【勉強会:後編】増加する「直美」の医師から日本の医療における構造的問題を考える

勉強会

公開日:2025.03.19

直美(チョクビ)増加の美容クリニック側の事情や問題点とは

私たちの顧問であり、株式会社メディカル・インサイトの代表取締役社長を務める鈴木英介氏と弊社の社員による勉強会のレポートです。後半も引き続き「日本の医療における構造的問題」について、「直美」の医師の増加にスポットを当てつつ、そこで引き起こされる問題についてディスカッションしながらお届けしていきます。ぜひ、ご覧ください。


勉強会の参加者

2018年中途入社
営業
佐塚さん

2022年新卒入社
Webディレクター
清水さん

2024年新卒入社
ディレクター
森田さん

2017年中途入社
ディレクター
嶋田さん

2023年中途入社
プロデューサー
内海さん


医師・クリニック側の視点から探る『直美』増加の事情

佐塚さん、嶋田さん、内海さん、清水さん、森田さん「よろしくお願いします!」

よろしくお願いします。
前半では、『直美(チョクビ)』の説明や、どうして『直美』を選ぶ医師が増えたかについて、医師側の視点でお伝えしてきました。ここからは美容クリニック側の視点で詳しく説明していきますね。
需要が増えて来たことや、美容整形に対する意識が変わったということに少し触れましたが、まさにその通りの状況なので、美容クリニックとしては先生をもっと採用したいんです。で、このことがその先の話に繋がるんですけれど、日本の診療科は自由標榜制で、この辺の話は過去の勉強会(※)でも取り上げましたが、昨日まで精神科の研修医だった先生が、次の日にいきなり皮膚科医を名乗って開業することができるんです。
だから、ひよっこ研修医でも、明日から『美容整形外科医です!』と言えてしまう。自由標榜制がある中で美容整形医のニーズも増えたから、今のような状況がまかり通って『直美』が増えた、というお話です。

次は、本当にそれで問題は無いのか?という話です。今までの話からすると、何か問題になりそうなことはありますか?森田さん、どうですか?

医師の働き方改革の話も入って来たということもあると思うんですけれど、シンプルに、『直美』じゃない一般のお医者さん不満が溜まってしまって、そういうお医者さんの働き手としての需要が無くなっちゃうのではないかと

うん、うん。そうですね、それが大きな話としてありますよね。
このままじゃ、真っ当なお医者さんとして働く人が、いなくなっちゃうっていう話ですよね

医師としての専門的な研修をまともに受けない人がお医者さんになってしまいますよね

そうです、そこも大問題です。そういう医師としてまだ未熟な方が、美容整形外科でメスを持っている可能性があるということですね。それは非常に怖いことです。
では、森田さんと嶋田さんに挙げていただいた大きな2つの問題について深掘りしていきましょう

『直美』のクオリティは安心できるレベルなのか?

美容医療のクオリティを見極めるには「日本美容外科学会専門医」の資格があるかチェック!

まず、嶋田さんがおっしゃった、美容整形外科のクオリティはどうなのか?という話をしましょう。これは現時点で相当大きな問題ですし、さらにこれからはもっと出てくると思います。
美容整形は病気を治すというわけではありませんが、とはいえ“手術”なんですよね。身体にメスを入れるわけですから、合併症が起きる可能性もあります。

じゃあ、例えばそこで合併症が起きた時に、どう手当てをするか。これは救急医療に近いような話になってきます。その時に手当てができないような方が医者になっているって考えたら……怖くないですか?
もちろん、美容的に手術が上手く行くかどうかも大事ですけど、それ以前に手術にはある一定の確率で何かトラブルが起こるわけで、その対処が十分できない人達が診療をしているのは怖いことです。そりゃあ、美容整形外科に行くのはリスク込みなんだから自業自得でしょ……って突き放すことはできるけれど、そもそもこの状況はどうなの?というのがありますよね。だから、美容医療のクオリティが下がっていくということに対して問題意識を持っている人達はたくさんいます。
前半で嶋田さんが『形成外科』に触れていましたが、ここで、形成外科の専門医の話が出てきます

ここで繋がるんですね

実はですね、美容整形に関して『日本美容外科学会(JSAS:Japan Society of Aesthetic Surgery)』というれっきとした学会があります。
ここに所属している医師は、形成外科の専門医の資格を持っている方たちだけです。初期研修を2年やって、その後3年の後期研修をやって、その後はまず一般の外科の先生達が持っている外科専門医の資格を取る。さらに形成外科としての研鑽を積んでから、形成外科専門医の資格を取っている、そういう先生だけが所属しているんですね。

