【2026年度診療報酬改定】加算の新設・再編ポイントから見る経営層が投資すべきデジタル領域は?

戦略/戦術

公開日:2026.03.04
更新日:2026.03.02

2026年度診療報酬改定 「医療DXの4つの重要ポイント」を中心に、より患者に選ばれる医療機関へと進化するためのヒント

2026年度診療報酬改定の答申が行われ、具体的な算定要件が決定しました。本記事では、経営層が注目すべき「医療DXの4つの重要ポイント」を中心に、デジタル化をいかに現場の価値へ繋げ、収益構造を強化するかについて解説していきます。デジタルマーケティングと経営戦略の両面から、より患者に選ばれる医療機関へと進化するためのヒントをお届けします。

2026年度診療報酬改定の戦略的意義とは?

診療報酬改定は、日本における医療サービスの公定価格である診療報酬を、原則として2年ごとに見直す制度です。「点数が上がった・下がった」という単価の話として捉えられがちですが、その本質は国が目指す医療の将来像を現場に示し、医療機関の行動や投資判断を方向づける強力な政策手段です。

2026年度(令和8年度)の改定では、長引く物価高騰への対応と、全産業的な課題である賃上げの推進、そして何より医療の質と効率性を劇的に向上させるための「医療DX」の社会実装が最重要課題として位置づけられています(※1)。そして、今回の改定の大きな特徴は、本体改定率がプラス3.09%と、近年の改定の中でも極めて高い水準で決定した点です(※2)。その内訳には医療従事者の賃上げ原資の確保や、効率化を前提とした評価設計が組み込まれています(※3)。つまり、報酬引き上げと同時に、デジタル活用による生産性向上を強く求める改定でもあるということです。

今回の改定内容を基に、デジタルマーケティングと経営戦略の視点から、経営層が特に注目すべき重要ポイントを整理し、解説していきます。制度対応にとどまらず、患者から選ばれ続ける医療機関へと進化するためのヒントとして、お役立てください。

※本記事は2026年2月18日時点の情報をもとに制作しています。

(※1)参考:厚生労働省「診療報酬改定の基本方針の概要」
(※2)参考:厚生労働省「診療報酬改定について」
(※3)参考:厚生労働省「総-2個別改定項目について(その1)」

医療DXの観点から注目すべき「4つのポイント」

医療DX 4つの重要ポイント 1.電子的診療情報連携体制整備加算への再編 2.全国医療情報プラットフォームの本格始動 3.義務化レベルに引き上がったサイバーセキュリティ対策 4.タスク・シフティングのためのAI / IoT活用

今回の改定における医療DXの文脈の変化は、評価の基準が「導入しているか」から「実際に現場で活用され、成果が出ているか」へ完全に切り替わった点です。
以下から、経営判断に直結する4つの重要ポイントを制度の背景と実務への影響を交えて整理していきます。

【1】電子的診療情報連携体制整備加算への再編

これまで、「医療DX推進体制整備加算(初診時)」と「医療情報取得加算(初診・再診時)」に分かれていた医療DXに関する評価は、2026年度改定で整理・統合され、新たに「電子的診療情報連携体制整備加算」といった名称で再編されました。
最大の特徴は、「再診」や「入院」の場面でもDXの恩恵を評価する仕組みが導入されたことです。これにより、慢性疾患患者の過去の検査データや薬剤情報を、受診のたびに電子的に参照・活用する手間が適切に報酬に反映されるようになります。

■算定のための「高いハードル(施設基準)」
今回の再編で最も注意すべきは、加算を得るための要件(施設基準)が厳格化された点です。「マイナ保険証が使える」「電子処方箋が発行できる」だけでなく、実際の運用が実質的な必須条件となりました。


<医療DX推進体制整備加算の枠組み> ※日本医事新報社より抜粋
初診時の評価は「電子的診療情報連携体制整備加算1〜3」の3区分とし、共通の施設基準として、▽オンライン請求の実施、▽明細書の無償交付▽オンライン資格確認を行う体制の整備、▽オンライン資格確認の十分な実績、▽医療DXを利用して十分な情報を取得し、診療に活用している旨などの院内掲示─などを求める。

「加算1」を算定するにはこれらに加え、①電子処方箋の発行体制または調剤した薬剤の情報を電子処方箋管理サービスに登録する体制の整備、②電子カルテ共有サービスを活用できる体制の整備─が必須。「加算2」は①、②のいずれかを満たさねばならないが、「加算3」には①、②の基準設定がない。

