製薬会社で進むデジタルトランスフォーメーション(DX)事例まとめ(2020年12月〜2021年1月)

DX事例まとめ

2021.02.02

みなさん、こんにちは。広報担当です。今回は2020年12月~2021年1月の製薬会社の動きをまとめています。

1月からは様々な地域で再び緊急事態宣言が発出され、新型コロナウイルスの収束が見えない中、製薬業界もデジタル化は既にスタンダードな流れになっています。 今後は、デジタル活用にどんな可能性を見出していくのかによって、製薬会社の未来が変わっていくのではないでしょうか。みなさんも直近の製薬業界の動きをチェックしてみてください。

デジタル化は医療業界のスタンダードに。今後は各社の「強み」を活かした事業開発や組織作りへ!

昨年、新型コロナウイルスが日本でも発見されてからすでに1年が過ぎました。当時は医療業界も急激なデジタル化対応に追われ、製薬企業などではMR活動ができなくなるという大きな変化もあり、MRの在り方は1年前とは大きく変わっています。特に、多くの医療機関と取り引きがある製薬会社では、この時期にいかにデジタル活用をして行くかが苦境を乗り切るターニングポイントとなっています。国内の大手製薬会社は、今後の事業計画の中でもDXが大きな柱の一つになることは発表しており、様々な業界を巻き込んだ新たなイノベーションが生まれることが期待されているようです。

◆MR活動◆

これからの医師の情報取得は、確実にデジタル派が主流になりつつあるようです。新型コロナウイルスの収束の目途が立たない中ではデジタルへの移行が製薬会社の生き残りにもつながるため、今後はさらにネット講演会やコミュニケーションツールがMRの面談や電話に替わる情報取得の手段として広まると思われます。

処方変化の際の情報源 「MRの面談・電話」と「ネット講演会」が僅差に MCI調べ

医薬品マーケティング支援会社のエム・シー・アイの調査によると、医師の処方行動が変化した薬剤の情報入手先は圧倒的多数でMRとの面談や電話だった。しかし、2020年10月時点の調査では「MR(面談・電話)」と「インターネット講演会」の差が2.3ポイントとなり、両者の差が殆どなくなっている事が分かった(4月は23.5ポイント)。新型コロナウイルスの流行によって、情報を入手する方法がリアルからデジタルへと移行し、それが多くの医師に定着しつつある。

ノバルティス ファーマ、医療関係者との接点を維持・強化するために「LINE WORKS」を導入

ノバルティス ファーマ株式会社は、2月より順次、ワークスモバイルジャパン株式会社が提供するビジネスチャット「LINE WORKS」を導入することを発表した。MRをはじめとする社員が、医療関係者とのコミュニケーションを双方向で行うためのツールとして利用する。これは、2020年7月に社内で行われたMRへの調査で、半数以上のMRがコミュニケーションアプリでのやり取りを医師から求められたことがあると回答。今回の「LINE WORKS」導入は、このようなニーズの高まりに応えるものとなった。

製薬企業の医師カバー率 コロナ前に比べ半減 MR訪問でのカバー激減、デジタル主流に

社会情報サービスとエムスリーが実施した調査によると、新型コロナの流行後、製薬企業による医師カバー率は半減したことが分かった。「MR訪問のみ」で情報を得た医師がコロナ流行前は約5割いたが、流行後は2割以下に激減。医師カバー率の上位10社でカバー率の減少がみられた。さらに「ネットのみ」で情報を得た医師の割合が7割を超えた製薬会社も5社ある。しかし、呼吸器内科、糖尿病/内分泌科、乳腺外科、眼科、泌尿器科の5つの診療科ではカバー率が5割を超えている企業もあり、注力領域としている。

ネット含む情報提供が8割、急速にデジタル化進行 社会情報サービス/エムスリー調査

2020年5月から8月にかけ、社会情報サービスとエムスリーが実施した調査によると、2019年までは、MR訪問を含む情報提供の割合が約8割であったが、2020年の調査期間には、インターネットを含む情報提供が約8割(訪問とインターネット両方が約1割、インターネットのみが約7割)へ逆転したことが判明。デジタル化が急速に進んだことを裏付けるデータとなった。

◆新サービス◆

医療の現場でもAIが患者や医療現場を支えるテクノロジーとして導入され始めています。病気の早期発見・早期治療の支援のように、直接病気に関わる役割をするほかにも、AI問診という形で初診の問診時間を短縮するなど、医療現場の人手不足をAIが補う時代となっているようです。

アストラゼネカ株式会社、慢性閉塞性肺疾患と慢性心不全の早期発見・早期治療支援のため、AI問診サービスを提供するUbie株式会社と協業

2020年12月、アストラゼネカ株式会社は、慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎・肺気腫)と慢性心不全の早期発見・早期治療の支援のため、Ubie株式会社とAI問診をベースにしたデジタル活用の推進に向けての協業を発表した。これによって、アストラゼネカは重点領域の知見を活かし、早期発見と適切な治療導入に向けた情報提案ソリューションの構築をサポート。Ubie社は最適なAI問診内容の開発を担い、デジタルを活用した包括的な疾患管理サービスの構築と提供に取り組む。

【緊急提供】新型コロナウイルス感染症拡大を受け、「AI問診ユビー for クリニック」の利用料一年分を無償で全国のクリニックに提供開始

Ubie株式会社は、1月8日から2月26日までの契約を条件に、「AI問診ユビー for クリニック」を全国のクリニック(かかりつけ医)に向けて利用料一年分を無償で緊急提供を開始すると発表した。これによって、医療現場の負担増で起こりつつある「医療崩壊」を防ぎ、医療現場をサポートすることができ、医師やスタッフの業務効率化、患者の滞在時間の短縮により院内感染リスクの低減が図れる。さらに、医療機関の公式ホームページ上に来院前問診機能を搭載すると、患者が自身のスマートフォンやパソコンを用いて自宅で回答した内容をあらかじめ聴取した状態で診察が可能になる。

