2021年12月〜2022年1月の製薬会社の動きをまとめていますが、年末~年始のタイミングのため、大きな動きをしている企業は少ないようでした。しかしながら、コロナ禍以降のデジタル化は着実に進んでおり、各製薬会社にて注力する領域を見定めてデジタル化へと踏み切っているようです。MRのオンライン面談以外にも、新しい動きを見せていますので、ぜひチェックしてみてください。
情報提供の形はより一層デジタル化へ! 話題のメタバース活用に進出する企業も
今回は、医療や製薬業界の中でもデジタルの存在がスタンダードなものになりつつあることを実感するような事例が見受けられました。
製薬業界は数年前からMRの減少が問題となっていたこともあり、DX推進で着実にその課題を解決に向かわせている様子がうかがえます。国内営業所の廃止やオウンドメディア活用、メタバースを使用した情報提供への取り組みなど、これまでのリアルマーケティングによるMRの営業スタイルは本格的に縮小され、今後はスピード感を持ってデジタル活用をしていく形へと変化していくかもしれません。
◆業界の動向◆
インターネット上の仮想空間にて、自分のアバターを作成して行動できる仕組みの「メタバース」が注目される中、製薬業界にも早々に活用しようと取り組む企業も出てきていました。デジタル化の効果を感じられる企業にとっては、これらを活用することが次のデジタル化の目標になるのかもしれません。事例を創出することによって業界のマーケティングやMRの働き方、医療従事者とのやり取りなどにも大きな変革がもたらされることが期待されます。
また、その一方でDX推進にMRが対応しきれていないという問題も。元々、リアルマーケティングに慣れているMRにとっては、デジタル対応をすることが+αの負担となっているようです。
アステラス製薬株式会社:2022年1月21日 メディア説明会 メタバースを活用した先進的な情報提供手法の構築へ(PDF)
アステラス製薬株式会社は、2022年1月21日のメディア説明会を実施。DXに取り組む理由等について発言した。マーケティングの領域については、医療用医薬品が貢献する対象は患者ではあるが、直接のマーケティングの対象は医療関係者のため、医療関係者が安心をし、自信を持って処方できるよう、医薬品に関する適切な情報提供を行うことがコミュニケーションにおいて非常に大切であるとした。また、デジタルチャネルも活用し、複数のチャネルを有機的に組み合わせ、オムニチャネルとしてコミュニケーションを行うことに取り組む。WEBサイトは昨年4月にリニューアルし、今までのような「製薬会社側から医師に伝えたい情報」ではなく「医師が求める情報を届ける」よう取り組んだ結果、訪問者数は 31%増加、WEBシンポジウムページの閲覧数は117%の増加などの効果が得られた。さらに、メタバースを活用した先進的な情報提供手法の構築にも取り組むとして、仮想空間上での研究会・講演会を2022年1月より Phase1としてパイロットを開始する。Phase2はバーチャルとリアルの融合として、会場参加者とオンライン参加者の自由なコミュニケーションの実現を構想している。
ミクスOnline:一橋大・神岡教授 製薬各社のDX「企業の差が開き始めている」 ”非製薬“DX参入は他産業とコラボも
12月6日に開催されたIQVIA主催のメディアセミナーにて、一橋大学経営管理研究科の神岡太郎教授は、製薬各社のセールス&マーケティング部門におけるDXの取り組みを「先行企業とそうでない企業の差が開き始めている」と強調。また、研究開発分野で適応が進む一方でMRが中心となるセールス・マーケティングでの浸透が遅れていると指摘した。新型コロナウイルスの影響でデジタル化は進み、ビジネス環境も変化したが、MRがそれに対応し切れていないという。しかし、医師とのリアル面談が制限されている状況でも、WEB、メール、リアルなどを組み合わせ、使い分けて医師の嗜好にあった形でコミュニケーションしていく必要があり、MRがデジタルやチャネルを上手に使いこなすスキルの習得は、もはや「共通問題だ」としている。
◆MR・MS活動◆
