メディカル・インサイト 鈴木英介氏 勉強会レポート:後編【ドラッグラグの再来と解決のための処方箋】

コラム

2023.03.29

みなさん、こんにちは。広報担当です。
今回は、私たちの顧問で株式会社メディカル・インサイトの代表取締役社長を務める鈴木氏による勉強会「ドラッグラグの再来と解決のための処方箋」のレポート後編をお届けします。
ドラッグラグやドラッグロスがなぜ起きたかを踏まえ、その解決策などを語ってもらいました。デジタル時代を迎え、製薬業界がどのように変わっていくかにも関わってくる内容です。
ぜひ、ご覧ください。

ドラッグラグ&ドラッグロスは、この先も広がる恐れがある!

佐塚さん「それでは、みなさん。後半も引き続きよろしくお願いします」

清水さん、土屋さん「よろしくお願いします!」

鈴木氏「では、続けていきましょう。最近、ドラッグラグに関してより一層、状況的に厳しくなってきているという話があります。これは僕のメルマガにも書いた話ですが、メガファーマが新薬を開発する場合は日本も組み入れてグローバル治験でやって行こう、となりやすいのですが、いわゆる新興のバイオテックだとそうはなりません。彼らは、フェーズ1せいぜい2ぐらいまでは自力で治験をし、その先はメガファーマに権利を売り渡すというのがこれまでのスタイルでした。それが、新興のバイオテックでも最近は独力でフェーズ3までやり切るというケースが、ヨーロッパやアメリカでも増えてきています。そうなると、自国の市場の中で治験を実施しますが、アジアは遠いし自社の開発体制も整っていないので『そこまでは出来ないな』となり、とりあえずアメリカやヨーロッパで承認を取ってしまうというケースが増えています。こういう企業が増えれば増えるほど、ドラッグラグやドラッグロスが増えるようになる。これは日本にとっては良くない状況ですよね。しかも、新興バイオテックの作る薬が結構良い品質だったりするんです」

清水さん「あの、治験のフェーズ3以降をメガファーマに委託する理由は、その方が新興バイオテックの利益が多くなるから……なんでしょうか?」

鈴木氏「勿論、利益は考えますよね。ただ、利益の大小というよりリスクをとる余力がなかったから、という方が正確かもしれません。自社で治験ができるだけの資金力があればその方が良いのですが、フェーズ3をやり切るほどの資金力が無かったのでしょうね。だから、メガファーマに早めに導出して一時金をもらい、治験が成功したら売上の何%かをロイヤリティとしていただく……というようにしていた訳です。フェーズ3の治験というのは、何十、何百億円というコストが掛かるので。でも、以前はそんな感じだったのが、今は会社を先に上場させて、巨額の資金調達ができるようになるなど、新興バイオテックも資金力が上がってきています」

清水さん「この風潮自体は、良い事……なんですよね?」

鈴木氏「海外の新興バイオテックにとっては良い事だと思いますよ。ただ、ドラッグラグなどの問題を抱える日本にとってはアゲインスト(逆風)ではありますけどね」

土屋さん「日本に早く薬を届けなくても良いと思われているのは、海外の製薬企業から見て、日本の市場が小さいからなのでしょうか?」

鈴木氏「そうですね。とは言え、日本の市場は世界の中ではアメリカ、ヨーロッパに次いで3番目に大きな市場でもありますし、薬を届けたいという気持ちはあると思います。ただ、治験をスムーズに進めるために自国の治験を優先し、日本での治験は後回し……ということになっているのでしょう」

土屋さん「ありがとうございます」

ドラッグラグを解消に導く「条件付き早期承認制度」

鈴木氏「じゃあ、日本の患者さんのことを考えた時にはどうすれば良いの? となりますよね。ブログにも少し書いていますが、日本の再生医療で使われるような医療用医薬品では、“条件付き早期承認制度”というものがあります。これは、自動車の免許で言えば仮免許の状態で、特例でその状態で販売を始めても良いという承認方法です。非常に画期的もしくはニーズが非常に高い医薬品で、安全性はある程度担保されていて、有効性があるかどうかは科学的には完全には言えないけれど、推計はできます。ただし、有効性は継続的に検証していきます……という状態であれば承認する。というのが、条件付き承認制度です。これもブログに書いたのですが、話題になっていた塩野義製薬さんのコロナウイルスの治療薬『ゾコーバ』でもこの制度が話題になりました。フェーズ2のここで結果が出て欲しい……というところでは、欲しい結果が出ていなかったんです。でも、それ以外の部分で効果が出ていたので本制度で承認して欲しいと申請したのですが、やはりそれでは条件付き早期承認とはならず、フェーズ3まできちんと治験してください。となってしまったんですね。フェーズ3後の審査で、最終的には承認されましたが。」

