負担軽減にとどまらず、「先進的で働きやすい病院」というイメージを生み出し、人材採用そのものを後押しする強力な武器となり始めています。
また、看護補助者についても「補助的な仕事」としてではなく、ケアの質を支える重要な役割として位置づけ、業務の標準化や育成の仕組みを整えることで、働きがいを高めて早期離職を防ぐことが可能になります。
【人材のマネジメント強化】
採用した人材を直ぐに離職させないための組織運営も戦略として取り入れましょう。
福祉医療機構 経営サポートセンター リサーチグループの調査に「退職防止のために実施している取組み」が、さまざまな切り口で提案されています(※1)。
環境や待遇面では、賃金や人事評価の見直し、残業削減や有給休暇の取得促進といった労働環境の整備に加え、院内保育所や資格取得支援などの福利厚生を含めた生活面の支援をすることが、人材が定着するための前提条件です。さらに、採用後のフォローとして、面談やコミュニケーションを強化し、採用した人材の不安や不満を早期に吸い上げる体制を構築します。また、多様な働き方についても、育児と介護を同時に行っているスタッフなど個人の事情に合わせられる、ライフステージに応じた柔軟な働き方ができることも重要です。離職意向があるスタッフには、配置転換や異動の提案を通じてキャリアの継続をフォローすることもできます。
「待つ採用」から「戦略的な採用」で人材を守る!
スタッフ採用や定着の現状からも、病院の人材確保は「待てば来る」時代から、「戦略的に獲得し、大切に守る」時代へと完全に移行したことが実感できたのではないでしょうか。
医療機関側も今回ご提案した方法などを参考にしつつ、変化し続ける求職者のニーズをリサーチし、医師や看護師が誇りを持って働き続けられる組織となるべく、自院の人手不足の課題へ取り組んでみてください。
メンバーズメディカルマーケティングカンパニーは、医療・製薬・ヘルスケア業界に特化したデジタルマーケティングの運用支援を行っております。医療機関内の業務効率化やデジタルによって解決したい課題をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。
この記事の担当者

丹羽 絢咲 / Niwa Ayana
職種: Webディレクター
入社年:2024年
経歴:2024年新卒入社後、Webinar運用案件→ イベント事務局運用案件に従事。