再診時の評価は所定の点数を月1回、「再診料」等に上乗せする。入院時の評価は「加算1、2」の2区分とし、入院初日の入院料に加算する。いずれの施設基準も初診時の「加算3」と同等の内容だが、入院時の「加算1、2」にはサイバーセキュリティ対策に関する要件も設ける。


経営層にとって重要なのは、「どの加算区分を狙えるのか」「基準を下回った場合、どの時点で算定不可になるのか」を事前にシミュレーションし、現場運用まで含めたDXの設計です。利用率が基準を下回った場合には即座に算定不可となるリスクもあるため、受付での声かけや院内導線の工夫などといった、日常オペレーションを含め、継続的に改善し続ける体制が求められます。

【2】全国医療情報プラットフォームの本格始動

今年度は、国が整備を進めてきた「全国医療情報プラットフォーム」が、本格的に動き始める年でもあります。これによって、医療機関同士の情報連携は、紹介状を渡す1度きりのイベントから、必要な時にいつでも参照できる常時接続型のインフラへと構造的に変化します。

■電子カルテ情報共有は「任意」ではなく「前提」になる
このプラットフォームの中核となるのが「電子カルテ情報共有サービス」です。これは、オンライン資格確認のネットワークを基盤として、患者の診療情報の一部を全国の医療機関や薬局で共有できるようにする仕組みです。共有の対象となるのは、以下の「3文書・6情報」と定義されており、限定的かつ標準化されたデータですが、重要なのは、全国で同じ形式で流通するという点にあります。

【3文書】
診療情報提供書、退院時サマリ、健康診断結果報告書

【6情報】
傷病名、アレルギー情報、副作用情報、禁忌薬情報、検査情報(検体検査・画像検査)、処方情報

制度上は2026年5月末まで経過措置が設けられているものの、厚生労働省は、2026年度冬(2027年初頭)の全国展開を見据えており、このサービスへの対応は、医療DX関連加算を算定するための前提条件です。ということは、このプラットフォームにつながっていない医療機関は、DX加算を取れなくなり、地域医療連携のネットワークからも外れていくという、二重のリスクを抱えることになってしまいます。

■データ駆動型医療で臨床現場が変わる
全国医療情報プラットフォームが稼働し始めると、診察中の臨床現場の風景も確実に変わっていきます。
例えば、他院で受けた検査結果をその場で確認できたり、直近の処方内容を即座に把握できるメリットがあります。治療に関する内容を患者が忘れてしまった場合でも、正しい内容をすぐに確認できるため、問診にかかる時間の短縮、不要な検査の削減、救急時の安全性向上といった、医療の質とスピードを同時に向上できます。

経営的にも、この対応は「コスト」ではなく、地域医療の中で選ばれ続けるための参加条件と捉えるべき投資です。紹介が多い病院、かかりつけ医としての機能を担うクリニックにとっては、情報共有のスピードと確実性が信頼の指標となります。

【3】義務化レベルに引き上がったサイバーセキュリティ対策

医療機関を狙うサイバー攻撃が増加し、この数年で明らかに質や量が変わりました。実際、攻撃によって電子カルテが使えずに医療が停止する事例も相次いでいます。セキュリティ対策はもはやIT担当者の努力義務ではなく、管理者(院長・経営層)の法的責任であり、診療報酬を算定するための前提条件へと完全に引き上げられています。

■医療法施行規則の改正と連動した評価へ
2023年4月の医療法施行規則改正により、医療機関の管理者には、サイバーセキュリティを確保する義務が課されました。2026年度の改定では、「義務はあるが守られているか分からない」状態を放置せず、診療報酬という形で実効性を担保する仕組みが本格化します。具体的には、入院医療における「電子的診療情報連携体制整備加算」の施設基準として、サイバーセキュリティ対策の実施が厳格に求められるため、守られていなければ点数が取れなくなります。

■診療録管理体制加算の要件見直しとBCPの義務化
従来の「診療録管理体制加算」についても要件が大幅に強化・整理され、非常時の対応力が点数に直結します。
バックアップと非常時対応(BCP[Business Continuity Plan]:事業継続計画)の考え方が重視され、単にデータのコピーを保存するだけでなく、ランサムウェアに感染しても、システムが暗号化されても、診療を継続できるか、早期に復旧できるかが評価されます。

いま求められているのは、医療が「守れるか」ではなく「止まらないか」です。
経営層は、セキュリティ対策を「何も起きなければ無駄になるコスト」と捉えがちですが、医療におけるセキュリティ投資は、単なるコストではなく、診療を止めないための経営基盤への投資です。補助金などの支援制度を活用してツールを導入することも可能ですが、重要なのはツール選びではなく、「止まらない医療」を実現するために、誰が責任を持ち、何をどう守るのかを明確にした体制づくりです。

