メディカル・インサイト 鈴木英介氏 勉強会レポート:前編【子宮頸がん(HPV)ワクチンを打つ? 打たない?】

医療業界

2023.03.06

みなさん、こんにちは。広報担当です。今回は、私たちの顧問であり、株式会社メディカル・インサイトの代表取締役社長を務める鈴木氏が開催する勉強会にて「子宮頸がん(HPV)ワクチンを打つかどうか」をテーマに語ってもらいました。私たち個人個人にも関係する内容として興味深い話を聞くことが出来ました。医療情報のリテラシーについても考えさせられる内容となっていますので、ぜひ、ご覧ください。

「未来のリスク」を防ぐのが、HPVワクチンの特徴

佐塚さん「今回の勉強会テーマは『ワクチンを打つ?打たない?』です。本日はよろしくお願いいたします。出席者は、再び新卒社員の2名、清水、中野です」

清水さん・中野さん「よろしくお願いします」

鈴木氏「よろしくお願いします。早速ですが、みなさんは今シーズン、インフルエンザのワクチンを打ちましたか?」

佐塚さん・清水さん・中野さん「打っています(全員挙手)!」

鈴木氏「前から打っていましたか? メンバーズさんにそういった制度があるんでしたっけ?」

佐塚さん「そうですね。会社としてこの辺りは手厚いので、健康診断や予防接種は『○月○日までに必ず行ってください』とか、リマインドが会社から何度も来ます」

鈴木氏「そうですか。ちなみに、コロナウイルスのワクチンは多くの方が打っていますが、インフルエンザは打つ、打たないが分かれますよね。打つ場合、コロナやインフルエンザは『このシーズン罹らないように』というように目先のリスクを防ぐために接種しますが、HPVワクチンは、ウイルスが感染して子宮頸がんになるまでタイムラグがあるので、遠い未来のリスクを防ぐという点では、コロナやインフルエンザとは少し違う話になるのかなと。清水さん、中野さんは世代的に推奨されましたか?」

清水さん「打つか打たないかは自由だよ、と言われた記憶はありますね」

中野さん「親の会社から家族も受けても良いですよ、という通知は来たけれどスルーしてしまいました」

海外ではHPVワクチン接種率8割以上の国も!

鈴木氏「じゃあ、HPVワクチンの話から始めましょう。みなさんに質問しますが、がんになる原因は、何が一番多いと思いますか?」

清水さん「遺伝子変異…ではないんですか? 前回の、がん治療の勉強会の話の流れからすると」

鈴木氏「先天的な遺伝子変異が原因になることもあり、前回もお話したアンジェリーナ・ジョリーのタイプのがんがそれですね。でも、がん細胞に見られるほとんどの遺伝子変異は後天的なもので、それが”原因”と言えるかは微妙なところなんです。他には考えられますか?」

佐塚さん「タバコやストレスとかもそうでしょうか」

鈴木氏「タバコは因果関係が証明されていますね。あと有名なのはアスベスト(石綿)、中皮腫という特殊なタイプのがんの要因と言われています。そして、もう一つはウイルス感染があって。胃がんの原因になるピロリ菌というのは聞いた事がありませんか? 日本では井戸水が感染源になっていたと考えられているのですが、もし、ピロリ菌に感染していたら、ピロリ菌に効く抗菌薬でやっつけたりします。あと、感染が原因となるがんに、女性の子宮頸がんがあります。この多くがヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によるものです。男性の場合は、このウイルスで咽頭がん、肛門がんの原因にもなります。ヒトパピローマウイルスは良くあるウイルスで、一般的には性交渉をする可能性がある方は、このウイルスに感染するリスクが常にあります。でも、感染して全員ががんになるという訳ではなく、基本的には弱いウイルスなので、感染しても免疫の力で排除されるケースが多いです。それでも一定の確率で感染し、ウイルスが残ってがんになる人がいます。逆に、このウイルス感染を防げれば、がんにならなくて済む確率が上がる訳です。なので、HPVワクチンが開発されて世の中で使われるようになりました…というお話です。このワクチンによる予防接種の普及は海外の方が進んでいます。オーストラリアが一番普及していて、8割以上の人が接種していると以前に学会で聞いたことがあります」

中野さん「オーストラリアでは、殆どの方が打っているんですね」

マスコミによるHPVワクチン大バッシングの経緯

鈴木氏「日本で現在接種可能なワクチンを接種すれば、ヒトパピローマウイルスにも種類があるのですが、相当な割合…6~7割は子宮頸がんの発症を防げるんじゃないでしょうか。海外ではさらに次世代のワクチンとして、もう少し広い割合のヒトパピローマウイルスの感染を防げるものが出ています。それが日本でも今年4月ぐらいには出るという話になっています。HPVワクチンが日本でも承認されて、みんな接種しましょう、ということになったのは…2011年ぐらいだったでしょうか。そして、みなさんがご存じなのは副反応が怖い…という話なのでは。このワクチンは、性交渉が始まる前に打つのが効果的なので、女子中学生・高校生に接種しましょうということなのですが、『ワクチン接種後にぐったりした』、『全身が痛むようになった』『学校にも行けなくなった』…というような副反応が疑われるケースが報告され、マスコミの大バッシングが起きたんですね。それで大騒ぎになり、女子中学生・高校生に無料で定期接種しますよ、という勧奨がピタッと止まり、殆どの人が打たないという状況が今まで続いています。それが日本のケースです」

中野さん「そういう経緯だったのですね…」

大騒ぎになった症状が副反応だったか否かは科学的に証明されている!

