製薬会社で進むデジタルトランスフォーメーション(DX)事例まとめ(2021年4月~5月)

DX事例まとめ

2021.06.17

みなさん、こんにちは。広報担当です。今回は2021年4月~5月の製薬会社の動きをまとめています。

医療関連の情報収集の形は、既に医療従事者もインターネット経由を中心にしたものへと切り替わっています。また、今春の採用活動はオンラインでの採用活動であったり、新卒の採用数が減っていたことなど、デジタル化が進んでいることが随所から感じ取れました。ある程度DXが進んできた中でクラウドサービスが注目されており、新型コロナウイルスのワクチン接種に関連する新サービスなども展開されています。

みなさんも、目まぐるしく変わる「今」の医療業界の潮流をチェックしてみてください。

医師が望む情報源はデジタル系チャネルが首位へ! MRを支援するクラウドサービスも要注目!

デジタル+リアルをミックスした「ハイブリッド型」の情報提供が求められる現在、ウェビナーやVRの活用以外にも、営業支援を目的としたクラウドサービスのリリースも目立っていました。スピード感があり、コストを抑えながら新たな機能を提供できるというクラウドサービスは、これからのMRの活動の大きな強みになるとも考えられます。

さらに、エムスリー「m3.com」の医師会員数が30万人を突破するなど、信頼性の高いプラットフォームは機能強化によってますます需要が増えていくことが予測されます。

また、医師が理想とする新薬の情報源の首位にデジタル系チャネルを望んでいるという調査結果も出ましたが、実際に薬の処方へつながっていないケースもあり、今後の課題となることを感じさせられる結果となっていました。

◆業界の動向◆

度重なる緊急事態宣言の発令や「まん延防止等重点措置」の適用など、外出の機会が失われる中、インターネットを活用したライフスタイルがスタンダードになってきています。医師による情報収集もデジタルが1位になり、医療業界のデジタル活用も顕著になりました。

しかし、今後は新薬の採用や処方数が伸びていないということにも目を向けて行かなければならないようです。また、増えることが予測されるオンライン診療・オンライン服薬指導に関しても普及させるための体制づくりなど、広く活用していくための課題も出てきています。

医師が理想とする新薬の情報源 AMTUL分析の全段階で1位がデジタル 2位にMR 5年前と首位交代」ミクスOnline

医薬品マーケティング支援会社のエム・シー・アイが2月に実施した医師約5,000人を対象とした意識調査「医師版マルチメディア白書2021年春号」によると、新薬を医師に初めて知ってもらい、最終的にメインの薬剤として処方されるまでを5段階に分け、段階ごとに医師に理想とする情報入手チャネル(情報源)は、全段階でトップがデジタル系チャネル(インターネットサイト、ネット講演会)となった。

MRチャネル(面談、電話、メール)は2位で、5年前の調査から1位と2位が逆転したという。しかし、コロナ以前ほど新薬の採用や処方数が伸びていないとの実態もあり、MRチャネルを組み合わせて新規処方や処方増につなげることが重要と思われる。

「医療用医薬品の情報入手先、「ネットから」が6割弱 RAD-AR調査」日刊薬業

くすりの適正使用協議会(RAD-AR)が、過去3年間で医療用医薬品を処方された経験のある市民(昨年9月、20~79歳までの医療従事者を除く男女1,200人)を対象にした調査結果によると、医療用医薬品の情報の入手先として最も多かったのは「インターネットで調べる(アプリ含む)」で57.5%だった。

この結果は、2位の「薬剤師に聞く」51.5%と同程度であり、スマートフォン利用率83%と言われる現在のインターネット経由での情報検索が増加していると分析。しかし、RAD-ARでは、「検索上位のサイトの情報が必ずしも正しい情報ではない事には注意が必要」と呼びかけている。

主要製薬58社、新卒採用は3.3%減 21年度本紙調査、デジタル化で「MR活躍の場が減少」日刊薬業

日刊薬業が主要製薬企業を対象に行った「2021年度新卒採用・雇用調査(国内・有効回答58社)」で、今春の新卒採用が71人減少したことが分かった。新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、業務のデジタル化が進んだことで必要とする人材が変化した可能性がある。

