
製薬企業の医療従事者向け会員サイト(HCPサイト)の動向を調査しました。現在、HCPサイトの施策にお悩みの方は次の打ち手が見つけられるかもしれません。HCPサイトを運用中の方は主要なトレンドや予測を参考にしながら運用に活かしてみてはいかがでしょうか。
HCPサイトはデジタル投資の中心的存在!
今回は、進化し続けている製薬企業の医療従事者向け会員サイト(以下、HCPサイト)の動向を調査しました。
これまで当ブログにてAIの活用やパーソナライズ化の重要性などを発信してきましたが、今やHCPサイトは情報提供のみの役割から能動的エンゲージメントの場へと進化していることがうかがえます。
現在、製薬企業にとってHCPサイトは戦略的なデジタル投資の中心的存在であり、医療従事者と双方向のコミュニケーションを繋ぐ存在として欠かせないものとなっています。医療従事者に使い続けてもらうためにも、どのような傾向があり、最新技術として何を取り入れているのかを常に注視していきましょう。
主要なトレンドから今後の方向性の予測なども含めて調査しましたので、こちらの内容を元に医療従事者とのエンゲージメントを高め、医療の向上に貢献するサイトの運営や改善施策にお役立てください。
HCPサイトの動向やトレンドをチェック!

近年、トレンドとしてどのような技術や施策が取り入れられているのかについて解説していきます。
【テクノロジー系】
■AI導入
AI導入は一時的な流行ではなく、さまざまな業種のWebサイトで基盤技術になり始めています。AI導入の初期はチャットボットによる24時間対応の問い合わせサポートなどが中心でしたが、現在は予測分析を活用したエンゲージメント向上の取り組みも一般化してきました。そしてHCPサイトもより一層、パーソナライズされた体験を提供する方向へと変化しています。一方で、倫理・コンプライアンス面や品質管理の課題も指摘されています。導入には医療の用途としてふさわしい品質・安全性・信頼性を持ったレベルのAIであることや専門人材の確保、ビジネス上の成果としての明確な戦略策定が不可欠です。
■オムニチャネル
医療従事者はWeb、アプリ、メール、LINE、SNSなど多様なチャネルを横断して情報に触れているため、それらのチャネルを通じてシームレスにやり取りができる統合的な情報提供が求められています。さらに、これらのチャネルを横断したカスタマージャーニーを編成できる強固な基盤技術スタックも必要です。
■データ活用
医療従事者の行動から得られるデータを用いた深い分析が注目されています。従来のPVやCTRではなく、ユーザーのデータには、クリックスルー、コンテンツ消費、検索クエリ、ウェビナー参加、調査回答などがあり、それらを利用した行動パターンや嗜好に基づいたエンゲージメント施策を実行することができます。また、定期的にデータを確認することで、パーソナライズの高度化、戦略の最適化、ROI向上が実現されます。
■トレーニングツール
手術のトレーニングや製品のデモンストレーションでVR(Virtual Reality)が使用されるなど、医療従事者がよりリアリティを高めて学習できる教育コンテンツが開発されています。まだ一部の限られた機関ではあるものの、今後の普及が期待されています。ほかにも、ゲームの要素を応用したゲーミフィケーションを用いたアプリや研修・教育コンテンツなども注目を集めています。
【UX・エンゲージメント最適化】
■ハイパーパーソナライゼーション
以前は、HCPサイトにアクセスすれば、誰が見ても同じページ構成・同じコンテンツが出てくるスタイルが一般的でした。しかし、現在では全員に同じ情報を一斉に届けるという戦略だけでは通用しにくくなってきています。医療従事者のニーズも働き方も多様化しており、短時間で要点だけ知ることができたり、自身の好みに合わせて検索結果を保存したり、ブックマークをするなど必要な情報だけをカスタマイズして届けるような個別最適化=ハイパーパーソナライゼーションが求められています。そのため、過去の利用履歴や関心をもとにダッシュボードやコンテンツ推薦をカスタマイズする機能、高度なユーザープロファイリングや柔軟なポータル設計が必要です。
