メディカル・インサイト 鈴木英介氏 勉強会レポート:後編【Financial Toxicity(経済毒性)の不都合な真実】

コラム

2023.07.19

みなさん、こんにちは。広報担当です。今回は、私たちの顧問であり、株式会社メディカル・インサイトの代表取締役社長の鈴木氏による勉強会レポートの続編です。治療に関連する経済的な負担がもたらす「Financial Toxicity(経済毒性)」をテーマに、後編では経済毒性への対策を中心にサポートの仕組みなどについて解説しています。ぜひ、ご覧ください。
※こちらの記事内に書かれた医療用医薬品に関し、開示すべき利益相反関連事項はありません。

事前に知ることが大事! 経済毒性の対策に使える支援とは

佐塚さん「では、前半に引き続き、後半もよろしくお願いします」

全員「よろしくお願いします!」

鈴木氏「前半でもお話しましたが、病気になってからも働き続けられるかどうか、収入の確保というのも大事ですよね。後半は、この辺りの話をしていきます」

清水さん・小森さん「はい」

鈴木氏「これは就労支援に関わるお話ですね。例えばがんで仕事を辞めてしまいましたという方が、もう一度いい仕事に就けるような、そういう支援も必要ですよね、という流れも出て来ていて。患者会、患者サポートの活動で就労支援は大事だということで、そのサポートを病院の相談窓口、がん相談支援センターでサポートして行きましょうという動きが盛んになってきているんです。そこが経済毒性に対する対処法の1つとして出てきていますね。では、この後はみなさんからの質問にお答えしていきます。何かありますか?」

清水さん「あの、前半でQALY(クオリー)とICER(アイサー)のお話がありましたが、この基準は国ごとに設けるものなんですか?」

鈴木氏「そうですね。お薬の値段をある程度決めていくうえで、そこを考えましょうというのは保険を負担する側、基本的には国が多いですよね」

清水さん「ということは……、ICERは低い方が良いんでしょうか?」

鈴木氏「『元気で生きられる1年』のコストですから、少なくとも高すぎると良くないということは言えると思いますね」

清水さん「それに、病気の希少性や、病気によって治りやすい・治りにくいというのもあると思いますが、それは加味されるのでしょうか?」

鈴木氏「そうですね、先ほどの話でも出てきましたが、希少性の高い病気では、ICERが高くても構わないという考え方はあります。薬の効果がどれ位出るのかというのは、病気や薬によって違います。先ほどのC型肝炎の治療薬であれば、インターフェロンを使うなら50%しか治らないけど、新薬ならほぼ100%治ると。その確率が計算の中に入ります。」

清水さん「こういう基準があった方が、納得感はありますね」

鈴木氏「先ほどの肝炎の話で言えば、平均余命や病気の発生しやすい年齢を考えると、インターフェロンだと50%の人は薬の効果で20年寿命を延ばせるとします。だけど残り半分の人は薬の効果が出なくてゼロ。でも、ソバルディのような薬だったらほぼ100%で20年延ばすことになります。とすると、ソバルディはQALYとして約10年稼げる計算になる。あとは薬剤費の違いでその年数を割り算していくという感じです」

清水さん「なるほど、そうやって算出するんですね。公式みたいなものがあると良いのかもしれないですね」

鈴木氏「実際に公式のようなものがあるのですが、そこで効果以外にもう一つ考えなくてはならないのが、副作用。副作用がものすごく出て、それがずっと残る薬であれば、副作用によって生活が阻害されるわけですよね。これは計算が難しくて、副作用によって生活が3割阻害されるのか、5割か? 7割か?そしてそれは何年続くのか ……と。副作用の種類や程度によって変わって来るので、そこの計算式はブラックボックスですが、考え方の基準はあるはずです」

清水さん「再発や後遺症が残ったら、計算はもっと複雑になりますよね」

鈴木氏「そうそう。でも、その辺りも治験上では、どのくらいの人に再発したり、どの程度の副作用が出るかは全部データが出てくるので、治験データに基づいた形で計算すればハッキリ出せると思いますね」

清水さん「ありがとうございます」

国民皆保険が成り立つのは日本だからこそ?

