製薬会社で進むデジタルトランスフォーメーション(DX)事例まとめ(2021年8月~9月)

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公開日:2021.10.12
更新日:2024.07.12

今回は2021年8月~9月の製薬会社の動きをまとめています。9月となり、「デジタル庁」が発足し、医療や介護の問題もデジタルの力でより良いものに変わることが期待されています。また、製薬業界も変わらずデジタル化へ進み続け、MRとのリモート面談は標準的な対応となり、オンラインで情報提供を専門に行う「e-MR」やLINEを使ったサービスなども情報提供の新しい形として広まっています。デジタルによるアプローチで変化を見せる製薬業界の「今」を感じてみてください。

着々と進む製薬業界のデジタル化。データ分析、リモートMRで一層の業務効率化へ!

緊急事態宣言が9月末で解除されたものの、まだ新型コロナウイルスの感染については楽観視できない状況が続いています。製薬業界と医療の現場は一続きの関係でもあるため、デジタルを駆使したサービスやリモート対応などは、より一層活発な状況です。

また、デジタル化によってデータサイエンスが注目され始めたり、MRのリモート面談、アプリによる情報提供や治療が標準化していく流れなどを鑑みると、リアルマーケティング時代には重要視されにくかった“業務の効率化”にも踏み込んでいるように感じました。

◆業界の動向◆

待望の「デジタル庁」が発足し、医療や介護サービスなど、私たちの生活が便利になることが望まれています。オンライン医療にもスポットが当てられ、距離による医療格差が縮まりデジタル化の恩恵を受ける人が多くなることなども期待されます。

また、データの利活用、添付文書の電子化など、デジタル化に対応した動きは着々と進んでおり、医療や製薬業界はすでに“インターネットありき”で業務が行われているのを感じました。製薬企業で求められる人材は、この先もどんどん変化していくことが考えられます。

・日刊薬業:平井デジタル相、オンライン医療で「暮らしを便利に」 デジタル庁が発足

9月1日に菅政権時の政策となっていた「デジタル庁」が発足した。
平井卓也デジタル相は、同庁のホームページにメッセージを掲載し、重点的に取り組む柱の一つに「医療・教育・防災をはじめ、産業社会全体にわたるデジタル化」を掲げ、「オンライン医療・教育を実現して、日々の暮らしを便利に変えていく」と、意気込みを示した。また、菅義偉前首相も新型コロナウイルス感染症への対応を通じて行政サービスや民間でのデジタル化の遅れが浮き彫りになったとした上で、「誰もがデジタル化の恩恵を受けることができる、世界に遜色ないデジタル社会を実現する」と発言。同庁の健康・医療・介護分野に関する担当部署が入る「国民向けサービスグループ」のグループ長は、村上敬亮統括官が務めるとのこと。

・ミクスOnline:医師が製薬企業サイトにアクセスするきっかけ 1位は「ネット講演会で得た情報の確認」

医薬品マーケティング支援会社のエム・シー・アイ(MCI)が実施した調査によると、医師が製薬企業ウェブサイトにアクセスするきっかけの1位が「インターネット講演会で得た情報の確認(71.9%)」であることが判明した。さらに僅差の2位が「医療系ポータルサイトで得た情報の確認(70.8%)」とのこと。医師が複数の情報チャネルから情報収集し、知り得た情報を自ら再確認しているということになる。これまでMRは講演会後に即時フォローアップできていたが、コロナ禍によりそれらができず、処方機会の損失となっている。医師の情報収集の動きをしっかりキャッチし、MRがリアル面談やリモート面談で即応してクロージングすることで、処方機会の損失を最小化していくことが必要とされる。

・ミクスOnline:「全てリモート面談でも良い」医師急増 HPで26%に 「リモートいらない」は過半数割れ

医薬品マーケティング支援会社のエム・シー・アイ(MCI)が実施した調査によると、MRとの面談は「全てリモートでも良い(23.0%)」と考える医師が急増していることがわかった。この結果は、20年7月調査から10.2ポイント増となっており、病院勤務医(HP)/開業医(GP)別にすると、HPは26.2%、GPは11.6%と差がついた。コロナ禍で訪問規制が強まったHPほどリモートの受け入れが良い実態が改めて確認されている。実際、この時期の病院では患者に家族との面会機会を提供するために院内のネット環境が整備され、医師のデジタルへのアクセス環境が改善された。今回の調査結果からもMRとのリモート面談を一般的、かつ主要な情報収集手法と認識する医師が増えているといえる。そして、「リモート面談はいらない」という回答は16.3%にとどまった。リモート面談を経験した後は、リモート面談への抵抗感が薄れていると考えられる。

