【勉強会:前編】臨床試験の結果をわかりやすく伝える「プレーン・ランゲージ・サマリー(PLS)」とは?

製薬

公開日:2025.04.09
更新日:2025.04.14

高額療養費制度とプレーン・ランゲージ・サマリー

私たちの顧問であり、株式会社メディカル・インサイトの代表取締役社長を務める鈴木英介氏と弊社の社員による勉強会のレポートです。テーマは、まだ新しい単語「プレーン・ランゲージ・サマリー(PLS)」について解説します。前半では、話題の高額療養費制度の話を絡めつつ、テーマに触れていきます。ぜひ、ご覧ください。


勉強会の参加者

2018年中途入社
営業
佐塚さん

2023年中途入社
プロデューサー
内海さん


白熱し続ける「高額療養費制度」引き上げの議論!

それでは鈴木さん、よろしくお願いします。出席者は僕と内海さんです

よろしくお願いします

今回のテーマは『PLS(プレーン・ランゲージ・サマリー)』ですが、昨今、ペイシェント・セントリシティということも叫ばれていましたが、こちらは患者を中心に考える……ということですよね。

製薬企業の方もこれまではドクターを中心に目を向けて来たと思いますが、これからは患者を中心に、ペイシェント・セントリシティを意識していきましょうという風になって来ているのかなと。なので、今日の PLS についてのお話は、ペイシェント・セントリシティにも関わる部分もありますし、僕らのようにマーケティングに携わる人も理解を深めたいテーマなんじゃないかなと思います

はい。では今日は PLS の話をしていきますが、まずはその前に、ペイシェント・セントリシティにも関わってくるので、最近ニュースでも話題に上がっている高額療養費制度のお話に触れていきたいと思います。
お2人はこの話題、どのように目や耳にされていますか?

そうですね。やっぱり患者の声というか患者会からだとか、あとは最近話題になったのが、血液がんの医大生の方の話だとかが目についたかなと。大体その辺りの話から医療費の負担割合の話を見聞きしています

僕も同じ感じですね。医療費の話の辺りです

そうですね。まずは念のためファクトを確認したいと思いますが、ちょっと画面共有させてもらいますね(厚労省の資料を画面共有)。
まず、この話がどこで起きたかっていうと、社会保障審議会っていうのが厚労省の中であって。この医療保険部会で去年の12月10日に決まったんですけど、この時まであまりニュースにはなってはいませんでした。去年のこの時点では、割としれっと議論が進んでいたので、まだそこまで大きな騒ぎになってなかったんですけど、実はここで決まっていました。

ちなみに、この話を審議しているメンバーをちょっと共有します(委員名簿を画面で表示)。何でこんなに問題になっているのかっていうことを考える上で、審議メンバーをずっと眺めていただくと……どうでしょう?

審議は当事者抜きで行われていた?!

高額療養費制度の改定で大きい影響を受けそうな立場の人達は入ってない!?

まんべんなく、色んな業界の方が入っているようですが……

健保、医師会、病院会、経済、政治とか色々入っていますが、ざっくり言うと保険側と医療の提供側と学者は入っています、と。じゃあ患者側は?っていう時に、今回のこの高額療養費制度の改定で大きい影響を受けそうな立場の人達は入ってないんですよね。この『NPO法人高齢社会をよくする女性の会理事』とか『全国老人クラブ連合会理事』とか、こういう人たちが入っているので、患者も入っているっていう話に多分なっていると思うんです。
というわけで、これが『当事者抜きで全部決めちゃってるじゃないですか!』っていう、大きい批判が起きている理由の一つになります。特に高額療養費制度であれば、がんや難病の患者さん辺りが一般的には制度を利用する可能性が高いわけなんですけど、その人たちの声が全然届いてないよねっていう話ですからね。

