【勉強会:後編】薬を評価するための新たな概念「Time Toxicity(時間毒性)」とは?

勉強会

公開日:2024.10.09

治療に費やす時間をきちんと薬の評価に入れることが大事

私たちの顧問であり、株式会社メディカル・インサイトの代表取締役社長を務める鈴木英介氏と弊社の社員による勉強会のレポートです。後編も引き続き「Time Toxicity(時間毒性)」をテーマとして、薬を評価するために治療の最中に掛かる通院時間などをどう考えるかについて学んでいきます。医療・製薬業界の最新トピックに触れる内容となっていますので、ぜひご覧ください。


勉強会の参加者

2018年中途入社
営業
佐塚さん

2023年中途入社
プロデューサー
内海さん

2023年入社
Webディレクター
マルダンさん


治療に掛かる時間的なコストは計測が難しい!

それでは鈴木さん、後半もよろしくお願いします!

よろしくお願いします。
前半ではTime Toxicity(時間毒性)がどのようなものか解説をしてきましたが、ここからは質疑応答を絡めつつ進めていきましょう。

よろしくお願いします!

まずはTime Toxicityの概念ついて軽くおさらいするところから始めましょうか。
例えば、何らかの病気になった時、治療のために費やす時間があまりにも掛かると、治療のために生きているような感じになってしまって生活全体における満足度が低くなってしまうことがあります。
そもそも患者さんは生きるための治療をしているので、本末転倒ですよね。
なので、そうならないように治療に費やす時間をきちんと薬の評価に入れることが大事ですよ、という話でした。

これは薬で治すのか、手術で直すのかという場合でも同じです。
手術をすることで治せるならそれで良いという風にも考えられますが、手術後、回復するまで自宅にいないといけないとか、通院があるならそれを評価に入れないといけないということになります。

要するに、治療をするがゆえに患者さんが自由にできないところは時間的なコストという考え方だからです。コンセプトとしては正しそうに聞こえるのですが、実際にその時間を計測するのは難しそうだと思いませんか?

(頷く)

そうですよね。
僕も海外の文献などを読んでいるのですが『2つの治療法に費やす時間を計測して比べてみました』といった文献をメジャーな文献ではまだ見たことが無いんです。

というのも、治療に費やす時間をきちんと計測しようと思うと結構難しい部分もあるからなのかなと。なので、Time Toxicityは現時点では発展途上の考え方なんだろうとは思います。

とはいえ、コンセプトとしては正しいので、今後新たに論文などが出てくる可能性は十分に考えられます。……と、今回僕からTime Toxicityについてお伝えしたかったのはこういった内容なのですが、みなさんから何か質問はありますか?

投与方法や回数で変化する薬の利便性

僕から質問をよろしいでしょうか。
例えば、がんなら通院という形の治療が大多数になると思うのですが、皮膚病なら自宅で薬を毎日飲むということもありますよね。それをTime Toxicityで考えると、毎食後に必ず、1日3回薬を飲んでくださいと言われたら結構苦痛に感じます。
いつまで続ければ良いのか気になりますし、決められた期間で服用した薬に効果がなかったらどうなるのかなと。

うん、うん。素晴らしい視点ですね!

では、治療期間を限定できるのかというところと、そもそも薬を飲むのが面倒くさいという場合の評価はどうなるのかという所の話をしますね。

飲み薬だからといって治療に時間が掛からないというわけではないですからね。おそらくこれはTime Toxicityとしては扱いきれない部分なんだろうと思います。

お薬の良し悪しを評価する上で、製薬業界で使われる“利便性”という便利な(笑)言葉があるのですが、簡単な例で言えば1日3回飲まなければならない薬と、1日1回で済む薬でどちらの利便性が高いのか。

もっと言えば、最近“デポ剤”という新しい投与の仕方をする薬があります。デポ剤は、1ヶ月や3ヶ月に1回注射をするという投与の仕方で、それが毎日飲む薬と効果が同じというものですね。ただ、デポ剤は注射なので、注射を選ぶのか、飲み薬を選ぶのか、患者さんによって好みが変わってきます。

僕だったら、毎日薬を飲むより3ヶ月に1回、注射をすれば済むならそちらの方が良いですね。みなさんはどうですか?