佐塚さん「ゾコーバの件は当時ニュースになっていたので、よく覚えています」

鈴木氏「話を戻しますが、ドラッグラグが問題にはなっているけれど、患者さんが待っている抗がん剤などについては、条件付き承認制度を使って認めてあげるといいですよね。フェーズ2程度の結果で承認してあげれば、製薬会社もその時点から売上が上げられます。そうすれば、欧米の市場を先行させるような海外勢も、日本でもっと新薬を開発しやすくなるのかなと。条件付き承認制度を上手く使えば、この問題も解決できるんじゃないかというのが、僕の仮説の一つです。元々、条件付き承認制度は、再生医療で使われるiPS細胞などを早く世の中に出すためのもので、日本にとっての国策だったんですね。でも、再生医療だけではなく、他の医療にも使われるものだし、折角だから他の薬にも適用したら良いのではないかなと思います」

佐塚さん「そうですね」

鈴木氏「あとは、新興バイオテックにもグローバル治験を実施してもらうとか、でしょうね」

佐塚さん「質問をよろしいですか? 現在は情報化社会になったことによって、患者さんやそのご家族が病気や薬についても調べられるようになりました。そこで、薬の情報を知った方によっては『日本ではなぜ、その薬が入ってこないんだ!』と感じる方も多いのでは」

鈴木氏「その部分について極論すれば『海外で承認された薬は、自動的に承認すれば良い』というように思ってしまう訳ですよね。でも、効果や副作用については人種によって違う部分もある。それは今まででもアメリカでは効果があったのに、日本では効果がなかったとか、その逆もあって。それに、効果だけではなく安全性の部分では特に問題になることもあります。前にがんの薬の勉強会でもお話しましたが、アジア系の人種は間質性肺炎になりやすいとか、薬によって海外では安全性は問題なく承認されたのだけど、日本では治験で重篤な副作用が認められ、承認に至りませんでした、というのはあるんですよね。なので、患者さんやそのご家族にはそうした日本独自の治験が必要とされる背景まで理解していただけると良いのですが」

佐塚さん「『海外で使える薬なのに、どうして?』と感じる方は多いと思いますが、やはり、そういう事情があるのですね。ありがとうございます」

これから発展途上!? 新薬開発に繋ぐ新ビジネス

清水さん「先ほど、日本の市場がそれほど大きくないから治験をやりたくない……というお話もありましたが、例えば、海外の企業に『日本には、これだけの患者さんがいて、薬をこれだけ必要としているから治験をしてくれませんか?』という仲介役のような、いわゆる営業をするビジネスや、そういった役割をする方々はいないのでしょうか?」

鈴木氏「それを求めているというか求めるべきなのは、おそらく内資の製薬会社だと思うんですね。というのは、日本で開発するチカラ(資金力)はありますと。でも、良いブツ(候補物質)はあまり持っていない訳です。そんな中で海外のバイオファーマが良いブツがありますよ、ということになれば、提携してライセンス契約を結んで候補物質を導入する。そういうことをもっと積極的にやって行くべきだと思っていますが、動きが鈍いなと感じています。もっと活発にやれば良いのにとは思いますね」

清水さん「そうですよね。内資系の製薬企業の方がその役割を担うのかもしれないけれど、それとは別にその役割をしてくれる方がいれば、それはそれで良いと思います」

鈴木氏「僕も新規事業として、そういうことが出来ないかなと夢想したことはあります(笑)。でも、ここから先に、そういうプレイヤーが出てきてもおかしくはないですよね」

佐塚さん「では、そろそろ時間なので、今回はこの辺で。鈴木さん、ありがとうございました。出席者の清水さん、土屋さんもぜひ、他のメンバーに内容を共有したり、得た知識や情報を自分のものにしていってくださいね」

清水さん、土屋さん「ありがとうございました!」

―― 3回目の勉強会、いかがだったでしょうか。ドラッグラグやドラッグロスのような問題もありますが、日本だけではなくグローバルな視点で製薬業界を見てみると、それを解決する方法も様々な角度から考えることができ、新たな新薬開発のアプローチが見つかるかもしれません。

またこのような社内勉強会のレポートもしていきますので、楽しみにお待ちください。