基本的に形成外科というのは、身体の表面の修復をするスペシャリストだと思ってください。傷跡をきれいに治すとか、乳房再建なども形成外科の先生が手術をするものなんですけど、そういう“外側”の不具合や見た目を整える診療科です。日本美容外科学会は、『日本美容外科学会専門医』という資格を認定しているんです。なので、この資格を持った先生がやっているクリニックというのはある程度信頼ができると言えます。
でも、そうじゃなかったら……ちょっと怖くないですか?ですから、僕ら施術を受ける側からすると、美容医療のクオリティを見極めることが今後は大事になって来るし、医療トラブルを起こすクリニックが次々に出てくるとすると、ある程度専門性を担保するような規制が入らざるを得なくなるんじゃないのかな、と考えられますね

良い情報ですね。『日本美容外科学会専門医』の資格があるかチェックします

そしてもう1つの問題、『直美』ではない保険診療のお医者さんのなり手不足。現在の働き方や報酬体系だとなり手がいなくなっちゃうんじゃないかっていう話ですね。
こちらは、今すぐということではないけれど、5年後、10年後……と考えた時に、僕や佐塚さん、嶋田さん辺りが何かしら手術をしなくてはならなくなった時に誰も手術をする人がいないとか、かなり年配の先生しか手術ができないなんていうことになりかねない。
外科医というのはスポーツ選手みたいなところがあって、肉体的にハードな職業です。だから特に外科系の先生のなり手が今後も先細っていくことが危惧されますね。みなさんは、この話で何か思うことはありますか?

あの……ドラマ『白い巨塔』で描かれている世界なんかを見ると、外科の先生って鼻が高いというか、花形だったわけじゃないですか。で、今は医師になる方には美容外科だったり、血を見ない皮膚科だったりが人気という文化に変わって。
昔ほど外科って花形の領域じゃなくなってきていると思うと、先ほど鈴木さんが指摘していたように、本当に僕らが年を取った時に一体誰が手術をしてくれるんだろう?って……心配ですね

そうそう。でも、20年ぐらい前は違っていたんですよ。おっしゃるように外科は花形で、さらに言えば難しい手術を必要とされる心臓外科とかが人気で、位も高いという風潮が医療業界にはあった。
それが血を見ない皮膚科や眼科の方が人気になったのは、この10~15年ぐらい。そして、保険診療でもない『直美』の人気がぐっと高まったのは、この1~2年ぐらいかもしれないですね。そもそも、この『直美』という単語が出てきたのもこの1年ぐらいですから

国レベルの課題、保険診療の医師の“なり手不足”にはどう対処する?

国レベルの課題 保険診療の医師のなり手不足に対処するには

じゃあ、最後にみなさん、この現状をどうしていったら良いと思いますか?
1つは、外科系の医師不足。もう1つは、美容外科のクオリティが下がってしまうこと。これらは多分、国も学会の先生達も頭を抱えている問題です

これは……保険診療の医師や外科医になるメリットやモチベーションをどうやったら上げられるか、と思った時に、やっぱり報酬だと思います。昔は、医師になる志(こころざし)が大事だったりしたと思うけれど、今はそれも変わってきているので報酬以外に何かあるのかなと。
僕もまだ答えは出ていませんが……

そうですね~。これはもう、報酬の所に手を入れないとどうにもならないと思います。ただ、報酬を上げるとなると、そのお金はどこから出てくるのかという話になります

そういえば、高額療養費制度で上限額を引き上げるっていう話も出ていましたけど……

そうそう。ですが、支払う側の負担が増える施策は打ちにくいというのもあるんですよね……となると、手詰まりになっちゃう。

そこで僕は、1つだけ施策があると思っていて。ただ、これは聞く人が聞けば怒り出す人がいるかもしれないんですけど(苦笑)。それは何かというと……お医者さんへの謝礼(心付け)。
これを復活させたら良いんじゃないかと思っていて。2~30年前ぐらい昔は、手術してくれたお医者さんに、患者さんやそのご家族がお礼として現金をお包みして渡していたんです。嶋田さん、佐塚さん辺りはそういった文化があったことは何となくご存じないですか?

今でも無くなってはいないと聞きますけど、減っているんですかね?