◆治療用アプリ◆

治療用アプリがいよいよ保険適用となり、新しい治療方法が私たちの選択肢に入る時代になってきました。今後は種類も増えて行くと考えられますが、アプリを使って治療を受ける患者数や実際の治療効果の推移も気になります。

世界初のニコチン依存症治療アプリ「CureApp SC」 本日12月1日より販売開始 保険適用で「医師によるアプリの処方」始まる

2020年12月、株式会社CureAppは、ニコチン依存症を対象とした治療用アプリである「CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー」が薬価収載され、保険適用の対象機器となり、販売を開始した。治療用アプリ・デジタル療法の保険収載は国内で初めての事例となり、禁煙治療領域に限っては世界初。いつも身近にあるというスマートフォンの特性を活かしつつ、ニコチン依存症における心理的依存にアプローチしていく。医師が「CureApp SC」を処方した場合、患者は保険適用で(3割負担など)でアプリを利用できる。

◆新会社・新組織設立・事業計画・業務提携◆

医療業界だけでなくとも、これからの新たな事業展開にDXは欠かせなくなっています。そして、DXを推進するための組織づくりや、製薬業界と異業界の協働など、各社注力をしている様子がうかがえます。

また、オープンイノベーションの取り組みでは、医療従事者の抱える課題解決や事業創出の支援へ踏み出しており、独自の切り口での新たなイノベーションが期待されています。

中外製薬株式会社:2020年12月2日「デジタル戦略説明会」DX推進には経営トップのリーダーシップが重要。顧客中心のマーケティングを実現するための活動にも注力。

中外製薬株式会社は2020年12月2日、「デジタル戦略説明会」を開催。志済聡子執行役員(デジタル・IT統轄部門長)は、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するために「経営トップ(CEO、COO、CFO)の強力なバックアップとリーダーシップが非常に重要だ」と強調。全社を挙げてデジタル基盤を強化する組織風土を醸成するため、各部門に配置した「デジタルリーダー」を通じて取り組みを推進していることなどを紹介した。

さらに、デジタルマーケティング戦略では、営業日報や売上データなど営業関連データを統合。AIで分析し、顧客に見合うソリューションを提案する「顧客インターフェース」も紹介。MRの行動変容や同社の医療関係者向けWEBサイト「PLUS CHUGAI」を通じたデジタルツールの活用に役立っている。「顧客インターフェース」によって、中外独自のMR-デジタル融合モデルへの転換を図り、中外独自のデータ活用とAIを活用したデータの分析を強みとして、そこから得たレコメンド(戦略)をMRにフィードバックし、その後のアクションにつなげる。

中外製薬、デジタルプラントの実現を目指し、日本IBMと協働で生産機能のデジタルトランスフォーメーションを展開

1月、中外製薬株式会社は、日本アイ・ビー・エム株式会社との協働により生産機能のデジタルトランスフォーメーション(DX)を展開することを発表した。これは「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」の基本戦略の1つに、すべてのバリューチェーンの効率化を掲げ、その一環としてデジタルプラントの実現を目指すとしていたもの。人に着目したDXにより、生産性向上、信頼性向上、働き方変革を推進していく。第1段階としては、浮間工場のDXをモデルケースとして先行実施し、2022年半ばを目途に新しいオペレーションを支えるデジタル基盤を構築。各施策および他拠点への展開にむけた検証を行う予定。

ソニーとエムスリー 医療・ヘルスケア領域におけるオープンイノベーションの取り組み「COMPASS Project(コンパスプロジェクト)」を開始

2020年12月、ソニー株式会社とエムスリー株式会社は、医療・ヘルスケア領域におけるオープンイノベーションの取り組み「COMPASS Project(コンパスプロジェクト)」の開始を発表し、2つの施策が打ち出された。1つ目は「医療イノベーションアイデア公募」として、医療従事者による世界最小・最軽量コミュニケーション通信端末と見守りサービス「amue link(アミューリンク)」を活用した医療の質の向上や医療現場の負担軽減に寄与するアイデアの公募。2つ目は、「医療・ヘルスケア領域における事業創出プログラム利用者募集」として、ソニーとエムスリーが、医療・ヘルスケア領域で事業創出を目指す企業の事業化や検証を支援する。これによって、医療・ヘルスケア領域における課題解決と持続可能な事業を創出していく。

新たな医療の形で健康管理!「医療」と「デジタル」が融合したサービスが日常を変える

新型コロナウイルスの流行から一年が経ち、先の見えない状況の中で私たちの生活はもちろん、医療業界もこれほどまでに変化しました。医療業界は他の業界に比べてデジタル化が遅れていたものの、製薬会社の在り方の根本を揺るがすような出来事の中で、情報提供の役割はリアルからデジタルへと移行が進みました。

また、治療に関する手段も、AIによる事前問診や治療用アプリを使っての治療など、新たなテクノロジーが数多く登場しています。これらは、ウイルスの感染拡大防止に役立つだけではなく、医療従事者の負担を軽減する役割や患者の負担を減らす役割を担う側面も持っており、少子高齢化社会に必要とされる技術であることは間違いありません。 今後も製薬企業とIT企業などの協業によって創造される、新たな医療の形に注目していきましょう。