新卒MRについては約8.1%が減少。その中でも、中途採用者は増やす傾向にあり、比較可能な33社で見たところ、研究開発部門で約7.3%、生産品質部門では約2.5%増加していた。また、オンラインでの採用活動のデメリットは、「オンラインと対面で印象が違う」「学生の反応を確認しづらい」等の声が上がっていた。その一方で「移動による学生の身体的、経済的負担を減らせた」というメリットもあった。

オンライン診療・服薬指導で変わる患者とのタッチポイント 製薬企業とのコラボも MICINセミナ」ミクスOnline

オンライン診療サービスなどを手掛ける株式会社MICINは、3月26日に『医療DXの時代に求められる医療機関・薬局の変化とは』をテーマにウェビナーを開催。医師、薬局、企業の3つの視点から、デジタルトランスフォーメーションや医薬連携など薬局が直面している変化、患者の治療体験に与える影響などを予測した。

『次世代の薬局・薬剤師に求められる役割』と題して講演したクオール新業態推進本部本部長の佐藤和佳氏(薬剤師)は、オンラインでの服薬指導やフォローアップの利点を述べた。2016年からオンライン診療を実施している医療法人山下診療所自由が丘・大塚理事長の山下巌氏は『医師の視点からみたオンライン診療・医薬連携の現状と今後の展望』をテーマに講演。「デジタル技術は五感を遥かに上回る性能を持っているのだから、自宅で手軽に検査できるデバイスの発達により、オンライン診療は対面診療を凌駕する可能性もある」との見方を示した。

最後にMICINのSPVである草間亮一氏は、『薬局のDXによる包括的な患者サポートプログラム(PSP)の実現に向けた展望』と題し講演。医療者の負担をかけず、治療継続のための仕組みづくりに注力していく。

◆MR活動◆

MR単独の活動と比べ、「ハイブリッド型」MRの活動の方が薬の処方へつながっていることが判明しています。しかし、GP市場では異なる動きも出ており、MRの医師への対面ディテール数が新型コロナウイルス感染症流行前の水準まで戻っているなど、病院の規模によってMRの活動量が異なっているケースもありました。単なるデジタル化ではなく、必要とされているニーズを見極めながらの情報提供活動がカギとなっていくと考えられます。

オンコロジー領域においてデジタルプラットフォームを活用した医療関係者への新たな情報提供サービスを開始」ノバルティスファーマ

ノバルティス ファーマ株式会社は、4月1日より、オンコロジー(腫瘍学)領域の医療関係者への新たな情報提供サービス、Digital Engagement Liaison(DEL)を開始することを発表。MR経験を持つ社員がデジタルプラットフォームを活用し、医療関係者との次世代におけるエンゲージメントのあり方に挑戦していく。ZoomやLINE、Websiteなどの各種デジタル上のプラットフォームを使いこなすことで、医療関係者が望む最適な時間において各種情報提供を行っていくという。

処方変化の際の情報源 「ネット講演会」が「MRの面談・電話」を上回る MCI調べ ミクスOnline

医薬品マーケティング支援会社のエム・シー・アイの調査によると、今年の2月、処方行動が変化した薬剤の情報入手先(情報源)として「インターネット講演会」が「MR(面談・電話)」を上回ったことがわかった。(インターネット調査:対象は製薬企業サイトや医療関係企業サイトを閲覧している医師で、有効回答数は5,077人。調査時期は21年2月4日~18日) 

20年4月調査では「MR(面談・電話)」が「ネット講演会」より23.5ポイント高かったが、前回20年10月調査でその差は一気に2.3ポイントに縮まり、今回逆転した。しかし、「ネット講演会」の視聴拡大だけでは新薬処方や採用のクロージングに十分につながっていない可能性もあるとしながらも、処方行動が変わったと回答のあった薬剤を対象にしたマルチチャネル効果の分析では、MRを含むマルチチャネルでは、MRのみの単独プロモーションより1.6倍、処方につながったことが確認できたとのこと。

[MR訪問、GP市場はコロナ流行前の水準に Impact Track3月度調査」日刊薬業

一般用医薬品・医療用医薬品の市場調査などを手掛けるインテージヘルスケアの「Impact Track」3月度調査によると、99床以下のGP市場ではMRによる医師への対面ディテール数が新型コロナウイルス感染症流行前の水準まで戻っていたことが分かった。