もう一つ言うならば、お医者さんの声はどうなのって考えた時に、医師会は入っていますが、医師会ってはっきり言って開業医の業界団体なんですよね。
後は「病院会」っていう立場で入ってはいるけど、多分、病院経営者みたいな立場として入られているので、実際にがんとか難病患者を見ているような臨床の先生たちの声っていうのは、ここには全く反映されない形になっていると。そういう意味で、現場の人たちの声が全く聞かれない形で全部決められちゃっていますよねっていうのが、今回大きな問題となった理由の一つです。そう言えば、お2人は、津川友介先生っていう方、聞いたことありますか?(津川祐介氏のnote『私が「高額療養費制度の自己負担額の上限の引き上げ」が失政であると考える3つの理由』の記事にある自己負担額の表を表示)

あー、はい。僕もこのnoteちらっと見ました

はい。この記事はかなり拡散されたと思います。津川先生が一番しっかりまとめてくださっていますね。

実は、僕も自分が万が一の時に月にいくら払うんだっけ?っていうのを、これをまじまじと見て再認識した感じです(笑)。例えばお2人だったら、今どれぐらい自己負担で払わなきゃいけないのかなっていうのが、左の縦の金額欄に出ていますよね。これに対して今回の改訂というか改悪案では、今年8月の段階では、全体としてちょっと上に持ち上がりますよって話なんですね。
ところが、2027年8月からは年収の幅をやたらに細分化して、人によっては結構ドカッと上がりうるような設計になっているんです。なので、例えば年収が今750万とか、700万の方は月額の負担上限が80,100円なんですね。これが2025年8月の引き上げは8,100円上がるだけですが、2027年8月からが最終的な段階なんです。そうなると、138,600円に引き上がります。あと、これは大幅な上げ幅であることももちろんですが、これって前年度の年収に対して割り当てられるんですけど、普通に考えたら高額療養費を使わなきゃいけないような健康状態になったら、特に個人事業主の人であればダイレクトに働けませんという話も当然出てくる。

そうすると収入がガクッと減る中、高額療養費で負担が増えてしまうという話になるので、やっていけない、本当に詰んじゃいます。そうした切実な声が多くの患者さんから上がってきていることもあって、今回の議論に火がつきました。で、さっき部会の議論で決まりましたっていう話をしましたけど、この金額の幅をどうするかみたいな話って、本来は別に国会審議が必要じゃないらしいんです。
基本的には厚労省の部会で決められてしまうらしいんです。法的なその手続き論で行くと。なので、これを止めるのはかなり……相当大変な感じになるんですね。一生懸命、患者団体とかが陳情している中で、野党が結構動いてはいるんですけど、昨日、維新が自公と予算で手を打ったっていう話が出てきちゃったんで、高額療養費制度に関してはゼロ回答ですし、ちょっと厳しそうだなあっていうのが今日時点での感じですね(※この勉強会は2/27に実施。3月には引き上げを見送る方針に)。
これが決まってしまうと、やっぱりギリギリで生活されている患者さんって結構いらっしゃるので、大変なことになります。お2人もイメージが湧くと思いますけど、それなりの所得があっても子育て中とかだったら、当然それだけお金が掛かるわけで。そんな余裕があるわけじゃない中で7~8万の追加の出費って言ったら相当ですよね

う~ん。確かにそうです

あともう一つ。これは僕も自分のメルマガにも書きましたし、色んな方も書いているんですけど、そもそもこの話が出てきたのって、医療費がすごく増えてきている中で、高額療養費も増加スピードが速いからなんとかしなきゃね。というところで出てきているんですけど、『他にまだまだやれることあるじゃない!』っていう話があって。これは保険の大原則だと思うんですけど、保険って万が一のリスクに備えるみたいな話じゃないですか。万が一、何かあった時に大きな損失を被る人が出てくる。その人を多数の人でちょっとずつ支えていきましょうっていうのが、保険の原点である相互扶助の考え方だと思います。

あと、みなさんもよく聞くことがあると思いますが、高齢者の方が病院で湿布をもらってきたり、風邪薬でも薬局で買えるような成分のものをもらってきたりとかっていうのは結構あるんです。津川さんは、これを試算すると5~6,000億円あるって書いていましたけど、僕の試算では3,000億ぐらい。まあでも3,000億あるんだったら、それで今回、高額療費を上げて得られる効果分くらいは全然ある。だから手を入れるのはそっちからでしょ……っていうのをすっ飛ばしてこの議論をしているので(笑)。
それでみなさん『そうじゃないよね!』と怒っているわけです。ここまでで、お2人から何かありますか?