DXを推進するため、これまでと大きく異なるコミュニケーションスタイルに踏み切った製薬企業もありました。MRの拠点となっていた営業所を廃止し、コミュニケーションオフィスを設置することでMRにとってフレキシブルな労働環境も実現できます。さらに、デジタルコミュニケーション部の新設と併せてオウンドメディアなどのデジタルを駆使した情報提供が強化されることによって、MR 一人ひとりの生産性の向上も見込めるのではないでしょうか。
アステラス製薬株式会社:日本の営業組織の変更について(PDF)
アステラス製薬株式会社は、2022年4月1日付で日本の営業組織を変更することを発表。医療関係者の情報収集のあり方の変化に合わせ、疾患領域毎の組織を新設し、専門性の高い情報提供・収集活動を実施していく。これによってMR の販促体制をエリア担当制から製品担当制へ変更。MR の担当領域は固形がん領域、血液がん領域、関節リウマチ領域、スペシャリティケア領域(整形/腎/泌尿器/糖尿病/循環器/消化器等)、計4 つの疾患領域を設置する。さらに、営業組織の本社機能を全て見直し、専門性の高い情報提供・収集活動を支えるための組織ケイパビリティを構築、コマーシャルエクセレンス部とデジタルコミュニケーション部の新設をし、デジタルツールを活用した適時的確な情報提供体制を構築・運用する。また、新たな働き方を推進するためにコミュニケーションオフィスを設置。全国にある 119 の営業所を廃止し、各都道府県に1カ所を基本として社員同士が所属組織に捕らわれずに自由に利用できるよう変更される。
◆治療用アプリ◆
対応する疾患の幅を広げ、新たな治療用アプリの開発が始まっています。以前、ニコチン依存症治療用アプリが保険適用されるなどで話題にもなっていましたが、即時に治療が必要な症状などがなければ、リハビリテーション段階の患者さんに役立つツールとなっていくのではないでしょうか。もちろん、通院しない事によるデメリットも考えなくてはなりません。患者さんの管理やアプリの適切な使い方をどうするか、という課題はあるかと思いますが、今後も適応できる疾病が増え、患者さん・医療従事者、双方にメリットのあるツールになっていくことが願われます。
株式会社CureApp:心不全在宅診療を推進するゆみのハートクリニックをパートナーにCureAppが慢性心不全治療アプリを開発開始
株式会社CureAppは、心不全の在宅診療を幅広く展開するゆみのハートクリニックなどを運営する医療法人社団「ゆみの」をパートナーに、慢性心不全治療アプリの開発を開始したことを発表。このアプリはスマートフォンアプリなどを通し、患者へ運動療法や服薬管理、疾患教育などの包括的心臓リハビリテーションをオンラインで提供し、再入院予防、QOL向上、全死亡率の減少など慢性心不全患者さんの予後改善を目指するもの。アプリ開発の背景には、心疾患はがん(悪性新生物)に続く日本人の死因の第2位であることや、重症化した心不全の生存率は全がんの生存率より低く、予後の悪い病態と言えること、さらに、今後医療機関での病床不足や医療費が増大することで「心不全パンデミック」状態となることなどへの懸念がある。これらの課題に対し、自宅にいながら適切な治療介入を受けられる「治療アプリ®︎」というデジタル療法を用いることで、充分な心臓リハビリテーションを受けることが難しかった慢性心不全患者にも心臓リハビリテーションを受けられる可能性が広がる。
最新テクノロジーが医療の常識を変革! 医療従事者と患者、双方に優しい未来を目指す
新しいテクノロジーが医療現場や製薬業界にも続々と取り入れられ、活用され始める未来が感じられたのではないでしょうか。今後は患者さんの治療の選択肢にアプリが取り入れられ、MRや医師が仮想空間上で研究会・講演会に参加していることが当たり前になる日もそう遠くないのかもしれません。地域医療の問題を解消し、医療従事者や製薬企業の社員が働く環境を改善するためのDXがさらに広まるよう、私たちも医療・製薬業界が直面するマーケティング課題にデジタルの力で応えていきます。 今後も当ブログにて各社のDXの最新事例をお伝えしていきます。