製薬会社で進むデジタルトランスフォーメーション(DX)事例まとめ(2021年6月~7月)

DX事例まとめ

2021.08.25

みなさん、こんにちは。広報担当です。今回は2021年6月~7月の製薬会社の動きをまとめています。

各社引き続きDXが進んでおり、ツールの導入やアップデートなどはさらに広がりを見せています。また、DXの加速に対応すべく組織が新設・改編され、人材育成や業務提携なども活発なようです。

みなさんもぜひ、製薬企業のトレンドを感じ取ってみてください。

デジタルコミュニケーションは業界スタンダードに! 今後の製薬会社の命運を分けるのはDX人材や組織か

医療や製薬業界では、新型コロナウイルスの流行によって約1年半という短い期間の中でビジネスモデルそのものを変えざるを得なくなりました。そして、これまでには考えられなかったようなシステムが続々登場し、今では多くの医師やMRもデジタルを取り入れたコミュニケーションを受け入れています。

今後はそれらをいかに使いやすいものにしていくか、業務効率が上がるようなプラスアルファの機能を付けるなど、次のステップへと進む段階へ来ているのではないでしょうか。

さらに、DXに関する取り組みは製薬企業の一部の組織の役割ではなくなってきていることも感じられました。変化の多い時代に対応できる企業として、デジタル化をどのように進めていくかの方針を発表するなど、企業を挙げたデジタル戦略を掲げている企業もありました。

◆業界の動向◆

経済産業省が選ぶ「DX銘柄2021」、「DX注目企業2021」に製薬会社が2年連続でランクインし、急速なデジタル化を迫られた中でも着実にDXが進んでいることが証明されるような結果となりました。

さらに、MRのコミュニケーションツールもデジタルが当たり前の時代となり、それらが医師とMRを繋ぐ場に変わっています。オンライン専任MRや医療従事者専門サイトの活用によって業務効率を上げ、個々のツールも進化を続けています。

・経済産業省:「DX銘柄2021」「DX注目企業2021」を選定しました!

6月に経済産業省は、東京証券取引所と共同で「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」を選定し、7日、「DX銘柄2021」選定企業28社と「DX注目企業」20社を発表。単に優れた情報システムの導入、データの利活用をするにとどまらず、デジタル技術を前提としたビジネスモデルそのものの変革及び経営の変革に果敢にチャレンジし続けている企業が選定された。

また、今年度は新型コロナウイルス感染症を踏まえた対応に関して、デジタル技術を利活用し、優れた取組を実施した企業を「デジタル×コロナ対策企業」として11社が選定された。

今回、「DX銘柄2021」として製薬企業から選定されたのは、中外製薬株式会社。トップマネジメントの積極的なコミット、明確なデジタルビジョンや投資方針の下、AIなどを活用した創薬開発プロセスの変革や人財強化・風土改革、患者への新たな価値提供に向けた取り組みなどが評価された。「DX注目企業2021」では、特に企業価値貢献部分において注目されるべき取組みを実施している企業として、大日本住友製薬株式会社が選ばれている。

・大日本住友製薬株式会社:オンライン専任 MR の「大日本住友 オンライン MR」への名称変更に関するお知らせ(PDF)

大日本住友製薬は6 月 15 日、オンライン専任のMR(医薬情報担当者)の認知度向上、浸透を図り、医療関係者への情報提供をさらに拡充するため、「iMR®」から「大日本住友 オンライン MR」に名称を変更したことを発表。

大日本住友製薬は昨年 6 月より、デジタル技術を介した新たなコミュニケーションチャネルとして、チャットボットで予約可能なオンライン専任 MR「iMR®」を配置し、非定型抗精神病薬「ラツーダ」および「ロナセンテープ」などの精神科領域の製品に関する情報提供を行ってきた。

今後、糖尿病領域の製品に関する情報提供も開始し、オンラインによる医療関係者とのコミュニケーションのさらなる充実を図る予定。

また、「オンライン MR™」は、大日本住友製薬とアステラス製薬株式会社が協議の上、大日本住友製薬が出願した商標であり、アステラス製薬と共同で使用するとのこと。

・ファイザー株式会社:ファイザー リモートコミュニケーションプラットフォーム「my MR君」の全社導入を決定

ファイザー株式会社は6月、エムスリー株式会社の提供するリモートコミュニケーションプラットフォーム「my MR君」をファイザーの全MRに導入することを発表。

「my MR君」は、各担当MRがM3の医療従事者専門サイト「m3.com」上で医師と直接コミュニケーションを図れるプラットフォーム。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大に伴い医療機関への訪問一部自粛が長期化している中で、自社コミュニケーションツールに加えて「my MR君」やインターネットシンポジウム(Web講演会)等、他の情報提供チャネルとも連携していく。