鈴木氏「その副反応の話は結局どうなっていったのかというと、これは既に決着がついています。僕のメルマガにも書いたのですが、まず、報告されていた事象が本当にワクチンによる副反応かどうかを科学的に判断する必要があります。ワクチンを打った人1万人、打たなかった人1万人を比べ、ワクチンを打った人の方が該当する症状が出た割合が明らかに高い、となればワクチンの影響だと言えるんです。『ワクチンを打ちました、こんな症状になりました』イコール『ワクチンのせいです』、とは言えないんですね。ワクチンを打たない人でも同じ症状になっている人がいるかもしれないですから。実際に、女子中学生・高校生の世代では、ワクチンを打たなくても、ぐったりしたり、全身の痛みが出たり、学校に行けなくなったりという人も多いです。そこで、検証をするためにきちんと研究が行われていて、接種した人/しない人で比較をして、差がなかった…という結果が出たのです。(通称「名古屋スタディ」)
なので、『ワクチン接種後にぐったりした』などは、ワクチンの副反応のせいとは言えませんね、ということで決着はついたのですが、マスコミは『HPVワクチンのせいだ!』となった時は大きく取り上げますが、『実はそうではなかった』というのは、ほとんどニュースにしませんから。なので、このHPVワクチンについて、接種するかどうかの判断をする女子中学生・高校生の母親たちは、『怖いですよね、あのワクチン…』という風に思っている人が殆どです」

佐塚さん「確かに、そんなイメージがありますね」

鈴木氏「日本では積極的な勧奨はピタッと止めてしまい、『勧めていないけれど、止めてはいませんよ』程度の腰の引けたスタンスになり、接種率は上がらないままここまで来てしまっています。ですが、この1~2年は『HPVワクチンを接種した方が、子宮頸がんが防げる』というエビデンスも更に積み重なってきていて、世の中の流れも変わりつつあります。これまでせいぜい2~3%の接種率だったものが10%ぐらいには上がって来るとは思いますが、海外に比べたらまだまだ低いです。とはいえ、キャッチアップの方法が全くないわけではなく、大人になってからの接種でも効果があると言われていますので、そうした面での啓発活動も必要でしょうね。また、子宮頸がんになるから女子だけHPVワクチンを接種というイメージがありますが、世界の潮流でみると男子も打つというようになってきています。男子が罹る咽頭がんなどのリスクを直接的に下げられますし、性行為での感染全体を抑えていく可能性もあるので、男女両方接種した方が良いという流れになって欲しいですね。HPVワクチンに関してはこんな感じでしょうか」

デジタルメディアは、デマではなく真実を広める支援が必要

鈴木氏「では、何か質問はありますか?」

清水さん「私はHPVワクチンを自分が打っているか、打っていないか記憶もないんですが…学校から知らせが来た時に母親に凄く反対されたというか…。でも、副反応についての実験でその辺の結果は出ているんですよね」

鈴木氏「そうそう。打っていても、打っていなくても同じ症状は出ていて、その比率は変りません」

清水さん「今はそういったデマも無くなっているとは思うのですが、当時はHPVワクチンで子どもができにくくなる…というのもありませんでしたか? だから、母に反対されたのだと思うのですが」

鈴木氏「そうですね。デマがすごかったです。ある一定数、『ワクチンが大嫌い!』という、ワクチンアレルギーの方はいらっしゃるので。ですが、当時HPVワクチン接種の勧奨を一旦止めた事に関しては正しいと思っています。ワクチンの影響かどうかが分からない段階で接種を続けるのは良くないですから。というのは、ワクチン接種は、感染を防ぐためにするものですよね。多くの人に打ってもらい、将来の感染リスクを下げるというものなのに、酷い副反応があるかもとなればワクチンを接種する意味はどうなんだろう? となるのは当然で、慎重であるべきです。ただ、当時の副反応の件については決着がついているのに、今も接種率がこんな感じであるのは残念ですし、沢山出てしまったデマの影響も大きいのだと感じます」

佐塚さん「私は、このお話でマスメディアの在り方と、我々のようなデジタルメディアが真実を伝えられるような支援が必要になるのかなと思いました。では、前半はここまでとなります。ありがとうございました」

清水さん・中野さん「ありがとうございました」

―― HPVワクチンについてのお話、興味深く知っていただけたのではないでしょうか。後編は、コロナとインフルエンザウイルスのワクチン接種についての内容となります。ぜひ、楽しみにお待ちください。