
私たちの顧問であり、株式会社メディカル・インサイトの代表取締役社長を務める鈴木英介氏と弊社の社員による勉強会のレポートです。
テーマは、「HBOCと難病の診断ラグ問題から考える医療倫理」。遺伝性の乳がんや卵巣がんの説明とともに医療機関で行う遺伝子検査について解説しています。さらに、がんの検査結果を知りたい・知りたくないというケースを考えながら医療倫理にも触れています。ぜひ、ご覧ください。
勉強会の参加者

2018年中途入社
営業
佐塚さん

2017年中途入社
Webディレクター
平嶌さん

2023年新卒入社
Webディレクター
相馬さん

2023年中途入社
プロデューサー
内海さん
遺伝性の乳がんBRCA陽性は全体の何%?
出席者は僕と、相馬さん、内海さん、平嶌さんです
よろしくお願いします。
今回のテーマは、『HBOCと難病の診断ラグ問題から考える医療倫理』です。HBOCはエッチビーオーシーと読みますが、エッチボックとも読みます。
日本語で言うと“遺伝性腫瘍”で、ちょっと難しそうな話題と感じられるかもしれませんが、分かりやすく伝えるようにしていきますね。じゃあ早速ですが、HBOCってみなさんは聞いたことはありますか?(画面を見ながら)……初めての方ばかりですね。
HBOCは、Hereditary Breast and Ovarian Cancerの略です。遺伝性の乳がん、卵巣がんのことです。アメリカの女優さん、アンジェリーナ・ジョリーさんはまさにHBOCのリスクがあるために乳房の予防切除を公表した方なんですけれど、このニュースについて知っている方はいますか?
あっ、相馬さんが頷いていますね
はい、見た記憶があります
乳がんにはBRCA(ブラカ)の1とか2とかっていう遺伝子に変異があるタイプがありますが、彼女はBRCA1というタイプの乳がんで、両方の乳房を切除しています。さらに後には卵巣と卵管の切除もしていて、当時はかなりメディアでは取り上げられていました。
先ほどのBRCAという遺伝子に変異があるタイプのがんがHBOCのがんなんですけど、ではここでみなさんにお聞きします。
乳がんといっても患者さんはかなり多いですが、このBRCAの変異があるタイプは乳がんの何%くらいだと思いますか?当てずっぽうでいいですよ(笑)
じゃあ、僕から……50%!
3割ぐらいです
10%
50、30、10……だんだん下がってきましたね! 佐塚さんはどうですか?
え~っと、2~3%ぐらいなんじゃないでしょうか
みなさんありがとうございます。
早速答えを言うと……佐塚さんが一番近いです。BRCA陽性タイプの方は、多分5%もいないぐらいの感じだと思います。
乳がんは分類として大きく2つの軸があって、1つはホルモンが陽性か陰性か、女性ホルモンをエサにして成長するタイプのがんがどうかです。
ホルモン陽性だと、ホルモンを抑制する治療がお薬としてはメインになります。もう1つは、HER2遺伝子変異が陽性か陰性か。余談ですが、最近、第一三共さんからHER2遺伝子変異に良く効く薬が出てきて、これで売上を大きく伸ばしていますね。ホルモンもHER2も陰性のタイプの乳がんは、トリプルネガティブと呼ばれています。トリプルネガティブだと、お薬としてはいわゆる化学療法や免疫療法がメインになります。こんな風にがんがどのタイプかによって治療が変わっていきます。
で、先ほど言ったBRCA遺伝子変異陽性は、トリプルネガティブの一部に入っているくらいの感じで、遺伝が原因で乳がんになるケースは非常に少ないんですね。乳がん全体で見て5%いるかどうかというぐらい。卵巣がんの場合は全体の2~3割がこのタイプと言われていますので、乳がんより少しはメジャーです。いずれにしても、このBRCAの遺伝子変異を持っていると乳がんにも卵巣がんにもなりやすいですし、その他、すい臓がん、前立腺がんなどでもBRCA遺伝子変異陽性が原因になっているケースが一部あると言われています。ちなみに、男性が乳がんになることもありますが、こちらもBRCAの遺伝子変異を持っているケースが多いです。
では、最初のテーマ、HBOCとは何か?という話から始めていきます
市販と医療機関の遺伝子検査はレベルが違う!