これらによって、より多くの医療従事者に対しニーズに沿った情報をタイムリーに提供することで、顧客体験の更なる深化を目指す。

・中外製薬株式会社:中外製薬 DXメディアセミナー「6月25日」 (PDF)

中外製薬株式会社は、6月25日の2030年トップイノベーター像実現に向けた新成長戦略や、デジタル基盤強化に向けた3つの取り組みを発表した。

「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」の中では、デジタル技術によって中外製薬のビジネスを革新し、社会を変えるヘルスケアソリューションを提供するトップイノベーターになることを掲げ、バリューチェーン全体の業務効率化を進める。

2021年は全社で5万時間、2023年は10万時間の業務削減を創出する方針を明らかにした。2018年CFO直轄の全社の各業務効率化を推進するためのプロジェクトとして始動した「CHUGAI RPA」(Reconsider Productive Approach)は、AI(人工知能)等を活用し業務シナリオの自動化を全社的に推進、2020年までの3年間で7.7万時間以上の業務時間を削減。113の業務シナリオを自動化し、無人ロボットの稼働時間は4715時間/月(約27人分・稼働率80%)に及んだという。

◆MR活動◆

MRの活動は、デジタルを取り入れたコミュニケーションがスタンダードとなり、すでに医療機関への訪問に代わる手段の一つとして選択肢が増えた形となりました。オンライン専任MRやLINE WORKSを導入することで、MRと医師、双方にコミュニケーションが取りやすくなっているようです。

・アステラス製薬株式会社:「アステラス オンライン MR」による情報提供・収集サービスの開始

アステラス製薬株式会社は、医療関係者への医薬品に関する情報提供の顧客接点強化を目的に「アステラス オンラインMR」を任命し、オンラインによる情報提供・収集サービスを6月から開始。

「アステラス オンラインMR」とは、医療関係者に対し、オンライン面談ツール等を用いて自社の製品情報を提供するオンライン専任MR。前立腺癌治療剤(イクスタンジ錠)、抗悪性腫瘍剤(ゾスパタ錠)、腎性貧血治療薬(エベレンゾ錠)、関節リウマチ治療剤であるJAK阻害剤(スマイラフ錠)・TNF-α阻害薬(シムジア皮下注)の5製品の情報提供・収集からサービスを開始しているとのこと。

これは、新たな働き方への適応といった事業環境の変化への対応や、さらには新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に伴い、医療関係者への情報提供・収集活動のあり方を見直し、デジタルトランスフォーメーションへの投資となるもの。加えて、経営計画2021の下、製品ポートフォリオのスペシャリティ化を進める中で、とりわけ専門性の高い情報提供・収集活動をオンラインで行う「アステラス オンラインMR」が任命された。

・アストラゼネカ株式会社:アストラゼネカ、医療従事者とのコミュニケーションツールとして、新たにLINE WORKSを導入

アストラゼネカ株式会社は7月より、アストラゼネカの営業(MR)やメディカルサイエンスリエゾン(MSL)が医療従事者とコミュニケーションを図るためのツールとして、新たにLINE WORKSを導入した。

まずは7月から循環器・腎・代謝/消化器(CVRM)事業本部の一部MRがLINE WORKSのパイロット運用を限定的に開始し、年内に全事業部のMR・MSLも使えるように本格的に運用を開始する予定。これまでアストラゼネカが公式としていた医療従事者とのコミュニケーション手段はメールと電話だったが、LINEが利用できるようになることでメールよりも手軽かつスピーディー、電話よりも受け取る相手の都合に合わせて連絡を取ることが可能となる。

今後は医療従事者のみならず、取引先とのコミュニケーション手段としてもLINE WORKSを使えるようにする予定とのこと。

◆新サービス◆

AIやチャットボットを用いたサービスがリリースされています。治療中の患者さんの日常生活サポ―トするものであったり、MRのWEB面談時のコミュニケーションを円滑にするものなど、治療やMRの業務を支えるツールとして取り入れられています。