「高額療養費制度」の裏にある不都合な真実とは?

高額療養費引き上げの件ですよね。そうですね、難しいなあと。僕個人としては……言葉を色々選ばなければいけない部分もあると思うんですけども……。まあそもそも、この高額療養費うんぬんの展開の仕方というところですよね。ニュースなどを見ていると、これ以上、上限が上がってしまうのであれば、私なら治療をストップしちゃいますみたいなコメントを見たりするので……。医療費の使い方だったりっていうのは、やっぱり結構な問題なんじゃないかなって思います。
まあ今の日本の法律上、延命治療とか、そういったところに対してメスがなかなか入れにくいので、致し方ないのかなと思いつつ……

うん、そうですね。結局、この議論には不都合な真実があって。つまり、社会保障にお金が掛り過ぎちゃって……っていうところで、でもそこをなんとかしなきゃいけないよっていう話で、どこかは削らなきゃいけない。
ただ、その優先順位をここからやるんですか?っていう、今回の話の本質はそこなんだろうなと思います。おっしゃるように、終末期医療のところでどれくらいお金掛かっているのかも含めて。あと、僕がさっき言ったような話で、もっと全然軽いリスクというか、別にそこは保険で面倒を見なくても誰も死なないよね、みたいな話のところまで保険で面倒見ているので、まずそこからやるのが筋でしょ……っていう話なのかなという風に思うんですけどね。内海さんはどうですか?

そうですね、基本的には同じような感じかなあと思っています。まあ、国としては当然ながら予防医療は進めたいという思惑は当然あると思ってはいるので、そこのやり方がかなりまずいというか。高額療養費制度の自己負担額の上り幅は、年収によって傾斜を付けるのはしょうがないと理解していますし、それに対しては僕は言うつもりはないんですけど、なかなかその……政治の匂いがするなぁ、と(笑)。
住民税非課税世帯が一番使っているのではと思っているんですが、そこの上り幅はソフトタッチぐらいで済んでいるのはちょっとなっていう……少々、考えものですよねっていう感想はあります

そうですね。まあそもそも高額療養費制度の自己負担の金額って十数年変わってないんですよね。なので、物価も上がって来ているし、色々上がってきているんで、ちょっと上げましょう……っていう話もあるんだと思うんですよ。所得もある程度は上がってきているんだったら、その分みんなちょっとずつ上げましょうみたいな話はあって然るべきだろうなと思うんですけどね。

ただ、これだけ結構エグい上がり幅になる人たちが出るのはさすがにちょっと違うだろう、という所ですね。あとは、内海さんにおっしゃっていただいた予防医療ですね。津川先生は逆に予防医療は保険適用すべきだと。エビデンスのある予防医療に関しては保険を適用して、将来何らかの疾病に罹った時に治療にもっとお金が掛かってしまうのを防ぐべきだっていう主張はしていました。
僕もまったくその通りだと思いますね。なので、例えば子宮頸癌の予防ワクチンとかもありますけど、普通に保険適用すればいいよね、と。ワクチン系はもうちょっと保険適用してもいいんじゃないっていうのは、考え方としてはありますね

はい、そうですね。あんまり意識してなかったですけど、僕ら社会人は普通に会社が出してくれるから、自分で出すっていう意識はないですけど

そうそう。みなさんはインフルエンザの予防接種も会社で出してもらっているけど、どの保険組合に入っているかで補助を受けられる予防接種の種類が変わっちゃうとかっていうんじゃなくて、誰でも安く受けられるようにしてあげるっていう風にした方がむしろ良いんじゃないのかと。

