【第1回】メディカル・インサイト 鈴木英介氏が語る、行動経済学を活用した医療マーケティング

デジタルマーケティング

2022.12.21

みなさん、こんにちは。広報担当です。
今回は、私たちの顧問であり、株式会社メディカル・インサイトの代表取締役社長を務める鈴木氏に、「行動経済学と医療マーケティング」をテーマに語ってもらいました。

顧客を動かしている隠れた心理=インサイトのプロフェッショナルである鈴木氏だからこそ、マーケティングに欠けている要素を発見し、新たなアプローチを引き出してきました。このような考え方を知ることで、製薬会社のマーケティングにも応用ができ、今までになかったアプローチが可能になるかもしれません。

マーケティング戦略にお悩みの方もぜひ、ご覧ください。

医者と患者の「すれ違い」を減らしたい! そしてメディカル・インサイトの設立へ

―― 新シリーズのインタビューとなります、よろしくお願いいたします。

早速ですが、鈴木さんが代表取締役を務めておられる株式会社メディカル・インサイトのホワイトペーパーにて、「行動経済学の医療マーケティングへの応用」をリリースし、すでに“行動経済学”と医療マーケティングを組み合わせたコンサルティングも行われていますが、“行動経済学”がマーケティングに深く関わっていると気付いたきっかけを教えていただけますか?

行動経済学自体、学問としては比較的新しい学問ですが、ノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー氏のことなどは知っていました。また、自分の友人で大阪大学大学院 人間科学研究科 准教授の平井 啓 先生は健康・医療心理学、行動医学、医療行動経済学の専門家として医療行動経済学の書籍を2冊(※)出しています。その内容が私自身としても非常に納得がいくもので、面白いなと思ったのがきっかけです。

(※)大阪大学大学院 人間科学研究科 准教授 平井 啓 氏著:「医療現場の行動経済学-すれ違う医者と患者」、大阪大学 感染症総合教育研究拠点 特任教授 大竹 文雄 氏との共著:「実践 医療現場の行動経済学: すれ違いの解消法」

―― 平井准教授は「医療現場の行動経済学-すれ違う医者と患者」というタイトルの本を出されていますね。

この本には、まさに私が株式会社メディカル・インサイトをスタートするのにあたり一番やってみたいと思っていたことが書かれています。医療を提供する側(医師、製薬会社、医療機器メーカー)というのは、患者さんの行動や思惑が全く理解できていないのではないか? というのが気になり、実際に患者さんの声を調査してみるとやはり、想像していなかった話がどんどん出てきます。まさに“医者と患者がすれ違っている”。そこに考えるべき製品戦略が隠されており、自分がやろうとしているテーマそのものだなと。そこにはまった感じですね。

―― 例えば、私たちが患者として病院に行った時、さまざまな診療科をたらい回しにされてしまったり…。それもすれ違いの1つでしょうか。

そうですね。他には、診療の時に本当はしんどいのに、つい医師の前では「大丈夫です」と言ってしまうようなものもそうです。がんのように激しい痛みであっても我慢してしまうケースもあります。そういったすれ違いがなぜ起きるのか? 行動経済学はそこを説明する良い枠組みで、医療マーケティングにぜひ組み込んで考えるべきだと思います。

―― 先ほどのお話にも出て来ましたが、そのすれ違いを、医療を提供する側(医師、製薬会社、医療機器メーカー)にも知ってもらいたいと感じたのですね。

はい。平井先生の本は、特に医療従事者に患者の想いを分かって欲しいという伝え方をされています。

行動経済学の概念1:【損失回避】とは?

―― 以前発行されたホワイトペーパーにて「医療マーケティングを考える上で有用な5つの概念」について解説していますが、今回より連載が始まる“行動経済学”のシリーズとして、初心者向けに改めてこちらをご紹介いただけないでしょうか。まずは、1つ目【損失回避】とはどのようなものか、解説をお願いします。

これは、損と得を比較した時に“損”を大きく見がちであるという人間の特性と関わっている概念です。例えば、これから私と2人でサイコロゲームをするとしましょう。そこで、「どんな目が出ても1万円がもらえる」というルールと、もう1つは、「偶数が出たら3万円をもらえるけれど、奇数が出たら1万円を払わなければならない」というルールがあるとします。その場合、どちらのルールでやろうと考えますか?

―― そう言われると、奇数が出たら1万円を払って損をする方のルールは嫌だな…という考えが頭をよぎります。

そうです。期待値は同じなのに、損が出るかもしれないとなると、そこが気になって選ばない人が多いんですよね。損失回避を医療の場面で考えると、薬の副作用にも同じことが言えます。患者さんは医師が思うより副作用を嫌がるものです。がんの治療などでは医師は「効果があるのだから(副作用が強くても)良いじゃないか」という前提で治療は進められがちなのですが、患者さんが副作用を嫌だと思う気持ちは、医療を提供する側が想像するよりずっと大きい場合があります。だからこそ、薬を処方する側はその心理を良く理解しておく必要があると考えています。

患者だけではなく、医師にも発生するケースがある【損失回避】の概念

―― 副作用が嫌だというのは確かに頷けます。その他のケースなどは何かありますでしょうか?

例えば2つの治療法があって、1つは「薬はガツンと効くけれど、そこそこ副作用が強い」。もう1つは「薬の効果はマイルドだけど、副作用はほぼありません」。こういう場合はどちらを選ぶと思いますか?

―― それは、やはり後者を選びたくなるのでは…。

実はこういった場合、患者さんと同様に開業医も後者の方を選びがちという話があります。開業医の場合は副作用が出た場合の評判やリスクなどが気になって、「薬の効果はマイルドだけど、副作用はほぼありません」という方を選びがちというわけです。

―― 医師も場合によっては損失回避をすることがあるのですね。実際、医師本人は無意識なのかもしれませんが…。とは言え、薬を提供する側の製薬会社も医師も、損失回避をするだけではなく、患者さんに正しい選択をしてもらえるよう、マーケティングを進めて行かなければならないですね。

そうですね。もう一つの、「ガツンと効くけど、副作用もそこそこ強い」という薬の方を患者さんに納得して使ってもらいたい時、どのように説明するかはしっかりと考えていかなければいけないでしょうね。

―― ありがとうございます。【損失回避】がどのような場合で起きるのか、イメージが湧きました!

行動経済学の概念についての話はまだ続きますが、1回目はここまでとなります。次回も、行動経済学の概念の他のパターンについて説明していきますので、楽しみにお待ちください。