・ミクスOnline:製薬5社が「製薬×データサイエンス Meetup」開催 データサイエンティストの採用でキャリア相談会も

8月7日、製薬企業5社(アステラス製薬、エーザイ、大日本住友製薬、田辺三菱製薬、中外製薬)による「製薬×データサイエンス Meetup」と題するイベントが開催された。これは、データサイエンティスト、データエンジニア向けのイベントで、医療・ヘルスケア分野におけるデータ利活用の事例報告、各社の募集ポジションや職場環境などが説明された。また、参加企業5社による「なぜ今、製薬企業のデータサイエンスが面白いのか?」をテーマにした、実際のデータ解析やAI開発の現状、データソリューション、MR活動を最適化するためのデータ活用などについての事例が紹介された。当日、イベントには470人余りが参加。プレゼン後には、ZOOMのブレイクアウトルームを活用したキャリア相談会も行われた。

・アストラゼネカ、本日(8/2)より製品への紙の添付文書の同梱を段階的に終了し、電子化対応を開始

アストラゼネカ株式会社は、改正医薬品医療機器等法(薬機法)が1日付で施行されたことを受け、添付文書の電子化への対応を開始すると発表した。これによって、改正薬機法施行により紙の添文は原則廃止となり、医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページにある電子添文や各関連文書閲覧が基本になる。紙の添文同梱を終了した製品については、製品の外箱や容器に印字されたGS1バーコードをアプリケーション「添文ナビ」で読み取り、電子添文を閲覧する形式に。

同社では「業界内でもいち早く」電子添付文書(電子添文)への移行を開始するとし、8月包装分の「シナジス」「ファセンラ」から始め、2022年中にはAZで製造する全製品について対応していく予定。

◆MR活動◆

MRの活動も引き続き、リアルからデジタルへとシフトしています。

オンライン経由に特化して医療関係者への情報提供を行う組織が発足し、医療機関への訪問をしないMRが誕生しました。また、リモート機能をフル活用し、MRが複合がん免疫療法の院内連携をサポートする事例もあり、デジタルによってMRの役割が拡大するケースも。

・日本ベーリンガーインゲルハイム、医療関係者との新たなコミュニケーションチャネルである「e-MR」の組織を本格始動

日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社は、全国の医療関係者が患者へより早い診断・治療を提供できる環境づくりを支援するため、オンライン面談やメールによる情報提供を専門に行う「e-MR」を組織化した。e-MRは、2019年から試験的に配置されていたが、医療関係者の多様化する情報提供チャネルへのニーズを踏まえ、2021年1月に正式に組織化、本格的にe-MR活動をスタートしたとのこと。「e-MR」の面談は、メールやQRコードの読み込み、LINEなどにより予約ができ、医療関係者が所有するパソコン、スマートフォン、タブレット端末で実施できる。

また、「e-MR」は、ライフイベント等により自宅での勤務を必要とする社員にも選択できる、新しい働き方にもつながっているという。

・ミクスOnline:BMS・大羽オンコロジー事業部門長 MRがリモートで「複合がん免疫療法」の院内多職種連携をサポート

ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社の大羽克英・執行役員オンコロジー事業部門長は、MRがリモートを活用して複合がん免疫療法の院内連携をサポートする活動に注力していることをミクスonlineの取材にて明らかにした。

抗がん剤のオプジーボとヤーボイを併用する複合がん免疫療法は、患者の生存期間の延長が期待される。その一方で免疫関連有害事象(immune-related adverse events: irAE)の管理が治療継続に際し極めて重要となるため、がん専門医以外の循環器、呼吸器、内分泌の医師や薬剤師、看護師をワンチームとする院内多職種連携が必須になるという。そこで、MRがファシリテーターとなり、院内の医療チームにirAEなどの情報をWebセミナーなどで提供。その後の医療者同士のディスカッションなどをフルリモートで支援していく。現在、医療者からの評判も上々であり、同社の大羽事業部門長は、「こうしたMRによる取り組みは病院内に止まらず、地域の医療者間連携にも活かしたい」と意気込んでいるとのこと。

