私たちの顧問であり、株式会社メディカル・インサイトの代表取締役社長を務める鈴木英介氏と弊社の社員による勉強会のレポートです。テーマは、「Googleへの医師の集団提訴から考える、医療情報の口コミのあり方」。
医療施設にも口コミ投稿が集まる時代、私たちはプラットフォーマーとしてどのように情報を扱っていくべきなのか。鈴木氏運営のサイト運用方針を例に交えながらの勉強会となりました。
Googleマップの「口コミ」が医師の利益侵害に発展
佐塚さん「それでは鈴木さん、今日もよろしくお願いします! 出席者は僕と、内海さん、澤田さん、マルダンさん、土屋さん、相馬さん、平塚さん、瀧さん、田原さんです。
今回のテーマはみなさんも公私ともに興味があるものだと思うので質疑応答をしながら議論を深めていきましょう」
鈴木氏「よろしくお願いします。今日はネット上の医療情報の口コミについて色々考えていきたいと思います。
今回、このテーマにしたきっかけは4月のニュースです。みなさんもご存知かもしれませんが、Googleマップに投稿された不当な口コミが削除されなかったことで利益が侵害され、医師や歯科医師が集団提訴したというニュースがありました。みなさんもGoogleマップを使って地域の情報を検索することもあると思いますが、『食べログ』のような形でGoogleマップも医療施設に星(★)に点数と口コミがつけられますよね。
これがいま、お医者さんたちの間ではかなり問題になっていて、酷い口コミが入ってしまったりとか、それに対して『口コミを消してあげますよ』、なんていう売り込みが入ってきたり。このような状況にあることを僕の知り合いの開業医の先生たちがSNSで呟いたりしています。以前からあった仕組みですが、遂にこういった問題が出るところにまで来てしまったということです」
佐塚さん「飲食店や宿泊施設の口コミでは結構以前から問題になっていたことがありましたが、医療施設も同じようになってしまったのですね……」
鈴木氏「何で提訴になってしまったのかという話ですが、それは事実と異なる内容が書き込まれていたり、理由が記載されていない最低評価が繰り返されることに対して削除依頼をしているのにも関わらず、Google側が対応してくれなかったんです。それによって全国の医師や歯科医師らが損害賠償を求めた……という流れです。
また、この口コミはSNSのように書き込んだ人物の特定がすぐにできないことから、プラットフォームを運営するGoogle社に対して損害賠償請求をしたわけです。まだ訴訟したばかりですので、この後どんな判決が出てくるか、判決の根拠はどのようなものだったのかはこの先を見守る形ですね。
では、みなさんにお聞きしますが、このニュースについてどう思いますか?」
平塚さん「Googleマップの口コミが酷いというのは結構以前からSNS上では見かけていたので、遂に訴えられるのか……みたいな気持ちになりました。私は引越した時にレディースクリニックを探していたのですが、近所のクリニックの評価がものすごく低くて『本当にそうなのかな?』と思ったりもしたので、評価が適正化されるなら良いのかなと」
鈴木氏「うん、うん。そうですね。他の方はどうですか? みなさんもGoogleマップの口コミを見たりしますか? お医者さんやクリニックとか」
澤田さん「僕は評価欄を結構見ますね。大阪から出てきて埼玉に住んでいるので医療機関の口コミは気になってしまいます」
鈴木氏「確かに、引越したばかりで土地勘がなかったり、知っている人がいない場合は使うかもしれませんね」
内海さん「僕は、話半分に……というくらいの気持ちでチェックします。お医者さんや看護師さん、受付がどんなタイプの人かとか。あとは、待ち時間が長いかどうかという情報を参考にするくらいでしょうか」
プラットフォーマーはネガティブな口コミにどう対応すべき?