【4】タスク・シフティングのためのAI/IoT活用

看護師や事務スタッフの人手不足も深刻さを増していましたが、2024年4月から「医師の働き方改革」が本格施行され、2026年度改定では「AIやICTを活用した業務の肩代わり」が診療報酬上でかつてないほど高く評価されます。

■医師事務作業補助体制加算の見直し
これまでは、実際に何人配置しているかで点数が決まっていましたが、2026年度からは、生成AIやRPAなどを活用して業務を効率化している場合、実人員を“割り増し換算”できる特例「AI活用による人員換算特例」が導入されます。例えば、紹介状や退院サマリの下書きを生成AIが作成、定型文書をRPAが自動処理するといった体制が整っていれば、1人の事務補助者を、1.2人分や1.3人分としてカウントできます。つまり、雇用人数を増やさなくても、上位区分の加算を狙えるということです。人件費が上昇する中で、テクノロジー導入が直接的に収益性向上につながる設計になったのは、極めて大きな転換点です。

■看護配置基準の「1割緩和」
事務作業だけでなく、看護現場も大きな転換点を迎えています。見守りセンサーやスマートフォン等のICTをフル活用し、夜間の安全性と業務効率が担保されていると認められた場合、看護配置基準を「1割緩和」できる特例が導入されました。例えば、夜間10人の看護師が必要だった病棟が、デジタル活用によって9人で運営可能と判断されるケースです。深刻な看護師不足に悩む経営層にとって、これは単なる省力化ではなく、「少ない人員で質の高い医療を維持し、かつスタッフの負担を減らす」という、これからの病院経営のスタンダードとなるモデルケースと言えます。

■業務効率化とベースアップの構造的関係
今回の改定では、医療従事者の給与引き上げを支援する「ベースアップ評価料」も大きな柱の1つです。
しかし、賃上げ原資が補填されても、業務が非効率なままでは経営は好転しません。国が描いているシナリオはAI問診による受付・問診業務の省力化、自動精算機で会計業務を効率化することで、これまで人間が行っていた単純作業を削減し、捻出された時間とエネルギーを「人間にしかできない高度な医療・ケア」に集中させるというのが設計思想です。

AI問診や音声入力、文書生成支援などの導入費用は、各種補助金の対象となるケースも多く、初期投資のハードルは確実に下がりました。もはやAIは「あれば便利なツール」ではありません。人材不足でも質を維持し、賃上げを持続させるための経営装置です。2026年度診療報酬改定は、“AIを活用できる医療機関を評価する”制度設計へと明確に舵を切ったといえるでしょう。

デジタルでの具体的なアプローチ方法

2026年度の改定を受け、持続可能な医療経営を実現するために、経営層が優先的に判断すべきデジタル面での投資領域を「必須・重要・推奨」に分けて整理していきます。

【必須】

■電子カルテ情報共有サービスへの接続
これは“選択肢”ではなく、“前提条件”です。2026年度以降、医療DX関連の加算を維持し、地域医療連携の枠組みに残るための最優先事項です。

【今すぐ動くべき理由】
2026年5月31日で経過措置が終了します。以降、このサービスに接続していない医療機関は、DX関連加算を算定できなくなる可能性があります。
また、多くの場合接続には電子カルテの改修やバージョンアップが必要となり、期限直前にはベンダー対応の集中が予想されるため、間に合わないリスクが高まります。減収を避けるためには、早く契約することがリスクヘッジになります。

【接続すると変わる業務】
電子カルテ情報共有サービスへの接続によって事務負担が減り、診療の質とスピードが同時に向上します。診療情報提供書や退院サマリの電子的な共有が可能になるため、他院の検査結果や処方内容をその場で確認できれば、事務スタッフのスキャンや手入力もなくなり、紹介状や退院サマリを紙で郵送する業務も減ります。電子カルテ情報共有サービスへの接続は経営的にも合理性があります。

■電子処方箋の「全面」運用
電子処方箋は、紙との併用が続いていることで運用負荷が高くなっていました。しかし2026年度改定では、“全面移行”をした医療機関が経済的に有利になる設計へと変わっています。

【加算への影響は想像以上】
医療DX推進体制整備加算の上位区分(加算1~3)を算定するには、電子処方箋の発行体制が必須です。一見わずかな点数差に見えますが、処方件数が多い医療機関では年間で数100万円〜1,000万円規模の差になることもあります。「2点の差」は、経営上は決して小さくありません。