■モバイルファースト設計
モバイル端末でのアクセスに合わせたスマートフォンやタブレット対応のレスポンシブデザインが標準化しています。医療従事者は移動中の情報取得が多く、スマートフォンやタブレットで快適に閲覧できる設計が不可欠です。設計・開発段階からモバイルファーストを考慮しましょう。
■直感的なナビゲーションと高度な検索
高速な読み込みや直感的なナビゲーションを確保し、デバイスごとに最適な表示を行うレスポンシブデザインが求められています。HCPサイトには膨大な情報が存在するため、検索エンジンにはオートコンプリートやAIによる提案を活用し、ユーザーがスムーズに情報を見つけられる仕組みにしましょう。また、情報アーキテクチャを整理し、シンプルで論理的なメニュー構造を設計することでユーザーのストレスを軽減できます。
■医療従事者・専門家間のコミュニティ構築
従来の情報提供のみの場から、医療従事者や専門家との連携や交流を促進するプラットフォームへとHCPサイトの役割が変化しつつあります。専門家Q&Aやフォーラムを設けることでコミュニティ構築が強化され、デジタル環境での対話を活発化させることができます。ただし、運営する側はコンプライアンス上の制約に考慮しつつ、適切なインタラクションチャネルを提供することが重要です。
【コンテンツ戦略】
■教育リソースの拡充
HCPサイトは、単なる製品情報提供の場から情報の送り手と受け手が相互にやり取りできるインタラクティブなプラットフォームへと進化しています。従来の製品情報に加えて、KOL(Key Opinion Leader)によるウェビナー、最新の研究論文、臨床試験データへアクセスできるサイトが一般的になってきました。
■診療支援ツールの提供
診療をサポートするツールの充実が進み、患者さんとのコミュニケーションに利用できる豊富なイラスト・テンプレート集、服薬管理支援、診断ツールなどが提供されるサイトもあります。特に医療従事者は複雑な医療に関する情報を理解する必要があるため、スピーディーに理解でき、記憶の定着に役立つものが必要です。そのため、作用機序アニメーション、手技デモンストレーションなどはその手助けとなります。
■リッチメディアの活用
また、医療系に限らず、多くのWebサイトでテキスト情報よりも動画コンテンツやインフォグラフィック(情報、データ、知識を図やイラストを用いて視覚的に表現したもの)を取り入れたリッチメディアが好まれる傾向にあります。これはサイトの利用頻度を高める効果だけではなく、診療の質の向上にも繋がり、ひいてはロイヤルティの向上にも寄与します。
【成功指標】
■HCPサイトのKPI設定
HCPサイトのKPIは、単なる訪問数ではなく、エンゲージメントの“質”が重要です。さまざまなチャネルから取得できるデータ(コンテンツダウンロード率、ウェビナー参加率、動画完了率、再訪問頻度、検索クエリ分析など)から詳細な指標を導入することでユーザーの関心度や行動傾向を可視化することができます。運用する際にKPIを定義し、継続的にデータを分析・改善していきましょう。
■HCPサイト運用におけるビジネス成果の証明
HCPサイトの運用の成果を自社のマーケティング戦略やメディカルアフェアーズ目標と連携し、ROIを算出してサイトのビジネス成果への貢献を実証することも重要です。ROIは、印刷物削減やMR活動の効率化、医療従事者の知識向上、ブランドの認知度向上などへの貢献を評価し、単なる情報提供の場ではなく、戦略的なプラットフォームであることを証明します。
HCPサイトの未来予測と製薬企業がすべき施策とは?