鈴木氏「なるほど。そういう使い方もありますね。では、ネガティブな口コミが入っていることについてはどう思いますか? 最初はユーザーの立場で考えてみてください」
田原さん「それを言っている人が多すぎたり、少なすぎたりしないかという点です。口コミの総数に対して1人、2人ならそれほど気にしなくても平気かなと考えたり、逆に書き込まれた内容が良いものが多すぎる場合はサクラかもしれないと考えます。
整骨院で『良い口コミを投稿してくれたら、マッサージを〇分サービスします!』のようなセールストークをされたことが実際にあるので(笑)」
鈴木氏「そうですね、数をチェックするのも大事です。複数あれば評価の目安になりますし、少なすぎても評価がしにくいですね。
では、みなさんがプラットフォーマーになった場合はどうでしょう? みなさんなら、そういうプラットフォームを立ち上げる可能性もありますよね」
田原さん「プラットフォーマーなら、ネガ・ポジ、両方を掲載するべきかなと。
例えばポジティブなものばかりだと信頼性が落ちてしまうと思いますので。とはいえ、ネガティブなものの場合でも人権を侵害するようなものはダメなので、ガイドラインを設けておくとか、NGワードを登録して入力ができないようにしたり、監視をしていくやり方があるのかなと」
鈴木氏「ありがとうございます。そうですね、プラットフォーマー側で何らかのコントロールをしていかなければいけなさそうだという事ですね。他の方はどうでしょう?」
相馬さん「田原さんと被るかもですが、一旦プラットフォームに入ったコメントの文言をチェックするような運用にして、最初にフィルターにかけるような方法も良いんじゃないかなと。リアルな声を届けるのも口コミの良い所ですが今回の問題になったような内容のコメントも出てくると思うので、言葉遣いや内容の正確性のチェックは必要かと思いました」
鈴木氏「そうですね。では、コメントの内容にあったような事が本当に起きたのか? という事実性はどう確認すると思いますか? または、確認することは難しいと思いますか?」
佐塚さん「僕は以前にやっていた仕事でイベントのサイト運用をした際に沢山クレームが入ったことがあったんですよね。当時はそれほどシステムも発達していなくて、管理していくのが無理だな……となって、その翌年は廃止した記憶があります。
なので、田原さんや相馬さんが言っていたように、きちんと運用設計して制御していかないと難しいでしょうね。僕が運用してきたものは、口コミを活用して優位性を取るのではなく、口コミを無くしてデメリットを排除する方を取ることになってしまったので」
病院・医師検索サイト「イシュラン」の口コミ運用方法
鈴木氏「そうなんですよね。口コミが入って来るという事はリスクも出て来ますよね。僕は、病院・医師検索サイトをいくつか運用していますので、今回のテーマは全くもって自分ごとでもあります(笑)。なので、僕の運用するプラットフォームではどう運用していくのかというのもみなさんにシェアしていきますね。
では、運用しているもののひとつ、『イシュラン乳がん』を使って見ていきましょう。これは乳がんを診てくれる病院はどれくらいあって、医師はどれくらいいるか……というのを絞り込みながら調べられるサイトです。
このサイトの特徴は、それぞれの先生のタイプを投票できるのと、感想(口コミ)も投稿できるという点。例えば、患者さんがどこかの病院の先生に感想を投稿する場合は『患者さんの感想』のところに『この先生の感想を投稿』というボタンがあるので、これを押して投稿することができます。
そして、ここには『※お寄せいただいた感想の公開方針について』の下に〈イシュラン乳がんでは明らかにネガティブな感想については公開しない方針としております。また、治療方針の妥当性に関する話や医師のプライベートに関わる話も公開しません。その診断や治療が本当に妥当なものだったかどうかは、判断のしようがないからです。〉のように、公開方針が記載してあります。
なぜ、こうしているかというと、その続きにあるように、〈あまりにも一方的にネガティブな感想は、(それがたとえ事実だとしても)医師のモチベーションを必要以上に下げてしまいますし、イシュラン乳がんは“恨みを晴らす場”ではないからです。〉ということですね。
一方で、〈医師のコミュニケーション部分に関する建設的な提言/批判に関しては、表現を調整した上で掲載することがあります。〉ということも記載しています。ちなみに、ネガティブな感想が投稿された場合はどう対応しているかというと、〈編集部の判断により掲載しませんでした〉というコメントを入れるようにしています。
なので、ネガティブな投稿があったことだけは分かるようにして運用しています」
ポリシーに基づいた運用でポジティブな口コミが7〜8割!
