【プロデューサーインタビュー:現場理解編】医療のデジタル過渡期に求められるサービスサポートとは

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公開日:2024.06.18
更新日:2024.07.25

医療・介護従事者や患者さんをデジタルで繋ぐSNSサービスに関わることで体験した医療現場のITリテラシー

プロデューサー内海篤人(ウチウミ アツト)さんのインタビュー第2回目として「現場理解編」をお届けします。これまでの医療に関するお仕事を通じて現場の課題を解決するためにやってきたことや、さまざまな経験について当時を振り返りつつ語ってもらいました。ぜひご覧ください。

現場のITリテラシーに徹底して寄り添ったサービス説明会

―― 今回も内海さんのこれまでのお仕事の経験についてインタビューをしていきます。引き続きよろしくお願いします! 以前のインタビューの自己紹介顧客理解シリーズの前編後編でもさまざまなお話をお聞きしましたが、今回は少し内容を深堀りしてお仕事の現場で起きたことや発見したことについてお話していただけますか?

内海さん「分かりました。多少、被る所もあるかと思いますがよろしくお願いします。僕もこの業界で働くまでは、関わっていた医療従事者の方と言えば、お医者さん、看護師さん、薬局の薬剤師さん……ぐらいの粒度でした。なので、一般の方と全く同じですよね。

そんな僕が最初の“現場”を体験した会社では、医療従事者・介護従事者・患者さんを地域連携で繋ぐSNSサービスを作っていました。こちらの会社にカスタマーサクセスのディレクターとして入社したわけですが、まずは副社長が実施しているサービス説明会に同席しながら色々勉強していましたね。

他には、自社のサービスの使い方などを説明する講師としてデビューする1カ月ぐらいの間にロールプレイをしたり、台本原稿の作成もしながら準備をしていましたね。

で、それから地域の施設か何かの体育館のような場所でデビューするわけですが、なんと100名ぐらいの規模で。副社長と同席していた時はそこまで大きな会場ではなかったので少々驚いたというか、緊張しながらやった記憶がありますね……(笑)」

―― 初回がその規模だとちょっとプレッシャーですよね……!

内海さん「その時は2時間ぐらい話したと思います。1時間はサービス説明、残りで操作説明、質疑応答……そんな感じだったと思いますが、当時は2018年で、今よりもっとデジタルツールが浸透していない時代でした。ようやく医療従事者の方にもLINEが広まってきたぐらいで。

とはいえ、『個人情報を入力するから使いたくないよね』という方も一定数はいらっしゃる感じでしたが……。でも、副社長が中心でサービス説明をし始めた頃の医療業界は、もっとITリテラシーが低い時代でしたから。

また、このSNSにはチャット機能があるんですが、『チャットとは何か?』という所から説明をしていくような感じでさらに大変だったようです」

―― 若い方にはチャットも当たり前のツールかもしれませんが、それも普段から使っていなければそうなってしまいますよね。

内海さん「もちろん、若い方はある程度は慣れていらっしゃるのですけどね。比較的年齢層が高めの方が多かったので、連絡手段の基本は電話、そうじゃなければメール、業務によってはFAXという方が中心でした。

そういった意味では、LINEが一般的な連絡ツールとして浸透してからは『LINEのように使えますよ』と言えば多くの方が理解できるようになったので、それはすごく助かりましたね。

例えば、『これが“イイね”ボタンです』という説明をイチからするとなると、僕だとしても多分ちゃんと説明できないのではないかと思います(笑)。『コレはこういう機能です』というのは説明できますが、今はツールに慣れ過ぎて、ゼロから説明するとなると結構大変かもしれないと気が付きました。

なので、似たような機能や、搭載している機能をイメージできるツールがあったのは良かったです」

―― LINEがツールの説明の役に立ったわけですね。

内海さん「そうですね。とは言え、チャット機能が全てではないので、このサービスがどんなものかというのを説明会では1つひとつお話しなければなりません。その際に沢山の方に向かって話させていただくのですが、出席者の方に同じように理解してもらえるかと言えばそうでもなく……。

まずは分かりやすい例として、掲示板のようにスレッドを立てることや、スレッドのタイトルのルールとか、誰と誰をメンバーとして招待しましょうとか、メンバーが変更になったらどうするかとかetc……。