私も注射が良いです。

悩ましいですが、僕は飲み薬を飲むのは苦痛とは感じないですし、注射だと前後に検査があったりするので、それが面倒だなと。

僕は毎日薬を飲むのが嫌で注射を選んだのに、3ヶ月後の注射を忘れてしまうタイプですね(笑)

みなさんタイプが分かれましたね(笑)。
今回の出席者の中にはいらっしゃいませんでしたが、絶対に注射は嫌という方もいます。何を便利だと思うのかは、その患者さんの嗜好によりますね。

なので、Time Toxicityというほどではないけれど利便性として比べてみると違いが出てくるので、薬の評価としては入れておくべきだとは思います。でも、Time Toxicityという概念ではちょっと取り込み切れないかなと。

もう1つ、先ほど佐塚さんが言っていた治療期間を限定できるかどうかの所ですが、例えば1ヶ月で治っているのか、治っていないのか分からない。そこをどう考えるのか。で、この話はしっかりしておいた方が良いかなと思うのでみなさんにもご説明しますね。

手術の成功や薬の効果も、あくまで「確率論」の中の話

「手術の成功」「薬の効果」成功確率は100%ではない

医療というのは確率論なんです。

手術にしても、薬にしても、成功確率は100%ではないわけです。手術では常に失敗のリスクはある。薬でも、効果が出ない場合もあるし、副作用が出てしまったりと別のマイナスな部分が出てきてしまうこともあるので、こちらもリスクが0%だとは言えません。

薬は異物を身体に入れるわけですから、たとえ市販の風邪薬であっても重篤な副作用のリスクは決して0%ではないんです。そこはそういうものだと受け止めて治療を受けていただかなくてはならないですし、薬を提供する側もきちんと説明しておかなければならない部分だと思っています。

これは、医療を受ける側としては受け入れざるを得ないところなんですが、お薬を飲む時には100%効果があると思っている方が多い。
もちろん、そう思いたい気持ちを否定することはできませんが、ファクト(事実)としては確率論だということですね。と、色々話してきましたが、マルダンさんはどう思いますか?

私はTime Toxicityのコンセプトについて、通院時間の捉え方について理解できました。

それは良かったです。
計測が難しい部分はありますが、定量的な評価をする場合、患者さんが自宅以外の場所で過ごさなければならない時間を控除しましょうという話です。
通院や入院の時間に対して影響が出るので、そこをマイナスして評価をするようですね。

鈴木さんへ質問を良いですか?
Time Toxicityは病院に関する問題なのか、社会に関する問題なのか、そこが知りたいです。

これは、どちらも含まれますね。
基本的には病院で対応できるかどうか、というのが当然ありますけれど、例えば自宅で治療したくても高齢かつ独居の方で誰もサポートをする方がいない状況の場合。こうなると結局は入院してもらわざるを得ないというのはありうる話ですよね。

環境が整わないことで最終的には自宅以外で過ごさざるを得ない方はいらっしゃいます。こういったケースは社会的に影響している側面はあると思います。

ただ、それは限られたケースだとは思いますし、社会的な側面を含めてその影響を計算していくのは難しそうだと思うので、普通の生活をしている方のケースを前提として考えていくのでしょうね。

分かりました。
ありがとうございます!

Time Toxicityにも影響を及ぼす病院のシステム

病院での待ち時間を解消するなどの工夫が実質的なTime Toxicityの低減に結びつく!

あとは少し脱線する話かもしれませんが、最初に出た病院で数時間待たされるというケースでも、患者さんの持っているスマホに連絡が来てから外来に行くようなシステムがあれば、患者さんはカフェや会社など他の場所で過ごすことができますよね。

だから病院側の対応によってTime Toxicityが変わってくる部分もあるのかなと思います。

今はクリニックなどで、診察順が近くなったら知らせてくれるシステムを導入している施設も増えたので、僕も好ましいことだと感じています。こういった工夫が実質的なTime Toxicityの低減に結びつくのかなと。今日の勉強会としてはこんな感じでしょうか。

ありがとうございました!

今回も非常に興味深いテーマについて話し合うことができたと思います。QOLという視点が治療に反映されていくのは患者さんにとって喜ばしいことですし、Time Toxicityは医療を提供する側としても解消していかなければならない問題であり、僕たちも注視していきたい話題だと思いました。

そして、鈴木さん、最新の情報を早速ここで展開してくださってありがとうございました。今後また続編となるような進展があれば、改めてテーマとして取り上げていただければと思います。

ありがとうございました!

―― 今回は、新たな概念として取り入れられつつあるTime Toxicity(時間毒性)について学ぶことができました。手術や薬そのものだけではなく、患者のQOLにまで踏み込んで治療全体が評価されることでより質の高い医療の提供に繋がる可能性が広がっていくかもしれません。今後も勉強会レポートを通じて、医療・製薬業界の最新情報や専門的な知識をお伝えしていきます。

この記事の担当者

佐塚 亮

佐塚 亮/Satsuka Ryo
職種:sales
入社年:2020年
経歴:大手スポーツメーカにて店舗sales,エリアマネージメント業務を担当。のちWEB制作会社にてWEBサイトの提案からディレクションをこなし、コンサルタントとしてサイト立ち上げ後の売上向上まで支援。その後2020年にメンバーズへ入社。主にクライアントからのヒアリング及び検証データを基に要件定義を行い、サイトの構築運用を実施。定常的に支援サポートを行う。クライアントはもちろんエンドユーザーの立場・視点に立ち、問題抽出から改善案の立案までを手がける

カテゴリー