【若手医師インタビュー:後編】医師が求める情報とは何か?デジタル活用の現状を語る

インタビュー

2023.02.10

みなさん、こんにちは。広報担当です。
今回の記事は、若手医師インタビューシリーズの後編となります。前編では、医療DXと言われているいま、実際の医療現場のデジタル活用がどうなっているのか、MRの動きは変ったのか? などについて東北の病院で緊急医療に携わる麻酔科医・白石太一医師に答えていただきました。後編では、医療に携わる方々が必要としているデジタルな情報やWebサイトやアプリの使用頻度など、医師を取り巻く身の回りのデジタルに関してお聞きしています。製薬企業のデジタル担当者の方にも参考になる情報ですので、ぜひ、ご覧ください。

若手だからこそ忙しい! 情報は効率的にチェックしたいもの

―― 後編も引き続き、よろしくお願いいたします。こちらでは医師個人がデジタルをどのように利用しているか、どんな情報をよく見ているかなど、日常で使うデジタルについてお聞かせいただければと思っています。

はい。よろしくお願いいたします。

―― 白石医師は、医師向け情報サイト(m3、日経メディカル、ケアネット、MedPeerなど)は活用されていますか? 活用頻度はどのくらいでしょうか。また、サイトからどんな情報を入手していますか?

個人的には活用はあまりしていません。サイトは利用していますが、ただ登録しているのが現状です。特に若手医師は、日常診療に必要な情報は教科書やインターネットで探していますが、日々の業務に忙殺され必要以上の情報を自ら探しに行く事を頻繁には行えません。私の要領が良くないのも原因かもしれませんが…。また、時々医師向け情報サイトを眺めると新薬や新しい診察ガイドライン(数年に一回改訂される各科のエキスパートたちが標準的な治療をまとめたもの)の更新が掲載されているので、非常に助かっています。またコロナ禍の影響で年に数回行われる全国的な各科の集会、「学会」がオンラインで行われるようになり、それまで会場で催されていた業者さんの展示会が無くなる一方で、オンラインフォームで用意された広告から一気に情報を得ることができるようになりました。

―― 医療や薬剤の情報をネットで調べることも多いと思いますが、情報が探しにくい、更新されていないと感じることはないでしょうか?

探しにくさはそこまで感じていません。更新に関してはその都度メールなどでお知らせがあると嬉しいです。シンプルに医療機器メーカーのUIが見にくい時はあります(笑)。

―― では、調べ物をする際にはPC、スマホ、タブレットなど、何を使っているか教えていただけますか? また、デバイスは何が使いやすいと感じているかなども知りたいです。

PC、スマホ、タブレットいずれもです。気軽さで言えばスマホやタブレットが圧倒的でしょうね。

刻々と変わる患者さんの状況に対応するため、口頭や文書でのやり取りも大切

―― 医師同士、チーム内など内部の情報のやり取りは何を使用していますか? 

主に電子カルテですが、カンファランスといったその科のスタッフが直接集まり、情報共有する事が一般的と思われます。現在、患者さんの情報は電子カルテを使用する事で、その院内であればどこでも共有できますが、患者さんの状況は刻一刻と変化していきます。すべての情報を即時電子カルテに反映・共有する事は理想的ですが、現実には難しく、口頭や文書で伝える事も伴いますし、それは今後も続くでしょう。現代ではSNSの普及や情報のオンライン化により情報共有(例えば急な欠勤やその日の業務内容の変更、セミナーなどのリマインド)を行う事が増えてきましたが、患者さんの個人情報の共有は漏洩防止の観点から院内でのネットワーク共有に留められており、SNS等での共有は行わない事が一般的、と私は感じています。

―― 医師が取得する情報の種類には何があるのか教えていただけますか?

オンラインで取得する情報は、大抵医療機器・薬・治療法についてや、医療業界全体の制度(働き方改革について、各種学会の情報、専門医・指導医更新の制度変更等etc.)になると思います。電子カルテ上で患者さんの情報の適宜収集は日常で行っていますが、院内のローカルネットワークシステムで共有するのみで個人の電子機器と共有する事はしません。

―― SNSの情報発信に制限はあると思いますが、情報収集や閲覧のみなども含め、SNSも使われているのでしょうか?

閲覧のみ使用します。発信した事はありません。

日常的に触れて来たかどうかで変わるデジタルへの抵抗感

―― デジタル、リアルを含め情報の信頼度はどのような位置付けになっていますか?

