【医療情報×SNS勉強会:前編】情報を見極めるポイントをチェック!

コラム

2024.02.28

旧来型メディアの時代~SNSでの発信が活発な今、医療情報の発信はどのように変わり始めているのか~

みなさん、こんにちは。広報担当です。今回は、私たちの顧問であり、株式会社メディカル・インサイトの代表取締役社長を務める鈴木氏と弊社社員による勉強会のレポートです。テーマは、「医療情報×SNS」。身近な情報発信ツールによって医療情報の発信はどのように変わり始めているのか。旧来型メディアの時代からSNSでの発信が活発になるまでの流れや、情報発信をする際の制約についても解説しています。ぜひ、ご覧ください。

メディアと広告、医療情報の扱い方には矛盾がある

佐塚さん「本日もよろしくお願いいたします。今日のテーマは『医療情報とSNS』なので、誰にとっても身近なものであるSNSと医療がどのように関連していくのか、法律的な部分との関わりも気になるかと思いますので、適宜質問しながら必要なところをキャッチアップしていきましょう!」

全員「よろしくお願いします!」

鈴木氏「よろしくお願いします。今日の本題に入る前に、医療情報が世の中にどんな形で流れていくか、いわゆる旧来型のメディア、新聞やテレビのようなメディアではどう扱われているか。最初にマクロの上での話をしましょう。まず、メディアが自発的に出す記事や番組の場合は、各社の内規はあるものの、それほど強い制約やコントロールはありません。一方で、矛盾をはらむ話になるのですが、広告に関しては、科学的なエビデンスがしっかりあると考えられる医療用の機器や医薬品は、先ほど佐塚さんからあった法律との関わりという観点で、禁じられています。例えば、お薬の名前を出すことを一切禁じられたり、そうじゃなくても『○○(治療法)には○○という薬しか使われない』場合は、その治療法の名前を出すことは基本的にNGです。一方で、サプリメントの広告などでは名称が出ていますし、薬局で買えるお薬は製品名で宣伝もしていますよね? 一般の方は意識されてないと思いますが、そういう風になっています。これに対して、Webサイトが世の中で使われるようになった時に、Web上の情報はほとんどコントロールされていない状況がありました。医療機関が自分たちの宣伝をどうやれば良いかという事に関しては法律があります。そこで『これはやってはいけないよね』という一線があって、例えば、ダイエットや美容機器のビフォーアフターの広告がありますが、あれと同じようなことを医療機関がやったらアウトです。でも、実際にはWebサイト上の情報は放置されてきた期間が長らくありました。ところが、勉強会にずっと出られている方は覚えているかもしれませんが、2016年ぐらいにある事件が起きましたね。“WELQ騒動”というのはみなさんご存知でしょうか?」

“WELQ騒動”で変わった医療情報の検索ロジック

Googleの医療・健康に関する検索結果は、医療機関や製薬会社が作ったサイトが上位表示されるように!しかし、SNSは…?

佐塚さん「(挙手しながら)今日のメンバーだと、僕だけですね……」

鈴木氏「佐塚さんだけですね! 若い方はご存じないかもしれないですね(笑)。WELQは、色々な医療系の記事を大量にアップしていたサイトで、例えば『肩こり』や『腹痛』で検索するとWELQの記事がバンバン上位に出てくる。でも、内容としては、何これ? という医学的にも誤りの多いものばかりで。医療従事者の方からも疑問の声が上がっていました。結局、何が起きていたのかというと、記事を作る時に、クラウドソーシングでものすごく安い原稿料で依頼して、大量に作っていたらしいんですね。当時はとにかく量を稼いで、それらしいキーワードが入った原稿をたくさん作る事で検索上位に表示させるようにしていたと。Googleがそういうアルゴリズムだったのを、逆手にとってやっていたのでしょう。最初はSNS上で話題になっていただけでしたが、その内有名ブロガーが取り上げるようになるなど、色々な人を巻き込んで大問題になりました。そして、運営母体のDeNAの社長は謝罪に追い込まれ、記事公開を停止、サイトは閉鎖ということになりました。その後、この事件をきっかけにして、厚生労働省もWeb上の医療情報について、もっときちんと監督しないといけないという話になって。それまでは、美容整形外科のビフォーアフター写真などは出したい放題、怪しい免疫療法クリニックが『がんがこんなに消えました!』という画像写真を目立つ場所に出したりしていたわけです。それが法律的にダメだという風になって来たのが、2010年代後半の話ですね。あとは、この騒動を契機に、Googleの検索アルゴリズムが大きく変わりました。みなさんもご存知かと思いますが、今は医療・健康に関する言葉で検索をすると、医療機関や製薬会社が作ったサイトが基本的に上位表示されます。ということで、現在はようやくまともな状況になった……というのがWebサイトの話です。じゃあ、SNSは? というと、未だに野放しというのが実態としてあります」

佐塚さん「やっぱりそうなんですね……。理由はあるのでしょうか?」

鈴木氏「なぜと言われるとなかなか難しいのですが、基本的にX(旧Twitter)やYouTubeは本名でなくても使えることが影響しているのかなと思います。その結果、おかしな情報を流す人がいっぱいいる……という状況になってしまっていますね。特に、Xなんかは波及スピードが速いので、東日本大震災の時に放射線の状況や影響についてデマが広がっていましたし、コロナウイルスの情報についてはみなさんもご存知ですよね。『○○で治った!』、『ワクチンで亡くなった!』とか、医療従事者ですら怪しい情報を流していました。さらに、SNSだと尖った意見の方が支持されやすく、極論が独り歩きしやすいということもあります。ここまで、医療情報の全体像のお話でした。では、みなさんが見てきた医療情報で、何か心に残っていたり、疑問に思ったものがあればシェアしてください。あ、菰田さん、どうぞ」

医学の専門家の情報にも怪しいものは存在する!

