メディカル・インサイト 鈴木英介氏 勉強会:後編【チーム医療~私の主治医はどこにいる?~】

コラム

2023.10.18

みなさん、こんにちは。広報担当です。今回は、私たちの顧問であり、株式会社メディカル・インサイトの代表取締役社長を務める鈴木氏の勉強会です。テーマは引き続き「チーム医療」です。後半では、がん治療の緩和ケアで起きる問題や病院のデータのデジタル化、海外の医療との違いなどに触れています。がん治療の潮流やそこで起きているメリット・デメリットについても考えさせられる内容になっています。ぜひ、ご覧ください。

緩和医療は複雑! 医療施設や患者を含めた深刻な問題も

鈴木氏「では、後半は緩和医療の所へもう少し踏み込んで話をしていきましょうか」

全員「よろしくお願いします!」

鈴木氏「実は、この緩和医療がいま複雑になっています。どういうことかというと、大きい病院って基本的には患者さんを看取る場ではない……というか、積極的な治療が必要な時に行く場所であって、治療の手立てが無くなってしまった人が亡くなるまでずっと入院してしまうと、病院側は基本的に儲からなくなる。そういう仕組みなんです。なので、病院は積極的な治療の手立てがなくなってきてしまった患者さんに対しては、地元で緩和ケアをしてくれる病院を紹介します。大きな病院では緩和ケア病棟もあるので、そこに入院してもらう事も出来なくはないですが、そこで賄える患者数は限りがあります。なので、言い方は悪いですけれど、患者さんは外に出されてしまう。これって、患者さんにとってはどう思われると思います?」

菰田さん「これはもう……見放されちゃったとか、そういう感じがします」

鈴木氏「そうなんですよ。コミュニケーションの取り方によって変わって来ることもあるとは思いますけれど、それでもやっぱり、病院から見放されてしまった……と感じる患者さんやご家族は今でもいらっしゃいます。このタイミングのコミュニケーションがあまり上手く行かないせいで、エビデンスのない、怪しげなインチキ免疫療法なんかに患者さんがハマってしまうこともあります。がん患者さんに対して怪しい治療法の宣伝をして取りこもうとする人というのは、世の中に沢山います。そして、そういうものに引っ掛かってしまうタイミングというのが、病院の標準治療でやることが無くなってしまい、あとは緩和ケアの治療だけ、と伝えられた時です。話を戻すと、緩和医療の場の選択肢として、一般的には緩和ケアを専門としたホスピスに入るのが1つ。もう1つの選択肢としては、地域にある中小病院で受け入れてもらう。あとは、この20年ぐらいでとても増えてきた在宅医療というのがあります。住み慣れたご自宅に先生や看護師さんに訪問してもらい、診療や薬の処方をしてもらうという方法ですね。実は今、どの医療施設も忙しくて、緩和ケアの時期にどこで過ごすのかというのを決めるのはとても大変なんです。患者さん自身やご家族だけでその場を見つけるというのはとても大変ですから、がん診療連携拠点病院では、がん相談支援センターがある程度アレンジしてくれるようになっています。なので、主治医が変わるという話もありましたけど、緩和ケアの段階で施設を変わったり、自宅で介護する場合も出てくる。これが、チーム医療が進んだ姿ということですね。とは言え、ちゃんとメリットもあるわけですよ。何だと思いますか?」

チーム医療のメリットは、より良い医療を「適材適所」で提供できること! 

菰田さん「適材適所な感じがしますね」

鈴木氏「おぉ、言葉の選択が素晴らしい! まさにそうなんです。お医者さんからすると、適材適所で自分の得意分野でしっかり治療できます。何より専門性が高いわけですよね。昔だったら、外科医が全ての部位を切っていたような時代があって。食道、胃、乳房、何でも切ります、抗がん剤もやります。という時代ですね(笑)。昔はそれでよかったけれど、今は治療に使える薬のオプションも桁違いにあって、専門的にその領域のことが分かっていないと対応しきれません。菰田さんが言ったように、適材適所で必要なタイミングで治療して、全体の治療成績を良くして行く。それはグッドニュースだし、歓迎するべきことだと思います。今の話、マルダンさん、どう思いました? ウイグルの医療状況は良く分からないのですが、似ていること、違うことなど何かありますか?」

マルダンさん「今の中国では外科医が主治医になって手術する方が多いです。切って治療することが多いです」

鈴木氏「昔からやっていた先生に言わせれば、どこの部位でも切ることが出来れば腕が上がるとか、応用が利くとか、そういったこともあるのかもしれないですが。今は、胃ばかりを切っている、食道ばかりを切っている……そんな風に変わっています。まぁ、胃と食道は上部消化管として一緒にやる方もいるかもしれないですけれど。でも、乳腺外科医だったら、乳がんの患者さんの乳房の切除しかしない。そういう意味では、外科医も変わってきていますね。では、他の方も、ここまでで何か思ったことなどありますか?」

