製薬会社で進むデジタルトランスフォーメーション(DX)事例まとめ(2022年2月〜3月)

DX事例まとめ

公開日:2022.04.19

みなさん、こんにちは。広報担当です。今回は2022年2月〜3月の製薬会社の動きをまとめています。前回はメタバース進出企業の話題もありましたが、引き続きVRやAIの活用などデジタルテクノロジーを取り入れた事業や新サービスが各製薬会社で始まっているようです。本格的なデジタル活用が広まっている様子が感じられますので、ぜひチェックしてみてください。

最新のデジタルテクノロジーが医療従事者と患者の「体験」を変えていく!

今注目されているデジタルの先端テクノロジーは、現実世界とは異なる3次元の仮想空間を使ったサービス「メタバース」がありますが、それ以前には、AI(Artificial Intelligence/人工知能)、 VR(Virtual Reality/仮想現実)やAR(Augmented Reality/拡張現実)などもあり、これらの活用シーンは着実に増えています。特に、医師のオペ訓練や患者のリハビリテーションなど、物理的に実現が難しいものに対してVRやARは相性が良いのかもしれません。

今回は、デジタルテクノロジーを取り入れた事業展開が各製薬企業でも目立っていましたので、以下から事例を見て行きましょう。

◆業界の動向◆

VRなどを使用した活動を推し進めると発表していたのは、大日本住友製薬株式会社です。患者さんの体験を医師が出来るようにしたツールを使用し、情報提供に活用するという事が語られていました。VRは没入感のあるテクノロジーのため、症状の疑似体験は治療にあたる医師にとって大きな「気付き」を与えるのではないでしょうか。

■ミクスOnline:大日本住友製薬・小田切営業本部長 VR活用で医師の体験価値深める活動推進「もう一歩踏み込みたい」

“大日本住友製薬の小田切斉代表取締役専務執行役員・営業本部長兼CNS営業本部長は2月7日、記者懇談会の個別取材で、VR(バーチャルリアリティ)等を活用して医師の体験価値を深める情報提供活動を推進する考えを強調した。同社は21年4月からMRがVRやXR(クロスリアリティ)を活用した新たな情報提供活動に着手した。すでにVRはパーキンソン病、レビー小体型認知症の患者体験に応用されている。”

また、患者としての体験を重要視するような「患者目線」の組織体制となったのは、武田薬品工業株式会社。行動指針にも掲げていますが、「患者さんに寄り添い(Patient)、人々と信頼関係を築き(Trust)、社会的評価を向上させ(Reputation)、事業を発展させる(Business)」という想いの元、患者貢献を強化する組織体制に見直すと発表されました。これは、私たちがペイシェントジャーニーを作成するうえでも意識していることですが、まずは「患者目線」で考えることから始め、そこにどんなテクノロジーがマッチしているのかを考えることが大事です。

■武田薬品工業株式会社:ジャパンファーマビジネスユニットの新たな組織体制について

“患者さんや医療関係者をはじめとする、様々なステークホルダーの視点で物事を考え、データとデジタルの活用を通じて新たな価値の創造とその最大化に挑戦
ビジネスユニットに共通する専門的な機能を集約して部門横断的にサポートする部門として、コマーシャルエクセレンス部およびデータ・デジタル&テクノロジー部を新設します。また、医療政策・マーケットアクセス統括部を医療政策・ペイシェントアクセス統括部に改め、患者さんへの貢献を強化します。”

そして、医療業界全体の動向として、コロナ禍以降のスタンダードになりつつあるWeb講演会が好調なようです。前年比よりもプラスとなっていることも踏まえると、一つのコミュニケーション手段として医療現場で認められるものになったとも言えます。

■日刊薬業:Web講演会が2桁増、製品トップは「ノベルジン」 Impact Track2月度

“インテージヘルスケアの「Impact Track」2022年2月度調査によると、Web講演会が前月比18.4%増と2桁の伸びを記録した。また、全ての項目で前年同月比がプラスとなった。
 Web講演会は136万4855件(HP92万9718件、GP43万5137件)で、前年同月比も10.4%増だった。製品ランキングではHP、GP共にノーベルファーマの低亜鉛血症治療薬「ノベルジン」がトップに立った。”

◆MR・MS活動◆

Web講演会が好調なように、オンラインを活用しているMRも数を増やしています。アステラス製薬株式会社のオンラインMRも増員が発表されており、顧客のニーズを見据えての対応をしていました。「倍かそれ以上」の増員ということなので、医療従事者側もオンラインを活用している様子がうかがえます。

■ミクスOnline:アステラス製薬・筒井営業本部長 オンラインMR拡充に意欲 顧客ニーズ高まれば「倍かそれ以上」増員

“アステラス製薬の筒井泰博常務担当役員・営業本部長(日本コマーシャルプレジデント)は2月9日、専門誌等のグループ取材に応じ、「アステラス オンラインMR」について将来的に増員する方針を明らかにした。同社のオンラインMRは21年6月に4領域6製品(疾患領域担当制)を11人でカバーする活動を開始。半年後に15人体制に拡充した。”

これらを裏付けるように、インターネットを使用したディテールが定着していることが数値でも出ていました。

■ミクスOnline:コロナ「第6波」のDTL数 ネット使った医師への情報インプットが定着 視聴直後のMRフォローがカギ

“コロナ禍の医薬品情報のチャネル別ディテール数(DTL数)は、新規感染者数が爆発的に増加した「第6波」(22年1月以降)においてもコロナ前の水準の90%超をキープできていることが分かった。チャネル別にみると、「MR」のDTL数が医療機関の訪問自粛要請で抑制されているものの、「Web講演会」と「インターネット」はコロナ前の160%~200%程度を維持しており、もはやネットを使った医師への情報インプットは「市民権」を得た格好だ。”

