【顧問インタビュー】メディカル・インサイト 鈴木英介氏が語る医療・製薬業界のDX

インタビュー

2022.11.02

みなさん、こんにちは。広報担当です。
今回は、メンバーズメディカルマーケティングカンパニー設立時からの担当顧問、株式会社メディカル・インサイト 代表取締役社長 鈴木 英介氏へのインタビュー記事です。こちらのインタビューでは、医療・製薬業界のデジタル化についての想いや今後の展望について伺いました。鈴木氏自身も長年、医療関連の調査・コンサルティング等の事業を手掛ける専門家であり、その視点を通して見たさまざまな見解がご覧いただけます。

Webに特化した企業が創る新たな“付加価値”に期待!

―― 本日はよろしくお願いいたします。早速の質問となりますが、私たちはメンバーズのカンパニー企業として初の製薬業界に特化したカンパニーです。顧問として就任された経緯をお聞かせいただけますか?

メンバーズの剣持さん(代表取締役 兼 社長執行役員)と私との共通の友人がいまして。その方の紹介で一緒にランチをしたのがきっかけです。当時メンバーズは他業界の大企業との仕事はすでにたくさん手掛けていましたが、まだヘルスケアの案件が殆ど無かったと伺っていました。そこで剣持さんは、製薬や医療機器、ヘルスケアの中でメンバーズとして出来ることは無いのかなという話をされて。それに対して「沢山ありますよ!」というのが、その時の私からの答えでした。
私自身も製薬会社のプロマネの立場でWebサービスを提供するような企業との付き合いはずっとあった訳ですが、そこで感じていたのは、医療や製薬の業界でのWebサービスは大体2パターンに分かれるということ。1つ目は、紙の資材を作っている業者が「ウチ、Webも出来ます!」というパターンと、もう1つが大手の広告代理店が潜在患者向けに全体のプロモーションを手掛け、その流れの一環としてWebもやると。ですが、どちらも金額は結構張る割には、Webに特化した専門知識やケイパビリティに疑問符が付く(笑)。逆に専門的にWebサービスを手掛ける企業がこの業界に入ることで、もっともっと付加価値を出せるんじゃないかという事は感じていたので、やれることは沢山あるのでは? という話をしました。そこで「ではぜひチャレンジしたい」ということになりまして。

―― 設立当初のMMはどのような企業に感じられましたか? それから現在に至り、どのような点に成長を感じられたでしょうか

先ほどお話したことと同義にはなるかと思いますが、MMはこの業界は初めてで、業界内の常識や人的な伝手がなかったので、私からはそちらの面でのサポートをしましたね。一方で、この業界でやって行くという強い意欲を感じましたし、他業界でWebサービスのケイパビリティを構築されてきているので、人材も豊富だし、若い方でも経験を積まれている方がいっぱいいらっしゃるなと。そういったところで期待が持てました。
それから数年経ち、業界に関する経験も積まれてきて、自走できる力を相当つけられたのではないのかなと。例えば、業界のしきたりであったり、専門用語を聞いても動じない方が多くなったということ一つとっても、業界に慣れてこられたと感じます。あとは実際に成功しているサービス事例も出来てきましたので、その自信はチームの皆さんからも感じられますし、それが今後の案件の獲得にも繋がるのかなと思います。

オンライン⽂化によって起きた製薬業界の不可逆的な変化

―― MM設立後、直ぐに新型コロナが流行、医療機関への訪問規制が強まりました。すでに説明会やドクターとの面談等ではオンラインが受け入れられ、スタンダードになりつつあります。このままオンライン文化は順調に定着すると思われますか?

間違いなくYESですね。この業界は、営業の現場がものすごく非効率なのは確かです。MRが先生と30秒くらいの立ち話するために1~2時間待つことや、待った挙句に空振りに終わることもざらにあった。営業単価にしたらとても高くなってしまい、製薬会社からしてみれば非常に効率が悪い。医師の立場からしても、仕事中でタイミングが悪い時に声を掛けられるのは非生産的です。
それがオンラインになることで無駄が減っていきますので、不可逆的な変化になるのは間違いありません。リアルの面談がなくなるというわけではないのでしょうけれど、オンラインでの情報伝達量はまだ増えると思います。

―― DXを実現するためにはデジタルの活用は勿論ですが、使用者であるMR、ドクター共にデジタルリテラシーを上げることも課題だと感じています。これらについては、地道な啓蒙をしていくこと以外に手段はないのでしょうか…?