もちろん、それにより医療費を削れるというエビデンスがあれば、ですけれどもね。ともあれ、今日の時点で高額療養費制度が最終的にどうなるのかはまだ分からないと思います。ちなみに、昨日がん関連の学会で乳癌学会、胃がん学会、がんサポーティブケア学会、緩和医療学会、肺がん学会と、5つぐらいの学会から声明が出ていて。がん治療に実際に臨床で携わっている先生たちは、目の前の患者さんが今の高額療養費制度でも『もうこれ以上治療を続けるのは苦しいです』とか『ギリギリです、治療を止めたいです』っていう人が時々出てきているっていう状況を当然、目にされているので。それがさらに上がってしまったら、本当にお金のために命を諦めさせなきゃいけないっていう患者さんを目の前にすることになるわけで……それは医療者としてだけではなく、社会的にもそういう状況を作りたくないよねっていうことで声を上げられていると思います

抗がん剤が高いですよね。なんて言うと、メーカーが悪いみたいに聞こえてしまいますが、そういうものだと分かっているんですけどね

臨床試験の結果を患者さんに分かりやすく伝えるのが PLS

後半はPLS(プレーン・ランゲージ・サマリー)について詳しく解説します

そうですね。これはちょっと皮肉な面もあるのですけど、やっぱりよく効く抗がん剤であればあるほど長く使われるのでお金がかかるっていう話があるので。今回、多数回該当っていう、年に4回以上高額療養費に使うケースが出てきたら次からは負担額をガクッと下げますよっていう制度があるのですが、そこは現状維持するみたいな話が出てきてるんですけど。
まあでも、最初の4回でこの表の右側の金額をくらったら……きついって思いますよね。なので、多数回該当に配慮したら良いでしょう、っていう話では無いんだろうねと思います。では、この話はこんな感じでよろしいでしょうか。次は、今回のお題のプレーン・ランゲージ・サマリー(PLS)のお話に入りたいと思います。この言葉って、冒頭で佐塚さんに少し触れていただきましたけれど、内海さんは聞かれたことはありました?

失礼ながら、PLS というのは初めて聞きますね

実は、PLS は最近出てきた言葉で、僕も知ったのは去年ぐらいの話なので、割と旬な言葉というか。ただ、なんでもかんでもアルファベットにするので、勘弁して欲しいな……みたいなところもあるんですけどね(笑)。
で、改めて PLS は正式には『プレーン・ランゲージ・サマリー』で、PLS と略します。一旦、ファイザー製薬さんの記事を共有しますね。(画面共有しながら)日本語で PLS に関する記事が出てきたのって、僕の知っている限りは、これが初めてかなと思います。で、PLS を簡単に説明すると、こちらに書いてあるように、臨床試験の結果をわかりやすく伝えるっていうことですね。このお話は後編で詳しく解説していきます

――前半は、多くの方の関心事項でもある高額療養費制度の引き上げについて触れましたが、後半はテーマとなっている「プレーン・ランゲージ・サマリー(PLS)」について詳しく解説していきます。続きも楽しみにお待ちください。

この記事の担当者

佐塚 亮

佐塚 亮/Satsuka Ryo
職種:sales
入社年:2020年
経歴:大手スポーツメーカにて店舗sales,エリアマネージメント業務を担当。のちWEB制作会社にてWEBサイトの提案からディレクションをこなし、コンサルタントとしてサイト立ち上げ後の売上向上まで支援。その後2020年にメンバーズへ入社。主にクライアントからのヒアリング及び検証データを基に要件定義を行い、サイトの構築運用を実施。定常的に支援サポートを行う。クライアントはもちろんエンドユーザーの立場・視点に立ち、問題抽出から改善案の立案までを手がける

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