【予防医療勉強会:後編】話題の新薬や製薬会社との関係を解説!

コラム

2024.04.03

製薬会社と予防医療の関係性

みなさん、こんにちは。広報担当です。今回は、私たちの顧問であり、株式会社メディカル・インサイトの代表取締役社長を務める鈴木氏と、弊社社員による勉強会のレポートです。テーマは引き続き、「予防医療」です。後半では、最近発売された注目のダイエット効果のある新薬やアルツハイマーの予防薬のこと、そして、製薬会社と予防医療の関係性などについても解説しています。ぜひ、ご覧ください。

話題のダイエット効果がある新薬は予防医療になる?

佐塚さん「では、鈴木さん、後半もよろしくお願いします!」

全員「よろしくお願いします!」

鈴木氏「よろしくお願いします。前半ではワクチン接種の難しさについて話をしていましたが、他の方は何かありますか?」

大浜さん「コロナワクチンの接種をするとき、最初は『ファイザー×ファイザー』の組み合わせじゃないとダメとか、逆にモデルナじゃないとダメとか、モデルナの方が良いとか、色々な情報が飛び交い過ぎていたように思います。当時はどこからも正しい情報が発信されなかった気がしていて、結局、集団接種に行って打てるものを打ったんですが、何が正解だったかについては良く分からないままでした(笑)」

鈴木氏「あぁ、そうですね。ファイザーか、モデルナか、という話で言えば、どちらでも効果は同じくらいと考えられます。あと、一方で副反応についてはモデルナの方がキツく出るというのは比較的言われていましたし、治験の結果でもそういう傾向があったと思います。ただ、当時は誰もが専門家のような顔をしていたり、『すごい人から話を聞いたぞ!』なんて言いながら情報をどんどん流す(笑)。何を信じたら良いか分からなかったですよね。じゃあ、今回のテーマの最後のお話をしていきましょう。実は、このお話をしようと思うきっかけはメディカル・インサイト社の医療メルマガ『イシュラン』に書いた話にもあるのですが。みなさん、糖尿病の治療薬でダイエットができるという話は聞いたことがありますか?(画面を見ながら)うん、半分半分という感じですね」

新薬を対象者全員に処方した場合の薬剤費は15兆円!

新薬を対象者全員に処方した場合の薬剤費は15兆円!

鈴木氏「この話、世の中的にも話題になっているんですが、すでに日本でも承認はされていて、2月から発売される糖尿病の治療薬です。病名で言うと肥満症。その治療薬なので、抗肥満症治療薬、簡単に言えば“やせ薬”ですね。以前からそういう作用がある治療薬はあるんですが、副作用が強くて使い物にならなかったんです。それが、効果もしっかり出て、副作用もそれ程強くないというものができたと。昔、『薄毛とダイエットの治療薬が発明できたらノーベル賞ものだ』なんて言われてきた時代もありましたが、今はもう、それが両方できてしまったような感じですね(笑)。で、話を戻すと、この薬は糖尿病で使われていた時に副作用として体重減少というのがあったんです。副作用というのは、全部が悪いというものではなく、本来狙った効果以外の現象は副作用となります。だから、糖尿病の治療薬は血糖値を下げるというのが本来の効果なんですけど、なんと体重が減るという副作用があることがわかったんです。そこでこれは良いぞ! となって体重を下げる効果を目的にした治療薬になって出てきたと。他にも同じようなタイプの糖尿病の治療薬があって、次々に承認されていくことが想定されます。で、これって予防医療と言えると思いますか? マルダンさん、どうですか?」

マルダンさん「もちろん予防になると思いますよ!」

鈴木氏「ですよねぇ(笑)。適正な体重管理ですから、予防に繋がりますよね。だから、典型的な予防医療という見方もできる。そういう意味では面白いケースなんですけど、だからって、じゃんじゃん処方していきましょうという話にはならないです。厳格にこれくらいの肥満度だとか、高血圧や高脂血症があるとか、でないと保険が適用されないという話になっています。ですが、保険適用を厳格に限定すべきかと言うと、そこはもう少し考えなければならない話かなと。最近出したメルマガ(イシュラン)にも書きましたので、興味のある方はそちらを見てください。で、もう一つの話を。みなさん、認知症の予防薬が出るという話を知っていますか?(画面を見ながら)殆どの方が知っているようですね。これは去年の年末ぐらいに話題になっていたものですね。みなさんは、認知症の患者さんが日本にどれくらいいらっしゃると思いますか? 佐塚さんが“分からないポーズ”をしていますが(笑)」