菰田さん「最近SNSでバズっている『ルミガン点眼液でまつ毛が濃く、長くなる』というものを思い出しました。インフルエンサーから広まっているようですが、本来使う用途ではないと思うので、こういうものは取り締まる必要があるのではないかと……」

鈴木氏「すごく良い事例ですね! インフルエンサーが何かを言うとバズるという構造は、広がる情報が良質な情報であれば良いですが、本当に? というようなものだと大変ですよね(笑)。僕は『ルミガン点眼液』には詳しくないですが、副作用としてそういうものがあるのかもしれないけれど、本来の用途とは違いますし、また別の副作用が出る事もあり得るわけなので、安易に信じないでと言いたいです。SNSではいい加減な情報が拡散しやすいという良い事例です。あっ、佐塚さんどうぞ」

佐塚さん「私は『令和の虎』というYouTubeで配信されているリアリティ番組が好きなんですけど(笑)、以前、出演した方が糖尿病の治療について、『エビデンスはないけれど、こういうことができたら糖尿病に良い』というプレゼンテーションをした時に、ジャガー横田さんの旦那さんの木下医師が『エビデンスのないものにOKを出すことは立場上できないので、退出します』というような場面があって。ドクターの立場だとそうなるんだなぁと」

鈴木氏「おぉ、またもや良い話を出していただきました。『これを食べると治る!』みたいな話は良くバズるんですよ。それで、例えば納豆の話がテレビの情報番組で出たら、翌日スーパーマーケットから納豆が無くなる……こんなことは繰り返し起こっているんです(笑)。あと今日はSNSやTVの話をしていますが、実は書籍はノーコントロールなんです。すごい肩書きが付いている医学博士が書いているものもあってベストセラーになるような本も多いのですが、真っ当な医師から見たらとんでもない本がたくさんあります。『長生きしたければ〇〇しなさい」みたいなタイトルの付いた医療本がすごく売れたりしますけれど、そういう本を書く先生は怪しいと思った方が良いです(笑)。他にも何かありますか?」

大畑さん「私はメンタルヘルスに関するYouTubeもよく見るのですが、動画内で先生が発信している結構センシティブな情報に関して、視聴者の方は丸ごと信じ切ってしまうというか、それもちょっと危ないのではと……」

鈴木氏「確かにそうですね、最近は医療従事者の方もYouTubeをよく使うようになってきていますし。やはり、その情報にはまともなものとそうでないものがあって、両方が混じっているというのが現状ですよね。じゃあ、SNSについて絞って話していきましょうか」

“医クラ”が増えたSNS! 信頼性はどのように見極める?

“医クラ”が増えたSNS! 信頼性はどのように見極める?

鈴木氏「まず、SNS上の医療情報について、誰が情報の出し手なのか。大きく分けて1つは医療従事者、もう1つは、製薬会社や医療機器メーカー。あとは、患者さんや一般の方。で、それぞれについて見ていくと、医療従事者の方はSNS時代の前にブログをやっていた方がいました。面白い医療情報を出している医師ブロガーの多くがXを使うようになった。Xは積極的に使う医師もかなりいて、そこで『医クラ(医療クラスター)』という表現まで生まれました。僕はこの方たちの情報は重宝していますね。研究や臨床の最先端を走っている先生たちが、海外の学会の最新情報を発信してくれたりするので。今までであれば普通には手に入らないような情報を提供してくれるので、勉強したい患者さんにとっても超良質な情報が手に入るという意味でありがたいと思います。そして、もう1つの出し手、製薬会社や医療機器メーカーは、日本ではあまり発信していないですよね。その理由については、序盤でお話したように医療用医薬品の名前が出せなかったり、発信することによるリスクの方が大きくなると考えているからだと思っています。もう少し積極的に発信しても良いと思うんですけどね。最後に、患者さんや一般の方は、好きなように発信できるので使っていますよね。昔はmixi使っていた患者さんも多かったのですが、今はX、そしてさらにInstagram、YouTubeに移りつつあるのかな、という感じでしょうか。先ほど大畑さんからもありましたが、YouTubeで発信することに使命感を持っている先生たちも多くなってきており、この2~3年ぐらいで増えてきた印象です。製薬会社はあまり……ですが、これから広がるのかなという感じです。一方で、ブログにも書きましたが、YouTubeで医療系の怪しい情報を流す方もいっぱいいるので、YouTube側が削除をするということになりました。YouTubeはGoogle傘下なので、先ほどの“WELQ騒動”の流れから検索ロジックが変わったように、対応が早いですよね。けれども、Xがそういう動きをするか? といったら……イーロン・マスクはしないでしょという感じでしょうか(笑)。これが、SNSの情報の出し手側の動きのお話です。みなさんはどうでしょう? 『SNSでこの人をフォローしている』、『この方の情報は信頼できる!』とか、何かありますか?」

佐塚さん「私は、Facebookで沖縄県立中部病院の高山義浩先生をフォローしています」

鈴木氏「Facebookについて触れなかったですが、高山先生は公開設定されていますね。感染症が話題になっていた時は高山義浩先生や岩田健太郎先生など、感染症対策のプロフェッショナルの先生から提供される話題が結構多かったですね」

佐塚さん「そうなんですよ。私も何を信じていいか分からなかったから、感染症専門の先生を信じてフォローしていた……という感じです」

―― 前半は一旦ここまでとなります。後半では、勉強会に出席しているメンバーがSNSを見て疑問に思うことや、医療に関する情報をSNS上でチェックをする際に気を付けるべきことなどについて語られていきます。後半も楽しみにお待ちください。