冒頭でHBOCは遺伝性、親からの遺伝のものであるという話をしましたが、
最近、世の中では遺伝子検査というものが流行っていると思いませんか?
見たことある方いらっしゃいます?
あります、あります。胡散臭いなと思いながら見ていました(笑)
なるほど(笑)。他の方はどうでしょう?
今より昔の方がそういうものを題材にした映画とかドラマがあったような……
試しにPCで『遺伝子検査』などでググってみるとですね、1番上に『遺伝子検査(解析)ならジーンクエスト』、次に『遺伝子検査や解析 ユーグレナ・マイヘルス』で、どちらも遺伝子解析なら○○円で出来ますという内容ですね。最近はこういった遺伝子検査キットを一般向けに広告している会社があります。みなさんも調べてみてください
(PCを見ながら)そんなに高くないんですね。もっと高いのかと思いました
先ほどのBRCAの遺伝子があるかどうかという話をしましたが、こういった遺伝子検査で分かると思いますか?
分かる!……と思います
いやぁ……分からないんじゃないかなぁ
おっ、意見が分かれていますね~。
平嶌さんのおっしゃるように、分かって欲しいとは思うんですけど(笑)、答えは……分からないんです。何でもかんでも『遺伝子検査』と一口に言ってしまっているので同じに見えてしまうんですけど、こういった市販されている遺伝子検査と、医療機関で行われる遺伝子検査はレベルが全然違うんですね。
市販の遺伝子検査はSNP(スニップ)というものを調べるのですが、あまり細かく解説すると分かりにくくなってしまうので簡単に説明しますけれど、少し乱暴な言い方をすれば、血液型検査をもう少し細かくしたくらいのレベルの検査と思ってもらえば良いです。
そのSNPのタイプによって、『こういう病気になりやすい/なりにくい』、『アルコールに強い/弱い』、『先祖のルーツがどこにあるのか』etc……、こんな感じで色々な傾向を調べてくれるようですが、個別の遺伝子変異に基づく病気のリスクなどが本格的に分かるようなものではないですね。なので、市販の検査ではBRCA遺伝子変異の有無までは分からないということです。
では、このBRCAの検査を医療機関で行う場合は保険が効くと思いますか?(画面をチェックしながら)……効かない派が圧倒的多数を占めましたね!
答えは……効きます。条件を満たせば
佐塚さん、相馬さん、内海さん、平嶌さん「えぇ~」
保険適用する遺伝子検査の条件とは?
なので答えは△(三角)みたいな感じでしょうか(笑)。
これはどういうお話かというと、乳がんのタイプはそんなにすぐには分からないんですよ。例えば最初に画像で乳がんがありそうだと診断された時に、BRCAの検査をやるかどうかどう判断するかというと、45歳以下で若くして乳がんになってしまった方の場合や、ホルモンも陰性、HER2も陰性のトリプルネガティブのタイプはBRCAのタイプである可能性が高まるので、60歳以下でトリプルネガティブであればこの検査をやってみようということになります。それと、男性で乳がんの場合や卵巣がんの場合、近親者の中に乳がんや卵巣がんになった方がいれば保険を使って検査できるんです。
とはいっても、保険適用になったのは2020年ぐらいからなので、まだまだ最近のことですね。他には右胸に乳がんがあったとしてBRCAの遺伝子の変異が分かった場合、反対側の乳房も切ることがあり得ますが、この手術も保険が適用されます
そうなんですね
それはなぜかと言うと、反対側の乳房も乳がん発症のリスクが高いから。
卵巣がんのリスクが高いのも同じなので、リスクを減らすためにあらかじめ卵巣や卵管も取ってしまうことがありますが、こういう場合も保険が適用されます。
……ということで、こういうタイプのがんがあるということが医療者の間にも周知されてきて、予防的な治療も含めてより広い範囲で保険を使ってカバーする動きが広がってきています。
先ほどの話のように、一定の条件を満たした患者にはBRCAの遺伝子変異が保険で検査できるようになったわけですが、そこで陽性であると分かった場合、ご家族の方はどうなると思いますか?
例えば、みなさんの兄弟姉妹やご両親、お子さんにBRCA遺伝子の変異が陽性というのが見つかった場合、どうしますか?
そうなったら……検査をしたいと思います
手術が必要になるかなと思います。父と、祖母については乳がんになっているので、自分も検査を受けなくてはいけないのかなという気持ちになっています
うちの姉は乳がんで去年手術をしています。姪っ子も3人いるので、そちらへの遺伝も気になります
それは気になりますね。まず、ご自身のBRCAが陽性か気になりますし、そうだとしたらお姉さんのお子さんも……などと考えると思います。このように、今みなさんから話していただいたように、端的に言ってご家族にとって一大事です。だからこそ、BRCAの検査は気を配りながらやらなくてはいけない。検査の必要性や意味を患者が医療機関側と相談しながら進めていく体制を取る必要があるということで、ゲノム医療をする場合には相談窓口を設けた病院を国が指定しています。
ですから、どの病院でも遺伝子変異の検査が受けられて、なおかつ相談窓口もあるというものではないので、検査できる医療機関は限られてくるんですね。でも、まずはこういった相談窓口や支援体制があるということがとても大事です。先ほどご家族やお子さまが……という話が出ましたが、やはりそういう時には検査をしたいという気持ちになるわけですよね。
しかしながら、まだ発症していないけれど、がんになった方が血縁者にいる場合の検査は、残念ながら保険でカバーされないんです。あと、遺伝子変異が陽性だったという場合にはがんを発症するリスクが高いので、毎年のように検査を受けた方が良さそうですよね。乳がんだったらマンモグラフィーとか。あるいは、アンジェリーナ・ジョリーさんのように予防としてあらかじめ手術をしたりすることも考えられます。
ただ、現状はそういったケースでは保険が効かないので、患者会から保険適用してほしいという要望が出ています。
それから、今日のお題は“医療倫理”ですが、検査の結果について『知りたい』方もいますけれど、『知りたくない!』という方もいると思いませんか?……佐塚さんは首を傾げていらっしゃいますね
検査結果を知るべきかを倫理的観点から考える