佐塚さん「さまざまなルールがあるのですね。運用方針はどのようにして取り決めたのでしょう?」
鈴木氏「色々試行錯誤しながら、この運用体制に行きついた……というような感じですね。なぜそうしたのか、というのは公開方針のところに書いてあることがその理由です。もちろん、ネガティブなものだけじゃなく、ポジティブなものも〈その診断や治療が本当に妥当なものだったかどうかは、判断のしようがない〉と言えばそうなんですけれど。
時々ネガティブなコメントに『誤診されました』というのがありますが、これについては本当に医学的に誤診なのかというのは分からないので、それをそのまま載せるのはどうなのかなと。そして、こういった口コミ投稿は恨みを晴らす場ではないということですね。どうしても懲罰感情で書き込みたくなる方はいらっしゃるんですけれど、それはちょっと違うんじゃないかと。これはプラットフォーマーとしての運営者のポリシーです。
ただし、ちょっと内容が微妙なものだけれど場合によっては表現を調整した上で掲載することも時にはあります。それは、他の患者さんにとって参考になる情報や、ある意味では先生にも気付きになるのでは? と感じたものの場合です。基本的に僕たちはお医者さんと患者さんの関係に資するかどうか、というのを公開の基準として考えています。
どうでしょう、みなさんからは何か気になった点などはありますか?」
佐塚さん「商業施設や飲食店は口コミを参考するユーザーの気持ちは良く分かるのですが、僕は医療施設に対してはちょっと疑問というか……。決してこういう口コミを否定しているわけではないのですが、お医者さんに紹介状を書いてもらって他の医療機関にお世話になるという形をとるので、口コミの意見のネガティブなものもポジティブなものも、何を信用するのだろう? と……。保守的でスミマセン(笑)。
口コミをよく見る派のみなさんはどうですか?」
田原さん「そういえば、以前、鈴木さんがカンパニー総会でイシュランを紹介する時にも仰っていたことですが、がん患者さんは先生との相性が大事で、自分が今診てもらっているお医者さんだけではないんだということを知ってもらいたい、選択肢を広げるためのサービスとしてやっている、と。そのことが今のお話でよく理解できました。
口コミの内容に関して私が思うことは、医療に限らずECサイトの運用をしているとネガティブ投稿が集まりやすい印象です。インセンティブがある場合はまた違うと思うのですが、インセンティブもなく、時間と労力をかけて投稿する場合はネガティブ寄りになってしまうのかなと。それ(ネガティブ投稿)だけがモチベーションになるというか……」
鈴木氏「その視点は面白いですね(笑)。実は、イシュランで入って来る口コミはポジティブなものが7~8割なんですよ。患者さんは『感謝を伝えたい!』という方が多いようなんです」
―― 前半は一旦ここまでとなります。後半では、引き続きプラットフォーマーとして口コミをどう扱うべきか、鈴木氏の『イシュラン』の運用に関する話や患者さんが参考にする治療体験ブログに関する話などが続きます。楽しみにお待ちください。
【勉強会:後編】医療プラットフォームの口コミ対策を考える
2024.08.21
私たちの顧問であり、株式会社メディカル・インサイトの代表取締役社長を務める鈴木英介氏と弊社の社員による勉強会のレポートです。テーマは、前半に引き続き「Googleへの医師の集団提訴から考える、医療情報の口コミのあり方」。 […]
この記事の担当者
佐塚 亮/Satsuka Ryo
職種:sales
入社年:2020年
経歴:大手スポーツメーカにて店舗sales,エリアマネージメント業務を担当。のちWeb制作会社にてWebサイトの提案からディレクションをこなし、コンサルタントとしてサイト立ち上げ後の売上向上まで支援。その後2020年にメンバーズへ入社。主にクライアントからのヒアリング及び検証データを基に要件定義を行い、サイトの構築運用を実施。定常的に支援サポートを行う。クライアントはもちろんエンドユーザーの立場・視点に立ち、問題抽出から改善案の立案までを手がける