【経営層が決めるべきこと】
経営層は、電子処方箋を「一部導入」ではなく、原則として全院で電子処方箋を使う方針を明確にしましょう。紙と電子が混在すると、押印管理や紙の保管、二重オペレーションになるなど非効率さが残ります。全面移行をすれば、医師の処方作業がスムーズになり、薬局との情報連携が速くなります。また、重複投薬チェックが自動化され、医療事故リスクが下がるというメリットも得られます。これは、業務フローを一本化し、ミスを減らす経営改革ともいえます。

【重要】

■クラウド型BCP対策の導入
サイバー攻撃や自然災害が増える中、重要視されているのは、「データが消えない」だけでなく「すぐに診療を再開できる」体制の構築です。“止まらない医療”をどう実現するかが、診療報酬上の評価対象となっています。

【なぜ今、BCP対策が「重要」なのか】
特に200床以上の病院では、「診療録管理体制加算1(140点)」を維持するために、オフラインバックアップの確保が事実上の必須条件です。院内サーバーだけにデータを保存していると、火災・水害・停電・ランサムウェア攻撃といったリスクに対して極めて脆弱な状態です。非常時にデータが復旧できなければ、診療も止まり、同時に信頼と収益も失われてしまいます。

【クラウド活用の戦略的選択】
強く推奨されるのは、クラウドへの定期バックアップや院内システムが停止しても最低限の診療情報を閲覧できる「クラウド型バックアップ・ビューア」の導入です。これらを活用することで、患者のアレルギー情報、直近の処方内容、既往歴などを確認しながら診療を継続することができます。クラウド活用は、地域医療を止めないための社会的責任であり、経営継続を左右するインフラ投資です。

【推奨】

■AI問診・Web予約・決済の統合
事務スタッフを含めた人手不足と賃上げ圧力を同時に乗り越えるために推奨されるのは、フロント業務の自動化・統合が鍵になります。

【受付・会計の無人化・省力化】
AI問診を導入すると看護師の聞き取り、医師のカルテ入力の時間を同時に削減できます。さらに、Web予約、自動精算機、スマホ決済を連携させれば、受付業務を大幅に省力化できます。これによって患者の待ち時間の短縮、スタッフ業務の負担軽減が同時に実現します。

【患者満足度と経営効率の両立】
病院での会計待ちは、高齢者や時間のない中で通院する患者にとって大きなストレスです。スマホ決済や後払い決済を導入すれば、会計待ちの時間を無くすことができます。また、これは支払い漏れへの対応や入金確認の手間を減らすことにも繋がり、会計スタッフの負担も少なくなります。

■標準型電子カルテへの移行検討
厚生労働省が推進する「標準規格(HL7 FHIR)」への対応および標準型電子カルテへの移行検討は、短期的な収益対策というより、将来コストを抑えるためのIT戦略投資です。

【ベンダーロックインからの脱却】
従来の電子カルテは独自仕様が多く、システムリプレイスが高額、データ移行が困難といった問題を抱えてきました。厚生労働省が推進する標準規格(HL7 FHIR)に対応したシステムを選択すれば、将来的なデータ移行コストの削減、他システムとの連携強化が可能になります。システムは「一度導入したら終わり」ではありません。将来の選択肢を確保することが、経営の自由度を高めます。

【補助金と将来の拡張性を見据える】
今後、小規模診療所やクリニック向けの標準型電子カルテも展開が進む見込みです(※)。補助金を活用すれば、初期費用を抑えつつ、全国医療情報プラットフォームとの高度な連携を実現できます。
経営層は、次のリプレイス時期を待つのではなく、今からITロードマップを描き直すことで、将来の拡張性を見据えましょう。

(※)参考:厚生労働省「電子カルテ情報共有サービスに関する検討事項について」

患者に選ばれ、持続可能な医療機関になるべくDX投資の決断を!

「導入していれば評価される付加価値」から「持続可能な医療DX」へ

医療DXは、数年前まで「導入していれば評価される付加価値」でした。
しかし、2026年2月現在、国は医療DXを「医療機関として存在し続けるための必須要件」と定義しています。
そのため、デジタル化を拒む医療機関に対して厳しい経営環境を強いるものでもありますが、経営層にとって、これまでの「守り」の経営から「攻め」の経営へと転換する最大のチャンスともいえます。単なるシステムや機器の導入ではなく、職員を単純作業から解放し、患者により良い医療体験を提供するための組織変革を目指し、投資判断をしていきましょう。

また、DX推進について、デジタル人材不足やツールなど導入後の従業員への教育・定着に不安がある医療機関のご担当者さまもいらっしゃるかもしれません。MMは医療・製薬・ヘルスケア業界に特化した人材が、DX支援を行っております。医療DX、生成AI活用などに興味をお持ちの方は、ぜひ、お気軽にお問い合わせください。

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