佐塚さん「とはいえ、結構いらっしゃるんじゃないかとは思っていますけどね(笑)」

鈴木氏「そうですよね。相馬さん、何人くらいいらっしゃると思います?」

相馬さん「結構多いと思うので、1,000万人ぐらいは……」

鈴木氏「イイ線行っていますね! そうそう、500万人~1,000万人はいるといわれていますね。潜在的な患者さんも含めて500~600万人と言われているので、1,000万人は悪い数字じゃないと思います。ある意味、この高齢化社会では国民病でもありますよね。なので、アルツハイマー型認知症を予防、または進行を遅らせる効果がある薬は、非常に重要であるというのは間違いないことなんです。ただ、アルツハイマーの薬は開発するのがとても難しくて、色々な製薬会社が失敗してきています。効果を証明できる薬というのがなかなか開発されず、この領域の新薬としては10数年ぶりにできたんですね。で、どういう効能なのかというと、脳の中に原因物質とされるたんぱく質“アミロイドベータ”が溜まってしまって、それが悪さをしているんじゃないかという仮説があって。それを除去する作用がある薬なんです。じゃあ、どれくらいの効果があるのかというと、アルツハイマーの症状を27%ぐらい遅らせることができるというデータが出ていて、早期の患者さんの進行を遅らせる期間は7カ月半くらいという推計が出ています。ちなみに、これをお薬として処方して、1年間投与すると薬剤費はいくらぐらい掛ると思いますか?」

清水さん「1年間投与すると……??」

鈴木氏「佐塚さんがハンドサインを送っていますね……(笑)」

清水さん「あっ(笑)……じゃあ、300万円ぐらいですかねぇ……?」

鈴木氏「その通り(笑)。年間300万円ぐらいです。先ほど、相馬さんから患者さんの数が500~1,000万人ぐらいというお話が出ましたけど、もし、500万人にお薬を投与したら、どれくらいの金額が掛かるでしょう? ……すぐに暗算するのは難しいですよね(笑)。なんと、これで15兆円かかっちゃうんです。15兆円ですよ? これがどれだけすごい数字かというと、日本の年間の薬剤費は11兆円ぐらい。それを越える数字です(笑)。なので、500万人全員に投与するべきかと言うと『?』となりませんか? ちなみに、開発したメーカーはこのお薬の薬価について国と時間をかけて交渉していて、その中で争点となっていたのは、この薬で病気の進行を遅らせることができたら、国としても介護費用を減らすことができるでしょう、と。その分のプレミアムを付けてくださいというのが、メーカーが主張していたこと。でも、結論としてはそのプレミアムは付かなかった。それを考えてみると、先ほどの子宮頸がんワクチンの話じゃないですけれど、介護にかかる費用を減らせるかどうかは、子宮頸がんよりもっと分からないですよね。例えば、発症を7カ月半遅らせても、介護にかかる期間は同じかもしれない……となると判断が難しくなりますよね。とはいえ、今日のテーマとして捉えると、これも予防医療の1つです。発症を止められなくても、遅らせることはできるので。なので、予防医療っぽいお薬として分野は違うけれど、ダイエットの抗肥満症治療薬とアルツハイマー病の治療薬がある、と。ちょうど新しいお薬が出たので、こういう話をしました。僕の方からは以上になりますが、質問があればどうぞ」

製薬会社と予防医療は対立する関係なのか?

佐塚さん「2つ気になることがあるのですが。1つは、さっきワクチンの予防効果の話で『分からない』と答えたのですが、私もそっち寄りなんです。理由は、コロナワクチンの場合、効果として病気にならないという観点と、罹った時に症状を軽減するというものがあると思うんですが、効果の面では病気にならないという方を推していますよね。自分の友達のケースなんですが、コロナに罹患するよりも、副反応の方がはるかに辛かったということを言っていて。こういう面があるからこそ、予防の効果や質という面ではどうなんだろう、と。この辺りの見解をお聞きしたいなと。あと2つ目は、このように病気にならないようにしようという予防医療の世の中で、製薬会社は薬を売ってなんぼの世界なので取り組みにくいとは思うのですが、治療と継続受診の先に予防医療があるのであれば、製薬企業にも打ち手はあるのかなと。でも、製薬企業の方とも話をすることがあるのですが、社会課題として予防医療があるので、薬をガンガン売るわけにもいかなくなってきたわけですよね。そこで、鈴木さんとしては、予防医療と製薬企業の相関性をどう考えているのかなと」