355万件というGPのディテール数はコロナ流行前の水準に相当する。MRディテールが前年同月比を上回った要因は、2020年3月ごろに製薬業界で自粛ムードが広がり、医療機関への訪問を自主規制したため。WEB講演会は全社合計で138万7211(前月比:12.2%増、前年同月比:25.1%増)。内訳は、HPが88万2023(前月比:12.6%増、前年同月比:46.5%増)、GPが50万5188(前月比:11.4%増、前年同月比:0.3%減)。

◆新サービス◆

DX支援をするクラウドサービス(SaaS型)のリリースが目立っています。これらはシステム導入への期間を短くし、コストの面でも負担を抑えられるため、今後もこのようなサービスは増えて行くことが考えられます。

また、エムスリーの医療従事者向けポータルサイト「m3.com」 の医師会員数が 30 万⼈を達成したことが発表され、認知度と利用者数においてトップとしての存在感をさらに増していました。新型コロナウイルス感染症に関するものでは、ワクチン接種に合わせたWEB問診サービスも活用され始めています。

ワクチン接種が始まった今、まさに必要とされているシステムであるため、医療従事者や接種を受ける方へのサポートとして役立てられていくでしょう。

製薬企業の営業向けクラウドサービス「MR-Navi 統合営業支援クラウド」を提供開始 ~短期間でのシステム導入と低価格のシステム利用を実現~ 株式会社シーエーシー

システム構築サービスなどを手掛ける株式会社シーエーシーは、製薬企業向けの営業支援ソリューションを統合したクラウドサービス「MR-Navi 統合営業支援クラウド」を4月5日から提供開始した。

これは、製薬企業のMRの情報提供活動のDXを支援するもの。マルチテナント型SaaS(Software as a Service)形態としたことで、導入期間を最小化し、低価格で利用できることをコンセプトとしている。これまでシステム導入のための人員確保、利用コスト等の観点でMR活動のDXに一歩踏み出せなかった製薬企業においても、DXを実現することが可能となる。

医薬営業の DX を実現するInteractive-Pro クラウドサービス(SaaS 型)の提供を開始(PDF)株式会社インタラクティブソリューションズ

4月23日、株式会社インタラクティブソリューションズは、DX時代における MR 活動をオールインワンで支援する SaaS 型サービス「Interactive-Proクラウドサービス(SaaS型)」を開発し、製薬企業向けに提供を開始したことを発表。

販売情報提供活動ガイドライン準拠の MR 教育から AI 解析技術による理想的なコンテンツレコメンドによるプレゼンまで、新時代の MR 活動に必要な 11 の高機能群を優れた UI で活用し、急速に変化する MR 活動に展開ができる。

「Interactive-Proクラウドサービス(SaaS型)」を使用することによって、製薬企業の自社でのシステム開発を大幅に削減し、すぐに必要な機能から利用開始が可能。速やかに DX 推進を図ることができる。

m3.com 医師会員数が 30 万⼈を突破~ “More Contributions to More Doctors”を M3-Labo から開始(PDF)エムスリー株式会社

4月7日、エムスリー株式会社は、医療従事者向けポータルサイト m3.com の医師会員数が 30 万⼈に達したことを発表。これをきっかけに「医師をはじめとする医療従事者が抱える課題を『あらゆる⽅法で解決する』プラットフォーム」を⽬指すとし、M3-Labo というプロジェクトを新たにスタートさせた。

これは、医療現場の課題を m3.com 会員の皆様から直接募集し、その課題をエムスリーの持つ多種多様な経験・専⾨性の⾼いスキルを有する⼈材、ビッグデータ、プロダクト、といったアセットを提供し、活⽤することで解決する仕組み。さらに、特別コンテンツの提供も含め、より m3.com を活⽤できる施策を実施していく。

自宅や出先からスマートフォン・PCで事前に問診が完了できる自治体向け「ワクチン接種 Web 問診システム」の共同展開に関するお知らせ(PDF)株式会社スズケン

医療用医薬品、医療用機器の開発製造などを手掛ける株式会社スズケンは、4月6日、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種に関し、ヘルステック・スタートアップ企業のUbie(ユビー)株式会社が自治体向けに提供する「ワクチン接種Web問診システム」について両社で共同展開すると発表した。

これによって、住民が自宅や出先からスマートフォンや PC で回答した問診結果を送信することで来場前に接種会場のスタッフが問診結果を確認。自治体・医療機関の業務効率化や滞在時間短縮による会場内の感染リスク軽減等を実現し、ワクチン接種のスムーズかつ安全な運営をサポートすることができる仕組みとなる。