佐塚さん「今、ロイター通信を見ていたんですけれど、ゾルゲンスマって5億円ぐらいの薬で、その値段は正当化できるというようになっていますが……高額な薬の値段を見るのも面白いですね。で、話がちょっと外れてしまうかもしれないですけれど、アメリカはなぜ皆保険制度を取らないのか、保険料の高さとか、そういった日本とは異なる医療環境の話をお聞きしたいです」

鈴木氏「アメリカは、お薬の値段は日本と比べてそこまで変わらないですが、手術などの治療に掛かるコストが高すぎるんです。アメリカで盲腸の手術をすると何百万円とか、とんでもない治療費になると言いますよね。それを保険で賄おうとすると、保険料が高くなってしまう。だから、高い保険料を支払える人しか保険に入れなくなるんです。もちろん、安い保険料で入れる公的保険のメディケアなどもあるんですが、そうすると今度は出来る治療が制限されて来たり、無制限で医療を受けられなかったり、ということになります」

佐塚さん「保険に入れたとしても、そうなってしまうんですね……」

鈴木氏「ヒラリー・クリントンさんは皆保険制度を広めたいという政策を掲げていた方で、彼女が来日した際に日本の医療現場を見て、日本の皆保険制度が成り立っているのは、医療従事者の素晴らしい献身と仕事ぶりによって成り立っているんだと感じたようです。同じことをアメリカの医療従事者にやらせるのは無理だ……と(笑)」

佐塚さん「そんなに違うんですか。国民性もありそうですね(笑)」

鈴木氏「日本の国立病院、大学病院系のお医者さまは、誤解を恐れず言えばかなり薄給ですよ。その中で激務をこなされているので、やはり、働きぶりは素晴らしいのだと思います」

佐塚さん「しかも、そこにプレッシャーもある訳ですよね」

鈴木氏「そうです。ストレス度も高いでしょうし。アメリカではできないのではないでしょうか」

小森さん「僕からも質問をよろしいでしょうか? 経済毒性に対して就労支援などを病院の相談窓口、がん相談支援センターでサポートしてくれるというお話があったと思うんですけど、その就労支援は専門の方を雇われるのか、看護師の方などが担うのでしょうか」

鈴木氏「素晴らしい質問ですね。これは“社労士”の資格を持っている方が、がん相談支援センターに居るケースが増えてきていると思います。その方が相談に乗って、ハローワークや公的なサポートに繋げたりしている……というのが支援センターのサポート内容だと思います」

小森さん「大きな病院に社労士の方を雇って相談室を作り、常駐していただく、というような事ですね」

鈴木氏「そうですね。がんの場合は、がん診療連携拠点病院は、がん相談支援センターを置かなければならないというようになっています。その相談支援センターの機能の一つとして、就労支援はやらなければいけないという話になっています」

小森さん「規則として決まっているのですね」

鈴木氏「がん相談支援センターの設置は、法律で決められていると考えていただいて良いです」

小森さん「ありがとうございます」

製薬会社にも課される両立支援の働きかけ

佐塚さん「では、私から最後に質問を。今回の話を集約すると、高額な医療費に対して、日本では適切な医療費で賄える保険制度があるし、仕事に対してサポートしてくれる機関もあるということが分かりました。ならば、製薬会社は、治療と仕事の両立支援を考慮する場合、患者さまに対してどうやって支援していくべきなのか。我々のような会社がデジタルでどう支援していけるか? この辺りに関して、鈴木さんの考えをお聞かせいただけますか?」

鈴木氏「なかなか難しいところですね。製薬会社がマストでしていかなければならないのは、出がちな副作用に対する対策、そこを上手く対処する方法を広めていく。そういったことはやっていかなければならないことだとは思います。ただ、そこから先のプラスアルファはできたらいいね……というか、製薬会社単体の範疇を越えてしまっていることなのかもしれないですね。でも、患者さんの両立支援の活動をしているNPO団体をサポートするというやり方はあると思いますし、実際にそうしたサポートをしている企業さんは結構あります」

佐塚さん「そういった活動は、企業ブランドの価値が上がるような気がしますね。我々としても、例えばデジタル上で何らかの媒体を構築して、悩まれている患者さんたちへの就労支援をするとか、そういったことも少し考えていました」

鈴木氏「患者さん向けの情報サイトを運営している製薬会社さんもたくさんありますしね。そういったところのサポートは良いと思います」

佐塚さん「ありがとうございます。今後も何かできることの構想を続けていきたいと思います。それでは、時間も迫ってきましたので、今日のところはここまでで終了にしましょうか。鈴木さん、今回も役立つお話をありがとうございました」

全員「ありがとうございました!」

―― 今回は、日本の保険財政にも関わる“経済毒性”という課題についての勉強会でした。高齢化社会のなか、誰もががんや大きな病気に罹患する可能性がありますが、このような情報を知っておくことで経済毒性への対策を先に考えておくこともできます。これからも最新の医療情報に注目しつつ、医療リテラシーを上げるための勉強会を開催していきますので、ぜひ楽しみにお待ちください。