ツールを使ってもらうために1つひとつの機能について理解してもらう時間が必要なんです。でも、1:N(複数)で話をしていると、こういった部分でどうしても理解のレベルにバラつきが出てしまいますね」

―― 説明会にいらした方全員のITリテラシーが高いわけではないですから、難しいですね。

内海さん「なので、『テキストを投稿してみましょう』、『画像を投稿する時はこうです』とか『これがリアクションボタンです』と説明するだけで30分は掛かってしまう。その頃はツールもまだアプリケーション化されていなかったので『ブラウザにアクセスしてみましょう!』から始めました。

かと言って、これは良い・悪い、という事ではなく、普段の業務で使うものではないので仕方がなくて。なので、比較的高齢のドクターやベテラン看護師の方からの質問が結構多かった記憶があります」

―― その当時はデジタルツールに触れることが少なかったかもしれませんが、コロナ禍も経験した現在では変っているかもしれませんね。

内海さん「そう思います。今はもう少し説明しやすくなっているかもしれません」

―― 内海さんは全国各地で説明会をされていたとのことですが、こういうエピソードも自分たちの足でサービスを広げている様子が感じ取れます。

内海さん「そうですね。東京・名古屋・関西・九州……。この辺りは色々行きました。以前にも少しお話したかと思いますが、このようなサービスは、どこかの医療機関に入れたからと言ってそこから広まるものではないんです。医療機関自体がクローズな環境ですしね。

これは僕の主観なのですが、このような地域連携ツールというものには医療機関の規模は関係ないのかなと思っていて。というのは、医療機関同士のやり取りでは、主に患者さんとなる方を診ているのは診療所(もしくはクリニック)の先生ですから」

システム環境によって異なるトラブル内容にも対応!

システム環境によって異なるトラブル内容にも対応!

内海さん「……と、こんな感じで各地を回って医師や看護師の方なども含め、色々な方と対話をする中で医療現場の事を知っていきました。

とはいえ、在宅で介護ができる方というのは、ある程度病状が安定している方なので、このサービスに携わっていた当時は医療現場の解像度はそこまでではなかったというか。地域連携の仕組みなどは理解できましたけどね。

なので、希少疾患などについては、製薬メーカーさんとお仕事でお付き合いをし始めてから知識を付けました。で、次に働いたWeb問診のサービスの会社では以前に話したように、開業医の方と話をすることが多かったです。

あとは、運用する看護師さん、事務の方にも機能の説明や運用について話をしながらご提案をさせていただきました。こちらはWebサービスなので、使う方にもある程度のITリテラシーは求められました」

―― このサービスはどのように広めていかれたのでしょう?

内海さん「Web問診のサービスの説明に入る前に前提となる情報を少しお話すると、現在の医療機関の電子カルテのクラウドサービス型の利用率について、正確なところは不明ですが、体感では3割ぐらいなのかなと思います。

ということは、医療施設内でデータやソフトウェアを管理するオンプレミス型(※)の医療機関もまだ多い状態なんです。当時は、このWeb問診サービスでオンプレミス型の電子カルテを使っている医療機関にレクチャーをする時が大変でした。

クラウド型であればインターネット経由でアクセスできるのでそれ程難しいことはなかったのですが、オンプレミス型はセキュリティ上の設定もあるので、データの内容をどう送るのか……というところから考えることになります。データの内容をプリントアウトして手入力で……なんて非効率な事も出来ませんから」

※オンプレミス型:自社内に設置するサーバーでシステムを運用する方式。これは、データやソフトウェアを自社の施設内にあるコンピュータに保存して管理する方法で、クラウド型(インターネット経由で外部のサーバーにデータを保存する方法)とは異なる。

―― 流石にそれでは「効率化とは何ぞや?」になってしまいますよね。

内海さん「そして次はデータ送信までの操作をイチから説明します。そこで実際にオンプレミス型の電子カルテシステムへデータ送信をするわけですが、これがまた大変で……。

OSのバージョンによって見た目や挙動が異なることがあったり、セキュリティが高い環境のパソコンで作業をすると、外部のUSBデバイスを受け付けない設定になっていたりもしますね。そういう事が積み重なって上手く行かないトラブルもありました」