・ノバルティスファーマ株式会社:ノバルティス、慢性特発性血小板減少性紫斑病の患者さんを支援する2つのデジタルプラットフォームを活用したサービスを開始 ~患者さんの体調の自己管理と医師とのコミュニケーションをサポート~

ノバルティス ファーマ株式会社は、慢性特発性血小板減少性紫斑病(以下、ITP)と診断されている患者と家族向けに、メディカルノート社と協働したWebサイトでの「ITPお悩みチャットボット」サービス、および、Welby社と協働し、同社開発のプラットフォームを活用した「WelbyマイカルテONC」サービスを開始した。

一部のITP患者は、症状が落ち着くと頻繁に通院する必要がなくなり、医師とのコミュニケーションの機会も減少するため、日常生活の中で疑問や不安が解消できない事が課題だった。それらの悩み応えるために開発されたのが「ITPお悩みチャットボット」。

患者側はこれまでは通院時にしかできなかった様々な質問を医師に聞くことが可能になる。また、「WelbyマイカルテONC」は、患者は日々の生活の中でだるさや内出血、頭痛など気になる症状をアプリに入力することができ、通院時に医師はアプリ内の記録を元に日々のデータと症状の関係性などを把握しやすくなるとのこと。これらの2つの新サービスで患者の毎日の体調の自己管理と、医師との良好なコミュニケーションの促進をサポートしていく。

・株式会社インタラクティブソリューションズ:Interactive-Pro“Web 会議での同意形成促進スキーム”を提言(PDF)

株式会社インタラクティブソリューションズは、Web 会議における同意形成促進スキーム “リモート共有機能” を開発し、InteractivePro(SaaS 型サービス) の追加機能として提供を開始。

リモート環境下における会議・コミュニケーションの諸課題の解消策として、利用者が汎用 Web 会議システム(Teams、WebEx、Zoom)と Web ブラウザ(Edge、Chrome、Safari)を同時に活用することで、極めて軽快かつスムーズな操作性を実現した “リモート共有機能” (特許出願中)を開発。

説明が一方通行となりやすく相手の考えを引き出しにくい、利用者同士の同時操作が難しく会議が思うように進まないなど、汎用Web 会議システムにおけるコミュニケーション上の諸課題を根本から解消。AI 音声レコメンド検索や利用者双方で同時操作が可能な対話型コンテンツ(動的 HTML コンテンツ)をリアルタイムに互いの画面で共有し、利用者双方がストレスなくスムーズな操作を可能とすることで、高次元のコミュニケーションの実現を図ることができるようになる。

・株式会社インタラクティブソリューションズ:Interactive-Pro 営業パーソンが待ち焦がれていた音声レコメンドが公開サービスに!(PDF)

株式会社インタラクティブソリューションズは、ディープラーニング/マシンラーニングに関する複数の AI を組み合わせた先進の音声認識・レコメンド検索機能を自社開発し、同機能を搭載した「Interactive-Pro」(SaaS 型サービス)としてエンタープライズ向けに提供開始したことを発表した。

これによって、膨大な情報の中からキーボード等の操作を必要とせず、音声のみで目的とする情報を迅速かつ高精度で検索が可能になる。「Interactive-Pro」独自の AI 音声認識・レコメンド検索機能は、利用者の会話を音声認識し、瞬時に必要なキーワードを切り出して適切な検索キーワード例を提示することが可能。同意語も適切な言葉に置換できる。さまざまな営業シーンや経験の浅い営業担当者でも、適切な検索で顧客を満足させる情報の提供がかなえられるという。

◆事業計画・新組織設立・業務提携◆

今後はデータサイエンティストなど、データ分析スキルなどがこれまで以上に必要とされる時代になりそうです。

デジタル化によって集められたデータをどう活用するか、活用できる人材がいるかどうかでマーケティング戦略や会社全体で出せる方針も変わって行く可能性もあります。

そのため、デジタル人材の育成や採用は製薬企業にとって欠かせないものであり、人材が確保できない場合は戦略的業務提携などで対応する企業も増えて行くと考えられます。

・塩野義製薬株式会社:組織の改編と人事異動について

塩野義製薬株式会社は、7月1日より「DX 推進本部」を新設。デジタル技術を用いたヘルスケアソリューションの創出とその実現を支えるデータ活用およびIT/セキュリティ基盤の構築を担う。