新型コロナウイルス流行直後は、MRのディテール数が減少することが問題となっていましたが、コロナ禍となって二年が過ぎ、その間に各製薬会社ともにデジタル化に力を入れた結果、デジタルチャネルが有効活用されていることが体感できるようになってきました。

◆新サービス◆

上記でお伝えしたように、ようやく医療従事者や患者さんも含め、デジタルでの情報取得・情報提供がスタンダードなものとなりました。医療業界ではインターネット活用が進まない時代が長く続きましたが、今後はインターネットを使いながら地道に患者さんのリテラシーを上げることもできるようになってくるのではないでしょうか。

アストラゼネカでは、疾患啓発を目的にした心不全に関するサイトを開設していました。

■アストラゼネカ株式会社:日本循環器協会とアストラゼネカ、心不全に関する疾患啓発ウェブサイト『Spotlight On Heart Failure』を新規開設

“『Spotlight On Heart Failure』は、心不全に関する啓発を目的に、アストラゼネカが世界心臓連合と協力して開発しました。この取り組みは、心不全発症のリスクを抱える人や、既に心不全と診断を受けた方、そのご家族の体験にスポットライトを当て、心不全の理解促進を図るとともに、この深刻な疾患の影響を受けている多くの方々への周知を目的としています。この目的のもと、日本では、日本循環器協会と連携し、世界心臓連合と共同開発したものとは異なる情報発信を目指します。”

◆新会社・新組織設立◆

製薬会社の「組織全体」でデジタル化に対する取り組みも活発に行われており、新しい切り口の研究組織や共同事業なども展開しているようです。

直近で発足した新会社や組織を以下からチェックしてみましょう。

■株式会社スズケン:デジタルビジネスの推進に向けた新会社の設立に関するお知らせ(PDF)

“医薬品卸売事業をコアとする事業体から「健康創造事業体」への転換を加速させるべく、デジタルの領域で様々な企業との協業、業務の展開を進めておりますが、デジタルビジネスの事業化を加速させるため、ヘルスケアプラットフォームの企画・提案を行う「コラボクリエイト」、開発・運営・保守を担う「コラボプレイス」の2社を設立することに至りました。”

医療用医薬品卸売業を営む株式会社スズケンが、デジタル推進のための新会社を設立しました。同社の中でデジタル部門を設立するわけではなく、専業の新会社を2社設立することに踏み切った形となっており、デジタル事業の加速へ本腰を入れている様子が伝わります。

また、銀行系システムインテグレーターの株式会社日本総合研究所では、業界を横断して「日本デジタルヘルス・アライアンス」を設立していました。

■株式会社日本総合研究所:「日本デジタルヘルス・アライアンス」設立について

“ 株式会社日本総合研究所(本社: 東京都品川区、代表取締役社長: 谷崎勝教、以下「日本総研」)は、デジタルヘルス(注1)に関するサービス・技術の開発などを推進することで、国民の健康増進と産業発展に貢献することを目的に、「日本デジタルヘルス・アライアンス(略称: JaDHA)」(以下「本研究会」)を2022年3月に設立します。
 本研究会は、製薬デジタルヘルス研究会(以下「SDK」/注2)および日本デジタルセラピューティクス推進研究会(以下「DTx推進研究会」/注3)の統合によって設立された、業界横断的研究組織です。”

設立の背景にあったのは、プログラム医療機器(患者側のスマートフォンやタブレットおよび医療提供者側の各種機材にインストールされるプログラム単体、あるいはプログラムを記録した記録媒体)の開発に向けた取り組みを、厚生労働省をはじめ官民挙げて強力に推進していたことによるもの。この組織の発足によって、ICT企業やベンチャー企業などが持つ先進的なデジタル活用に関する知見と医薬品・医療機器メーカーが蓄積してきた膨大なノウハウを融合し、医療における「デジタルならではの価値」を追求していくとのこと。

同じように、医師専用コミュニティサイト「MedPeer」の運営などを手掛けるメドピア株式会社も、医薬品、医療用検査試薬、医療用機器などの卸業者であるアルフレッサ株式会社と共同事業の展開を検討しています。先ほどの日本総研と同じように、両社の「強み」を活かしたDX支援を目的としており、「リアル×デジタル」を掛け合わせて課題解決を目指すとのこと。今回の共同事業の開始は、 2022 年夏ごろを予定しているそうです。

■メドピア株式会社:アルフレッサ株式会社との共同事業展開の検討開始に関するお知らせ(PDF)

“メドピア株式会社(東京都中央区、代表取締役社長 CEO:石見 陽、以下:当社)は、2022 年 3 月 22 日開催の取締役会において、アルフレッサ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:福神雄介、以下:アルフレッサ)との間で、医療機関のデジタルトランスフォーメーションを支援する共同事業展開に向けた検討を開始する旨の合意をいたしました”

リアルの体験から距離や時間を越えたデジタルコミュニケーションへ!

これまでは「リアル」を通した体験に多くの価値を置いていた医療・製薬業界でしたが、ようやく「デジタル」ありきの業務体制になってきたようです。そして、これからのデジタル化社会へ挑むための新たな組織や会社の設立が続々と行われている様子も伝わったのではないでしょうか。

また、私たちの生活の中でもデジタル化されていくシーンは確実に増えています。医療においても、インターネット活用がスタンダードになったことで、いわゆる「治療」の分野だけではなく、コミュニケーションの部分でもドクターと患者さん、ドクターと製薬会社などのコミュニケーションの形がスリム化されています。時間やコストの無駄を省いて効率的な診療や薬剤開発に注力できるようになることで、一人でも多くの人の健康が維持されていく未来に期待しましょう。

今後も当ブログにて各社のDXの最新事例をお伝えしていきます。