【HCPサイトにおける技術とエンゲージメント戦略の進化予測】
■AIによるパーソナライズと予測分析
今後のHCP向けポータルは行動履歴や関心を分析し、未来のニーズを予測するインテリジェントなシステムへと進化するとされています。AIが医療従事者の行動履歴や関心を分析し、最適なコンテンツやアクションから必要な情報を提供する役割を担うと考えられ、さらに、EHR(Electric Health Record:電子カルテ)や他のデジタルヘルスツールとの連動も進み、診療の効率化と意思決定の支援が強化されていくと予測されています。
■価値ベースのエンゲージメントとセルフサービス機能の強化
エンゲージメントの焦点は、従来の“量”を指標するものから“質”を指標とする「価値ベース」へ移行し始めています。そのため、HCPサイトには医療従事者が診療の質の向上、患者アウトカムの改善を実感できるコンテンツやプラットフォームの構築が必要となっていきます。さらに、医療従事者が必要な情報・サービスにアクセスし、自分だけで必要な作業が完結できる仕組み「セルフサービスモデル」の強化が進むとされています。
■技術アーキテクチャと継続的イノベーションの重要性
このような進化を実現するには、HCPサイトを運用する製薬企業にも柔軟な技術アーキテクチャやデータを元にアクションや戦略を決め、意思決定を行う“データ駆動型”の文化を醸成していかなければなりません。そのうえで変化する医療従事者の期待に応じた改善を継続することがカギとなります。
参考:Digitalya「HCP engagement in pharma — leveraging AI behavioral insights」
参考:Phil Inc.「8 Patient Access Trends Pharma Leaders Should Consider in 2025」
【製薬企業が取るべき戦略的アプローチ】
■医療従事者のニーズ理解とオムニチャネル戦略の強化
まずは、医療従事者のニーズに関する理解を深めるために定期的な調査・分析を実施し、行動データを活用したポータル設計を進めることが重要です。オムニチャネル戦略を強化し、MR活動やイベント、アプリとのシームレスな連携を実現することで、一貫したエンゲージメント体験の提供に繋げることができます。
■AI活用とコンテンツ品質の向上
AIの活用を戦略的に進め、パーソナライズされたコンテンツ提供やチャットボットによるサポートを実装し、医療従事者の利便性を向上させて利用頻度を高められるようにしましょう。また、教育リソースや診療支援ツールを充実させて高品質なコンテンツを提供し、サイト全体の価値を高めていくことも必要です。
■KPIに基づく改善戦略
運用する際にはエンゲージメントの質を測定するKPIを設定し、定量的なデータに基づいて継続的な改善を図ることが不可欠です。また、日本市場に特化した対応として、LINEなどのプラットフォーム活用や、地域に合わせたコンテンツ調整を行うことで医療従事者にとってより魅力的なサイト運営が可能になります。
また、戦略とは異なりますがHCPサイトの運用では、法規制やセキュリティへの配慮はもちろん、ガイドライン研修や定期的な監査・テストなどを通じて、安心して使える環境を継続的に整えていくことが大切です。
戦略的なHCPサイト運用でデジタルエンゲージメントを強化!

HCPサイトは、コンテンツを拡充させ、最新技術の導入をしながら進化を続けています。私たちもHCPサイトの運用のご支援をしながらさまざまな新しい施策・技術へ取り組んでいますが、今後はより質の高いエンゲージメントの構築が多くの製薬企業に求められていくと思われます。ご紹介した戦略的アプローチを自社のHCPサイト運用に取り入れ、トレンドや技術に対応しながら〈デジタルエンゲージメントの最大化〉を目指していきましょう。
メンバーズメディカルマーケティングカンパニーでは、医療・製薬・ヘルスケア業界に特化したデジタルマーケティングの運用支援を行っております。HCPサイトに関するお悩みをお持ちの企業さまはお気軽にお問い合わせください。
この記事の担当者

加藤 美羽 / Kato Miu
職種: Webディレクター
入社年:2023年
経歴:2023年新卒入社後、Webinar運用案件→ イベント事務局運用案件に従事。