ウェブアクセシビリティ対応は義務?障害者差別解消法改正に伴う必要な対応とは

Web制作/運用

公開日:2024.08.21
更新日:2024.10.18

これからの医療・製薬業界のWebサイト運用における「ウェブアクセシビリティ」対応とは

「ウェブアクセシビリティ対応」について解説します。
ウェブアクセシビリティについて何となく知っているけれどよく分からないという方は、今回の記事を通してウェブアクセシビリティとは何か、ウェブアクセシビリティ対応が何のために行われるかなど、基本的な知識を付けていきましょう。
医療・製薬業界でWebサイトの運用に携わっている方は、ぜひ参考にしてみてください。

使いやすさを確保する「ウェブアクセシビリティ」

今回は、「ウェブアクセシビリティ対応」について解説をしていきます。
Webサイトの運用や構築に携わっている方にとって意識せねばならない対応ですが、まずは「ウェブアクセシビリティ」がどのようなものなのかというところから説明をしていきます。

【ウェブアクセシビリティとは】

「ウェブアクセシビリティ」は、ホームページやWebコンテンツなどについて、高齢者や視覚、聴覚に障がいのある方も含めたあらゆるユーザーにとって読みやすく、使いやすさを確保することを意味します。また、高齢者や障がいのある方だけではなく、環境や状況による障がいがある場合でもアクセスできるようにすることも含まれます。
このウェブアクセシビリティに関しての規格として使用されるのは「WCAG」と「JIS X 8341-3:2016」です。規格の内容を簡単に説明しますので、軽く押さえておきましょう。

■WCAG
Web Content Accessibility Guidelinesの略称。ウェブコンテンツを障がいのある人にとってより利用しやすくする方法を定義しているアクセシビリティに関する国際的な標準。ウェブアクセシビリティ対応をする場合は、最新バージョン(2024年7月現在は[WCAG2.2])を確認する。

■JIS X 8341-3:2016
ウェブアクセシビリティの日本工業規格(JIS)におけるウェブアクセシビリティのガイドライン。WCAG 同様に、Webコンテンツを誰もが利用しやすくなるようにするための61の基準が定められている。日本の政府機関や地方自治体が運営する、公共Webサイトの品質を向上させるために策定された「みんなの公共サイト運用ガイドライン」において、民間事業者は、「JIS X 8341-3」の(A、AA、AAA)の3段階の適合レベルのA(基本的な対応レベル)~大企業ならばAA(広範なアクセシビリティの問題に対応できるレベル)を満たす対応が求められる。

【ウェブアクセシビリティ対応とは】

上記のウェブアクセシビリティの意味を踏まえて「ウェブアクセシビリティ対応」について説明していきます。
ウェブアクセシビリティ対応は、2024年4月の「障害者差別解消法」の改正によって公的機関だけではなく、民間事業者にも合理的配慮が義務づけられたことによるWebサイトやアプリケーションへの対応です
「障害者差別解消法」は、障がいのある方が障がいのない人と平等に権利を享受できるようにするために定められた法律であり、「合理的配慮」とは、車椅子を使っている方にスロープやエレベーターを設置すること、聴覚に障がいのある方に手話通訳の提供をすること、障がいのある従業員が快適に働けるように作業環境や業務内容を調整することなどが含まれます。

そして、Webサイトやアプリケーションのアクセシビリティを向上させることが「ウェブアクセシビリティ対応」です。例えば、Webサイトを見る際にスマートフォンやPC、タブレット等のどのデバイスでも閲覧できること、コンテンツが分かりやすく情報にスムーズにアクセスできる設計になっていること、動画コンテンツならば耳や目の不自由な方も使えるように字幕やナレーションを入れるなどの対応です。

合理的配慮をするための具体的なウェブアクセシビリティ対応は、「JIS X 8341-3:2016」のガイドラインに基づいてWebサイトを設計、運営することが推奨されています。
また、自社のサイトがウェブアクセシビリティにきちんと対応しているかどうかはツールを使ってチェックをしたり、ウェブアクセシビリティ試験を行う企業に依頼して対応することも可能です。
そして、何らかの形でウェブアクセシビリティの試験を行った際には、サイト訪問ユーザーにも試験結果をお知らせしましょう。試験結果と適合レベルを明記したページを作り、サイトのフッターにウェブアクセシビリティのリンクを入れることで自社の対応状況が確認できます。多くの企業のサイトで同様の方法がとられていますので、ウェブアクセシビリティのコンテンツを追加する際に参考にしてみると良いでしょう。

ウェブアクセシビリティ対応は「義務」?それとも「努力義務」?