知りたくない、という状況が自分ではイメージができなくて……
いやぁ、ありますよ。ちょっと嫌な言い方をしますが、遺産狙いとか
そっちですか(笑)?
介護の話だとあるんですよ……!
今の内海さんの話ですけど、保険会社にとってそれは重要な情報になり得ますね。
実は海外だと遺伝的な遺伝子変異があることについて、社会的に差別をしてはいけないという法律があるんです。日本では未整備ですが。患者会からは、この法律を早く整備してくれという強い要望が出ているんですけどね。保険会社のビジネスという観点で純粋に考えたら、遺伝子変異がある方とない方の保険料は変えたくなりますよね。極論を言えば遺伝子変異がある方は保険に入れたくないとか。
だから、僕は社会的な倫理としてどう考えるべきかというのはとても大事だと思います。先ほど遺産狙いという話が出ましたが、逆もあり得るわけで、遺伝子変異がある方との結婚はちょっと……みたいな話も出てくるとか。
だから、知らない権利もあって然るべきかなと。一律に知るべきだとは言えないのがすごく難しい所なんですよね。こういったことはいま、がんの世界の中で医療を提供する側、患者会、製薬会社、法律関係も含め、ホットな領域となっています
―― 前半は一旦ここまでとなります。後半では、もう1つのテーマとなる“難病の診断ラグ”も含めて解説をしつつ、今後のデータ活用時代を見据えて医療倫理について深堀していきます。続編も楽しみにお待ちください。
後編はこちら

【勉強会:後編】HBOCと難病の診断ラグ問題から考える医療倫理
2025.02.04
私たちの顧問であり、株式会社メディカル・インサイトの代表取締役社長を務める鈴木英介氏と弊社の社員による勉強会のレポートです。テーマは、前回に続いて「HBOCと難病の診断ラグ問題から考える医療倫理」。今回は難病の診断ラグと […]
この記事の担当者

佐塚 亮/Satsuka Ryo
職種:sales
入社年:2020年
経歴:大手スポーツメーカにて店舗sales,エリアマネージメント業務を担当。のちWEB制作会社にてWEBサイトの提案からディレクションをこなし、コンサルタントとしてサイト立ち上げ後の売上向上まで支援。その後2020年にメンバーズへ入社。主にクライアントからのヒアリング及び検証データを基に要件定義を行い、サイトの構築運用を実施。定常的に支援サポートを行う。クライアントはもちろんエンドユーザーの立場・視点に立ち、問題抽出から改善案の立案までを手がける