うん。減っています。基本的にまっとうな病院は禁止しているので、心付けとして現金を渡すケースはかなり限られていると思います

聞いたことがあるのは、お菓子とか差し入れをもって行くけど、それも断られてしまう感じだったり……

そうそう。おっしゃる通りです。お菓子ぐらいは受け取ってくれたりするけど、国公立の病院だったりすると、とにかく誤解されたらまずいということで全部お断りという風になっています。

で、なぜ僕はこれを復活させたら良いと言っているかというと。直接、先生の収入になるっていうのもあるし、感謝の印にもなるから、それくらい別に良いんじゃないかと。
それに、後払いであれば心付けの金額で医療に差が付くことはないでしょうから、それが一番の解なんじゃないかと思っています。そうすれば、たくさん手術をする忙しい先生は心付けを頂くチャンスもいっぱいあるわけで。その収入がどれくらいになるかは分からないですが……とは言え、プラスにはなるんじゃないかなと

昔あった、入院インセンティブ、手術インセンティブを両立させればよいのでは?

うん。そういう考え方もあるかもしれません。
さっき、お医者さんの給料が低いという話がありましたけれど、僕がかつて所属していた製薬会社は、先生たちに対して接待漬けにしたり、寄付金っていう名目で大学の講座に数百万、一千万単位の金額を入れたりしていました。で、医局の先生たちは、ある程度そのお金を自由に使える時代でもあったんです。先生たちにも、お給料以外に美味しい部分っていうのがあったわけですね。

ただ、そうなると、美味しい思いをさせてくれた製薬会社の薬をたくさん使ってあげよう、というインセンティブが働きかねないので、この文化を復活させたいとは思いませんけどね。
それに、製薬業界の自主規制も厳しくなって、そういったズブズブな関係性は、ほぼなくなって来たのが現状です

内海さんや鈴木さんの話は、お金で解決しようという案ですよね。そうじゃなくて、僕は美容医療のクオリティも、病院に対して一定のハードルを設けて欲しいと思います。
現状、頭の良い人達が安全管理などに関して抜け道を見つけてそちらに流れているので、抜け道をもっと厳しくしてリスクを回避して、まっとうに医者になるのを目指せるようになるとか

ありがとうございます。もう一つの問題、美容外科のクオリティが下がってしまうことについての対処法について佐塚さんに答えを言ってもらってしまった感じですね。美容医療に関しては、このまま野放しにしておいたらまずい。だから、クオリティを担保させることは絶対に必要になってきますよね。
例えば、最低限の医療体制を整えていないといけないとか、形成外科の専門医の資格を持った先生が〇割以上いないといけないとか、そういった先生が手術の執刀をしないといけないとか。そうしないと本当に恐ろしいことになってしまうし、悪質な施設が生き残るような形になるのは良くないですからね。僕も規制強化は基本的に好きではないですが、安全性担保のためにはそうしていくべきなのかなと

現状は美容整形の医師になるのに規制を設けることは出来ないんでしょうか?

その議論は、ちょうど政府の中でも始まってきているんですよ。野放しにしていたら確実に医療事故が起きてしまうので、流石にここはどうにかしないといけないという意識はありますから、これからですね。
なので、みなさんの身近な人に美容整形に興味を持っている方がいるなら、日本美容外科学会が認定しているような形成外科の専門医の資格を持っているかどうかとか、少なくともそういうチェックはして頂くべきだと思います。今日のテーマについて僕からお伝えしたかったのは以上です

佐塚さん、嶋田さん、内海さん、清水さん、森田さん「ありがとうございました!」

ありがとうございました。今日の内容は『直美』の問題でしたが、僕らの業務に直接関連が無かったとしても、なぜ、トレンドとして取り上げられているのか?その背景を掘り下げることで日本の医療における構造的問題が浮かび上がってくることが理解できたと思います。
この視点を忘れずに、今後の業務にも取り組んで行きましょう!

―― 話題となっている『直美』。自由診療の美容医療が身近になった時代だからこそ、患者側にもリテラシーを求められる時代になりました。また、その裏側には安全性の問題や医師の働く環境の問題も絡んでおり、医師/クリニック側、それぞれの事情を汲み取ることで日本の医療における構造的問題があることを感じ取れたのではないでしょうか。今後も勉強会レポートから業界のホットな話題を共有していきます。

この記事の担当者

佐塚 亮

佐塚 亮/Satsuka Ryo
職種:sales
入社年:2020年
経歴:大手スポーツメーカにて店舗sales,エリアマネージメント業務を担当。のちWEB制作会社にてWEBサイトの提案からディレクションをこなし、コンサルタントとしてサイト立ち上げ後の売上向上まで支援。その後2020年にメンバーズへ入社。主にクライアントからのヒアリング及び検証データを基に要件定義を行い、サイトの構築運用を実施。定常的に支援サポートを行う。クライアントはもちろんエンドユーザーの立場・視点に立ち、問題抽出から改善案の立案までを手がける

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