相馬さん「ホスピスになじみが無かったので、その辺りを詳しくお聞きしたいなと思いました」

増えつつあるホスピスと、その受け入れ基準への想い

鈴木氏「ホスピスというのは、そんなに数がある訳ではないですけれども、それでも大きな都市にはある程度の数はあると思います。基本的には、緩和ケアをするだけの状態となった患者さんを受け入れる施設です。ただ、僕は、それで本当にいいのかな? と、正直なところ思っています。なぜかというと、今は結構、抗がん剤も新しい薬も次々に出てきているので、もう1回治療にチャレンジも出来るケースもあるんじゃないかということ。あとは、先ほど言ったように、ホスピスに入るのであれば、早い段階で転院しないと直ぐには入れません。『積極的治療をしないと決めた方だけ受け入れます』と掲げているホスピスさんも多いのですが、そこは少し変えていただきたいなと思ったりしますね。まぁ、それでもこういった緩和医療の専門施設があること自体は患者さんや家族にとっては良い事だと思いますし、数も増えて来てはいます。また、在宅の緩和医療の先生も、この15年ぐらいでだいぶ増えてきましたね」

相馬さん「ありがとうございます。勉強になります」

瀧さん「私たちも普段の仕事では医療・製薬業界のデジタル業務の効率化という部分をご支援しているというのは理解しています。でも、病気を持っている方というのは、その状況だけでも不安だと思うので、デジタル面の支援だけじゃなく、人の心のケアの部分も大事なんだな、と。そういったことが学びになりました」

鈴木氏「ありがとうございます。今の話からいうと、デジタル的な部分での大事な話もあって。病院のデータって、なかなか外部と連携しないんです。例えば、A病院の方がホスピスに入院しますとか、在宅医療に切り替えますとか、そうなった時に患者さんのデータが転院先などに何かで“ピッ”と連携することが出来れば良いと思うんですけど、実際そうはなっていないんですよね。そこを変えようと、地域で同じシステムを使って、同じデータを共有しようとしている自治体もいくつかはありますが。でも、相変わらず、この部分は課題になっている所ですね」

佐塚さん「これはデータの利活用の話でしょうか」

鈴木氏「端的に患者さんのカルテとかの話ですね。データを逐一出さないと共有できないし、とはいえ、全部出すわけにもいかないので、必要な部分しか出せないし……というところですね」

佐塚さん「個人情報も含め、結構重要なデータですしね。DX的な面でいうと、病院でもデジタル化されていたり、アナログなままだったりと、データも散在しているじゃないですか。ダッシュボードを使って連携したり……というのを金融業界ではやっていたりしますよね。こういう部分について病院はどう考えているのでしょう?」

鈴木氏「病院側が気にするのは個人情報の漏洩なので、そうすることで個人情報の漏洩が起きないという保証が必要という事だと思います。ただ、病院側も職員の業務効率を上げたいというニーズは当然ありますから、ニーズは残っているとは感じます」

佐塚さん「ちなみに、院内で勤務される方のデータに関する業務負荷は多いのでしょうか? 多いという話は良く聞くんですが……」

鈴木氏「それはまぁ、紹介状を1つ作るにしても、書いて、印刷して、患者さんに説明して渡して……となるので多いでしょうね」

佐塚さん「そこがデジタル化されると良いのかなとは思うんですけどね」

鈴木氏「これは病院側があまり問題意識を感じていなくても、患者さん側としては自分のデータを自分で持ちたいという気持ちの方は多いでしょうし、転院するとなると大変です。そういった話は良く聞くんですよね。これまでの検査結果のデータをもらったり、いちいちCDVに焼き付けたり、大変だなって思うことがありますよね。じゃあ、最後に何か……マルダンさん、感想とかありますか?」

元・放射線技師が語る中国と日本のがん治療の違い

マルダンさん「そうですね。患者の情報を2つの病院間で転送できないのは、中国でも大きな問題で、同じです」

鈴木氏「中国でも同じ問題があるのですね。あと、日本だと病院で使われているEHR(Electronic Health Record)のベンダーさんがいくつかあって、そのベンダーが違うと同じデータを共有できないという(笑)。そういう問題もあったりすると思いますね」

マルダンさん「色々な問題があります。あと、私は日本のがんの治療については良いと思いました。手術が少なくて、抗がん剤と放射線治療で腫瘍を抑える方法が一番良いと思います。手術はあまり良い方法ではないのかなと……」

鈴木氏「そこは症例を選ぶのが大事、ということでしょうね。メリット、デメリットを比べて、メリットが上回る人には手術をします。日本では、その部分は標準治療のガイドラインできちんと定義されていますので、お医者さんが勝手に『手術しちゃえ!』と言って手術することはできないですね(笑)」

佐塚さん「医療の現場にいたマルダンさんと鈴木さんが話していると、いかにも専門家同士の会話ですね(笑)。では、そろそろ時間なので……新人の皆さんもお疲れ様でした。こういったアズイズの話を聞くのは、業界特化のカンパニーとしてとても重要ですので、引き続き実施していければと思っています。鈴木さん、本日もありがとうございました」

鈴木氏「ありがとうございました。これからですが、がん領域以外、例えば皮膚領域などの話も徐々に入れていこうと思っています」

佐塚さん「ありがとうございます! 皮膚領域は鈴木さんの専門ですし、女性社員は特に興味があると思うので、ぜひ、今後ともよろしくお願いします。本日もありがとうございました!」

全員「ありがとうございました!」

―― 今回の勉強会、いかがだったでしょうか。新メンバーが元・放射線医師だったことで、他国の医療について触れることも出来ました。今後もこのような勉強会を通して医療や治療のトレンドを学び、知識や理解を深めながらデジタルマーケティングの領域から医療・製薬業界をサポートしていきます。