障害者差別解消法改正に伴い、民間事業者にも負担が重すぎない範囲で対応することが求められている

今回のウェブアクセシビリティに関する改正で注目すべきところは、民間事業者にも合理的配慮の提供が義務化されることになった点です。改正法の施行前は、民間事業者にとって「努力義務」だったものが、施行後は「義務化」へと変化しています。この部分の解釈が曖昧なことによって企業内でも対応に迷っている担当者も多いのではないでしょうか。

そもそも、ウェブアクセシビリティ対応は民間事業者にとって「義務」なのか、それとも「努力義務」なのか。
今回の法改正で民間企業の対応もすべて義務化されたかのように感じられますが、そうではありません。
障害者差別解消法の改正後に定められている内容は、〈合理的配慮の提供は義務化〉〈環境の整備は努力義務〉です。
障害者差別解消法の3つの軸「不当な差別的取扱いをしないこと」、「合理的配慮の提供」、「環境の整備」、このすべてが義務化されたというように思い込みがちですが、ウェブアクセシビリティ対応は環境の整備なので、対応は努力義務です。ということは、民間事業者は障がいのある人から何らかの対応が必要であるという意思が示された際に負担が重すぎない範囲で対応することが求められているのです。各企業のWebの運用や構築に関係している担当者は、どのような時にどの機能について対応していくか範囲を見極めて対応していけるようにしましょう。

また、対応しない場合にどうなるかというところも気になると思いますが、現時点では法的な義務はないため罰則はありません。
しかし、近年はユーザー側のネットリテラシーも高まっています。サイトやアプリの運用が続けばウェブアクセシビリティも継続した対応が求められていくため、一時的な取り組みとしてではなく、ウェブアクセシビリティに配慮した構築を心掛けておくことに越したことはありません。

アクセシビリティオーバーレイ導入より設計改善

では、Webの運用や構築に関係している担当者は、どのような技術を使って対応すれば良いのでしょうか。
アクセシビリティに役立つツールとして、「アクセシビリティオーバーレイ」の導入を検討することもあるかもしれませんが、本当に必要であるかどうかをまずは考えるようにしましょう

アクセシビリティオーバーレイは、視覚など身体に障がいのある方などをWebコンテンツにアクセスしやすくするためのツールです。
主な機能としては、フォントサイズの調整、代替テキストの自動追加、テキストの読み上げなどができるため、導入すれば確かにアクセシビリティを向上させられますが、基本的なアクセシビリティ要件を満たすためには根本的なサイト設計から改善していく必要があります。技術面で不安がある場合には、チーム内の有識者にも意見を訊くなどしてベストな対応を考えていきましょう。
また、サイトのカスタマイズをするには使用しているデバイスや他の支援技術でも実現は可能です。必ずしもアクセシビリティオーバーレイでなくとも対応できることを覚えておくと良いでしょう。

大切なのは担当者が日頃からアクセシビリティに意識を向け、環境の整備をしておくことです。

より良い医療へと繋ぐウェブアクセシビリティ対応を!

ウェブアクセシビリティ対応やデジタルマーケティングのご相談は、お気軽にメンバーズへ!

今回は、ウェブアクセシビリティ対応について解説しました。
これから医療や製薬業界のデジタル対応が進む中でより多くの方々がWebサイトを利用し、利便性を求めるように変化していくことは確実です。医薬品についてWeb上から調査したり、医療機関の予約をする際に誰一人取り残されない社会を目指すためにも企業側がウェブアクセシビリティを意識し続け、努力することの重要性をご理解いただけたのではないでしょうか。

また、記事内でお伝えしたように、ウェブアクセシビリティ対応について何をすべきか、アクセシビリティオーバーレイを導入する際の懸念点なども併せてチェックし、今後のWebサイト運用に活かしてみてください。

医療・製薬業界のウェブアクセシビリティ対応やデジタルマーケティングなどでお困りの担当者さまは、お気軽に私たちまでご相談ください。

この記事の担当者

この記事の担当者 鈴木 正行

鈴木 正行/Suzuki Masayuki
職種:テクニカルディレクター
入社年:2012年
経歴:2011年の東日本大震災まで地元仙台でWeb制作に従事。被災地復興支援として現地での雇用創出を行うとして仙台オフィス立ち上げ時にメンバーズ入社。以後、フロントエンドエンジニアとして従事した後、顧客の成果向上のためテクニカルディレクターに転換し「変わりゆくWebと共にサービス・サイトを改善していくこと」を重視します。

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