鈴木氏「まず、1つ目のワクチンの分かりにくさですが。ワクチンを接種すればコロナに罹らない、というのを推しているのは、症状を軽減すると伝えるよりも分かりやすいからというのがありますよね。あの頃はメディアもそういう言い方をしていたと思います。もう1つ挙げるとすれば、治験のエンドポイントとしても罹らないというのを基準にすると思うので、症状の軽減よりそちらが推されてしまうというのも背景にあったと思います。でも、症状を軽減するという所にもう少しフォーカスを当てても良いと思いますけどね。コロナワクチンも、インフルエンザワクチンも」

佐塚さん「分かりました。ありがとうございます」

鈴木氏「あとは2つ目の製薬会社の予防医療との関わりについて。確かに、製薬企業が予防医療を手掛けるとすると、コンフリクト(対立)がありそうだよね、と。そこは“ある部分”と“ない部分”があると思っていて。コンフリクトがない部分は、さっき僕がお話をした高血圧とか糖尿病とかの治療薬。そういうものが治療的な介入をする三次予防として予防医療になっていますから、製薬会社としても自分たちの利益と一致していて素直に推していける所になります。一方で、全く病気にならないようにしてしまうというのは、製薬会社の利益にならないということもあるわけですが……。これに関して興味深い事例が、10数年前にポンポン出てきた肝炎ウイルスの治療薬。これがとても劇的に効果が改善された薬で。これらのお薬ができる前まで、C型肝炎は治らない病気だったんです。インターフェロンを使うキツイ治療をして、それでちょっと治るかな……という位で完治はしない。で、肝炎が進むとどうなるかというと、肝硬変になって最後は肝臓がんになってしまうんです。それが、この薬の登場によって99%治る病気になった。肝炎の治療がどんどんされて、完治するようになりました。ある意味、究極の予防医療みたいな話で、肝臓がんの治療薬を持つメーカーには超マイナスな話です。でも、予防医療の薬やワクチンを作るメーカーにはビジネスチャンスになりますし、患者さんが利益を得るのは間違いないので、それはそれで良しとされていると思います」

デジタルマーケティング企業だからこそできる支援を考えていきましょう!

製薬企業と予防医療との関わりについてデジタルマーケティングができること

佐塚さん「ありがとうございます。今日、参加しているメンバーは製薬企業さんと一緒に仕事をしているので、トレンドでもある予防医療についてはしっかり押さえておきましょう。また、こういう部分は、製薬企業だけじゃなく、患者さん側にも啓発していかなければならない所なんですよね。普通に考えたら、一般の方々は『とにかく病気にならないようにしてほしい!』と思うわけですから。こういった部分については、我々がデジタルで何かできないか考えても良いんじゃないかなって」

鈴木氏「そうそう。病気をひどくしない、という観点はまだまだ使える余地があると思っていて。ちなみに、乳がんには運動が良いっていう話があるんですよ。エクササイズ習慣があると再発予防に繋がるという話があって。だから、今『運動腫瘍学』という分野が立ち上がりつつあります。これは運動ですから、製薬会社は殆ど関わりのない話になってしまうので、逆にメンバーズのような会社がどう支援をするかというのもあると思います。あとは、再発予防に一次的に使う薬にとっても、一緒にエクササイズを合わせると治療の成績が良くなると考えると、製薬会社にとっても取り組むべき課題になり得ますよね」

佐塚さん「そうですね。私はスポーツ大好き人間で、谷さん(カンパニー社長)と話をしていたりもするのですが、スポーツ医学などに関われたら公私ともに充実するよなぁと。そんな事を考えたりしますね(笑)。それではそろそろ時間なので……鈴木さん、今回も大変勉強になりました! 引き続きよろしくお願いします。ありがとうございました」

全員「ありがとうございました!」

―― 話題の新薬の話やワクチン接種の効果についての考え方など、多くの方が興味を持っている内容について深く知ることができたのではないでしょうか。また、予防医療という領域で私たちのようなデジタルマーケティング企業だからこそできることにもチャレンジしていきたいと感じました。今後も勉強会レポートを通じて、医療・製薬業界のトレンドや専門的な知識をお伝えしていきます。