◆業績報告・事業計画◆

3月期の決算の報告で大きく業績を伸ばしたのは、メディカルプラットフォーム事業を手掛けるエムスリー。有用な情報の発信元としてダントツのトップとしての地位を築いていることが感じられました。また、多くの製薬企業でデジタル化を推進し続けており、今後はMRの活動と併せて「どう活用するか」が個々の企業の課題であり、業績にも繋がって行くヒントとなっていくのかもしれません。

3月期連結決算メディカルプラットフォーム事業で増収増益。「有用な医薬品の情報源」トップに(PDF)エムスリー株式会社

エムスリー株式会社が4月23日に2021年3月期連結決算を報告した。売上高1691億9800万円(前期比29.2%増)、営業利益579億7200万円(68.8%増)、税引前利益582億6400万円(68.3%増)、純利益378億2200万円(74.8%増)と好調。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い製薬企業からの需要が増し、主力のメディカルプラットフォーム事業が伸長している。海外事業のセグメント売上高は421億4700万円(40.7%増)、セグメント利益は125億9900万円(120.2%増)。米国で展開する治験支援などがプラスに働いたが、CROやSMO事業を扱うエビデンスソリューション事業は減収減益。新型コロナの影響で、複数の治験プロジェクトが一時的に停止したことなどが響いた模様。

2021年3月期決算IRミーティング 堀内社長 「MRのリアル活動は絶対的に必要」その事実を踏まえたうえでデジタル活用に取り組む(PDF)科研製薬株式会社

科研製薬株式会社の堀内裕之社長は5月10日、2021年3月期決算IRミーティングにて、持続的成長に向けて営業基盤の強化や生産性向上のための人材育成、業務改革などに取り組む姿勢を見せた。医薬品の情報提供活動については、「新たなデジタルツール等も活用し、医療機関に合わせた方法で活動を実施した」と説明。

さらに、「直接MRが介在する必要のある情報の対応が絶対的に必要だと思っている。MRのリアル活動がいらなくなることは無い」とも断言し、MRのリアル活動を活かしながらも、Web講演会やリモート面談、VRなど「出来る部分を強力に進めたい」と語った。

2020 年度 主な業績、開発進捗を発表 主力となる成長製品と5つの新製品・適応追加によりさらなる成長へ(PDF) 日本イーライリリー株式会社

4 月 13日、日本イーライリリー株式会社は2020年業績会見をWEBで行った。シモーネ・トムセン社長は、業績については、売上高が対前年比2.9%減の2,671億円1、販売数量0.8%増であったことを発表した。

販売営業はデジタルツールの活用を積極的に促進し、医療従事者の負担にならないように配慮しつつ、効果的・効率的なコミュニケーションを強化することで、その回数は2019年対比で30%以上増加。顧客価値の向上につながるデジタル化の推進をバリューチェーン全域にわたって力強く推進したと語った。

日本における 2020年業績を発表 コロナ禍にもかかわらず、堅調な業績を達成 日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社

日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社は、4月27日、2020年(1-12月)の業績を発表。売上は、1,952億円、薬価ベースで前年比3.1%増となり、コロナ禍でも、2型糖尿病治療薬のジャディアンス®ファミリー(ジャディアンス®、トラディアンス®)、抗線維化薬のオフェブ®がいずれも2桁成長を遂げ、堅調な業績により前年を上回る売上を達成した。

今回の業績発表にあたり、青野吉晃 代表取締役会長は、これまで主要製品ポートフォリオの刷新、デジタルの積極活用、組織体制の最適化といった“トランスフォーメーション”を継続的に推進し、将来に向けた基盤を構築してきたと語り、「これらの基盤があることで、コロナ禍という不測の事態においても、社員と顧客の安全確保と、顧客ニーズへの対応の両立を図るべく、デジタルを活用したコミュニケーションの強化に積極的かつ迅速に取り組むことが可能となりました」と説明した。

DXの真価は、リアルな営業活動を越えた“新たな可能性”が見いだせるかどうかに掛かっている!

製薬会社の情報提供は、デジタル機能と組み合わせたハイブリッドな活動が必要になってきており、次の段階で必要とされるニーズを新たに模索しているようです。

機能としてのデジタル化が標準化された後は、リアルな営業活動を越えて行ける機能であるかどうかが、DXの本当の価値になって行くのかもしれません。

今後も当ブログにて各社のDXの最新事例をお伝えして行きます。