◆新サービス◆

引き続きLINEの有効活用などが目立っています。コロナ禍によって通院の機会が減ったことから、製薬会社も情報提供の形を変えつつあるようです。通院しないことで患者の治療への意欲が下がったり、正しい情報を知る機会が減らないよう、手軽にいつでも使えるスマートフォンアプリを活用していることが考えられます。

・日本イーライリリー株式会社:LINE ヘルスケアと連携し、LINE 公式アカウント
「糖尿病@LINE ヘルスケア」を 2021 年 8 月 24 日(火)に開設

日本イーライリリー株式会社は、LINEヘルスケアが開設した公式アカウント「糖尿病@LINEヘルスケア」を通じ、食事法や運動法など、糖尿病と上手に付き合うための患者向け情報を提供すると発表。

この背景にあるのは、新型コロナの感染拡大が続く中、糖尿病患者の治療に対するモチベーションの維持がこれまで以上に求められていること、その一方で糖尿病の治療を継続する患者側も個々の病状や病態に見合った情報収集や、そこへのアクセスが求められていたため。

「糖尿病@LINEヘルスケア」では、糖尿病治療や血糖コントロールに役立つ情報として、患者さんが日常生活にすぐに取り入れられる簡単で美味しい食事法や、無理なく自分のペースで続けるための運動法、糖尿病の最新治療情報など、医師や専門家監修による様々な情報をコンテンツとして配信する。同社では「糖尿病@LINEヘルスケア」を用いたサポート活動をはじめとして、今後も糖尿病と共に生きる一人ひとりに寄り添い貢献していく。

・アストラゼネカ、患者さんの卵巣がん情報へのアクセスを支援、LINEアカウント「わかる卵巣がん」の提供を開始

9月22日、アストラゼネカ株式会社は、特定非営利活動法人 婦人科悪性腫瘍研究機構の監修および認定NPO法人キャンサーネットジャパンの協力により、LINEアカウント「わかる卵巣がん」の開設を発表。LINEアカウントの活用により適切な情報を迅速に届けることで卵巣がん患者の治療に対する不安軽減を目指すという。また、卵巣がんの発見時には、十分に情報を集める時間もなく早急に治療を開始しなければならないことが多いため、卵巣がんの患者さんには、迅速に適切な疾患情報を提供することが必要であると考えられている。

「わかる卵巣がん」の概要は、治療や療養生活に役立つ幅広い情報として、卵巣がんの特徴や基本的な治療や、患者さんが抱きやすい疑問について解説。他にも、さまざまな年代、家族構成の患者さんの体験談も掲載されている。

◆治療用アプリ◆

ニコチン依存症治療アプリで話題となったCureAppが、「高血圧治療アプリ」を薬事申請したとして話題になっていました。こちらも高血圧に悩む人の新しい治療方法の選択肢となる未来を期待したくなるアプリです。

・ミクスOnline:CureApp・佐竹社長 「高血圧治療アプリ」を薬事申請 22年上市見込む 降圧薬減量など医療費適正化も

9月3日、株式会社CureAppの佐竹晃太社長は記者会見にて、5月に「高血圧治療アプリ」を疾患治療用プログラム医療機器として薬事申請したことを報告。22年度中の上市にむけて準備する方針を示した。佐竹社長は保険適応後の医療費への影響に触れ、「医薬品(降圧薬)に頼らない早期の高血圧治療を実現し、医療費の削減効果も期待できる」と強調。

高血圧治療アプリを用いた第3相臨床試験「HERB-DH1 pivotal study」の結果報告では、自治医科大学内科学講座循環器内科学部門の苅尾教授は、「アプリによるデジタル⾼⾎圧治療の降圧有効性が明らかになった」と述べ、「これまで継続が難しかった⽣活習慣改善のため、個⼈レベルでの⾏動変容をサポートすることで、降圧効果を促進し、⾼⾎圧患者の治療に貢献できる」との見方を示した。

デジタル化で着実に変わりゆく製薬業界。働き方や求められる人材が大きく変わる可能性も

緊急事態宣言の解除や、新型コロナウイルスのワクチン接種率も着々と上がっていますが、医療現場は慢性的な人手不足が続いています。その状況の改善に役立てるためにも、製薬会社のデジタル化は効率よく進めていくことが重要です。

また、コロナ禍となって以降、デジタルを活用した新しいサービスも次々と登場しましたが、それらも今はスタンダードへと変化し、製薬企業の働き方や求められる人材が大きく変革している様子が感じられました。

今後も当ブログにて各社のDXの最新事例をお伝えしていきます。

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