学会から発信されているガイドラインが最も信頼度が高いですね。次いで有象無象ありますが、紙・オンライン問わず、ある論文や出版社からの教科書、上司の助言といったところでしょうか。我々の業界ではガイドラインから逸脱した医療を行う事は推奨されません。現在はオンラインで配信している科が多いため、ガイドラインをインターネット経由で参考にしながら日々診療に当たっています。またガイドラインだけでは対応できない非特異的な場合や稀な状況には大抵オンライン等で症例報告や論文などを参考にします。紙ベースの教科書は未だ根強い人気がありますが、電子版も普及してきています。医師向け情報サイトは各製薬会社や医療機器会社が発信している情報を掲載している事が多く、そのサイトをきっかけに各社ホームページでより詳しい情報を調べに行く形で利用させて頂いています。現状、毎日幾つもある各社の最新情報を拾う事は困難であり、そういった中で各社の情報を吸い上げてサイトをみれば、浅く広く確認できるという点では非常に便利だと個人的には思います。

―― デジタルをあまり活用していない医師は、どのような理由から活用していないと思われますか?

おおきく2つに大別できると思います。そもそも使い慣れていない比較的年齢が高い層。そして、これまでの紙ベースに慣れていてアナログからデジタルへの変化についていけない、ないしついていかない層です。いずれも往々にして病院経営や運営の中枢を担っている層でもあり、意識改革は一筋縄ではいかないようです。若手医師はオンラインを駆使している事が多数派である事からも、これまでの生活でどれだけの濃度でデジタルが生活に馴染んでいたかが理由の一つにあるかもしれません。

―― では、オンライン化やデジタル化しない方が良い場面はありますか? デジタルよりリアルが良い、または、デジタルとの共用が望ましいものなどがあれば理由と共に教えてください。

確実に言えることは、患者さんに大切なお話をする時、例えば病気の内容は勿論ですが、それが出産であったり癌であったり、治る見込みが極めて薄い病気、そして亡くなった際の死亡診断といった、患者さんやそのご家族の心情が大きく揺れ得る状況では、我々医療スタッフと対面での説明が極めて望ましいということです。

―― 生死に関わる特殊な環境でお仕事をされているという事もあり、対面でのやり取りは重要なのですね。

自身ないし自分の家族や親しい方がお辛い状況になった時、画面越しであることと対面であることは、同じ状況を受け止めのるだとしても、全く違う捉え方になると思います。心身医療科のように自身のお話をして医療スタッフとのコミュニケーションをすることがありますが、我々は「デジタル」を用いてあくまで「リアル=アナログ」の患者さんを治療します。不測の状況は常に起こり得ますし、デジタル機器の不具合もまた然りです。その時は、我々はアナログの力で乗り切るしかありません。腹腔鏡手術やロボット支援下手術、患者さんの状態を反映した人工呼吸器や薬剤投与で治療する事がメインになる診療科でも、アナログは残すべきでしょう。医療業界のデジタル化はあらゆる観点でまだまだ発展の余地がありますが、確実にアナログな領域が残ると思います。それ以外の部分で我々医療者が苦手なデジタル化に関しては、他の業界の方々にサポートして頂けると幸いです。

注目のPHR、医師からみた情報の価値はどれ位?

―― 今後の医療環境にあれば便利だと思うデジタルサービス、興味をお持ちのアプリなどがあれば教えてください。

御社の想定されているであろう範囲であれば、各社(私であれば、麻酔・集中治療領域)の国内外のトレンドや新商品の広告をまとめてくれるようなサービスがあると効率よく情報収集ができると思います。

―― 近年はニコチン依存症の治療アプリ等も増え始めていますが、白石医師自身は治療アプリに限らず、ヘルスケア関連などのアプリを使っていますか?

私自身が患者でもあるので、おくすり手帳アプリは使用しており、非常に便利と感じています。他のアプリやデバイスの存在は認識していますが、有用性はいまいちピンとこないので使用していません。

―― PHR(Personal Health Record)の利活用なども将来的には広まっていくと思われますが、上記のようなアプリ上に蓄積したデータの情報には価値があると感じますでしょうか?

ある種の傾向を掴む事は出来るのではないでしょうか。これまでとは段違いの情報を収集できる事は大きなメリットになり得ると思います。ただこういったデータを収集される対象は電子機器の使用に慣れている層、即ち若年者や都会に住んでいる方、比較的富裕層と少なからず偏りが生じる事は否めません。専門的には、対象者を決める時点で生じうる偏り、ある種の「選択バイアス」と言えるかもしれませんが、そう言った事を加味しながら使用する事でこれまでの疫学が一新されるかもしれませんね。

―― お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました! 

このインタビュー自体も白石医師が救急医療の担当という事で、スケジュール調整が難しい中でようやく実施にこぎ着けることが出来ました。また、今回の内容から担当する領域や地域性などによって、デジタルがどれほど浸透しているか、必要とされているかは変わるものであり、それらも含めて実情をお分かりいただけたのではないでしょうか。

今後もまた、医師へのインタビューを通して医療に関するデジタル環境の調査も進めて行きます。