―― 新システムの導入の何が大変かと言えば、こういう点ですよね。

内海さん「僕もITリテラシーがメチャクチャ高い訳でもないと思うんですけれど、サービスを使っていただくためのフォローアップは必須ですからね。当時はサポートに回れる人数が少なかったので、直接訪問が難しい場合は電話サポートを中心にしつつ、時々Web面談で対応していました」

トラブル解決だけでなく、現場で使う方に理解をしてもらうことが大切

真摯なコミュニケーションで対等な関係を築くことを意識

―― 少人数の中でサポート対応をするのは非常にキツそうです……。電話で的確にフォローしていくなら、頭の中にトラブル解決のパターンを叩きこんでおかないと難しいのでは?

内海さん「そうです。どんな質問が来ても対応できるように頭の中に色んなパターンを想定していました(笑)。それを想像しながら『この画面はどうなっていますか?』とか質問しながら対応していきましたね。

当時、どうしても人手が足りなくて僕1人が電話で対応しなければならない時があって。実家に帰る途中、熱海でサポート対応の電話を受けたことや病院へ父親を見舞いに行っている時に電話で対応したこともありました」

―― 休日に対応するしかなかったということは……。相当忙しかったのですね。

内海さん「説明書などをお渡ししていても、使ってみて分からない部分はどうしても出て来ますからね。あとは、医療を扱うシステムだからこそハードルが高くなる部分は、〈リアルタイム性を求められる〉という点です。

というのは、システムによっては、問い合わせを送ってもらったら後日対応で良いものもありますよね。でも、Web問診のシステムは、患者さんがすぐに医療機関に行きたいから問診票を記入しているわけですから」

―― 確かに、問診票は今使いたいから使っているものですよね。……となると、問題解決力が高くないとサポート対応には厳しいですね!

内海さん「そうですね。電話の向こうの相手が求めていることを察して回答する、みたいな感じでした。時間は正確には計っていなかったですけど、1~2分で解決することはまずないので、大体15分ぐらい。長かったら30分はかかっていたのかなと。

でも、お客さんにどうしても現地に来て欲しいと依頼された時があって、実際に対応したら1~2分で解決してしまったこともあります。電話だとどうしても画面が見えないので、説明するだけでも時間が掛かるんでしょうね。ちなみに、この頃は1日に20件以上問い合わせがあると結構多いな……という感じでした」

―― 単なる取り次ぎだけでも1日に20件あったら多いと思います。それが問い合わせだったら、それだけで1日終わってしまうのでは……。

内海さん「ゲーム業界にいた時には1日50件位は問い合わせがあったので、僕は20件でも大丈夫でした(笑)。それに、ある程度は想定していた内容の質問も来ますからね。

あとは質問に対する回答について、問い合わせをいただいた方に説明をして“なぜそうなったのか”をきちんと理解していただくという事を大切にしていました。

この問い合わせのタイミングで開業医や看護師さんや事務長と話すことが多かったのですが、そこで現場の方が何を考えているかというのを理解することができましたね」

―― まさにこの数年は医療とITやデジタルが繋がっていくタイミングで、内海さんのように医療従事者の方にレクチャーをしていく仕事も求められていますよね。ツールの提供者側とユーザーとのギャップも色々感じたことが伝わってきましたが、現場の方とコミュニケーションを取る中で何を大事にされてきましたか?

内海さん「コミュニケーションに関して特殊な技術などは必要ではなく、真摯に対応すること、わからないことはわからないと話すこと、そしてあくまで対等の関係であることを意識していました」

――ありがとうございました! ツール等を導入する際に気を付けなければならない点や、どういった配慮が必要なのかについて非常に参考になるお話でした。

今後も内海プロデューサーのインタビューを通してこれまでの業務経験からどんな課題を感じ取ったか、またどのような視点を持つことが大事なのかなどについての記事を掲載していく予定です。ぜひ楽しみにお待ちください。

この記事の担当者

プロデューサー 内海 篤人

内海 篤人/Uchiumi Atsuto
職種:プロデューサー
入社年:2023年
経歴:Web業界(企画・ディレクター)→ゲーム業界(プランナー・カスタマサポート)→ヘルステック企業(カスタマーサクセス・事業責任者)に従事


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