経営戦略本部デジタルインテリジェンス部を編入し、経営戦略本部経営企画部およびヘルスケア戦略本部データサイエンス室の関連機能を本部傘下組織として再編し、「IT&デジタルソリューション部」および「データサイエンス部」となった。

・中外製薬株式会社:中外製薬とALBERT、製薬業界向けデータサイエンティスト育成プログラムを共同開発

中外製薬株式会社と株式会社ALBERT(アルベルト)は6月、製薬業界向けデータサイエンティスト育成プログラムを共同で開発することを発表。これは、4月よりスタートしたデジタル人財育成プログラム「CHUGAI DIGITAL ACADEMY」の取り組みの一つ。

医薬特有要素を含むデータ利活用スキルの習得によるDXの推進を目指し、中外製薬グループ社員を対象に展開。現在、ヘルスケア産業では、予防医療や診断支援、個別化医療、新たな治療法・新薬の開発、健康寿命の伸長など、様々な分野でデータ分析・AIの活用が期待されており、データの高度な解析技術や統計の専門スキルを有する人財の育成が重要な課題となっている。

データサイエンティストの育成に強みを有するALBERTの支援の下、データサイエンティストに必須の基礎的な統計解析やプログラミングの技術に加え、臨床統計や疫学基礎など製薬業界特有のデータ利活用のための知識・スキル習得をしながらDXを推進する人財の育成を強化していく。

・日刊薬業:岩渕薬品、健康管理アプリ活用した事業を発展へ ITベンチャーのアーテリックスと業務提携

岩渕薬品株式会社とITベンチャーのArteryex(アーテリックス)は6月30日、両社で共同開発した健康管理アプリ「LEAF」を活用して、岩渕薬品の総合ヘルスケア事業やDX事業を発展させるための業務提携を開始すると発表した。

業務提携により、「LEAF」のサービスの企画・運営および営業・広報活動や、同サービスに係るアプリケーションの開発および保守の推進、医療機関向けシステム受託開発事業におけるアプリケーションの開発・設計などを推進する。岩渕薬品では、「LEAF」を活用した企業向けの健康管理サービスの事業化を目指しており、今回の業務提携で事業化のスピードを加速化させたい考え。

・日刊薬業:戦略的提携でDX加速、創薬や販売戦略にも活用 大日本住友、「ラツーダ」特許切れ後を支える製品でも

大日本住友製薬がDXを加速させている。2019年に英ロイバント サイエンシズ社と戦略的提携、提携することで獲得したデジタル戦略などを担う海外子会社スミトバント・バイオファーマを中心に、米国で先行してDXのプラットフォームとなる「DrugOME(ドラッグオーム)」を創薬や販売戦略立案などに活用、着実な進展を見せている。

米国にあるスミトバントのドラッグオームのチームを中心に、このプラットフォームを活用し、さまざまなビジネス上の課題解決につながるソリューションを提供しているという。また、ロイバント社は、製薬企業が開発を中止した化合物などを独自にドラッグオームで分析し、AI(人工知能)が商業化を見込むことができると判断すると、その化合物の開発権を買い取るノウハウを持つ。大日本住友はこのノウハウを吸収し、日本での開発パイプライン拡充に役立てようと取り組み始めている。

さらに、ビベグロン(米国製品名「ジェムテサ」)や低分子GnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)受容体阻害剤レルゴリクス(米国製品名「オルゴビクス」)は、大日本住友が、主力の非定型抗精神病薬「ラツーダ」の独占販売期間終了後の業績を支える品目となることを期待されている。両剤はすでに米国で発売されているが、ドラッグオームを使って市場の特性や治療パターン、処方箋の傾向などを分析することで販売戦略の立案にも役立てられている。

DXは次のステップへ! 人材育成や組織改編、業務提携で強固な組織の構築へ

多くの製薬会社でデジタルコミュニケーションをすることが当たり前になったいま、DXを進めていく製薬業界の「次の展開」が感じられたのではないでしょうか。

また、データサイエンティストのような新しい人材もDX推進をする際には需要が高まる人材となってきます。さらに、あらゆる面でDXが進んで行くという事を考えると、製薬会社のDX専門人材の育成が必須の時代になるのはそう遠くない未来に感じました。新たな技術を発展させていくために、製薬会社がどのように組織を構築していくのかにも注目していきましょう。

今後も当ブログにて各社のDXの最新事例をお伝えしていきます。