リテラシーを上げることに注力するよりも、むしろリテラシーが乏しい人でも使えるUXやUIを提供するのが必要だと思っています。例えば、スマホはなぜ普及したのかという話です。スマホは70代やもっと上の世代の方も使っていて、若い方は当たり前に使いこなせています。それはUI/UXが優れているから。そういったサービスを提供するのが大事ですね。その意味では、誰もが使えるようになっているプラットフォームをいかに活用するかも大事な観点です。
あとは使うことによる具体的な利点を感じさせることも必要です。エムスリーの医療ポータルサイトがなぜこれだけ普及したかというと、医師向けに特化したニュースなど、医者にとって役に立つ情報がそこにあったからです。そういった斜めからのニーズに応えることが必要かなと思います。

患者さんと医療従事者、双⽅の利便性を満たせるかどうかが「カギ」

―― やはり、デジタルを駆使したサービスはインターネット世代の患者さんには馴染みやすい。それなら、いかに活用できるようにするかを考えなくては…ということですね。例えばWebサイトの「よくある質問」のページで使われるようなチャットボット等は医療従事者の負担を軽くし、問い合わせる側も気軽に使えるツールになっていると思いますが、そのメリット、またはデメリットはどう考えられますか?

患者さんの利便性と医療従事者の利便性の両方を満たせるのか、という点が普及につながるかどうかのポイントと思っています。患者さんにとって都合が良くても、先生が外来診療をするうえで手間が増えるのならば使いたがらないという話です。でも、そこで、これを使えば患者さんにも便利で、患者さんのエデュケーションを省いたり、もう一段高いレベルで行える。そういった診療効率化や質の向上につながるメリットが医療従事者側にあるというのなら、普及していくと思います。どう「解」を見つけるかは簡単ではありませんが、そこが大事なのかなと。

―― そうですね。極端な例えですが、音楽に合わせたショートムービーを投稿できるアプリ「TikTok」が若い人に流行っていますが、医療従事者がそれを使うかどうか、合っているアプリなのかと言えば難しいというか…。

TikTokを活用する方法も、あるかもしれませんよ。例えば、患者さんに疾患についての説明をするときに小冊子を使いますが、若い方はテキストベースのものは好まない。そんな患者さんに対して、医師が「外来の待合室にいる時にでもこのTikTokの動画を見ておいてね!」という風に使うとか。これは、みなさんへの期待にも繋がる所なんですが、社名変更前のMOVAAA時代は動画サービスを扱っていたなら、その強みを活かせないのかなと。新しい手法で疾患の解説をしてリテラシーを上げるというような、斬新な提案をして欲しいなと思います。

―― 努めさせていただきます! それでは、DXによる業務効率化が上手く進めば、MRの数はこの先もポジティブな意味で減り続けていくのでしょうか。また、ハイブリッドMRやデジタル専任MRなど、新たなMRが定着していくことはどう思われますか。

この変化は、この先も進んでいくのではないでしょうか。結局のところ、これまでのMRのリアルな営業方法で本当に投資対効果があるのかという疑問に対し、効果がなかったという答えが出てしまったわけです。それ以前は、投資対効果を曖昧にしたままMRを増やしてきたのが業界の実態なので、それが適正化されるまではもう少し減って行くでしょうね。
ただし、ゼロにはならないし、リアルだからこそ動かせる部分も残ると思います。例えば、学術集会はオンラインでも開催可能ですが、リアルで会う価値があるので、現在はハイブリッドの様式で実施されています。営業現場も同様に、リアルとデジタル両方で接触していくハイブリッドMRの時代になるのではと考えています。

今後の医療コミュニケーションはPHRの利活⽤に注⽬!

―― この数年の医療のデジタル化の流れで、オンライン診療や治療アプリなどは一般の方にも広まりつつあるのを感じます。5~10年後の医療・製薬業界のコミュニケーションはどうなると予測されますか?

大きい流れとしては、患者さんがご自分のデータ(PHR:Personal Health Record)を持つ時代に移行していくというのはあると思います。治療アプリはある意味、PHRの一環だと思いますが、それを利用した治療マネジメントが進んでいくことは間違いないかなと。
ただ、PHRを本当の意味で使えるようにする上で、現在は医療データが分散してしまっているのが問題です。病院/医師側が持つデータとPHRとが、有機的につながっていけるかどうかが課題になるのかなと。これが上手く行くかどうかは、PHRと電子カルテのデータ連携の進捗次第で決まって来る話だと思っています。PHRが浸透していくと、製薬業界は患者さん個々の状況に応じたアクションにフォーカスしていくようになるのではないでしょうか。それが、これからの5~10年の一大テーマになるのではないかと。あとは、日本の医療の経済的環境を考えると、効率化は当然考えていかなくてはならないことです。そういう意味で、オンライン診療や治療アプリの利用は必然的に進んでいくと思います。

― 最後に、今後のMMに期待することをお伝えいただけますでしょうか?

新しいWebツールであったり、メンバーズだからこそできるフラッグシップとなるサービス、エッジの効いたサービスを作っていただきたいと思います。それが何かというのはまだ分かりませんが、先ほど話したような動画サービスであるとか、独自のサービスが1つあれば応用も効きますので、それを一緒に考えていきたいなと思っています。

―― 本日は、ご協力いただき誠にありがとうございました!